戦慄の作戦! 地球からの追放!? その11
強かに叩かれた割には、飄々としている良に、場の兵士達もざわめく。
叩かれた際は揺れこそするものの、それだけなのだ。
その様には、命じた筈の少年と女騎士も目を剥いていた。
膝を折りもしなければ、苦痛に呻きもしない。
そんな良に、餅田が盛大に溜め息を漏らす。
「……篠原はん。 わて、もう限界ですわ。 縛られてるのも嫌や」
餅田の声に、愛と壮年も頷く。
如何に改造されているとは言え、仲間が打たれる様は見ていて気持ちの良いモノではない。
寧ろ、怒りを掻き立てる。
「……そうだよね、ソレにさ、けっこー私もキてるんだけど?」
「是非もなし……だろう、首領」
仲間からの声に、良も笑ってみせる。
「お、そうだな。 我慢は体にゃあ毒だ……」
静かにそう言うと、良は身体に力を込める。
例え変身前であろうとも、改造人間である事に変わりはなかった。
荒縄程度で抑えられるのならば、存在意義が無い。
良の全身が、僅かに隆起する。
ブチっと音を立てて、手を拘束していた縄が千切れた。
「ほな、わてもチョイと失礼しまっせ」
餅田がどうするかと言えば、別に難しくは無い。
スルンと縄から抜け出してしまう。
改造人間でも超人でもない愛と壮年だが、この二人もまた、ただの人ではなかった。
「……へーんしーん!!」
若干間延びした声だが、それは問題ではない。
淡い光が川村愛を包み込む。
この際、いきなりの事に誰もが目を奪われた。
一人が目立てば、隙が生まれ、その隙を突いて壮年も動く。
身体検査の際、わざと愛刀を預ける際に、ソッと引き抜いて置いた小柄。
それを用いて、手を縛る縄を斬る。
あっという間に、拘束から良達は抜け出した。
「何なんだ!? 此奴等は!!」
兵士達にしてみれば、怪しい三人に加えて餅一匹は異様に映る。
其処で、良は駄目押しとばかりに構えを決めた。
「俺達が誰だって? そういや、知りたがってたな。 なら、教えてやるさ」
右肩へと伸ばした左腕を脇へと巻き込む。
「変……」
今度は、右腕を左肩へと伸ばす。
「……身!!」
起動動作の完了と共に、カッと良の身体が光り出し、瞬く間に姿を変える。
ただの変哲もない筈の青年は、全身に装甲を纏った。
異様な姿に、場がざわめき立つ。
その中で、一人恐れではない目を向ける者も居た。
「鬼神……様?」
変身した良の姿を見た黒装束は、ぼそりとそう呟いた。
だが、場の騒然とした空気に混じってその声は誰にも届いてはいない。
黒装束を中心に、周りを四人が囲む。
在る意味では、要塞以上に鉄壁の守りと言えた。
改造人間、超人、魔法少女、剣豪。
そんな四人に、兵士は勿論、騎士ですら目を剥く。
囲みはすれども、誰もが近付こうとはしない。
だが、意を決したらしい騎士が少年を背後に庇い、グッと歯を剥き出しにする。
「何をしている! 見た目に惑わされるな!!」
兵士の落ちた志気を高める為か、騎士は声を張り上げた。
単なる大声では在っても、一応の効果は在ったらしい。
兵士の一人が、今度は穂先を向けて異形へと変わった良へと進む。
槍とは、相手の間合いの外から一方的に刺突する武器である。
熟練者が扱えば、例え鋼の鎧であっても突き抜ける事も可能だ。
だが、良が纏う鎧は鋼ではない。
加えて、大人しく突かれてやる気も無かった。
伸び来る槍の先を、掴み取ると、兜を槍を持つ者へと向ける
『おい……今度は、冗談じゃ済まさねぇぞ?』
兜から漏れる声は僅かに反響を伴い、覗く目が赤く光った。
パキンと軽い音を立てて、槍の穂先がへし折れる。
如何に鎧を纏うにしても、素手で鋼を折るのは人間技ではない。
「ば、化け物だ!?」
槍を持っていた兵士は、慌てて槍を放り出していた。
*
騒ぎに乗じて動くのは壮年。
目ざとく自分の愛刀を持つ者を見つけ出し、こっそりと寄っていた。
「すまないが、それを返して欲しい……業物なのでね」
ポンと言われた兵士は「へ?」と素っ頓狂な声を漏らす。
次の瞬間、やんわりと微笑む壮年の腕が、兵士の顎に伸びていた。
僅かな息遣いと共に、壮年の拳が兵士の頭がグンと揺らす。
派手に叩かれた訳でもないにも関わらず、バタンと倒れる兵士から、サッと壮年は愛刀を取り戻して居た。
「うん、やはり……腰が寂しいのは宜しくない」
愛刀を丁寧に腰に戻す壮年
*
暴れ始める良と壮年に、愛と餅田がウーンと鼻を唸らせる。
「なんかさ、私達、地味?」「あかん、出番盗られてもうた」
戦いの最中とは思えない程、二人の声は軽かった。
