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世界征服、はじめました  作者: enforcer
戦慄の作戦! 地球からの追放!?
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戦慄の作戦! 地球からの追放!? その12


 変身した良の姿は、一見する分には爬虫類か鬼の様に見えた。

 そして、そんな異形に睨まれる騎士は、正に蛇に睨まれた蛙と言えるだろう。


 眼前にまで迫られてしまった以上、今更逃げ出した所で意味が在るとは思えない。

 かと言って、立ち向かうにしても何をしたら良いかが浮かんで来てくれない。


 何故ならば、異形は戦い方には一切の小細工を用いなかった。

 巧妙な策を用いず、空を飛びもせず、何かを身体から飛ばす訳でもない。

 ただ単純に、己の五体のみを用いて、多くの兵士を圧倒してしまう。

 其処には欠点らしい欠点も、弱点も見出せない。


 目尻に涙を溜めながら、歯を鳴らす騎士。

 

 もはや、その命は風前と灯火と言えた。

 

 どう足掻いても、歩く龍と思しき異形に、生身の人間が勝てるとは想えない。

 

「カタリナさん!?」

 

 少年の声だが、声援とも呼べなかった。

 名前を呼ばれた所で、実のところは何の効果も無い。


 ジッと自分を見下ろす異形だったが、ふと、兜からは舌打ちが漏れた。


『邪魔だ、退け』


 見た目が変わろうとも、中身までは変わっては居ない。

 自分で宣言した通り、良には抵抗手段を持たない相手に何かをするつもりは無かった。


 如何に鎧の見た目は派手でも、騎士の携える剣はただの飾りであると知っている。


 それでも迫る理由だが、単純に騎士の背後の少年に在る。 

 年齢がどうであれ、指揮官は指揮官。

 蛇が如何に長かろうとも、頭を潰されては長い胴体も役には立たない。


 端的に、騒ぎを終わらせる為に良は相手の指揮官を抑える方法を選んでいた。

 

 迫る改造人間と、背後の上役の板挟み。

 想像を絶する緊張感は、騎士の意識を飛ばす。


 逃げ出す訳にも行かず、戦えもしない、だからか、騎士の意識本能的に逃げを打っていた。


 グニャリと力を失った身体が、重力へと引かれる。

 そのままではバタンと倒れるだろうが、その体は、ピタリと止まっていた。


『なんだよ、急に……』


 どこかバツが悪そうな声と共に、良の手が騎士が纏う鎧の一部を掴んで居た。

 過度な装飾が、偶々功を奏したと言える。


 パッと手を離しても、地面と近ければ差ほどの衝撃でもない。

 兎にも角にも、騎士という壁を退かせば、後は少年である。


『よう、オカマ野郎。 悪かったな、チョイと待たせちまったか?』


 先程言われた事への意趣返しのつもりか、良は少年を【腰抜け】と表現した。

 意識を飛ばした騎士を跨ぎ、少年へと近付く。


 相手が男で在れば、良も遠慮はしなかった。

 腕を伸ばし、相手の襟首捕まえて一気に引き寄せる。


 強制的に、異形を向き合わざるを得ない少年だが、その顔は歪んでいた。


『おいコラ、女の背中に隠れなきゃ何も出来ねーってか? そんなにやりたきゃテメェがやれば良いだろ? ほら、悪党は目の前だぜ?』


 良にしてみれば、女騎士を盾にする少年が許せなかった。

 そして何よりも、動けない相手への攻撃を示唆した事が一番に鶏冠トサカに来たと言える。


「お、お前……」

『あん?』

「なんなんだ」


 震え声にて問われた良だが、兜から鼻嗤いが漏れ出る。


『俺様がなにかって? 教えただろう? 通りすがりの悪の首領様だよ』


 今更ながらに、自分が誰なのかを明かす。

 対して、良に捕まってしまった少年は、騎士同様に動けない。

 

 そもそも【神に与えられし力(チート)】に因って、自分には危害を加えられる筈がないにも関わらず、唐突に現れた異形は平然と少年を掴んでいる。


 もし、良がその気ならば、細首へし折るのは容易い。

 

『念仏でも唱えろや、今まで散々遊んだだろ? 今度は、自分の番が来たんだからな』


 最後の情けとばかりに、良は相手に【最後の言葉】を求めた。


「篠原さーん! コッチは終わりましたよ!」

 

 良の装甲に包まれた手が、少年の首に触れ掛けた時、声が掛かった。

 細首を一気にへし折る筈が、止まる。 


 次の瞬間、良は足元に音を感じた。


『うん?』


 見てみれば、少年の足元に広がり始める水面。

 緊張感が限度を超したのか、身体は意志を無視したらしい。


『……っ……チビるぐらいなら、最初っから喧嘩なんざ仕掛けんじゃねーよ』


 そう言うと、広げていた手の人差し指だけを親指へと預けた。


「……ぎゃ!?」

 

 カツンと少年の額から音が響く。

 殴りこそしなかったが、その代わりにと、良はデコピンを見舞って居た。

 失禁したとはいえ、相手は指揮官である。

 

 何もしないでは示しが着かない。


 襟首を放され、ドタンと尻餅を着く少年指揮官を見下ろす良。

 

『運が良かったな……命拾いって奴だ』


 もし、良に対して愛が声を掛けなかったなら、結果は変わったかもしれない。 

 それでも、少年は腰を抜かしつつも額の痛みだけで済んでいた。


 いつまでも相手はしていられないと、良はくるっと踵を返す。

 平然と背中を見せるのは、相手が襲って来ても問題無いという自信の現れでもあった。


    *


 最初は無尽蔵かとも思えたが、終わって見ればそうでもない。

 周りを見渡せば、一見する分には死屍累々である。

 

