戦慄の作戦! 地球からの追放!? その5
壮年の声に、手がのっそりと挙がる。
如何にも【異議あり】という顔でそうするのは、博士だった。
「あの、お尋ねしたいんですけど、なんで愛さんなんですか?」
同じ年頃だからか、博士はそう言った。
役割分担に付いては既に聴かされては居るのだが、声はおどろおどろしい。
「別に、愛さんじゃなくても良いと想うんですけどぉ?」
露骨な不満を撒き散らす博士。
平の戦闘員ならば、彼女の漏らす禍々しい空気だけで脅えかねない。
が、片角の壮年は涼しい顔であった。
「理由を聴かせて貰えますか?」
そんな質問は、カンナとアナスタシアも同意らしい。
問われた壮年は、フゥムと花を唸らせた。
「わけか、まぁ、簡単に言えばいざという時の保険だよ」
ポンと出された答えに、博士と愛は同時に首を傾げる。
微笑ましい光景に、壮年は静かに笑った。
「考えて見てほしい。 仮に、首領を残して他の者で出る事は出来るだろう。 が、その場合、川村女史は此処に留まるんじゃないかな?」
そんな指摘だが、ズバリなのか愛は目を丸くした。
「今現在、遠くに飛べるのは彼女しか居ないんだ。 であらば、調査の為の斥候に出すべきなのは足の速い者だろうな」
説明に対しては流石の大幹部三人でもウッと呻いた。
単純な脚の速さだけならば、或いは虎女が適任とは言え、飛べない。
頑強さだけを見れば、女幹部だが、脚の鈍重さは遺憾ともし難い。
博士に関してはそもそも車両の修理という重大な任が在る。
こうなると、必然的に戦力と移動、いざという時の為を考慮するのであれば、川村愛という魔法少女が頼りと言えた。
説明を聴いていた愛が、小さくガッツポーズを決めているのはご愛嬌である。
反論が出来なければ、案は飲まねば成らない。
だからといって、まだ納得した訳でもなかった。
其処で、ほぼ同時に何かを思いついたらしい女幹部と虎女。
「おい、新入り」「ちょっと来なよ」
実に息の合った二人の声に、今まで静かにしていた餅田が動く。
「……あ、はい、なんでっしゃろ?」
ちょっとやそっとではビクともしない筈の超人だが、その身は僅かにプルプルと震えていた。
人の念が放つ異様な何かが、餅田の本能を揺さぶる。
「あんた、分身出来るんだって?」
目を細める虎女に、餅田は身体を縦に揺する。
「へぇ、一応は……」
餅田の能力に関してだが、組織入団の際に調べてある。
在る意味、餅田の全ては丸裸と言えた。
「新入りよ、早速二手に分かれるのだ!」
普段の態度とは違い、この時のアナスタシアは、正に【悪の女幹部】と言えた。
一切の感情を表に出さず、淡々と命令を下す。
その様な怖い幹部から言われれば、下っ端は逆らえないのが悪の組織なのだ。
「……ほ、ほな」
恐る恐るといった声と共に、餅田が割れ始める。
その光景には、戦闘員ですら見入るからかオォと声が出ていた。
一人が二人に分割するのだから、珍しくは在るが、傍目には餅が割れただけである。
「「これで、ええんですか?」」
左右へ分かれた餅田が、同時に同じ事を喋る。
異様ではあるが、大幹部の剣幕に抑えられれば口に出す者は居ない。
ウンと頷くと、アナスタシアは先ずは右側の餅田を指差す。
「よし、餅田Aよ、貴様は首領へと同行、小娘の監視だ」
続いて、左の餅田が指指される。
「餅田Bよ、お前は、此方に残り防衛の任に着くのだ」
如何にも悪の幹部らしい冷たい声に、二つの餅が揺れる。
「「り、了解!」」
入り立ての下っ端である以上、疑問や二の句など許されない。
それでも、餅田はせめてもの名残と互いに向き合う。
厳密には目や口といった特徴は無いので、本当に向き合って居るのかは怪しい。
それでも、餅田同士は互いを見ている。
「自分、頑張るんやで? もし、わてになんかあっても……」
「……なんや、今生の別れみたいやな? コッチはわてに任して張り切ってや」
二つの餅は同じでありながら、互いに何かを感じるのだろう。
身体の一部が伸び、手を形成されるとソレは握手として重なる。
同じ餅田同士が握手するというのも変な話だが、誰もそれは指摘しない。
だが、時間が掛かり過ぎていた。
「ダラダラと何をしておるか!? サッサとせんか!?」
痺れを切らしたのか、餅田を急かすアナスタシア。
「「ひぇえ、すんまへん!」」
慌てて別れる餅田。 一方は探索班へ、もう一方は拠点組へ。
新人の扱いは、辛辣であった。
*
多少の紆余曲折は在ったが、こうして班分けが決まった。
その探索班へと入った餅田Aが、コッソリと愛へ近寄る。
「なんや、あの姉さん、えろうおっとろしぃでんな」
離れたからか、素直な感想を吐露する餅田に、愛は頷く。
「うん、まぁね……って、貴方、なんかスライムみたいだね?」
愛にしても、餅田の外見に素直な意見を漏らす。
