恐怖! 超人エックス出現! その11
「あっぶねぇ!?」
流石に二度同じ徹を踏むまいと、良は相手の銃弾を避ける事に徹する。
如何に無敵の装甲とは言え、動けないのでは意味が無い。
対して、餅田はと言えば良とは全く違った。
至近距離から撃たれればどうかと言えば、余り効果が無い。
もちもちとした肌に弾はめり込みはするのだが、そのまま弾が吐き出される。
「あだだだ!? 止めろや!!」
貫通こそしていないのだが、撃たれると一応は痛いらしく、そんな声が上がる。
ただ、声を出しはすれども、余り利いているという風には見えなかった。
業を煮やしたのか、強化人間の一人はナイフを引き抜く。
「この化け物が!?」
悪態混じりに、相手が刃物で斬りつけたならどうかと言えば、一応は斬れる。
餅田の肌に開く傷口だが、其処からは血も出ない。
それだけでなく、斬られた筈があっという間に塞がってしまう。
「あ痛!? 何すんねん!!」
そう言うと、餅田は身体の何処と言わず一部を伸ばし、パンチの如く相手を殴りつけていた。
実際は蹴りなのかも知れないが、区別は付きそうもない。
「自分ら! ええ加減にせぇ、ボケが!!」
怒声らしい声を張り上げると、餅田は相手に向かう。
巨大な丸餅が、倒すべき敵へと動く。
異様とも言える餅田の獅子奮迅。
その様には、流石の良ですら舌を巻きそうに成った。
強化人間を向こうに回したにも関わらず、餅田の戦闘力は底知れない。
撃たれようが刺されようが斬られても、一切怯まない。
圧倒的とも言える強さを見せ付ける超人。
それもその筈、元々が裏の組織ですら手を焼いた悪の首領である良を倒すべく、必死に研究開発されたのが、他でもない餅田であった。
付けられた【超人】という異名に違わない能力。
本来ならば、人間には有り得ない矛盾を兼ね備えていた。
餅田の身体。
ソレは在る意味では【運動する脳味噌】であり、同時に【考える筋肉】でもある。
考えるままに動き、関節や手足といった制約など無い。
普通の人間であれば、筋肉とは脳からの指令が無くては動けず、脳味噌その物は運動する事は出来ない。
その矛盾を兼ね備えた、正に【超人】なのだ。
『すげーなぁ、アイツは』
ポンと聞こえた声に、良が振り向く。
『橋本さん』
夢中であった為に気付けなかったが、いつの間にか合流していたらしい。
『すんません、丸投げしちまって』
『あー、まぁ、とりあえず死にゃあしないだろ……それよりも』
軽い口調でそう言いながら、橋本は戦う餅田へと目を向ける。
「掛かって来いや! なんぼでも相手したらぁ!!」
そう叫ぶと、餅田の全身が僅かに変化する。
まるで金平糖の如く、コブが突き出した。
次の瞬間、ただのコブだった部分が一気に伸びる。
三百六十度、全方位へと。 前後左右だけでなく、上方向にも。
一瞬にして、向かってくる相手を一気に纏めて殴り飛ばしていた。
『なぁ篠原、俺は思うんだよ。 アイツが、敵でなくて良かった……ってさ』
橋本がぼそりと弱きな声を漏らす。 ソレについては、良にしても同意出来た。
人型でないからこそ、餅田は全身を余すところ無く使える。
然も、どうやら視界は全方位に及んでいるらしく、奇襲を仕掛けようとする相手すら殴っていた。
『そっすね、もし、餅田が敵だったら……』
良はそう漏らすが、考えるだけでも恐ろしさが在った。
傍目にはふざけた外見の餅田である。
巷に転がるゲームで在れば、序盤に出てくる雑魚にも見えなくもない。
しかしながら、いざ自分が戦うと成れば話は違った。
不定形である以上、急所らしい部位は見あたらず、そもそも存在するのかすら疑わしい。
全身が名前通りの餅の如く弾力性に富みつつ、硬くも成れる。
更には、撃たれようが斬られようが、効果が見えない。
となると、良と橋本の改造人間二人掛かりでも手も足も出ないという事になる。
針で刺そうが利かず、殴りつけた所で意味は見えそうもない。
更に言えば、もし良なり橋本がその体に巻き込まれたならば、脱出が出来る保証は無い。
『下手に手を出すと、邪魔になりそうだな。 これじゃ改造人間も形無しってか』
しみじみといった橋本の感想に、良は兜から漏れる眼の光を窄める。
『橋本さん……そんな悠長な……ん?』
如何に強かろうとも、餅田だけを戦わせるというのは、良の主義ではない。
なんとか助力しようとしたところで、在ることに気付いた。
一見すると、八面六臂の活躍を見せる餅田。
だが、動き回っている内に、その体に起こった変化に気付く。