 だが、実際には胸は上下しており、息絶えた者は居ない。


「いんや~……ほんまてこずりましたわ、無益な殺生はアカン言われとりましてな、骨折りましたで!」


 折るべき骨が在るのかは定かではないが、餅田はどうだと身体を揺らす。


 その横では、壮年が愛刀を鞘へと戻す訳だが、刀身は汚れては居なかった。

 血振りの必要が無いのは、刃を使ってない証でもある。


「……まぁ、偶には良い運動だよ、新入り君」

「そないな事云われましてもね、わて体脂肪率ゼロですねん」


 どうにも噛み合っているのか合ってないのか、微妙な壮年と餅田。

 そんな二人の更に横では、愛が何とも言えない顔を見せていた。


 唇を真一文字に結び、目を爛々とさせるドヤ顔。


 言葉ではないが、愛が何を云いたいのか良は察していた。


『ありがとな、川村さん……何時も助けられてる』


 良の礼に、愛はウンウンと頭を縦に何回か振った。

 撫でてやりたくもあるが、この場でそれをやると愛の変身が解けてしまうのだ。

 ソレを避ける方法は在るのだが、この場では難しい。


 ソレについては、彼女自身も理解をしていた。


「ホントですよ? ま、今回の事もツケにしときますからね」


 ついさっきまで戦っていたとは想えない少女の態度に、良はやれやれと肩を竦めた。


『そういうところ、ちゃっかりしてるぜ』

「そらそうでしょ? しっかりしとかないと、後で大変ですから」


 現金な愛はともかくも、良はどうしたものかと悩む。

 徒歩にてこの場から離れる事は出来るが、どうせなら別の足が欲しくなる。


『うーむ……どうすっかなぁ? タクシーなんて無いだろうし……』


 腕を組んで兜を唸らせる良に、壮年が肩をポンと叩く。


「首領、我々が乗せられて来た馬車を頂こう」

『へ?』


 首を傾げる良に、壮年が鼻をフゥムと鳴らす。


「私は馬には慣れているが……初めての者が乗るのは意外に難しいんだ。 ならば、御者を努めようと思う」


 云われてみれば、悪くない案である。

 良は一応は免許証を持っては居るが、それ地球用のモノに過ぎない。

 加えて、馬に乗った経験は無かった。


 今から練習している時間が惜しい以上、在るモノを利用するのは理に適っている。


「えー、どうせなら……馬でも良いのにぃ」

 

 露骨に自分の意見を漏らす魔法少女。

 誰からも見えないが、彼女の脳裏では在る光景が在った。


 白馬に跨がって現れる良に、自分も乗せてもらう。

 想像故か、ヤケに豪華な服を着て何とも言えない笑みを覗かせる。

  

 とは言っても、実際に馬を自由自在に操るのは並大抵の技ではない。

 はいどうぞと乗れる様では、馬術などと呼ばれる訳もなかった。


 ましてや、自転車とは違い馬には自分の意志がある。


「川村はん、ゴチャゴチャ言わんと。 わて、腹の虫が鳴いてますねん」


 派手に立ち回った事から、餅田は空腹を訴える。

 要塞内を隈無く捜索すれば、或いは食べ物程度は備蓄されているだろうが、これ以上余計な戦いはしたくない。


「さ、急ぐとしよう」

 

 有無を云わせぬ壮年に、愛も渋々と「はーい」と応えた。


 良達が馬車へと乗り込む訳だが、その際、壮年は黒装束に顔を向ける。


「お嬢さん、すまないが君には水先案内人を頼みたい」


 ポンと出される依頼に、女は目を丸くした。


「我々は今のところ迷子の身でね……何処へ行くにせよ、知らないんだ」

「……はい」


 静かではあるが、確かな答えが返って来た。


   *


 悪の組織が暴れ回った暫く後。


 要塞内では、彼方此方で人が息を吹き返しつつ在った。

 ほぼほぼ全員が気絶だけで済んでいたのは、彼等に取っては奇跡と言える。


 しかしながら、負傷者は多かった。

 骨折や四肢切断といった重傷者こそ居ない代わりに、軽傷者が後を絶たない。

 

 そして、その負傷者には、要塞の指揮官も含まれている。


 額に負った傷に、軟膏を塗られ、包帯が巻かれる。

 実に痛々しい姿では在るが、それがデコピン一発で行われたのを見た者は居なかった。

 

 そんな少年の前では、女騎士が青い顔で跪いている。

 

 指揮官が負傷したというだけならば、或いは戦場でも珍しくは無いだろう。

 だが、その警護役が何の役目も果たせなさったと在れば、話は違った。

 

 弁解をしようにも【ビビって気絶しました】では通るモノも通らない。

 良くても降格処分、悪ければ爵位剥奪という可能性も捨てきれない。

 

 そんな戦々恐々な女騎士だったが、少年は部下を見ていなかった。

 見ているのは、最後に馬車が走っていった方角。


「彼奴……」


 ぼそりと漏れる声に、騎士は恐る恐る顔を上げた。


「名前を云ってたな……確か……しのはら……とか」


 少年が語る名を、騎士は訝しむ。

 

「司令官……それはもしかしたら」

「そうだよ、カタリナさん……伝説に伝わる魔王、シノハラリョウだよ」


 ぼそりと語られた声に、それを聴いた者は背筋寒気を覚えていた。

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