恐怖! 超人エックス出現! その14
「あんた、急に何言い出すんだ?」
橋本にしてみれば、餅田の意図が解らない。
まるで、今やっている遊びから【いち抜けた】と言いたげである。
「いゃ、わてが居る以上、子分共は止めへん。 せやったら、わてが抜けますわ」
餅田の声には、少女ですら目を丸くした。
「わてがのうなれば、おまん居る意味ないやろ?」
餅田の問いに、少女は僅かに顔を落とす。
茫然自失とした顔は、段々と寂しげなモノへと変わった。
それを見かねたのか、橋本が目を瞑り、鼻から息を吹く。
如何にも【しょうがない】といった態度だが、目を開いた。
「なぁ、お嬢さん。 もし良ければ、俺の手伝いするか?」
「え?」
捨てる者あらば、拾う者在りという。
「俺な、一応こう見えて探偵でな。 でだ、丁度、手伝いが欲しいなーって想っててな」
少女を無理に家に帰す事は出来る。
だが、今すぐが無理ならば、多少の猶予を与えるのは吝かではない。
他の超人達についても、下手に散らばれるよりは、誰かが彼等を率いるべきだろう。
「どうする?」
問われた少女の眼が泳ぐのは、見えている。
迷って居る時点で、拒否する気がないのは明白であった。
本当に拒否するば、ならその場で【結構です】と応えれば良い。
少女の反応に、餅田が体の一部を伸ばしてパンと手を鳴らす様に鳴らした。
「いや~、話がまるぅ収まって良かったわ……ほな」
だらだら引き伸ばす事なく、餅田は子分であった少女から離れる。
それは、餅田なりの気遣いでもあった。
敢えて突き放す事で、多少強引にでも少女の道を示してしまう。
下手に自分が関われば、少女は橋本の誘いを蹴ったかも知れない。
ズルズルと音を立てて離れ始める餅田に、良は橋本を見た。
「橋本さん。 そっち、任せて良いっすか?」
良にしてみれば、既に橋本との契約は済んでいた。
何せ見つけ出すべき人物は既に確保している。
そんな良の裏の真意を、橋本は何を言われずとも汲み取っていた。
少女はともかくも、餅田をどうすべきかは橋本には難しい。
だが、悪の組織の首領である良であれば、出来る事も在った。
「あぁ、コッチの仕事は、お陰様で済んだからな。 お前はお前の仕事が在るんだろ?」
ソッと背中を押す橋本の声に、良は片手を軽く挙げた。
「次は、そっちがなんか奢ってくださいよ?」
「あぁ、解ってるさ」
橋本へと声を掛けつつ、良もその場を離れる。
多少混じりはしても、やはり行くべき道端違う。
悪の首領である良の背中を、橋本は引き留めず静かに見送った。
*
超人達を橋本に預けた良は、その親玉である餅田へと寄り添った。
啖呵を切った迄は良かったのだが、餅田はウーンと唸る。
「あ~、しもた……わて、何処行けばええんやろなぁ」
改造人間すら上回る能力を持つ餅田ではあるが、全てが上手くは行かない。
何せ見た目には難が在り、何処へ行くにせよ目立つ事請け合いだろう。
悩む超人に、悪の首領が近寄る。
「なぁ、行くとこ無いなら、うちに来ないか?」
悪の誘いに、餅田は身体を震わせる。
「ええんですか?」
「良いさ、その代わり、うちには色々居るぜ?」
言いながら、良は片手を挙げ、小指を立てた。
「先ずは、虎だろ? 蝦蛄だろ? 変わった爺さんに、宇宙人、まだまだ居るな」
ほんの少しでは在るが、自分の組織が内包する者達を紹介する。
良の声に、餅田は感心したかの如くハハァと声を漏らした。
「そら賑やかで宜しおまんな、で、どう行きます?」
「はい?」
「いや、わて、この見た目でっさかい、飛行機とか乗れまへんで」
