戦慄の作戦! 地球からの追放!? その4
組織とソレに加えて外部の物一名。 全員の無事は一応確認された。
乗っていた車両大破するも、負傷者は出ていないのは幸いと言えなくもない。
だからといって、問題は今の所山積みであった。
バスという移動方法が使えそうもなく、近場に修理を頼むというのも無理がある。
そもそも、電話も無ければインターネットすら繋がらない。
在る意味では、今までのどの事態よりも八方塞がりであった。
*
「どうしたもんかねぇ?」
首領である以上、篠原良には部下の命を預かる責任が在る。
今のところ移動出来ないという事を除けば、動けなくもない。
だからといって、組織全員で当て所無く歩くというのも無理があった。
それは、遭難と変わらない。 実態としては絶賛遭難中なのだが。
差し当たり、良はバスの様子を見てくれて居る博士の方へ近寄る。
「よっ」
軽く声を掛けると、車両の様子を見ている博士が顔を上げた。
「あ、良さん」
「どうよ? 動きそうか?」
首領としての質問に、博士は目を細める。
「エンジンはまぁ……動くとは思います」
「おー、そっか。 そら良い報告だな」
「でも、着地の際にぶつけたみたいで、足まわりがちょっと……」
博士の報告に、良もチラリと目を向ける。
バラバラに成ったという訳ではないが、素人目にも修理は難しいと見て解った。
「コイツは、手間だなぁ……」
如何に博士が専門的な知識が在ろうとも、何でも出来る訳ではなかった。
やり方を知っていたとしても、道具も材料も無しでは手が出ない。
「一応、ニコイチでなら動かせそうでは在るんですが……何せろくに何もないので」
壊れた二台から、それぞれ部品をかき集め、一台を走らせる事は可能だという。
元々が温泉に行くだけの予定だったので、それも無理はない。
しかしながら、それでも問題は残っていた。
そもそも自分達が【何処に居るのか?】という事すら解っていない。
そして、疑問なのが、果たして自分が居るのは地球なのかという事だった。
もし地球ならば、衛星を経由すれば電話する事は技術的に難しい事ではない。
だが、それすら出来ないという事は、衛星など無いという事になる。
車の事は博士と戦闘員に任せ、良は愛に目を向けた。
「なぁ、川村さん」
「はい?」
「さっき飛んでたけどさ、何かなかったか? 何でも良いから」
少し前の愛の言葉を思い出すなら、何もなかったとは言われた。
だが、ほんの少しでも手掛かりが在ればと良は縋る。
問われた愛は、腕を組むなり目を閉じ、ウーンと鼻を唸らせた。
時折顔を左右へと少し傾けながら、ムムッと鼻を鳴らす。
「……あ!」
「おう、思い出したのか!」
逸る良に、愛はポンと手を鳴らす。
「たぶんなんですけどぉ、町? みたいなのは……見えたかも」
暗中模索とは言うが、それでも試した甲斐は在ったと良は感じる。
例え頼り無い藁であろうとも、溺れている時は人はソレを掴む。
全く何も無いよりはマシである。
「よぉし、なら、話は速く済まそう」
そう言うと、良は少し歩いて、皆が見える場所へと動いた。
スッと息を吸い込み、手を打ち鳴らす。
「皆! ちょっと聴いてくれ!」
悪の組織である以上、本来ならば良は一々部下の都合を考える必要は無い。
ただ淡々と、命令を出せば良い筈である。
それでもそうしないのは、彼の性格を現していた。
「なに? どったの?」
興味津々といった声を出すのは、虎女。
虎が猫科の動物だからか、今のカンナは虎というよりと猫に見える。
「首領、何か?」
相も変わらずバスガイドの格好をしているアナスタシアだが、普段の彼女の格好よりも今の方が真面目に見える。
最も、それを口に出すほど良も剛胆ではない。
「良さん?」
戦闘員達と協力しつつ、修理を続ける博士も、良へと顔を見せた。
組織一堂が目を向ける中、良はコホンと咳払い。
「えー……川村さんの調査の結果、なんと、少し離れた所に町らしき何かを見つけました」
これまた悪の首領らしくない声だが、すっかり慣れている組織の面々は動じない。
ただ、えっへんと胸を張る愛を大幹部二人が睨んでいるのはご愛嬌というモノだろう。
若干の殺気は無視しつつ、良は話を続ける。
「其処で、何人か勇士を募り、そっちへ行ってみたいと想います!」
良の声に、組織はざわめく。
此処で組織が声を上げる理由だが、別に不満が在るという訳でもない。
問題が在るとすれば、良の声に理由が在った。
もしも、良が一般的な悪の首領ならば、適当な奴を指差しこう言っただろう。
【おい、お前、ちょっと行って見てこい】と。
