恐怖! 超人エックス出現! その13
多量の栄養が一気に補充されれば、超人は動き出せる。
加えて、改造人間二人も奮戦していた。
『あぁ!? 次から次へと!!』
普段であれば、決して声を荒らげない橋本だが、この時ばかりはそれを抑えなかった。
出来るのであれば、殺したくはない。
しかしながら、それは今のところ贅沢な悩みだった。
下手に戦闘不能にすれば、強化人間達は自爆を選ぶ事を躊躇わない。
かといって、手加減が出来る相手ではない。
なにせ相手にしても死に物狂いで戦いを挑んでいる。
退けば死ぬのであれば、前へ前へと進むしか選択肢は無い。
必死に橋本の腰へと抱き付いて動きを止めんとする強化人間。
強化されているだけあって、改造人間の膂力を持ってしても振り解くのは容易ではなかった。
とは言え、そのまま組み付かれたままでは他の対処に支障が出る。
『おい、恨むなよ』
意を決した橋本は、自らに縋り付く様に組み付いている者の頭へと、肘から突き出す針で貫いた。
元が人間である以上、脳を破壊されてはどうにも成らない。
ぐったりと力が抜けた身体を振り解く。
倒れ伏した躯を乗り越え、次へと向かう。
背後で爆発が起こったとしても、橋本は振り向かなかった。
*
橋本と持ち直した餅田によって、強化人間達は次々に倒されていく。
そんな中、良はようやく相手の親玉である隊長と対峙していた。
『……なぁ、何でだ?』
「何がだ、篠原良」
『こんな事して、お前に何の得が在る? くたばった奴等も、だ。 どうしてもってんなら、顔くらい何とかしてやれるぞ?』
「説得なら我々には必要は無いぞ。 既に話しは決裂した」
唾を吐くべき口は塞がれているからか、それは出来ない。
それでも、相手の恨みに燃える眼は良にも見えていた。
『はっ……とりつく島も無しってか? 良いさ、だったら、同じ者の誼で引導ぐらい渡してやるよ』
強化人間と改造人間は似て非なる者である。
しかしながら、死んだ者達も目の前の隊長にせよ、望んだ望んでないにせよ、今の姿を嫌悪していたのは本人の口から語られていた。
良と橋本、餅田にしても、誰もが皆、進んで変わった訳ではない。
寧ろ、変えられた事を苦しんでも居た。
ならばこそ、同じ変えられた者として、相手の苦しみを終わらせてやるべきだと判断した。
睨み合いはいつまでも続かず、良と隊長は互いへ向かって駆け出す。
何を言うでもなく、互いに吠えていた。
腕を伸ばせば届く距離に成ると、勢いそのままに殴り合いを始める。
互いに、回避や牽制といった小細工は用いない。
ただ意地を張り通す為に、拳を繰り出し、蹴りを放った。
格闘技の試合であれば、二人の戦い方は馬鹿げていると言えなくもない。
何の策もなく、ただただ殴り合うのだ。
硬いモノ同士がぶつかり合う音が響き渡った。
だが、伊達に長い間戦い抜いた訳ではないからか、少しずつだが差が現れる。
素手に拘り抜いたからか、銃火器や刃物といった武器を巧みに操る隊長に比べて、極単純な殴り合いでは良の方に分が在った。
加えて、急遽の策として創り出された強化人間よりも、改造人間は完成度が高い。
その差は如実に現れ始めていた。
良を殴りつける隊長だが、既に骨格は軋み、拳や足には亀裂が走りつつある。
ましてや、篠原良が纏う装甲は、物理的には破壊不可能とすら組織から通達が為されている。
壊せない輩と殴り合う事自体、無策を通り越して馬鹿げていた。
対する良にせよ、今止めるという選択肢は選ばない。
仮に止めた所で相手が降伏する筈もなく、下手に逃がせばさらに事がややこしくなる。
超人達とは違い、改造された者に疲れを考慮する意味が無かった。
動力源が破壊されるか、体を動かすエネルギーが枯渇しない限り、止まる事はない。
だが、止まらないからといって身体が壊れない訳でもない。
機械である以上、壊れればそのままである。
拳が壊れたにも関わらず、良を殴りつけるが、逆に手が砕け散った。
足で蹴れば、全体が歪み、とうとう本来の機能を果たせない程に損傷する。
両足が機能を失ったからか、隊長が倒れた。
格闘技の試合であれば、或いは其処で勝ちが確定するが、此処では違う。
倒れる相手を見下ろしつつも、構えを解かない良。
『……気は済んだか?』
散々殴り合った割には、実に飄々とした良である。
そんな声に、隊長は堪えきれないのか、笑いを漏らした。
笑っては居るが、その笑いは自嘲である
「……結局の所、俺の方が出来損ないだったという事か……」
小細工抜きで正々堂々と殴り合い、負けたという事実が、そんな言葉を吐かせる。
不細工な同族に、良の兜から覗く眼光が窄まった。
何かを言いたげだが、同時に言うべき言葉が見つからない。
