戦慄の作戦! 地球からの追放!? その15
さて、付いて来いと云われた良だが、なかなかに手持ち無沙汰である。
果たした、如何なる用向きにて自分は呼ばれたのか。
艶っぽい妄想が浮かび掛けるが、それは霧散する。
何処か別の家へと案内されるのかとも想ったが、そうではない。
寧ろ、女は平然と里を出てしまう。
勘が優れているからか、単に慣れているのか、前をいく足取りに淀みは無い。
「……あのー、何処に行くんすかね?」
解らないのであれば、尋ねた方が速いだろう。
良の質問に、女は「もう少し先です」としか答えなかった。
夜の散歩にしては、些か趣が足りない。 それでも、良は後へと続いた。
距離からすれば、そう遠くはない。
「此処です」と案内されたのは、山の一角に穿たれたらしい洞窟。
正直、風光明媚と言えなくもないが、暗さがそれを覆い隠している。
「えーと? 此処に……なんか、在るんすか?」
洞窟に潜る趣味を持ち合わせて居ない良からすると、案内された理由が解らない。
困惑する良に、女はソッと手招きをしてみせる。
「付いて来て貰えれば、お分かりになるかと」
そう言うと、女はまた率先して洞窟へと入ってしまう。
正直、入りたいという気持ちは無いが、仕方ないと良も洞窟へと姿を消した。
*
最初は、洞窟内では視界が効かないと良は思って居た。
暗視効果が在るとは言っても、基本的には微弱な光を増幅しているだけだ。
全くの暗闇ともなれば、如何に暗視でも視界は利かなくなってしまう。
その筈が、洞窟内でも目か見える。
所々に、光るコケやキノコが在り、それらは灯りとした機能していた。
特に喋る事もなく、二人は洞窟の奥へ奥へと向かう。
すると、在ることに気付く。 真っ暗闇な筈が、ポツンと浮かぶ灯火。
よく見てみれば、それは蝋燭の灯りらしい。
「彼処です」
声に従い、淡々と灯りへと近づく。
程なく、良は在るモノが見えた。
「……アレは」
見てみれば、洞窟の壁に凭れる様に何かが在る。
ソレは、一見する分には鎧に見えなくもないが、その鎧は良にとって見覚えが在った。
一部が欠けてこそ居るのだが、見えたモノは変身後の自分と瓜二つである。
「鬼神様……お連れしました」
女が声を掛けると、何と鎧の兜に光が灯る。
僅かな音を立てて、鎧が動いた。
兜の目線は、確実に良を見ている。
『……よぅ。 まさかとは想うが、こんな形で逢うとはな』
兜から漏れ出る声は、良と同じである。 些か嗄れて居るが、違いはそれだけだ。
「あんた、いや……そんな事が」
驚きを隠さない良に、壁に凭れる鎧からは笑いが少しだけ漏れた。
『そうさ、俺も……篠原良だよ』
同一の人物だと語る鎧を、良はまだ信じられなかった。
幻覚と云われた方が、まだ現実的と思えてしまう。
だが、良がどう思おうと、鎧は其処に在った。
*
『多次元宇宙論……だったかな? まぁ、小難しい事はどうでも良い。 要するに、俺達はツイてないはみ出し者って訳さ』
別の世界が存在するという事だけでも、今の良には理解が及ばない。
それだけでなく、更に別の自分までも居るという事は、まさに想像を絶した。
『……あんまり、驚いちゃ居ないみたいだが?』
「いや、驚いたよ。 ただ、別に喚いたって仕方ないだろ?」
『そりゃあそうさ……否が応でも、俺達は此処に居る。 ま、座ってくれ』
鎧からの声に、良は真ん前に腰を下ろす。
『さてさて、どうする? なんか、出した方が格好が着くかな?』
そんな言葉に、良は首を横へと振った。
「いや、要らないさ。 知ってるだろ?」
変身して居なくとも、改造人間には変わりがない。
だが、どういう訳か良の前に座る鎧は変身を解こうとはしなかった。
『そっか、そうだな……クラウディア』
「はい」
『俺達は、少し話す事がある。 先に帰って寝てて良いぞ』
「いえ、大丈夫です」
クラウディアと鎧が呼んだ女は、首を横へと振る。
奇妙な話だが、彼女は二人の良を見ても驚いた素振りは見せなかった。
やれやれと鎧は兜を少し振った。
『コレだよ、結構頑固な奴でな。 でも、俺の世話をして貰ってるから文句は言えん』
「それは……」
『何せ、この様でね、生憎とろくに動けない』
見れば一目瞭然だが、鎧は酷く損傷していた。
特に酷いのは、左腕と右脚が失われているという事に在る。
「どうやったら、そんな風に?」
激しい戦いならば、良も経験は在る。
だが、今見ている鎧はそれ以上に壊れていた。
『……どれくらいに成るのかなぁ……数えるのが面倒くさくてな』
そう言うと、鎧は僅かに兜の顎を上げた。
まるで、過ぎ去った過去を思い出している様でもある。
「鬼神様は、我々の為に戦い続けてくださいました。 恐らく、百年ほど……」
多くを語ろうとしない鎧に代わって、クラウディアが応える。
言葉に嘘が無ければ、目の前の良は百年間は戦い続けたという。
それは、良にしても途方もない年月と言えた。
『ずーっと前に……コッチに放り出されてな』
