戦慄の作戦! 地球からの追放!? その3
いきなり空中へと放り出されたならどうなるか。
当たり前だが、先ずは驚きが先に立つ。
意気揚々と温泉地へと向かって居た筈が、どういう訳か、空に居る。
「なんだなんだなんだぁ!?」
落下しているというのは、感覚的に解るのだが、意味が解らない。
それでも、良は地面が近付いている事には気付けた。
「全員!! 変身しろ!!」
今のところ、打てる手立てが他に思い付かない。
それでも、首領である良の声は、瞬く間に組織全員へと伝わった。
浮かぶバスの車内が、カッと光り輝く。
次の瞬間、鈍い音を立ててバスは地表へと到達した。
*
舞い上がった土煙と、破片がバラバラと落ちる。
そんな中、ガンと音がしてバスのドアが弾けた。
『うぬぁああ? どうなってる? 何だってんだ!?』
先ずはと、大破したバスから降り立つのは、良であった。
辺りを見渡すのだが、今まで走っていた道路で事故を起こした訳ではない。
それどころか、道路など見あたらず、風景には全く見覚えが無かった。
チラリと見ただけだが、解る事もある。
どうやら、バスは二台とも動きそうもない。
そもそも、何が起こっているのかすら理解が出来なかった。
『おーい、大丈夫かぁ?』
指示を飛ばしたものの、組織の状態はまだ掌握出来て居なかった。
だが、良の次にバスから姿を見せたのは、すっかり見た目が変わった魔法少女である。
「いたたたた……お尻打ったんですけどぉ」
さすりつつ臀部の痛みを訴える愛だったが、口調から察するに健在であると示す。
『その調子なら、平気そうだな』
「酷くないですか? 女の子が痛いって言ってるのにぃ」
『それだけ元気なら大丈夫だろ?』
ムッとする愛だったが、不満を漏らしているだけの余裕は在る。
本当に死に掛けならば文句を言うだけの猶予は無い。
程なく、別の人影が降りてくる。
『……いったい……何が?』
そう言うのは、普段とはかけ離れた姿へと身を変えた博士。
何処から出したのかは定かではないが、頭を覆うヘルメットと全身を覆うピンク色の戦闘服な彼女を守ったらしい。
『リサ、無事みたいだな?』
良が尋ねると、全身ピンク色と変わった博士がワタワタと動く。
『あ、はい! 私は大丈夫です!』
『そうか、とりあえず他の奴等見て来る!』
博士の無事を確認した良は、バスへと戻る。
まだ、全員の無事を確認しては居なかった。
『おい!? 生きてるか!!』
バスの車内へと大声で確認を取る。
見てみれば、異様な光景が広がっていた。
戦闘員達は、なんと広がった餅が衝撃吸収の役割を果たしたらしいが、全員が頭しか見えて居ない。
「首領! 我々は無事です!」
頭だけ出ているというのは滑稽ではあるが、どうやら戦闘員達は無事との報告。
そして、彼等を庇ったであろう餅だが、微妙に震えていた。
『餅田! 生きてるか!?』
丁寧に尋ねている暇は無く、とりあえず声を掛ける。
「篠原はん……なんや、せっかくの酔いが一発で吹っ飛びましたわ」
元々から骨も何も無いのだから、大した痛手は無いらしい餅田。
続けて、同乗していた幹部組へと目を向ける。
『ソードマスターさん』
本名を知らない以上、異名で呼ぶしかないが、壮年は唸りつつも立ち上がる。
「その呼び名はむず痒いな。 生憎と生きてるよ。 まだ迎えは来てくれないらしい」
いきなりの事に多少は目を回したのだろうが、肉体的には問題ないと言う。
其処はやはり、大幹部を名乗るのは伊達ではない。
そして、更に目を向ければ、何とも言えない光景が在った。
防御の為に、良は首領として【変身しろ】と指令を出した。
確かにその指示に従ったのだろう。
変身したアナスタシアだが、普段と違い変身後はかなり体積が増してしまう。
ひしゃげた車体と、シートの間は狭く、然もついでとばかりにカンナが挟まっていた。
「ちょっと!? 退いてよ!! 女に乗られる趣味は無いんだけど!?」
『るさい! 好きでやっている訳ではないわ!』
ブレードタイガーと化したカンナと、モンハナシャコ女と化したアナスタシアが互いに罵り合う。
当たり前の話だが、それは首領からは丸見えであった。
『し、首領!? 違うんです! コレはただの事故なんです!!』
何に対しての弁解なのかは定かではないが、アナスタシアは焦ったからか全身を茹でられた甲殻類の様に赤くする。
余程慌てて居るのだろう、身体の各部がわちゃわちゃと動いていた。
そうなるとどうなるか、密着しているカンナが呻く。
「ちょ、コラ!? 何処触ってんの!! そんな趣味無いからね!?」
『喧しい! 貴様が私にくっ付いて居るんだろ!? ええい、離れろ!』
二人の騒がしさ、良は胸を撫で下ろす。
『うん、まぁ、無事みたいだな……てか、変身解けば?』
悪の大幹部達は、健在であった。
*
大幹部同士が絡み合うという些細な事を除けば、特に目立った被害は報告されていない。