耳障りの良い言葉ならば、幾らでも言えるのだが、良は言わなかった。
魔法が使えない良では、何を言った所で効果は無い。
「篠原良……」
『あ?』
「俺は、お前が羨ましいよ」
隊長の言葉に、良は首を傾げた。
『……急に何を言い出しやがるんだ』
「組織から抜け出すどころか、くだらん上役なんて倒して何もかもを手に入れてる……」
言いながら、隊長は必死に身を起こす。
だが、既に半壊している以上、首を起こすだけが精一杯なのは見て取れる。
今まで、憎しみに歪んでいた筈の片目は、潤み寂しげな色を帯びていた。
「どうやれば……あんたみたいに成れたのかなぁ?」
隊長がそう言った途端に、その体が光る。
程なく、敗者の爆発が良を包んだ。
*
隊長敗れる。 その頃には、橋本と餅田も残りの強化人間を倒していた。
「……ずあああぁぁぁぁ……しんど……」
本当に疲れているのかどうかに付いては、本人にしか解らない。
それでも、疲れを訴える餅田。
その意見に付いては、橋本も同意なのか、変身を解いて座り込む。
「マジだぜ……なんだってただの人捜しの筈が……」
本来ならば、単なる家電娘の捜索の筈だった。
その筈が、敵対組織と一戦交える羽目に陥っている。
実際には改造人間には身体への疲労感は無くとも、その精神は疲労を感じていた。
へたり込むという表現が正しい橋本と餅田。
互いにフゥと一息着くと、ハッとした様にお互いを見合う。
「あ、そう言えば」「篠原はん!」
思い出した様な二人の元へ、足音が届く。
橋本はバッと立ち上がり、餅田は身体を震わせた。
もしや敵の残存かとも想われたが、姿を見せたのは煤けた良である。
未だに変身は解いては居ないが、みる分には健在である。
「……なんだ篠原……って、まだ居るのか?」
橋本の声に、良はゆっくりと兜を横へと揺らす。
『いや、もしかしたら、まだ居るかも知れないっすから……』
「ふうん? ま、そうだな」
気の無い橋本だが、良が変身を解かない理由は在る。
単純に、兜の下の顔を今は見られたくなかった。
良の真意はともかくも、橋本は在ることを思い出す。
「あ!? そう言えば!」
超人達の中に目的の少女が居ることは忘れて居ない。
「おい、あの子は?」
慌てた橋本の声に、餅田もプルンと揺れる。
「は! せや! 忘れとった!?」
そう言うと、餅田は動く。
ビュンと音を立てて、伸びた身体の一部が壁に張り付く。
その吸着力と収縮力は凄まじいのか、餅田の身体がフワリと浮いた。
良と橋本も、慌てて後を追い跳ぶ。
グングンと壁を伝い登る餅田にせよ、橋本と良も急ぐ。
何せ超人とは言え、少女の胴体はまだ人間のままである。
そんな彼女が撃たれたならば、如何に超人とは言え只では済まない。
登りきった三人の前に見えたのは、うつ伏せに倒れる少女。
どういう訳か、彼女は身体をピーンと伸ばし、所謂【不動の姿勢】を取っていた。
「お、おい?」
思わず、橋本が声を掛ける。
目的の人物が死亡していたとしても、仕事の正否には関係が無いとは言え、気持ちの良いモノではない。
声が聞こえたのか、少女は僅かに身体を揺らす。
「まず……だー……だずげで……がらだ……じびれで……」
なんと、少女は全身を痺れさせて動けないでいた。
何が時には幸するか解らない。
強化人間達は、戦闘中には改造人間用の電撃弾を用いていた。
それは、徹貫弾といったモノとは違い、相手の身体を拘束させる為のモノである。
少女は撃たれはしたが、痺れるだけで済んでいた。
「脅かすなや……心臓飛び出るかと思うたで」
飛び出す為の心臓が在るのかは定かではない。
それでも、餅田にせよ橋本にせよ、胸を撫で下ろす想いであった。
*
戦闘自体は、放棄された区画で行われた。
とは言え、派手にぶちかましてしまった以上、長居は望めない。
とりあえず、橋本は少女に在ることを尋ねる必死が在った。
「なぁ、お嬢さん……もう気は済んだかい?」
橋本の問い掛けに、良は目を細める。
全く同じ問い掛けを、別の者にしていたからだ。
身体を痺れさせる弾頭は取り除いたとしても、少女はまだ動けない。
ただ、ムスッとしているのは見て取れた。
「冒険なら、充分に楽しめたんじゃないか? スリル満点だったろ?」
一歩間違えば、少女は死んでいた。
その事に関しては、本人が誰よりも自覚している。
最も、誰かの言葉で簡単に【はいわかりました】と言える様ならば、少女もこの場には居ないだろう。
なかなか素直にウンと言わない少女に、橋本が鼻を唸らせる。
「どうしたもんかね?」
力付くで連れて行く事は難しくは無いが、それはしたくない。
橋本の苦悩を汲み取ったからか、餅田が「よっしゃ」と声を出す。
「ほんなら、わてが先に抜けますわ!」
そんな声には、場の誰もが首を傾げた。




