戦慄の作戦! 地球からの追放!? その6
拠点組が奮闘を始める中、探索班はと言えばのどかである。
訳の解らない場所に放り出されたとは言え、その足取りは軽い。
「いや、しかし……我々は運が良かったな」
先頭を行く壮年は、ポツンとそう言った。
そんな感想には、他の三人からは疑問が湧いてくる。
「えー? 何が良いんですか? 温泉台無しなのにぃ」
せっかくの温泉旅行と張り切っていた愛からすれば、壮年の言葉は承伏出来ない。
本来ならば、今頃は湯味を肌で感じていた筈だった。
「せやなぁ、わても、人生初の温泉期待しとりましたのに」
複数の人間が材料である以上、その中には入浴の経験も含まれては居るだろう。
しかしながら、今の餅田としては、旅行などは初めてと言える。
魔法少女と餅超人の二人からすれば、旅が台無しだと想えてしまう。
ただ、良だけは何も言わず、難しい顔を浮かべるのみ。
前を行く壮年は、二人からの感想にフゥと息を吐いた。
如何に凄まじい力を持っていても、経験が欠けている。
それは、緊急時に対する対応力であった。
「我々は、元の世界とは別の場所に放り出された。 此処までは良いね?」
問い掛ける様な声に、愛と餅田は揃ってウーンと微妙な返事を返す。
微妙であっても、壮年はそれを気に掛けず息を吸った。
「どうにも納得していない様だが、もし、我々が放り出されたのが何処か……そう、例えば月だったら? 勿論、他の惑星でも良いが、木星だったりしたらどうだね?」
ポンと例として出された声に、愛が目を丸くした。
「えっと? そんなの……」
問われた事に対する答えは出せるが、思わず愛は口を噤む。
実際の所、生身の人間が生きていける環境は限られていた。
「そうだ。 空気が無い程度なら、もしかしたら何とか成るかも知れないな。 殆どの者は死ぬだろうがね。 それにしても、もし酷い環境ならば、我々は全滅していただろう」
宇宙は果てしなく広いとは言うが、逆に言えばそれだけに過ぎない。
広い広くない別にして、生きていくにはそれなりの環境が整っていなければ、生き物はそもそも生存すら不可能であった。
放り出された先が、全く何も無い場所、或いはとてつもない環境で在れば、今頃愛は死んでいただろう。
もしくは、もっと単純に土の中、石の中だとしても結果は同じといえる。
思わず、あっという間に死ぬ自分を想像してか、愛が自分を抱く。
巨悪とすら戦える力は在れども、何もかもが出来る訳でもない。
心無い者が空き缶を放る様に、無重力無酸素の状態に放り出さたなら、生身の少女では手の打ち様もなかった。
「……ぁ」
ポンと背中を叩かれ、愛がハッと顔を上げる。
見れば、良が力強く頷くのが見えた。
「大丈夫だって。 ほら、俺達、こうして生きて歩いているだろ?」
何の気なしの一言ながらも、良の声は確実に愛に安心感を与えてくれる。
「篠原さん。 うん、そう……だね」
「そうそう、生きてりゃ、何とか出来るって!」
「うん」
「な! だからさ、切り替えて切り替えて!」
気分が落ち込んだ少女を、励ます悪の首領。
端から見ればそれだけの光景ながらも、周りからは別の見方も出来る。
餅田は、そそくさと壮年へと寄った。
「あー、そーどますたーはん?」
下っ端の餅超人という自覚は在るからか、一応は壮年を異名で呼ぶ。
だが、大幹部としての自覚が無い当人は目を細めた。
「その名は仰々しくて好かん。 今は名無しだ」
悪の組織に古くから席を置いている壮年なのだが、実のところ誰も彼の本名は知らない。
首領である良は勿論、古株である者ですら。
本名が名乗らない以上、誰も知る由もない。
とは言え、新入りの餅田も嫌がる相手に迫る程に野暮でもない。
「さいでっか? そんならまぁ、名無しはん?」
聴いたままに呼ぶ餅田に、壮年は苦く笑う。
「……私の名前よりも、要件はなんだね?」
「さっきもきいたんですが、篠原はんって、朴念仁を通り越していけずやないかと」
どうにも自分の上司である首領が気に掛かるらしい餅田。
その事に付いては、実のところ壮年も同じと言える。
「確かにな……私も以前に、聴いたんだ。 何故、手を出さないのか……とね」
「へぇ、ほんなら、篠原はんは、なんて?」
「いや、特にはな……ただ、困ってたよ」
首領の裏を勝手に探る餅田だが、フーンと唸った。
「随分と悠長っちゅうか……何ちゅうか……ゴチャゴチャ考えるぐらいなら全員と仲良うすればええんとちゃいます?」
餅田の答えに、壮年は型を揺する。
「なんや、けったいなこと言うてまへんで?」
「君を笑った訳じゃあない。 私も、同意見だからな」
気が合ったからか、唐突に高笑いを決める餅田と壮年。
当然ながら、その後ろを行く良と愛は何事かと眉を潜める。
「え、なに、どうしたの?」
「さぁなぁ? なんだろ?」