二号車に分散していた戦闘員達に関しても、変身さえすれば被害らしい被害も出ては居なかった。
だが、全てが無事という事でもない。
一行を運んでくれる筈のバスだが、現状では動きそうもなかった。
「なんだかなぁ……てか、此処は何処だよ?」
良の疑問に、愛が片手を挙げた。
「はいはい、私、周り一回りして来ますけど?」
「悪い、頼めるか?」
「勿論、ではではと……」
早速とばかりに、愛が片手に小さな杖の持つと、それを頭上にて振るう。
「……へーんしーん!」
改造人間とは違い、愛の変身は何とも言えない。
全身が怪しげな光りに包まれた途端に、髪の毛の色が変わり、ついでに身に着ける衣服が派手な衣装へと変わっていくのだ。
トンと地面に降りるなり、魔法少女の手の中の杖は長さを増し、形すら変える。
如何なる原理にてソレが動作しているかは不明だが、頼りにはなる。
手から放しても箒擬きへと変わった杖は地面には落ちず、フワフワと浮いていた。
「よっ……と」
魔女ならば、箒に跨がり飛ぶのだろうが、魔法少女の場合、スケートボードの様に乗る。
「では! ちょっと見て来ます!」
箒の尻から、淡く光る粒子を放ちつつ、あっという間に空へと舞い上がる。
実に頼もしくも在るが、何もかも任せては首領が廃るというモノだろう。
先ずはと、良が持参の携帯端末を取り出して見る。
電源は生きているのか画面は映るが、出るのは【圏外】という文字。
「なんだよ、いきなりぶっ壊れたか?」
自分ので駄目ならばと、良は顔を他へと向ける。
「おーい! 誰か、電話出来ないかなぁ? 俺の駄目なんだよ」
もしかしたら、地面の衝突の際に故障したという事も考えれなくもない。
良の声に、組織全員が試すが、反応は芳しくなかった。
トコトコと寄ってくる博士は、自分の機械をポンポン叩くが、顔をしかめる。
「駄目……みたいですね、私達だけじゃなく、全員のが」
博士の報告に、良は状況をまとめる。
今現在、自分達は何処だか解らない場所に居る。
何故そうなのかは解らない。
そして、最後に通信機器は繋がりそうもない。
「でもさ、俺達、普通に走ってて……なんでだ?」
なるべく状況を思い出そうとはするが、特に何かが在ったか記憶に乏しい。
「……確か、一瞬だけど、バスの外が光った様な?」
腕を組んで、ウンウン唸る良。
そんな首領の声を聴きつつ、博士も頭を働かせる。
「確かに……そんな気もしますけど……」
如何に聡明とは言え、未知の状況ではソレも上手く働かない。
「あー、もう!!」
博士と良が悩む中、そんな声が上がった。
「どうなってんの!? 今頃さ、温泉入って浴衣着てた筈なんだけど!」
堂々と不満を漏らすのは、虎女のカンナである。
あまり吠える性格ではない彼女だが、流石に今の状況には不満が爆発したらしい。
良がプンプンと怒る虎を宥めるべきか迷って居ると、バスガイドが動いていた。
「ええい! 喚くな! 貴様! それでも大幹部か!」
同僚故にか、アナスタシアがカンナへと怒鳴る。
やはり焦っているのは同じなのか、声からもそれが伝わる。
「はぁ!? 旅行中に幹部も何もないでしょうが! あんただって、わざわざ新しい下着……」
「ぃ喧しい!? 勝手に機密事項をベラベラと喋るんじゃない!」
もはや幹部らしさの欠片もない虎女と女幹部。
仕方ないと、良が高ぶる幹部の近寄り、二人の肩へと手を置いた。
「なぁ、二人共。 落ち着けって……頼むから」
良からそう言われれば、虎女も女幹部も矛を納める。
「しゅ、首領、お見苦しい所を」
「ごめん、ちょっと、訳わかんなくって」
シュンとなる二人に、良は小さく頷く。
「解ってる、皆も俺も、今ちょっと解んないけどさ、二人で皆を纏めてくれよ」
首領として命を出せば、其処はやはり大幹部である。
服装はともかくも、ピッと姿勢を正すアナスタシア。
「お任せください! 首領の命とあらば」
「はいはい、お姉さんだもんね」
茶化すカンナでは在るが、声色から先ほどまでの焦りは消えていた。
*
「奇数組! 使えそうな部品を確保しろ!」
「偶数組は周辺の警戒を急いで!
テキパキと戦闘員を纏める大幹部。
首領としての自覚に欠ける良と比べると、その手腕には確かさが在る。
程なく、辺りを見て来る飛んでいった愛も降りて来た。
「よ、川村さん。 で、何か解った?」
一抹の期待を込める良だったが、変身を解いた愛の反応は芳しくない。
すまなそうな顔で、首を横へと振った。
「一応、見ては来たんですけど、全然解りません」
上空から見ても、よく解らないという事は、最低でも十キロ程は解らない事になる。
今までの事を纏めて見ると、博士の中で一つの仮説が浮かんだ。
「たぶん、なんですけど……私達、違う所に来たんじゃないかと」
違う所という曖昧な表現では在るが、言いたい事は良にも伝わる。
「それじゃあ、アレか? 俺達、全然違うところに来ちまったってのか?」
良の焦りに、博士は小さく「恐らくは」と応えた。