発せられた【スライム】という単語に反応したのか、少し小さくなった餅田Aはプルプルと震える。
「何言うてまんねや、最近のあーるぴーじーじゃ、モンスターが仲間に成るやなんて当たり前でっせ?」
自分をモンスターと誇称する事を厭わない餅田である。
そんな意見には、愛も素直に微笑んでいた。
「……んー、そだね」
*
一方で微笑ましい光景が在れば、もう一方では別の事もある。
其処では、良が大幹部三人に囲まれてしまって居た。
班分けをしたとはいえ、誰も納得などしていないのは明白である。
「首領。 私は貴方を信じてます故、万が一にも間違いなど起こらないとは想いますが」
「そうだよ? 裏切らないよね? 祟るよ?」
「良さん。 餅田さんは全てを見てますし、記録回路も全てを記録出来ますから」
怨霊めいた三人に、グイグイと迫られた良はと言えば、苦く笑う。
女性三人に囲まれては居るが、恐ろしさが先に立っていた。
「わ、わかってる……わかってます、わかってますから」
余りの信用の無さに、流石の良も自分が悲しくなる。
とは言え、このまま囲まれて居ては始まらない。
それを見かねたのか、壮年がフゥと息を吐く。
「お嬢さん達。 名残惜しいのは解るが、手早く願いたいんだが」
壮年の諭す声に、大幹部達の不満は露わだ。
本心を明かせば【爺さんと餅だけで行ってこい】とすら言いたくもある。
が、露骨なまでに渋々といった様子で大幹部集は首領から離れてくれた。
さてとばかりに、壮年も腰の帯に愛刀を挿す。
「では、出立しようか」
壮年が速めに出発を切り出すのには訳がある。
下手に時間を置こうものなら、また出発が延びかねない。
流石に、組織の首領が出現となれば、戦闘員達が居並ぶ。
「「首領! 御武運を!」」
掛けられる声に、四人がその場を離れる訳だが、良は片手を応じる様に挙げていた。
ジトリと重苦しい目線で四人を見送る大幹部三人。
その中で、一番小柄な博士が一番に動いた。
「ちょっと?」「博士?」
面食らうカンナとアナスタシアに、博士が一旦足を止め振り向く。
「何をボサっとしてるんですか! 修理急ぎますよ!」
博士の声に、虎女は首を傾げる。
「えーと?」「ウン?」
いまいち理解が追い付いて居ない幹部二人に、博士はフンと鼻息を荒くした。
「あーもう!? 別に良さんは付いて来るな、なんて言ってませんよね! だったら、サッサとこっちから追い付くんです!」
頭の回転は組織の最高峰だからか、博士はそう言ってのける。
間違いではなく、良は【付いて来てはいけません】とは言い残しては居ないのだ。
「ほら! 速く直しますよ!」
普段ならば、武闘派な虎女と女幹部には頭が上がらない博士ではあるが、他の事に頭が向いていれば怖じ気など忘れてしまう。
博士の声に、大幹部が「「合点だ!」」と応えたのは自然の流れと言えた。
「野郎共! 今すぐにでも修理を開始する!」
「ほーら! あんた達だって、速く温泉行きたいでしょ!」
普段は女幹部といったアナスタシアだが、この時の彼女は戦闘員達からは何処か組の偉い人に見えなくもない。
そして、虎女の声は皆を鼓舞するには充分であった。
*
拠点を離れた良だが、思わず背筋に何かが走った様な気がした。
ブルッと身体を震わす良に、愛が小首を傾げる。
「篠原さん?」
何だろうという愛に、良は軽く首を軽く左右へ振ってみせる。
「いや、なんか、寒気が……」
人には第六感なるモノが在るという。
しかしながら、厳密にはそれはまだ解明されていない。
だが、時にはそれが何かを告げる時もある。
何が何やらと戸惑う良に、壮年はやれやれといった顔を浮かべた。
其処へ、隣を行く餅田が僅かに壮年へと寄る。
「……ちょい、きいてもええでっか?」
ぼそりとした餅田の声に、チラリと壮年の目が動く。
「ん、何かな?」
「……雇うて貰ろうたわてが言うんもなんやけど、篠原はんって……朴念仁とちゃいます?」
餅田の指摘に、壮年の鼻が一瞬だが動く。
くしゃみをしそうに成った訳ではなく、笑いを堪えのだ。
だが、直ぐに、壮年は真面目な顔を取り澄まして居た。
「まぁ、半分は当たっているだろうな」
半分は当たりという事は、もう半分は外れという事になる。
そうなれば、何故そうなのかが気になるというモノだろう。
「……へぇ、ほんなら、もう半分ってなんです?」
餅田の疑問に、壮年は顔を少し横へ向け、チラリと目の端で良を見た。
傍目には、女の子と歩く青年と見えなくもない。
だが、それは見えている姿であって、実態とは違っていた。
如何に人間で在ろうとしても、篠原良は改造人間である。
つまりは【人を皮を被っただけの怪物】といっても相違ない。
それを知っているからこそ、壮年は敢えて餅田には答えなかった。