だが、既に聞こえた通り、良は既に【自分】を数に含めていた。
コレこそが、アナスタシアがしょっちゅう頭を痛めている理由でもある。
大幹部が止めようが、無視して単独にて出掛けるのは一度や二度ではない。
「あの、首領……差し出がましい様ですが……」
怖ず怖ずと、アナスタシアが声を出す。
少し前の【脱走者への拷問】の後、良は首領という役職への復権を果たしていた。
つまり、今ならば大幹部と言えども意見は難しい。
この時、在る四人は頭を悩ませていた。
【いつ頃、行きます】と言い出すべきなのかを。
言うだけならば、簡単なのだがコレが難しい。
下手にかち合えば、話し合いだけで数日は潰れるかも知れない。
その時である。
「そういう事なら……私が出よう」
牽制し合う四人を後目に、最初にそう言ったのは剣豪であった。
キョトンとした空気など気にせず、片角の壮年は腰を上げる。
肩を軽く回すと、滅多に使わない愛刀を携える。
温泉旅行にまで持って来たのかという疑問は残るが、一々ソレを問う者は居ない。
刀云々はともかくも大幹部達に取っては聞き捨てならない言葉も在る。
「ちょっと? なんだっていきなり」
「そうだ! 首領を御守りするので在れば、寧ろ私が!」
「あ、わ、私だって!」
慌てる虎女に、我も我もと言い出す女幹部、そして、若干焦る博士。
文字通り姦しい三人に、壮年はフゥと息を吐いた。
「無論、単に出掛けるならば君達の方が良いだろうね。 花も添えられる」
肩透かし気味な壮年の声に、大幹部達は言葉を詰まらせる。
下手に居丈高に成られるよりも、肯定されては言葉が出ない。
「しかしながら、問題が在るんだよ」
そう言うと、壮年は片手を挙げると、先ずはと人差し指を立てる。
「博士には、この場に留まり、車の修理をして貰わねば成らない。 他にカラクリに詳しい者も多くないのでな」
次に、中指と薬指を立てる。
「次に、カンナ君とアナスタシア女史だが、どちらか一方という訳にも行くまい?」
壮年の指摘だが、効果はテキメンであった。
並みの怪人など歯牙にも掛けない大幹部ですら、ウッと唸る。
「君達のどちらか一方が付いて来ようとすれば、片方も来てしまう。 その場合、正直防備に不安が残るな」
大幹部達にしても、部下の命を預かる立場である。
本来ならば使い捨ての戦闘員ですら、今の組織は決して粗野な扱いはしていない。
「と言う事で、普段はお荷物の私ならば、問題は在るまい?」
大幹部と名乗ってこそ居るが、壮年は余り組織には関心がない。
普段は近場の釣り場で趣味に没頭している程である。
ただ、その剣の冴えに付いては、誰もが知っていた。
この時、普段は余り見せない指揮官ぶりには、良ですら舌を巻きそうになる。
何とも言えない空気が漂う中、そんな空気を払う様に「はーい!」と声がした。
声の主に、良は思わず指してしまう。
「はい、川村さん」
「じゃあ、私も行きまーす! ほら、私、強いですから」
ハキハキとした迷いの無い声。
魔法少女ならば、首領警護という重大な任務も任せられなくもない。
が、問題なのは他の三人である。
立場的には組織の外に居る川村愛だが、殆ど助っ人と言えた。
席こそ置いては居ないが、暇さえ在れば勝手に基地に入ってくる程である。
「おいコラ、何好き勝手に言っちゃってんの? やる? やっちゃう?」
「小便臭い小娘風情が、出過ぎた真似を……」
今にも変身しそうな大幹部二人。
だが、そんな二人にも負けずに何とも言えない顔を覗かせるのは、博士である。
「愛さんとは、いずれ決着を着けなきゃって想ってたんですけど……」
小柄な体格に見合わぬ低い声でそう言うと、博士は腕のブレスレットへと手を伸ばす。
一介の悪の科学者に過ぎない筈の博士だが、果たして魔法少女と戦えるのかと問われれば、可能であった。
バス落下の際にも変身して見せたが、彼女も改造こそされては居らずとも身を変える事は可能である。
そして、変身後で在れば戦力的には魔法少女にも引けを取らない。
必要が無いので、普段はしないだけである。
睨み合うのは、悪の組織大幹部と魔法少女。
構図的にはいきなり最終決戦が始まりそうだが、それを良は望んでいない。
「おいおいおい、落ち着けって! ちょっと待て!」
流石にこんな場所で戦闘を始めさせる訳にも行かない。
そんな中、壮年が良の横へと立った。
今にも、始めそうな四人へと目を向けると、息をスッと吸い込む。
「同僚を立てたい気持ちは在るが、私も川村女史への参加を頼みたいかな」
壮年の声は、焚き火に水を注ぐどころか、ガソリンをブチ撒ける内容であった。