巨大な餅、という見た目自体はそう変わらない。
ただ、よくよく見れば明らかに違いが現れる。
その違いとは、体積である。
餅田が動けば動くほど、戦えば戦う程に、その身が少しずつだが確実に減っていく。
優れた記憶力を持つ改造人間だからこそ見えた。
『橋本さん!』
『解ってる!』
互いに声を掛け合い、駆け出す良と橋本。
最初こそ勢いが良かった餅田だが、明らかな違いが露わになりつつ在った。
吹き飛ばす程のパンチの威力も、確実に減衰を見せる。
打たれよろめきはするが、飛ばされなかった強化人間の一人が、肩を揺する。
「エックス……貴様を作ったのは誰だと想っているんだ? そろそろ燃料切れだろう?」
回収班である強化人間達だが、餅田の情報は事前に与えられていた。
その中には【超人エックスは長くは戦えない】というモノも含まれている。
内蔵の動力炉にて動いている改造人間とは違い、餅田の場合は人に近い。
人間が筋肉を動作させるには、当たり前だが【燃料】が必要であった。
そして、如何に【超人】でもソレは変わらない。
凄まじい働きを見せるという事は、それだけ燃料を必要とする。
多少は体内に備蓄も可能ではあるが、動けば動くほどに消耗をした。
「なに言うとんねん、元気いっぱいやで?」
弱さを見せぬ為か、言葉は強めである。
しかしながら、余裕綽々という割には、声は弱い。
明らかに、餅田は最初に比べると小さくなっていた。
長所も在れば、同時に短所が在るのは必然と言える。
改造人間ですら上回る能力を持ってこそ居るが、それは無限ではない。
緩く動くのであれば、消耗も少なく済むが、激しく動けばその分だけ消耗は激しい。
餅田は人と同じく、痩せ始めていた。
「強がりも結構だが、いつまで続くかな?」
そう言う声に併せて、回収班の一人がサッと違う銃を取り出す。
一見すると大筒な見た目だが、ソレは榴弾発射機であった。
ポンと軽い音がして、大きめの弾頭が吐き出される。
一見無敵の餅田だが、実のところは人と同じ欠点も持ち合わせていた。
燃やしてしまえば、その身体を急激に消耗させられる。
無論の事、完全に燃やし尽くすのは難しいとしても、小さくしてしまえば、回収は可能であった。
しかしながら、回収班は在ることを失念している。
この場に置いては、餅田は一人ではない。
『ぉ、らぁ!!』
サッと躍り出るなり、飛んでくる弾頭を良が手で弾く。
通常の鉛弾と違って、弾けた焼夷弾は良の身体を燃やした。
「し、篠原はん!?」
餅田は焦るのだが、如何に燃えても兜のから覗く眼光は消えない。
それを教える為か、橋本が餅田の肌軽く叩いた。
『なぁに、気にすんな。 彼奴はアレぐらいじゃ倒れない』
戦った事がある橋本だからこそ、解る。
例え身を焼かれても、良は決して膝を折りはしないのだ、と。
『……さぁて、まだやるかい?』
未だに燃える炎を手で払いつつ、良は前へと歩く。
近付く改造人間を、隊長格が睨んだ。
「貴様も元は組織に属した者なら知ってる筈だろう? 我々に、逃げる道など用意されていないと」
良が率いる組織を除けば、基本的に組織の掟は一つである。
【敗者には、死、在るのみ】という単純明快なモノ。
その掟に付いて言えば、良も以前に戦った怪人から聞かされた事もあった。
撤退など端から許されて居らず、ただ与えられた命令を遂行するのみ。
失敗の代償は、死である。
とは言え、良にしてみればくだらないモノとしか思えない。
『アホくせー話だな。 お前らの親玉は潰したんだぞ? もう従わなくたって良いだろうに?』
本来ならば、サッサと相手を叩き潰しても問題は無い。
それでも、無益な殺生は良の主義ではなかった。
出来る事ならば、相手にもやり直す機会を与えてやりたい。
口で言って退いてくれるならば、それに越した事はない。
だが、説得に応じるのかどうかは、相手が決める事である。
隊長格の返事は、低い嗤いであった。
「篠原良……貴様は何も解ってない様だな」
『あぁ?』
「最も、貴様が知る必要もない」
言い終えると、隊長格は構えを取り直す。
部下達も、それぞれが動いた。
「総員! 死ぬまで戦え!」
指示が放たれるのだが、それはもはや作戦とも呼べないモノであった。
その遂行が可能か不可能かは考慮されていない。
『馬っ鹿野郎共が!?』
止めようとしても、止められない。 ならば、例え力付くであっても。
否が応でも、戦わなければならない。
良が如何に虚しさを覚えても、相手は止まってはくれなかった。