意外な事に、愛と良も同じ様な反応を見せる。
ただ、次の瞬間、高笑いは止まっていた。
「ん?」
「え?」
当惑する良と愛に、壮年が振り向く。
「二人共、聞こえないのか?」
そんな声に、良は耳を澄ます。
改造人間の聴覚は、生身の人間以上に強化されていた。
よくよく耳を利かせれば、聞こえる音がある。
ガラガラといった、何かが地面を転がる様な音。
ソレは、文明がなければ鳴る筈がない音であった。
「あっちだ!」
良の声に、他の三人も続く。
軽い藪を突き抜ければ、在るモノが見える。
舗装こそされていないが、ソレは道だった。
年月を掛けて、人の足なり何かかが通り続ける事で形成される。
ソッとしゃがみ込む壮年は、指先で地面を確かめると、フゥムと唸る。
「……どうやら、この地には我々以外にも居るらしい」
具体的な何かが居る名言出来ないが、道を作り上げるだけの何者かが居た。
それは、在る意味この地からの脱出の糸口が掴めるかも知れないと皆が期待を込める。
程なく、遠くから響いていた音が近寄ってくる。
この段階に至れば、愛の耳にも音が届く。
「あ、ホントに何か来た……けど?」
思わず、自分で言いながら愛は言葉を詰まらせる。
響く程にけたたましい音を立てていたのは、車輪。
そして、四人の方へと向かってくるのは、有り体に言えば馬車の類であった。
「アレは……ばしゃ?」
とりあえず、思い付いたままを述べる愛に、壮年が頷く。
「うむ、私も現物を見るのは久しいが、馬車らしい……ただ、な」
馬車とは、地球で言えば馬に車輪付きの荷台なり客台なりを引かせるモノである。
この時点で、馬が何かを引いている事は問題ではない。
問題なのは、引いている馬らしきモノは違うという事だった。
「あん? ユニコーンだぁ? んなもんあり得えねぇだろ」
地球産まれ、地球育ちの良にすれば、馬に角が生えているのは奇態に映る。
牛でもないにも関わらず、走ってくる馬らしき生き物は立派なモノを頭に生やしていた。
「なんやろ、めっちゃ急いでまんな?」
餅田の意見通り、目を懲らすと見えるが馬車は速い。
単に急いでいるというだけでなく、何かから逃げている様に。
良がよくよく目を凝らせば、普通の人間以上どこらか、望遠鏡並みに見通せる。
「うん?」
馬車の車体には、何か黒いモノが取り付いていた。
「ありゃあ……なんだ?」
黒い何かが馬車の上に這い上がるのが見えるが、事はそれに留まらない。
人型のソレは、客台と引く馬の間にある繋ぎを外したらしい。
引く動力源である馬から引き離されれば、車体の部分はあっという間に速度を落とし、止まってしまった。
留めを外された馬だが、道端の怪しい四人など歯牙にも掛けず駆け抜けていってしまう。
動き回るモノを判別するのは難しいかも知れないが、止まれば見えてくる。
車体に取り付いていた黒い何かだが、ソレは、強いて言えばならば忍者であった。
光沢の無い布で、全身を覆い隠す。
何故その様な格好をしているのかは、定かではない。
ただ、外から見て解るのは【謎の黒い集団が馬車を襲った】という事実である。
それを見たからか、良が足を向けていた。
「篠原さん? ちょっと……」
困惑する愛に、良は軽く片手を挙げて見せた。
「何にせよ、せっかくの手掛かりだろ? とりあえず当たってみるだけさ」
そんな軽い良に、他の三人も【それもそうか】と続いた。
無関係だからと放っても置けるが、先ずは行動せねば始まらない。
*
馬車の外を見ていたと思しき黒い何者かも、近寄ってくる気配には気づいたらしく振り向いた。
「あー、どうも……怪しいもんじゃ在りませんよ?」
ハッキリ言えば完璧に怪しいが、とりあえず良は両手を挙げて見せた。
在る意味見知らぬ土地での未知との遭遇ながらも、可能なら友好的でありたいという良の配慮である。
そんな良の隣に、餅田が続く。
「首領、任しとってつかぁさい! わて、地球語ならペラペラですねん!」
餅田からすれは、地球で用いられる言語の殆どは通訳出来るという。
とは言え、問題は在った。
「でもさ餅田くん? 地球以外の言葉だったら?」
恐る恐るといった良の声に、餅田がプルンと揺れた。
「あかん、そこまで考えてへんかったですわ……」
餅田が言語に詳しいとは言え、ソレは、あくまでも地球に限りの話である。
もしも、全く違う言語の場合、餅田も役に立てそうもない。
思わず固まる良と餅田の前に、黒い何者一人が立った。
「……下がれ、旅の者には関わりがない……」
覆面に因って声はくぐもっては居る。
それでも、聞こえた言葉の意味は理解が出来た。
「ん? 日本語……だと?」
「うーん、さいですな……まぁ、一応通じまんなぁ」
どうやら、意外な事に言語は通じる。
但し、あくまでもそれだけの事であり、事は終わっては居なかった。