餅田が飛行機に乗れるかだけで言えば、乗れなくはない。
シートに狭苦しそうに収まる姿は想像が出来る。
だが、その前に重要なのは、一般の航空会社が果たして怪しい餅を飛行機に乗せてくれるかと言えば、それは難しい。
良にしても、飛行機に乗れないからこそ、わざわざ組織の船を失敬したのだ。
「じゃあ……ふ」
良が【船で】と言おうとした途端、目の前に巨大なトレーラーが現れる。
本来ならば、路地裏などを走るべき代物ではない。
事実として、走行中に邪魔になるゴミ箱などは全てを弾き飛ばしていた。
「なんだ!? また新手か!」
「またでっか? 忙しないなぁ」
散々戦った良と餅田からすれば、休息が欲しい。 それでも、一応は身構える。
そんな二人の近くへと止まるなり、プシュウと排気ブレーキを響かせた。
ガチャリと、運転席のドアが開かれる。
すわ敵かとも思う良だが、降り立つ者の顔を見るなり、顔色を青くした。
「なんや? お姉ちゃん誰やねん?」
餅田からすれば、見たこともない人物など知り得る由もない。
現れたのは、いかがわしいとも言えなくもない格好をする妙齢の女性。
「しゅりょう? お迎えにあがりましたよ?」
実にゆったりとした口調にて、そう言うのは、他でもない女幹部アナスタシアである。
顔は笑顔に見えなくもないが、実のところかなり無理矢理な笑顔であった。
「アナスタシアさん? ど、どうも」
「あぁ、篠原はんのお知り合いでっか? お初にお目に掛かります、餅田ですわ」
自分の見た目に関しては、誰よりも熟知しているからか、丁重な挨拶を心掛ける。
そんな餅田に、女幹部は笑顔のまま少し会釈を送り返した。
餅田の姿に一切言及しないのは、それだけ彼女の意志を現している。
人間、一つの事に集中すると周りが見えないモノであった。
「これはこれは、ご丁寧な挨拶を……ところで」
ヤケに優しいアナスタシアの声に呼応して、別の方から気配が現れる。
「しゅりょー? そんなお餅の後ろに隠れても無駄ですよぅ?」
慌てて餅田の後ろに隠れた良だったが、背後から声が掛かる。
バッと振り向けば、其処にはやはり微妙な笑顔を見せる大幹部、虎女が立っていた。
「あ、か、カンナさん?」
前号を大幹部に囲まれてしまった餅田と良。
なんとか逃げ場は無いかと頭上を見上げる。
そんな首領へと、アナスタシアが微笑んでいた。
「無駄ですよ~、もう周辺一体は、我々が確保しましたからぁ」
敵の増援が来なかった理由だが、単純である。
騒ぎを見つけ出した悪の組織がサッサとその場を確保していたのだ。
「逃げられませんからねぇ……抵抗は意味無いですからぁ」
優しい声なのだが、実に恐ろしい空気が辺りを覆う。
「……くそう、俺も此処までなのか……」
戦いの最中ですら一切弱音を吐かない良も、年貢の納め時なのかと眼を閉じる。
「篠原はん、モテモテでんなぁ?」
全く状況を理解していない餅田の声は、実に気楽であった。
*
組織が総掛かりともなれば、餅田の本部への移送はそう難しい事ではない。
多少の金を支払えば、空港の一部を間借りする事は容易い。
其処へ、やはり組織が有する飛行機を準備する事もだ。
ついでとばかりに、全身を完全に拘束された良が運ばれるのもご愛敬であろう。
何時しかの如く、良は組織の地下基地にて、改造用の台へと寝かされていた。
「あの、すみませーん?」
既に改造人間である良からすれば、今更拘束される理由が解らない。
其処へ、暗がりから脚がスッと覗く。
コツコツとした足音と共に姿を現すのは、小柄だが組織の頭脳である博士。
