戦慄の作戦! 地球からの追放!? その13
要塞から離れれば、見えてくるモノも在る。 ソレは、周りの風景。
未だに手付かずの自然が多く残り、其処は、静かだった。
*
角の生えた馬が引く馬車を、同じく角の生えた剣客が御者を勤める。
そんな壮年の隣では、黒装束が道案内を任されていた。
とりあえずと示された方角へと馬車を向ける。
だが、操る二人の間に会話は少ない。
元々が口数多い方でもないからか、壮年はただ前を向いていた。
隣に座る女は、時折壮年の方を窺うが、躊躇う様に顔を逸らす。
そんな機微だが、目の端では見えていた。
「聞きたいことが在るなら聞けば良い。 まだ到着しないのだろう?」
唐突な壮年の言葉に、女は頷く。
「その……馬車に乗ってる……あの人は」
「ソレは誰の事かね? 川村女史か? 餅田か? それとも……」
問われた女は、目を落とすと少し迷う様な顔を覗かせる。
「……しのはら……という人です」
答えを聴いた壮年は、背を少し反らした。
長く息を吸い込むと、長く吐く。
「彼は、私の上役だよ。 だが、お嬢さんの顔をみる限り、どうやら聞きたいのはそういう事じゃないようだね?」
試す様な声に、ウンと頷く。
「尋ねよ、されば見出さん……という言葉も在る。 それでと、何が知りたい?」
壮年に倣う様に、隣の女も遠くを見る。
「変な話なのですが……私は、あの人を……いえ、似た人を知ってます」
壮年の目が、チラリと横を窺う。
見てみれば、女はまだ遠くを見ており、壮年も目を戻す。
「そうかね? 世界には、よく似た人は何人か居る……とも云うが」
今度は、女の方が壮年へと顔を向けるが、真剣な面持ち。
「他人の空似とか、そういう事ではなく、たぶん……同じ、人じゃないかと」
言葉の意味を吟味すれば、どうやら今から行く先には【良に似た人】が居るという。
他人の空似でなければ、何故そんな事が起こるのか。
確かめてみる手段は、一つしかない。
「だったら、直接逢って確かめんとな」
興味津々といった声に、女は静かに首を縦に振っていた。
*
どれくらいの時間が経ったのか。
その時を示す様に、既に日暮れを迎えつつある。
「もう少し先です」
水先案内人の声を頼りに、壮年は馬車を向かわせるのだが、程なく、何かを察知した様に手綱を引いて馬を止めた。
何事かと女は目を壮年へと向けるが、当の本人は周りを観ている。
「……あの?」
「薄ら薄ら、気配には気付いていた。 姿を見せてはどうかな?」
そんな声を合図に、馬車に向かって蠢く影。
藪の中、木陰、樹木の葉などに身を隠して居たであろう者達が一斉に姿を現す。
光沢の無い真っ黒な布で全身を覆う者達。
だが、現れた姿を見て、女が慌てた。
「みんな! 待って!」
制止する声に、黒装束達も気付く。
「……クラウ?」
「捕まったんじゃ……」
驚いた声を漏らす黒装束達。
そんな時、馬車の戸が開かれた。
「なんだなんだなんだぁ!? 敵襲か!?」
今までずっと静かにしていた良が、馬車が止まった事に反応して飛び出して来た。
遅れながらに、愛と餅田も姿を見せる。
「どこどこ!? 何処!?」
「もう、堪忍して欲しぃなあ」
焦っている愛とは反対に、すっかりと意気消沈しているらしい餅田。
馬車から現れた三人には、場の誰もがポカンとさせられる。
「あれ? もしかしたら……お呼びでない?」
そんな声を、風はソッと流していた。
*
良達が案内されたのは、深く山へと入った場である。
周りは鬱蒼とした森に覆われ、道を知らぬ者がマトモに辿り着くのは難しいだろう。
そんな目隠しを越えて見えたのは、村だった。
見目麗しい建物は無いが、そのかわりに素朴な家が立ち並び、隠れ里と言える。
だが、現れた一行に対して、里の目は余り好意的とは言い難い。
「うーむ……なんつーか、あんまり歓迎されてる気がしないなぁ」
腕を組んで鼻を唸らせる良に、愛と餅田も同意なのかウンウンと頷く。
最も、餅田は振るべき首が無い為に縦に身体を揺すっていた。
「てゆーかぁ……私も、お腹空いてきたんですけどぉ」
「せやなぁ、わても、もうしんどいわぁ……コンビニとか無いんでっか?」
燃料を必要としない改造人間とは違い、生身に等しい二人に取っては大変な一日であった。
ほぼ飲まず食わずとなれば、やはり身体には堪える。
そして、当然ながらコンビニエンスストアなど在る筈もない
あまり歓迎的ではない雰囲気の中、里の者らしい老婆も来客を窺う。
其処で、良の顔を見るなり、老婆は持っていた籠を落とし、目を剥いた。
「……あぁ、貴方様は……」
「うん? 俺?」