そう言うと、兜が良の方を向く。
『そっちも、そうなんだろ?』
自分の声というのも奇妙だが、良は頷く。
ソレを見てか、鎧からは溜め息が漏れていた。
『だよな。 じゃなきゃ、此処には居ないだろうし……』
同じ自分で在る筈だが、差異はある。
変身したままの良は、隠居老人の様な疲れが声には在った。
『……なぁ、皆は、どうしてる?』
【みんな】という言葉が、何を指しているのか、良には解った。
言うまでもなく、組織の面々である。
「元気だよ、今、ちょっと此処には居ないけどな」
良の声に、鎧は兜の顎を引いた。
『……そうか、元気か』
何処か昔を懐かしむ様な言葉を漏らすと、鎧は兜を左右へと揺すった。
『悪い、歳喰ったからかな、どうにもこうにも昔が気になっちまってな』
詫びる鎧だが、良にと無理は無いと思えた。
目の前の自分は、時間的にはこの世界で百年は過ぎている事になる。
如何に同じでも、在る意味精神は老人に近いとしても不思議でもない。
何も云おうとしない良に、兜が持ち上がる。
『そういや……呼んで貰った理由だったよな』
そう言うと、鎧は兜を静かに立っているクラウディアへと向ける。
『な、奥のアレ、持ってきてくれないか?』
頼まれると、女はスッと洞窟の少し奥へと向かう。
差ほど離れて居ない辺りから、何かを取り出していた。
被せられた布を取り去り、少し重そう持ち上げる。
「……どうぞ」と木箱を良の前に置いた。
モノを置かれた良だが、木箱の中身を透視は出来ない。
「えっと?」
『開けてみな、プレゼントだよ』
贈り物だと云われた良は、木箱に手を伸ばした。
自分が自分から何かを貰うというのも奇妙だが、好意を無碍にする事もない。
蓋を開ければ、中身が見える。
ただ、機械に疎い良にとってみれば、ソレがなんなのかは解らなかった。
「……コレは?」
解らないのならば、尋ねる方が速い。 下手に弄って壊しては困る事もある。
『俺もあんまり詳しい事は知らん。 ただ、ソレ作ったリサに云わせるとな、確か……次元移送機……だったかなぁ』
聞こえた名前に、良は顔を上げる。
リサが組織の博士を示して居ることは疑いようもない。
作った本人が何処に行ったのか、鎧は云わなかった。
ただ【だった】という過去形を使う時点で、伝わる事もあった。
「……なぁ、聞いても良いかな」
『遠慮なんてするなよ、俺達の仲だろ』
自分同士にも関わらず、遠慮するのは些かおかしいかも知れない。
だが、如何に同じでも、この場の良二人は別の人であった。
何処までも同じ様で在りながら、同時に同じでもない。
全くの同じ工程で造られたモノですら、それは違うモノだ。
「作ったって云ったが……じゃあ……」
『何故、使わないか?』
答えを聞く前に、先に答えを紡ぎ出す。 同じ人物だからこそ出来る事だろう。
『簡単さ、俺だけに成っちまって、帰ってどうする?』
ポツンと吐き出された言葉は、良にとってみれば非常に重かった。
果たして、どうやって此処へ来たのかまでは解らない。
それでも、博士が装置を造ったと言う事は【帰ろうとしていた】のは間違いは無かった。
ただ、それを使う前に【独りきり】に成ったと鎧は語る。
『こんな役立たずだぜ? 仮に帰れても……なぁ? 惨めなモンさ』
装置が見事動きだし、元の地球へと帰った所で、先は見えない。
それだけでなく、立つことすらままならぬ身体では、抵抗も覚束ないだろう。
あっという間に捕らえられ、その先は想像に難くない。
今まで黙っていた女が、口を開く。
「その様な事は、ありません」
自嘲めいた鎧に、クラウディアが声を掛けるが、それは切実である。
「鬼神様は、我々の為に戦い抜き、その後も戦える様にと技をお教えくださいました」
短い言葉ながらも、歴史が語られる。
例え独りきりで残されても、この世界の良は戦う事を止めなかったという。
それだけでなく、長い年月を掛けて技を紡ぎ上げ、それを伝えたと語られた。
肉体を使う事に関していえば、改造人間と言えどもそう大差は無い。
格闘技の技術とは、練り上げるのに時には長い年月を要する。
その意味では、この世界の自分は文字通りに長い間を掛けて技の研鑽をしたのだろう。
良は、ふと合点が行く。
生身の人間が、自分より強い何かを相手を相手にして利を得るに、技を磨きあげたのだ、と。
「あぁ、道理で其処のお姉さんがつえー訳だ。 ヒョイと投げれちまったぜ」
投げ飛ばされた事を思い出し、良は軽く笑った。
『まぁ、伊達で暇してた訳じゃないからな。 で、どうする?』
「うん?」
『ソイツの使い方だが、俺は教えられないぞ。 何せ、機械は疎くてな。 動くとは想うが』
長い間を経ても、やはり良は良らしかった。
相も変わらず、機械は得意ではないと言う。
同じ自分の声に、良は顔を上げた。
「なぁ、もしかしたら、もしかするかも知れないぜ?」
唐突に何かを思い出したらしき良の声に、クラウディアが目を丸くしていた。




