戦慄の作戦! 地球からの追放!? その2
意気揚々と旅路に着くのは、篠原良が率いる悪の軍団。
そんな彼等を乗せたバスは、一路、目的地である温泉地を目指して居た。
さて、道中何をしているのかと問われれば、ただ座っているのも勿体ない。
其処で、日頃の労いとしてか、車内で酒宴が催されていた。
*
空に成った缶やビンが溜まり始める。
飲酒厳禁な運転手はともかくも、戦闘員からは出来上がってる者も出始めた。
中でも取り分け、新入りとして次から次へと戦闘員達に可愛がられたからか、すっかりと肌を桃色にした餅田が張り切っていた。
「いやぁ、こないに歓迎して貰えるとは、わて、感激ですわ!」
首領が首領だけにか、餅田の姿見など戦闘員達は余り気にしていない
それどころか、今まで居なかった剽軽な性格が受けている。
「あ、それ一気! 一気! 一気!」
戦闘員のはやし立てる音頭に、餅田は躊躇い無く酒瓶を傾ける。
本来ならば新人への【一気呑み強要】は御法度なのだが、餅田が超人である為に問題視されていない。
どうやって飲んでいるのかと言えば、頭上辺りに凹みが穿たれ、其処へと流し込む。
口らしい口ではないが、効果は同じらしい。
「よ! 新入り! 良い呑みっぷりだぜ!」
出来上がってる戦闘員の中からは、そんな声があがった。
通常の場合ならば、大幹部や首領の前で発言は許可が居るが、旅行の最中に限って言えば、良の一声にて【無礼講】が許されている。
「いんや~、どうもどうも……では、僭越ながら……一曲唄いますわ!」
マイクも無くはないのだが、気にせず息を吸い込む餅田。
吸い込んだ分だけ、僅かに餅の様な体が膨らむ。
「あつくなぁれ! ゆめぇみたぁ、あしぃたぁおー!」
酔っているからか、若干呂律が回っていない。
それでも、餅田の歌に対して戦闘員達は手拍子すら始めていた。
宴会さながらの騒ぎが在れば、別の席では別の事が起こっている。
騒がしいかと問われれば、寧ろ逆であった。
バスに乗ってから暫くの間、主催者にして首領である良も張り切っていた。
だが、時間が経つに連れ、窓の外を眺める時間が長くなっている。
そんな彼の様子だが、周りからも見えていた。
牽制し合う川村愛と虎女は、互いに隙を窺い動けない。
また女幹部と博士だが、やはり互いに睨みが利いている。
其処で、特に縛られて居ない壮年が、良へと紙コップを差し出していた。
ただ、其処には何も入って居らず、空である。
「……お、ども」
何処となく、心此処にあらずといった良に、壮年は首を傾げる。
「首領、先程から見ていたが、せっかくの催しだと言うのに、あまり乗り気ではない様だな」
壮年の質問だが、実のところ取り巻き四人からしても、尋ねたい事だった。
出来れば自分がしたいが、答えが聞けるのであれば、誰がするのかは問題ではない。
「普段の首領とは違うな……良ければ、聞こうか?」
年上の貫禄か、壮年の声は良の何かを揺さぶった。
果たして、言うべきなのかを良は迷う。
超人事件の際、倒した相手の声を良は忘れられなかった。
「……なんて言うか……言われたんですよ、羨ましいって」
「それは、この前倒した、という相手かな?」
確認する壮年に、良は頷いて見せた。
「で、そん時に聞かれて……どうやったら、あんたみたいに成れるんだ……って」
記憶の中にしか居ない相手の声を、良は反芻していた。
可能性だけを考えれば、有り得なくもない。
もしかしたら、あの場で倒れて居たのは自分かも知れなかった。
経緯が違うかも知れないが、可能性は常にゼロではない。
で在れば、倒れた敵が今の良の立場に収まり、代わりに良は爆散していたという事になる。
良の声に、壮年は眼を細める。
「なるほど……首領は、つまらない事を気にしてるんだな?」
呆気ない程に、壮年は異名の如く良の悩みをそう切り飛ばす。
そらには、流石の良も眉を寄せた。
「つまらないって……」
何かを言い掛けた良だったが、壮年の顔を見て言葉に詰まる。
見える顔には、底知れない虚しさが浮かんでいた。
能面の如く無表情ではないが、同時に悲しんでも居ない。
まるで、数百年は過ぎ去った昔を見ている様である。
「もしかしたら、あの時こうして居れば……そんな事は幾らでも考えられるだろう。 だがそんなコトに何の意義が在る?」
年上からの言葉に、良は押し黙った。
「悔やむ事は出来るが、それだけだ。 それに、君は生きているだろ?」
バスの揺れなど意に介さず、壮年は手を伸ばして良の肩に触れた。
「生きているなら、死んだ者の分まで背負って生き抜けば良いさ」
何とも言えない壮年の声に、良は思わず「そう、ですね」と応えていた。
