戦慄の作戦! 地球からの追放!? その14
夜も更け、腹も満ちれば、人は眠気を催す。
これに関しては、例え魔法少女でも超人と変わらない。
質素ながらも、造りは丁寧なベッドに愛が寝転がる。
「うーん……うーむ」
隣のベッドへと横になるのは、餅田であった。
本人の談に因れば、何処へでも寝られるらしいが、寝心地に関しては良い方が良いと云う。
「なんや、川村はん? さっきからウンウン唸うて」
餅田は疑問を呈するが、少女が唸る理由はその餅田であった。
一応の配慮として、間違いが起こらぬ様という配慮なのだが、寧ろ愛に取っては大きなお世話と言える。
場所がどうであれ、せっかく他の邪魔者が居ないという絶好の機会。
その筈が、何故だか隣に居るのは餅である。
それが、少女が鼻を唸らせる理由であった。
「あ! もしかしたら、篠原はんの方が良かったでっか?」
見た目の丸さに似合わず鋭いのか、餅田はそんな事を漏らす。
次の瞬間、愛の手が餅田を抑えていた。
口らしいモノが見当たらず、果たして口を塞げて居るのかは定かではない。
それでも、必死な顔と態度で分かる。
「……ちょっとぉ、声、大きいって」
「むぐぐ、すんまへん」
餅田が声を抑えたからか、ソッと手を離す。
納得したのか、愛はベッドへと自分の分の腰掛けた。
「なんちゅうか、川村はん? チョイとゆうてもええですかぁ?」
一旦前置きを置く餅田に、愛は「なに?」と答える。
「そないに気になりはるんなら、自分から行ったらええんとちゃいます?」
ポンと出された餅田の指摘に、愛は目を丸くした。
「……えーと?」
「なぁに、あんさんもカマトトぶっとるけど、バレバレでっせ?」
まだ知り合ってそう長い訳ではない。 それでも、見えるモノは見える。
「幹部の御歴々も、わてから見とったらまぁ、もどかしゅうて困りますわ」
名前を直には云わないが、愛にも顔は思い浮かぶ。
女幹部アナスタシア、虎女のカンナ、組織の頭脳にして、博士の異名を取る高橋リサ。
そんな面々の事を、餅田はもどかしいと一言で語った。
「なんで、そう思うの?」
興味が湧いたからか、意見を求める愛に、餅田は身体を揺らす。
「なんで云われましてもなぁ……逆にお尋ねするんでっけど、何で待たなあかんのです?」
餅田にしてみれば、待っている方が面倒くさいと言う。
「別に女やからというて待っとったら、他のモンにヒョイと拾われてまうかも知れまへんで? 昔、こないな話が在りましてな、白馬の王子待っとるのもええけど、その王子が途中で落馬しとったらどないだす?」
餅田の言葉に、愛がウーンと鼻を鳴らす。
想像する事は難くなく、寧ろ簡単であった。
必死に馬を走らせるまでは良いが、果たして目的地まで辿り着けるかは別の話である。
道半ばにして、もしかしたら王子は力尽きるかも知れない。
そんな時、もし別の誰かが王子を助けたなら、別の結果が生まれる。
困った時に助けられるというのも、在る意味では運命の出逢いと言えた。
王子にしてみれば、自分を助けてくれた人こそ后に相応しいと感じるのも無理は無い。
無駄に遠出して居るのか居ないのか解らない姫を探す必要など無いのだ。
想像しているのか、腕を組んで鼻を唸らせる愛。
考えても見れば、自分と良はそれなりの出逢いを既に果たしている。
後は、如何にそれを深めて行くのかという事だけだ。
「やっぱ、自分から動かなきゃ駄目かなぁ?」
「そらそやろ? 欲しいモンが在るんやったら、自分から動かなあきまへんで」
なんとなく、愛はそんな事を餅田に問い掛ける。
見た目と喋り方に似合わず、餅田は案外声が高い。
そもそも性別すら在るのかすら定かではなかった。
「ね、変なこと聞いちゃうけどさ、餅田さんって、男なの? 女なの?」
ふと興味が湧いたのか、愛はそんな事を問い掛ける。
問われた餅田はと云えば、微妙に身体を揺らしていた。
「……なんてったらええんやろうなぁ……わてなぁ、中に色んな人が居りますねん」
「え? どういう事?」
実のところ、愛は餅田の正体を未だに知らない。
そもそも温泉旅行に参加したら、いつの間にか組織に加入していたのだ。
「そらまぁ、話すのは構いまへんけど、なごぅなりますでぇ? なんせ大勢やさかい」
本人が余り語らないだけで、超人の中には素材と成った人達が生きている。
一つに溶け合ってしまい、餅田として統合されては居るが、誰もが死んではいない。
つまり、話さないだけで話す気になれば、全員の記憶を語る事が可能であった。
「えー、いいじゃん! なんかさ、修学旅行の夜って感じでさ」
本人もまたその年頃である以上、愛も話をするのは嫌いではない。
以前は魔法少女として戦い続けてその暇が無かっただけの事である。
「せやな……ほんなら、何から話そかぁ……」
