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世界征服、はじめました  作者: enforcer
戦慄の作戦! 地球からの追放!?
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戦慄の作戦! 地球からの追放!? その10


 一行が連れて来られた場所が段々と見えてくる。


 愛は遠目だった為に【小さな何か】程度にしか見ていなかったが、実際は大きい。


 壁に囲われた其処は、有り体に言えば【要塞】であった。

 馬車が近付くと、騎馬隊から合図が送られ、その門が開かれた。


   *


 ガタゴトと揺れていた馬車が、止まる。

 少し音がした思った後、ギッと軋みを伴い蓋が開かれた。


「全員! サッサと降りろ!」


 そんな声と共に、兵士が顔を覗かせる。

 騎馬隊とは違う装備だが、やはりそれは古めかしい。


 程なく、のそりと姿を現したのは、良だった。


「へぇへ、んなに偉そうに言わなくても降りますよ」


 露骨に嫌そうな顔で降り立つ良なのだが、一歩降りた途端に、顔をしかめる。

 馬車の中とは違い、外は空気が流れる。


 そして、流れる空気に混じっていたのは、鉄臭さだった。


「うわ、なにこの臭い!」 


 次に降り立つ愛にしても、漂う臭いには気付いたらしい。 

 パッと良の側に立つと、顔を寄せてくる。


「篠原さん? この臭いって……」


 解っては居ても、愛は確証を欲しがった。

 それに対して、背後からフゥムと声がする。


「血の臭い……だな、コレは」

 

 良に代わり、壮年が答えた。


「黙れ! 喋って良いと誰が言った!?」


 兵士の一人が、良達の会話を聴いたのか声を張り上げる。

 どうやら、不審者は縛られているという事から、余裕が生まれたらしい。 


「……嫌な臭いだなぁ、何度嗅いでも」


 正直な感想を漏らす良に、兵士が槍を振るう。

 こめかみ辺りに槍の柄が当たった。


「喋るな……と……言って……」


 殴った筈の兵士だったが、その顔は青ざめた。

 何故なら、直に殴られたにも関わらず、怯むどころか瞬きもせずに良の目がジッと相手を睨みつけている。


「あ? どうした? もうお終いか? もっとやってみろよ?」


 まるで痛みを感じていないのか、良は軽くそう言った。


 この時、兵士は何故だか身体の震えを覚える。

 それは良が発している殺気に因る。


 経験者にしか有り得ない本物の殺意は、見えない威力とも言えた。

 

「いつまで遊んで居る!」


 そんな声に、兵士がハッと成って下がる。 声を挙げたのは、良と対峙した騎士。  

 

 縛られた五人を前に、兜の留めを外した。

 ズッと兜が外れ、中から髪の毛が露わに成る。


 見えた顔は、気の強そうなツリ目に、整った顔立ち。

 そして、特徴的なのは人には有り得ない横へと伸びる長い耳であった。

 

「ほぇぇ……案外べっぴんさんでんなぁ」 


 餅田の声だが、場の空気から無視された。


  * 


 血の臭い漂う場に、横並びに立たされた五人。

 最も、神妙な面持ちをしているのは黒装束のみで、他の四人はと言えば捕まっているとは想えない程に飄々としていた。


 そんな態度には、騎士はムッと眉を寄せるが、直ぐに顔を取り澄ます。


「これから、当要塞に赴任為さっている御方が尋問を行う!」


 そんな騎士の合図に、要塞内の扉の一つが兵士によって開かれる。

 程なく、中から騎士の言った人物が出て来るのだが、その顔を見て、良が鼻をウンと唸らせた。


「いやぁ、皆さん、ご苦労様」

 

 要塞を預かって居ると言う割には、その人物は若かった。

 傍目には年の頃十代にも見えなくもない。


 何よりも特徴的なのは、男女のどちら側か悩む程の中性的な顔立ちであった。

 先程顔を覗かせた騎士と比べても、遜色は無い。

 

 ただ、声色から男性らしさは在った。

 

 スタスタと歩く少年は、チラリと並べられた良達に目を配ると、鼻を鳴らした。

 

「……ふーん? で、カタリナさん。 あの人達全員そうなの?」


 どうにも子供っぽい喋り方をする少年に、良は目を細めた。

 周りを見てみれば解るが、騎士を含めた場の者立ちは彼に一応の敬意を払っている。


 カタリナと呼ばれた女騎士だが、少し困った顔を見せた。

 

「いえ、あの亜人以外の三人と一匹は……旅の者だと」 

 

 実際のところ、愛のしどろもどろな説明以外は騎士は知り得ない。

 そんな報告に、少年は急に笑顔を浮かべる。


「あ! そう言えばさ、僕の作ってあげた剣、役立ってる?」


 唐突な少年の声に、騎士は目を丸くする。

 どうやら、かの女騎士が持っていた怪しげな剣は、少年が作り上げたと云う。


 少年の嬉々とした目に、騎士は無理に唇を笑みの形へと変えていた。


「はい、それは……もう……」


 本当の報告をするのであれば【役立たずでした】なのだが、そうは言わない。

 どうやら、会話からの立場上では、少年は女騎士の上役と言うことになる。

 

 士階級に置いて、上役から賜った品を無碍に扱うのは許される事ではない。

 下手をすれば、首が飛ぶ。


「そっかぁ! じゃあ手間掛けた甲斐があったね!」


 自慢の作品が、騎士の腰で今や【只の柄】と化している事など知らぬ少年はハシャいだ。

 ご機嫌なのか、足取り軽い少年は亜人と呼ばれた女へと近付いた。 


「あー、ごめんなさいね? 出来れば、手荒な真似をするなって言っといたんだけど」

 