「なら、素直に楽しめば良い」
そう言うと、壮年は何かに気づいたと言わんばかりに顔を上げた。
「おおっと! ついつい空を渡してしまったなぁ」
そんな壮年の声は、在る意味徒競走の開始の合図だ。
周りにジッと気配を殺して待機していた四人が、我先にと動き始める。
「首領! コップ、空じゃない!」
先んじてそう言ったのは、カンナであった。
虎と異名を誇るだけ在ってか、その瞬発力は目を見張る。
そんな虎に負けじと、瓶を構える少女。
「篠原さん! 駄目じゃないですか!」
魔法少女としての実力故か、変身前だろうと意外な速さを覗かせる。
空のコップへと飲み物を注ぐべく、愛の手が動く。
だが、残像を残す程の速さで動いた虎の手が、愛の手を上から抑えていた。
抑えられては、とてもではないが飲み物は注げない。
無言の睨み合いにて、互いに目線だけで何かを言い合う虎女と魔法少女。
そんな二人の間隙を縫い、躍り出るのは小柄な博士。
「良さ……」
間抜け共のを隙を突いたと、博士の唇の端が持ち上がる。
が、やはり障害が残っていた。
伸びた博士の腕の払う様に、更を腕を伸ばすのはアナスタシアである。
「ささ、先ずは御一献」
博士の言葉に、自分の言葉を無理やり繋げてしまう。
コポコポと軽い音と共に、コップに飲み物が注がれる。
だが、それは少しずつではあっても確実に溢れ始めていた。
何故溢れるのかと言えば、博士と女幹部が横目で見合っているからである。
「……あぁ、もう、参るなぁ」
渋々、零れた分をタオルにて拭き取りつつ、良は独り呟く。
女性三人揃えば姦しいと言うが、四人ならばどうなるか。
一触即発の空気ではあるが、そんな光景を壮年は微笑ましいと見ていた。
*
目的地である温泉地へと向けて直走るバス二台。
遠巻きに見れば、ソレは良い標的と言える。
先ず、目標自体は大きく、速度は鈍重。
とてもではないが、急激な回避など望める訳もない。
そんなバスへと、狙いを定める者が居た。
やり方は特に難しくはなく、既存の多目的ミサイルと同様に狙いたい目標を機械に伝える。
標的の選定が完了したのならば、機械はそれを告げた。
ポシュッと軽い音と共に、筒から誘導体が吐き出される。
解き放たれたソレは、一気に煙を噴き出しながら上空へと上がった。
一旦上空へと上がるのは、戦車の泣き所である頭上を狙う為だ。
とは言っても、その標的が戦車だけに拘る必要は無い。
命令を与えられたソレは、淡々と標的へと向かう。
程なく、上空から速度を付けて落ちていく。
普通のミサイルであれば、後は標的を上から撃ち抜くだけだが、この時用いられたモノは既存の兵器とは違った。
着弾寸前に、標的の頭上にて弾ける。
弾け散った際、淡く光る球体を形成し、その球体はバス二台をあっという間に飲み込んでしまった。
瞬き程の時間が過ぎた後、バスが走っていた道路には、巨大なクレーターにも似た半球状の凹みが穿たれている。
突如として、温泉地へ向かう筈のバス二台は、世界から消えていた。
*
いきなり事故が起これば、それは伝えられる。
高速道路の一部が、アイスクリームの如く抉られたのだから、誰もが驚くのは無理もない。
様々な憶測が、各地で語られる。
地下水の枯渇によって穴が空いた。
ガスが溜まり爆発した。
不発弾などが残されて居たのが偶然爆ぜた。
そういった類の憶測が、巷を席巻し、人々を騒がせる。
果たして、本当に何が起こっているのかを知っている者は地球上でも多くはない。
そんな中、在る特殊な回線にて、通話が繋げられ様としていた。
通常の電話とは違うが、用途は同じと言える。
『はい』
『私だ』
極短い挨拶で、互いに話を始める。
片方は青年らしい声と、もう片方は女性の様に高めだが、慇懃である。
『先の道路陥没事件、知っているだろう?』
『えぇ、それは勿論。 ですが、まさかあの様な手段を使うとは』
『アレは地球の兵器では有り得ない』
『それは、そうでしょうね』
意外といった声に、フゥムと高い音程の唸り。
『此方では、彼等の位置が特定出来そうもない。 無理は承知なのだが……』
『解って居ますよ。 惑星外の事ならば、此方の領分ですので』
青年らしき声の返事に、ウンと音が返る。
『すまないな、私の方でも出来る事は進めよう』
『お互い、一戦を退いた隠居の筈なのですがね』
会話から解るのは、話をする者達は既に前線に立っていないという立場。
それでも、話し合う必要が在った。
『では、早速取り掛かりますので』
『頼むよ、宇宙人』
『其方も、鉄頭』
短い挨拶にて、通話は閉じられた。