話題を考える餅田に、愛は興味津々と目を輝かせていた。
*
愛と餅田とは別に良と壮年にも寝室はあてがわれている。
但し、話に花を咲かせる愛と餅田とは違い、良と壮年は静かであった。
はっきり云えば、お互いに余り詳しくは知らない。
無論の事、全く知らない間柄ではないが、かといって親しいと問われれば微妙である。
「なんか、お隣、楽しそうっすね」
「……そうだな」
一応、組織の立場的には良は上司では在る。
だが、あくまでもそれは組織に置いてであり、外に出れば話は違った。
ましてや、何とか良が話し掛けても、壮年の返事は淡泊である。
はっきり云えば、部屋には気まずい空気が流れていた。
ベッドの上に胡座をかく良に対して、壮年は壁に凭れる様に身を預け、ついでとばかりに愛刀を離そうとはしない。
在る意味、初めて幹部と夜を過ごす良は、ウーンと鼻を唸らせた。
「あの、刀、置いとけば良いんじゃないですか?」
上司の割には恐る恐るといった良に、壮年は目を開けない。
ただ、寝ては居ないのか口を開いた。
「首領、コレは私の癖みたいなモノだ。 気にせずとも良い」
「あぁ、さいですか」
気にするなと云われると、かえって気になるモノである。
なんだかんだで武器を手放そうとしないのだから、無理もない。
答えに唸る良だが、唐突に壮年は小さく笑った。
「どうにも気になる様だから、答えて置こう。 何故、私がコレを離さないのか」
そう言うと、壮年の指が刀の鞘を少し這った。
「私は、怖いんだよ」
「え? もしかしたら、誰か来るとか……」
武器を手放そうとしない事から、夜襲を警戒しているのかと良は思う。
「まぁ、見知らぬ土地だからね。 それも半分は在るだろうな」
「じゃあ、もう半分ってなんです?」
興味が湧いたからか、良は【もう半分】を知りたくなった。
「昔の話だ。 私はね、身勝手な理由で手放して、ソレをなくした。 だからね、今度は離さないと決めたんだよ」
見てみれば、壮年は目を開けていた。
確固たる意志は、年を経ても消えては居ないという事を示す。
だが、壮年の云った【ソレ】に付いて、良は疑問が在った。
果たして、剣豪の云うモノは、果たした剣を指しているのか。
達人ともなれば、仮に別の武器を使わなければいけない時はソレを用いるだろう。
戦場にて、一つの武器に拘れば、時には死を招く。
必要に応じて、臨機応変に対応せねば生き残れない。
そうなると、壮年がなくしたのは物ではないという事に繋がる。
物でなければ、誰かと云う方が自然であった。
それでも、それを問い掛ける程に良も野暮ではない。
誰に関わらず、触れられたくないという部分が在ることは弁えている。
「うん、うーん?」
何故だか、何処かで以前に聴いた様な気がするが、記憶は無い。
良が口を閉ざす訳だが、問題が在った。
壮年から語り掛けて来ない以上、静まり返る。
それこそ、隣の部屋の愛と餅田の話が聞こえてくる程に。
改造人間に眠りが必要かと云えば、眠れない事もない。
脳味噌はそのままに残されているのだから、休息は一応は要る。
但し、妙な緊張感から、良の意識は冴えていた。
思わず、良が何かを云おうとした時。
トントンと戸が叩かれた。
「……っと、はいはい」
動こうとしない壮年に代わり、良が戸に近づく。
「えーと、どうぞ」
合図に答えるべく、戸を開くと、顔が見えた。
「夜分に申し訳ありません」
「あー、えっと……くらう……さん?」
何度か聴いたからか、一応は来客の名は憶えていた。
「んー、なんすかね?」
「お手間を取らせる様ですが……同行願えますか?」
唐突な女性からの【お願い】に、良は目を丸くする。
具体的に何かは解らないが、付いて来いと云われてしまった。
「あー、んー……」
どう応えたモノかと悩む良に、壮年はチラリと目を向ける。
「行ってくると良い。 私も、独りで寝るのを怖いとは云わない」
何とか止めてくれるかと期待した良だが、期待とは裏腹に、壮年からは寧ろ【行って来い】と云われてしまった。
「じゃあ、ちょっとだけ……」
渋った割には、何とも締まりない答えであった。
*
ワイワイと声が漏れる程に騒がしい宿から出る。
街灯が無い以上、里は暗かった。
「すみません……何か灯りを用意した方が宜しいでしょうか?」
「いや、大丈夫っす」
亜人は夜目が利くらしいが、良も負けては居ない。
改造人間の目は暗視効果も在り、例え星空の明かりでも見ようとすれば真昼の如く見ることが出来た。
「で、付いて来いって云いましたけど……」
「そうでした、此方へ」
スッと前を行く女だが、何とも言えない後ろ姿である。
髪の毛は雪の如く白く、肌も白いからか、パッと見は幽霊にも想えなくはない。
ただ、幽霊と呼ぶよりも、妖精とでも云った方が正しいと良は思えた。




