悪の組織 最期の日 その27
行き先は決まったが、行く方法が無い。
そもそも具体的に【何処】とを知っても、先ずは其処へ行く為の手段を確保せねば成らなかった。
次元を超える為には、先ずは方法を収集せねば始まらない。
そして、バスの修理に関してはエイトが一任を申し出ていた。
『我々が確保した場所は、どうやら本社兼工場の様だからな、修理の設備には事欠くまい』
と、言ったのはエイトの談である。
さて、その諸々の設備を使うに当たり、先ずは所持者の承諾を得るべきだろう。
だからか、良は同じ姿の自分を少し離れた場所へと運んでいた。
✱
台座に寝かされるのが自分で在りながら、ソレを見ていると言うのも新鮮とは言え、奇妙である。
「しかしまぁ、わざわざ専用の修理台が在るとか、贅沢な話だぜ」
壁に背中を預けながら、良はそんな事を漏らす。
その声に、台座に固定された黒い鎧からは、笑いが漏れていた。
『欲しけりゃ買えば良いだろうが、金が在ればの話しだが』
減らず口を叩く鎧を診るのは、リサである。
最も、変身を解かずにいる為に表情迄は窺えない。
『ところで、なんだって俺を助けんだ?』
抉られた胸の修理をされながら、そんな疑問を投げ掛ける。
もし手術中に患者が起きていたらひと騒動だが、痛みを感じない改造人間には麻酔は無用であった。
何も言おうとしないリサに代わり、良が口を開く。
「あん? そら簡単よ。 聞きたい事聴く前に、死なれちゃ意味無いだろ? 死人に口無しっつったって、口封じしたい訳じゃないからな」
一応、良の身体には記録装置は内蔵されている。
中身を解読すれば、多少の事は解るが、ソレが全てと言う事も無い。
その事に付いては、別の自分に似せた機械から言われていた。
記録とは、所詮は撮影した映像に過ぎず、それだけでは全てを知る事は出来ないのだ、と。
『へぇ、そうかい。 で、何が知りたいんだ?』
「解ってんだろ? 真首領の居場所だよ」
問われた事に、黒い兜からは笑いが漏れる。
『そんな事か……だが、俺に言える事なんて殆ど無いぜ。 なんせ、こっち来いって連れて来られただけだからな』
恐らくは嘘は吐いていない。
台座に寝かされる篠原良や、他の者達などが何処から連れて来られたのかを想像するのは容易い事だった。
Aという盤から、駒をBという盤へ移す。
それだけならば、人間にも可能だが、世界から別の世界へと移すのは簡単な事ではない。
そうなると、相手はソレを容易く出来る程の存在という事だった。
「じゃあ次だが、野郎の目的はなんなんだ? なんだってお前は連れて来られたんだ?」
実際には真首領に性別が在るのかは定かではない。
重要なのは、なんの為にわざわざ別の篠原良を送り込んだかである。
『さぁてね……俺はたぶん、牧羊犬みたいなモンなんだろうなぁ』
はぐらかす様でもあるが、それは真理なのだろう。
地球という星を一つの牧場とすれば、ソレを管理する者が必要である。
羊を追う犬に、それを管理する牧童。
それらを兼任するか、或いは別の犬役を雇えば良い。
『まぁ、喰う方からすれば、少しでも美味えモンが喰いたい訳だからな、その健康にも気を使えって訳なんだろうよ』
言葉は多くは無いが、其処からは全てが語られても居た。
わざわざ世界的な企業の皮を被ってまで、篠原良が何をして居たのかに付いては調べれば山程に出て来る。
争いを止めさせ、健康を維持し、商品を良い状態を保つ。
ある意味では、理想の家畜の管理方法と言えた。
「随分とまぁ、優しい黒幕も居たもんだな」
『そらそうよ。 解り易い侵略仕掛けた所で、反発されんのは目に見えてんだ、だったらどうするよ?』
良同士の会話に、リサの手が止まる。
『表向きは優しくして置きながら、裏でバッサリとやるんでしょ』
ポンと出された声には、良達も目を向けていた。
『流石はリサだな』
『別に褒めてくれなくて結構です』
辛辣な反応に、苦笑いが漏れていた。
『なぁ、なんだってそんなおっかねえんだ? 俺だって一応は篠原良なんだぜ?』
ポンと出される声に、博士が腕輪を弄ると全身が僅かに光る。
敢えて変身を解除するのは、顔を見せたいからだった。
今までヘルメットで覆われていたリサの顔には、明確な怒りが見える。
「友達が撃たれて、痛い思いしたら、そんなの当たり前じゃあないんですか!?」
以前の来訪の際、愛は怪我を負っていた。
死にはしなかったが、単に運が良かっただけでもある。
リサの怒声に、黒い兜は視線から逃げる様に兜を天井へと向けた。
『おんなじ顔なんだがなぁ、違うんだな、彼奴とは』
彼奴と言う言葉が誰を指しているのかはリサと良にも解る。
この場には居ないが、別の場所にもリサは居た。
変身をしない代わりに、全身に未知の技術を詰め込んだ彼女は、少女の格好をした怪物とも言える。
その驚異は、忘れようとも忘れられないモノだろう。