ふらつく足取りにて、老婆が良の方へと近寄ってくる。
何事かと首を傾げていた良へと、いきなり縋り着いた。
「ちょ!? え? ちょっと!? 何すか?」
見知らぬ土地にて、見知らぬ人物にいきなり服を捕まれては、驚くのも無理はない。
「懐かしや……いったい何時以来でしょうか……」
「ほい? いや、えーと?」
必死に記憶を巡らせるが、見覚えの在る顔ではない。
一体全体何が起こって居るのか混乱する良。
それだけでなく、他の何人かが良の顔を見て近寄って来ていた。
「……鬼神様……鬼神様じゃ」
「お懐かしゅう御座います。 ようやっと、お戻りに成られたのですね」
知り合いでも何でもない老人達に急に囲まれ、良は焦っていた。
穿った見方をするのであれば、怪しい宗教の御神体扱いである。
勿論、そんな事をした憶えは良にはない。
「へぇ? ちょい、待って……なんなんすか? えと、誰かと勘違いしてないっすか? あの、すんません」
流石に老人を振り払う訳にも行かず、おたおたしてしまう。
そんな姿に、愛は餅田に顔を寄せていた。
「ね、篠原さんって……お婆ちゃんにモテるのかな?」
愛の声だが、別に怒った様子は無い。
寧ろ、関心しているといった風情が在った。
「いんや~、篠原はんも案外隅に置けまへんなぁ」
敢えて、はぐらかす様な言い方をする餅田であった。
*
年長者達が良いと言えば、里の者達も文句は言わない。
それだけでなく、なんと御好意として良達は一軒家を宿として貸し与えられていた。
更に、黒装束の女を助け出した功績を評価されたのか、室内の卓には料理が並ぶ。
其処で給仕役が必要と成るが、それを勤めるのは他でもない白髪の女である。
流石に、家の中でまで黒装束は着て居らず、その代わりに質素だが仕立てのいいワンピースを着ていた。
「なんか、ありがとうございます。 色々出して貰って」
流石に恩に着せる様な態度はせず、良は先ずはと声を掛ける。
それに対して、女は少し会釈を返した。
「いえ、此方の方が恩義が在りますから」
最初に出逢った時と比べると、今の態度は柔らかい。
ただ、全身を覆う服を払ったからか、見えるモノも在った。
仲間達からはクラウと称される女だが、ただの人ではない。
今更ながらに気付くのだが、里の人々には亜人と呼ばれた者が多数を占めていた。
耳や眼、肌や髪、そういった些末な違いから、文字通り犬や猫といった動物がそのまま二足で歩いて居る者まで里には居る。
今この場にいる女は、どちらかと言えば人に近い見た目であった。
ただ、肌を晒している分だけ見えてくる。
特に袖が無いワンピースだからか、腕の鍛え具合や、白い肌に目立つ傷痕。
それらは、女が歩んできた道を示している。
「じゃ、せっかく用意して貰ったんだし、冷めない内にいただきま~す」
「ほな、わても失礼しますわ!」
散々腹が減ったと言っていた分だけ、愛と餅田は早速食べ始める。
ついでとばかりに、壮年も木製のマグカップを持っていた。
派手に始める愛に負けず劣らず、餅田も凄まじい。
どうやって食べるかと云えば、身体にパクッと口の様な割れ目が現れ、其処へと食べ物を入れていく。
歯が見えない為に、如何にして咀嚼しているのかは餅田にしか解らない。
そんな中、良だけは仲間の飲み食いを観ているのみで手を付けようとはしなかった。
一人だけそんな事をしていれば、当然ながら浮いてしまう。
「……あの、何か不都合が?」
問われた良は、小さく首を横へと振る。
「いや、そうじゃないんすよ……ただ……」
なんと云うべきか、良は迷っていた。
改造人間は変身していない時は人の姿をしている。
だが、あくまでもソレは擬態に過ぎず、飲食を必要とはしていない。
食べようと思えば食べられなくはないのだが、結局は意味が無く、ソレでは用意してくれた方に失礼と手を付けずに居た。
心配そうな女に、愛は口の中のモノを飲み込む。
「あー、大丈夫だよ。 篠原さん、食べられないだけだから」
そんな声に、女は「え?」と驚く。
はっきり云えば愛の言葉は説明不足に過ぎていた。
そもそもの【何故?】が抜け落ちている。
「いやぁ、まぁ、うん、そう、だからさ。 気にしないで、ね?」
バツが悪そうな良に、女は如何にも信じられないといった様子である。
ソレも無理は無く、機械など見た事もない人に改造人間を理解しろという方に無理が在った。
「首領は君に感謝している。 彼の体の体質と理解してやって欲しい」
愛の説明不足を補う形で、壮年は補足を入れるとカップを傾ける。
そんな声に、女はチラリと良を窺う。
要塞では鬼の如きであった筈の青年は、今は困った様に笑っていた。