 少年は女の着ている服の穴に気付いたらしい。

 だが、如何にも貫通している筈にも関わらず、女が痛がる素振りは無い。


 ソレもその筈、女の傷は既に餅田が塞いでいた。

 

「ところで……」


 ポンと思い付いたのか、少年は今度は良達へと顔を向けた。


「其方の方々は、どちらから?」


 部下の報告を忘れては居ないのか、少年はそう尋ねる。

 質問に対して、良はフンと鼻を鳴らした。


「さぁてね……今のところ、当て所の無い旅の最中って所さ」


 実際には嘘は言って居ない。

 良を含めた全員が、全く見知らぬ土地へと放り出されている。


「あ、そう」

  

 良の答えに対して、少年の反応はぞんざいである。

 寧ろ、その目は愛の方へと向いていた。


「あー、ところで、そっちのお姉さん?」

「え? 私?」


 問われたからか、思わず縛られた手を挙げ自分を指差す愛。


「見た所……この辺の人じゃないでしょ?」 

 

 ズバリそのままを言い当てて来る少年は、スッと愛へと顔を寄せてくる。

 その端正かつ中性的な面立ちだが、思わず見惚れそうなモノが在った。

 もし、愛が別の誰かに気を向けて居なければ、吸い込まれる様な気すらする。


「んっんぅ……」


 良の咳払いで、愛がハッと成る。

 

「っと……まぁ、そうだけど」


 答える気なら、愛も自分の所在地程度なら答えられなくはない。

 だが、大真面目に【○○県○○市○○住まい】と答えた所で意味はないだろう。


 答えをはぐらかす愛に、少年は目を細めた。

 ついでとばかりに、咳払いで邪魔をした良を一睨み。


 細い少年から睨まれて怯える様では悪の首領は張れない。


「……ねぇオジサン、悪いんだけどさ、邪魔しないでよ」


 ポンと放たれた一声だが、コレには流石の良もカチンと来ていた。


「あん? 誰がオッサンだって?」

「ちょっと、篠原さん」


 このままでは拙いと察したのか、愛が慌てて良を取りなす。

 二人の機微を見てか、少年は興味を失った様にフンと形の良い鼻から息を漏らした。

 

 壮年と餅田と捕まっているものの、余り興味を見せた節は無い。

 この二人に関して言えば、寧ろこの世界の住人と言う方が見た目には合っている。


 だからか、少年はまた亜人の女へと足を向けていた。


 二度、向かい合う少年と女だが、見せる顔はそれぞれ違う。

 如何にも柔らかい笑みを浮かべる少年に対して、女は仏頂面。


「申し訳ないんだけどさ、教えてくれる?」


 前置き無しの質問だが、要点は省かれていた。

 具体的に【何を】とは問われて居ない。


 少年からすれば、女に自分から【喋ります】という言葉を望んだのだろう。

 返ってくる返事は黙殺であった。


 ムッとしている顔からは、如何にも【答えるつもりは無い】と物語る。


 そんな女の態度に、少年は眉をハの字にして腕を組んだ。


「ウーン……困ったなぁ、話したくないみたいだけど……そうも行かないんだよねぇ」


 丁寧というよりも、慇懃な少年に、女は目を細めた。

 美麗なモノを見ているというよりも、醜い何かを見ている様ですら在る。


「なんなら……他の人に聞いても、良いんだけどさ」


 少年の云う他の人だが、この場には場違いの良達しか居なかった。

 

 厳密に言えば、良達は少年とも女とも無関係である。

 偶々関わってしまったからこそ、この場に居るだけだ。

 

 だが、他の者に尋ねるという言葉に、女は顔を上げた。


「……その人達は関係は無い。 聞きたい事が在るなら此方に聞け」 

 

 義理など無いにも関わらず、女は良達が自分とは無関係であると示す。


 本来ならば、仮に良達が拷問を受け、惨たらしい死に方をしたとしても、女には何の関係も無い筈である。

 にも関わらず、女は敢えてそう言った。


 強気な目に、少年が眉をヒョイと持ち上げる。


「そっか……それじゃあ、君に色々聞いてみようかぁ」 


 愉しげな声と共に、少年が女へと手を伸ばす。

 伸ばされた手が、女の身体を服の上から弄った。


 一瞬だが、女の白い髪の毛が逆立ち、身を捩って手を振り払う。


「可愛い割には頑固だなぁ……コレは、教育が必要かな?」


 疑問とも言える言葉だが、部下の女騎士には伝わったのだろう。

 スッと片手が挙げられる。


 それを受けて、兵士の一人が槍を振り上げた。

 背後からの攻撃を防げる者はまず居ない。


 ゴンと鈍い音が響き、女は思わず身体を強ばらせた。


 だが、走る筈の衝撃が無い。

 ハッとなり振り向けば、良が女の代わりに槍の柄を受けていた。


「……なんで」


 自分を庇う良に、女は思わず呟く。

 そんな呟きが聞こえたのかは定かではないが、良は口を開いた。


「……あっしにゃ、関わりのねぇこって……そう言えりゃ、楽なんだろうな」


 殴られた事など歯牙にも掛けず、息を吸い込む。


「丸腰の女相手に、武器振り回すなんざ……男のやる事じゃねえ」


 良の声に、女は目を丸くしていた。

 

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