もしかしたら、自分がそうなるかも知れないという可能性。
あれやこれやと思い浮かぶが、それを脇に押し退けて、作業へと戻る。
好きでやっている訳ではないが、良の頼みだからこそ敢えてリサは引き受けていた。
黙って作業に戻るリサの肩に手を置きながら、良は自分と同じ姿を見下ろす。
「で、一応聴いとくが、直ったとして、拘束を解いたらどうなる?」
出る答えは解っている。
にも関わらずに、それを問うのは、自分の耳で聞きたいからだ。
『解ってんだろ? それに付いちゃ、教えたと思ってたが』
社長という立場の良の声に間違いは無い。
彼の率いている者達にしても、拘束されているからこそ動けないだけで、ソレが解かれれば、直ぐにでも暴れ出すだろう。
説得に応じず、迷いも無く、死ぬまで戦う。
それはある意味では、兵器として最良の資質であった。
「どうしたもんかねぇ……」
『言ってるだろうが、俺を止めたきゃ、ぶっ壊せってな』
脳味噌まで改造が為されているという事は、少し話しただけでは何の役にも立ちはしない。
かと言って、リサに脳味噌まで弄れとも言い辛い。
悩む良だが、直ぐに妙案が浮かんだ。
「あ、そうだ」
頭上に電球が煌めいたが如く、手をポンと鳴らす良。
「リサ、ちょっと悪いんだが、餅田呼んで来てくれ」
「え、でも……」
「頼むよ、それに、コイツとふたりきりにしちゃ、何か在っても俺が困るからな」
良の意を汲んだのか、頷くと、足早に駆けていく。
残された二人の良は、互いに相手を見ていた。
「ま、ちっと待ってろよ。 直ぐ来るだろうからな」
『なぁ、聴いても良いか?』
「お? スリーサイズに自信はねぇぞ?」
軽い冗談に、唯一拘束されていない兜が左右へ揺れる。
『どうせ同じだろ、知ってるからそれは別に良い。 そんな事よりも、お前、彼奴に手を出して無いんだな』
世間話のつもりか、はたまた撹乱工作か、何にせよ、良は思わず咽ていた。
「……なんだ、急に」
『なんだよ、図星か? 俺だってお前なんだぜ、リサの事に付いちゃ、それなりに知ってるんだ。 色々とな』
何を知っているとは言わないが、言わんとして居る事は解らないでもない。
「いきなりなんだ、そんな話を始めるとか」
『どうせ動けねーんだぜ? 暇潰しぐらいさせろよ』
拘束し、捕虜にされているにも関わらず、不遜な態度を取る。
ソレは如何に脳味噌まで弄られても、変わらない。
『で、なんでだ?』
繰り返される問いに、良は思わず腕を組んで鼻を唸らせる。
「別にそんなもん……」
『お前が一声掛けてやれば良いだろうが。 ようリサ、ちょっと時間在るかってな』
「色々あんだよ……」
具体的に何かとは言えないが、良にも事情は在った。
ただ、拘束されたままでも、それを笑い飛ばす。
『あん? アナスタシアとかカンナとか気にしてんのなら、それこそビッグなお世話だろ? なんの為に無限の動力源が付いてんだ? それこそ、向こうがもう勘弁してって言うまで付き合ってやれんだろ? 全員まとめてな』
先程まで互いを殺そうとしていたと言う割には、その話題は軽い。
何故そうなのかと言えば、答えは直ぐに出た。
例え脳味噌まで弄られても、その奥底に在る魂までは失っていない。
それは、良にも通じる事である。
「あんたも、やっぱ篠原良……なんだな」
『どうだかな? 俺は、何処までが俺なのか、自分でも解んねぇさ』
互いに互いを認め合い掛ける。
そんな中、リサが巨大な餅を伴って部屋に戻って来た。
「良さん、連れてきましたけど」
「なんや篠原はん。 用事ある言われてんねんけど」
自分とリサには不可能でも、まだ全てを試していない。
「餅田さん。 悪いんだけど、またアレ……頼めっかな?」
言われた餅田は、プルプルと全身を揺らした。
「あぁもう、超人使いの荒いお人やで、ほんま……しゃあないやりまひょ」
嫌々といった声ながらも、餅田は拘束された良へと近寄る。
端から見れば、怪し気なモンスターが獲物を見つけ出したとも見えなくもないが、強ち間違いでもない。
『お、おい……コイツぁ』
「おん? まぁ、動かんといてや、手元が狂うたらあかんよってに」
あっという間に、餅田が拘束された良を飲み込んでしまう。
「あ~あ……中身までグチャグチャですわ、もうちょいマトモなら楽やのにぃ」
率直な餅田の意見に、リサは思わず良を見る。
見られた良はと言えば、気まずげに顔を反らしていた。
この時、リサは相手の身体を壊した事に対して顔を背けたと解釈して居たが、実情は違う。
そうでもしなければ、良は思わずリサにある事を言いそうに成っていたからだった。
【時間は在るか?】と。
程なく、相手に覆い被さっていた餅田が離れる。
「あ〜もう……転職しよかぁ」
超人の愚痴は兎も角も、良が下した判断の結果がどうなるのか、それは、見るまで解らない。