どういう訳だが、彼女もまた、大幹部同様に何とも言い難い笑みを見せていた。
「良さん……いえ、首領」
普段とは違い、この時の博士は名の如く博士である事を強めていた。
「あ、はい」
流石に、自分が何を仕出かしたについては忘れては居ない良である。
かつての友の為とは言え、無断にて脱走をしてしまっていた。
そうなるとどうなるか、組織は総掛かりで首領捜索をしたのは言うまでもない。
敵対勢力の妨害も多少在ったとは言え、そもそも勝手に抜け出しなどしなければ、此処まで大事には成らなかったのである。
で在ればと、博士は急遽ある秘策を用意していた。
「私……想うんですよね」
「えぇと、何をでしょう?」
「もし、大切な人が居なくなったら、居ても立っても居られないって」
「あの、はい」
震える良に、博士は用意したらしい怪しい何かを見せ付けた。
「コレ、何だと想います?」
「あぁ、たぶん、なんだろう、部品……かしら?」
改造人間のわりには、全くと言って良いほどに機械や電子に疎い良には、博士が見せた何かは正体が掴めそうもない。
悩む首領へ、博士が一歩近寄った。
「コレはですね、分かり易く言えば発信機みたいなモノです。 凄く強いモノでしてね、友人が用意をしてくれたんですよ? 例え首領が、異次元の彼方へと放り出されても、見つけ出せますよって」
なんと首領の身を案じてか、わざわざ何者かが【凄い発信機】を用意していたらしい。
然も、ちょっとやそっとでは妨害出来ず、何処にいるかを見つけ出せる代物だという。
性能は素晴らしいのだろうが、良にしてみれば有り難くは思えない。
寧ろ大きな御世話である。
「な、なぁリサ、駄目じゃあないかな? ほら、人間ってさ、プライバシーって在るじゃない?」
もし、体内に怪しい機器を入れたなら、二十四時間、三百六十五日が組織に監視される。
それは、良にしてみれば有り難いとは言えなかった。
「何言ってるんですか? 私達、悪の組織ですよね? 個人のプライバシーなんて必要無いと想うんですよ」
首領の意見など聞く耳持たずと、博士は準備を始める。
このままでは拙いと、良は慌てて首を振る。
見れば、大幹部と新入りの餅田が固唾を飲んで見守っていた。
「あ! た、助けてください!」
もはやなりふり構って居られないからか、首領は叫んだ。
しかしながら、大幹部の二人は首領の悲鳴に揃って首を横へと振る。
「首領、我が儘は困りますぅ」「そうだよ、見つけるの大変だったんだからぁ」
相も変わらず声色は猫撫で声なのだが、実に恐ろしい。
ソレもその筈、普段から気楽に過ごしているから失念しているが、そもそも彼女達は悪の大幹部である。
仕方ないと、餅田に希望を馳せる良。
「も、餅田くん? 僕達、友達だよね?」
良の声に、餅田は身体を左右へと振った。
「篠原はん、あきませんわ」
「ほい?」
「わて、新入ですねん。 せやから、先輩方には逆らえまへんわ」
悪の組織は、基本的には縦社会である。
つまり、如何に強い超人であっても、先輩の言うことは絶対なのだ。
では、首領は長ではないのかと問われれば、良は今回、脱走者である。
脱走者への厳罰は、他への見せしめとして行わねば成らない。
例えソレが、組織の長であろうとも。
「では、始めますよ?」
「人でなし! 誰か~、助けて~!?」
如何なる苦境で在ろうとも、決して音を上げない良ではあるが、時と場所による。
悪の首領の悲鳴が、基地に虚しく響く。
悲しいかな、此処は総本山であり、助けなど来ないのである。
博士の掛ける眼鏡が、怪しくキラリと煌めく。
悲しいかな、良への再々改造が始まった。