とは言え、やはり只ぽつねんと立っているという訳にも行かない。
如何に二人が目立っている居ようとも、愛と餅田も見た目で目立っている。
黒装束の女を捕らえんと、兵士が動く。
「よっしゃ! 川村はん! 背中は任せたで!」
果たして、餅田に背中という概念が在るのか無いのかは定かではない。
それでも、やはり言った者勝ちという事もある。
「あ! ちょっと……もう!」
頬を膨らませながらも、愛は女へと近付いた。
プンプンといった顔は兎も角と、愛が手に持つ杖の先がスッと尖る。
傍目には子供用の玩具といった色使いと見た目ながらも、それは切れ味を発揮した。
「はい、コレで大丈夫だよね?」
戒めを外した愛に、女は信じられないといった目を向ける。
先程までとは全く違う姿と成った少女に、驚きを隠さない。
驚かれる愛ではあるが、それを気にとめている暇は無かった。
何せ兵士の数はそれなりに多く、全てを餅田が止めるのは至難である。
「ちょお! 川村はん!? 早よう手伝うてんかぁ!」
餅田の焦りは今の状況に在る。
その気に成れば、腕の数に制限など無い。
蛸や烏賊の如く八本でも十本でも伸ばし、それを意のままに動かせる。
それでも手間を喰う。
四方八方から矢が飛び来るのを掴み、時には払う。
それだけでなく、兵士が武器を持って突っ込んでくるのを退けねば成らない。
だが、決して相手を殺そうとはしなかった。
「よ……っと!」
餅田の援護をすべく、愛が小さな杖を振るえば、それは形と大きさを変える。
「えぇっと、大丈夫って言わなかったっけ?」
「そないな事、わては一言も言うとりまへんで!?」
軽くボケる愛に、即座に突っ込む餅田。
軽口を叩き合う二人だが、動きその物はふざけて居ない。
女を真ん中に、超人と魔法少女がその力を遺憾なく発揮していた。
*
「どうなっている」
女騎士にしてみれば、見ている光景は信じ難い。
要塞ともなれば、駐屯する兵士は多い。
少なくとも数十名、多ければ百を越える時もある。
それだけの兵士の数が在れば、時には城すら落とせるだろう。
だが、その筈にも関わらず、片手の指で数えられる者達に翻弄されてしまう。
中でも、全身に装甲を纏う良の動きは圧巻と言えた。
魔法少女程の派手さも無ければ、壮年の剣の冴えも無い。
餅の如く人外な動きを見せる訳でもなかった。
ただ、兵士を捕まえては放り投げ、時には叩き伏せる。
矢が当たろうと、剣で斬り掛かられても止まらない
その様は、文字通りに【千切っては投げ千切っては投げる】であった。
最初こそ、多くの兵士で溢れた筈の場が、見る見るうちに変わっていく。
少しずつながらも、良は確実に騎士に近付いていた。
『……其処から動くなよ? 今から行くぜ』
まだ腕こそ届かないが、声は届く。
騎士の見ている前で、装甲に包まれた異形が迫ってくる。
この時、女騎士の思考は停止していた。
立場上、彼女は上役の身を守る役目を背負っている。
で在れば、例え恥を晒そうと逃げ出すという事も選択せねばならない。
仮に、部下である兵士を失った所で、その補充は可能ではある。
ソレに引き換え、彼女が背中に庇う少年は換えが利かない。
にも関わらず【逃走】という選択を選べないのは、彼女の自信からだった。
今までならば、少年より賜った剣が猛威を振るってくれる。
例え相手が大型の化け物であっても、引けを取るどころか圧倒的な優位に立てた。
それが今となっては、良が語った通りの飾りでしかない。
今まで積み重ねた自信が、呆気なく崩れ落ち、茫然自失であった。
程なく、ゴツンと重い足音に女騎士はハッと顔を上げる。
見てみれば、兜から覗く目らしき赤い光と目が合った。
『よぅ、チィと待たせちまったかな?』
響く声に、騎士は目を泳がせる。
その際見えたのは、異形にやられたのか倒れる部下達であった。
言いようのない何かが込み上げ、騎士は思わず歯をカチカチと鳴らす。
今まで、それと出逢った事がない女騎士は、身体を縛るモノが解らずに居た。
それは、絶対的な恐怖が目の前に迫った時の本能的な震え。
「カタリナさん!? 剣を使って!」
自分を警護する筈の騎士が固まっているからか、少年は声を発する。
だが、当の騎士は腰の剣の柄に手を掛けようともしなかった。
「どうしたの!?」
急かす様な声だが、今の騎士には届いて居ない。
目を剥き、震える騎士に、良の兜から見える赤い光が窄まる。
見ようによっては、それは獲物を狙う怪物が狙いを定める様にも見えた。




