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世界征服、はじめました  作者: enforcer
悪の組織 最期の日
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悪の組織 最期の日 その25


 大幹部が相手を打ち倒したのを横目で見つつ、良は自分の相手へと目を向ける。

 改造された人間は、痛みを感じる事は無い。


 その事に付いては、良自身が一番良く知っていた。


 咳き込みつつも、黒い鎧が立ち上がる。

 

『やっぱ……お優しいな。 寝てる所でトドメを刺しゃあ良いってのに』


 そんな声に、良は何も言わなかった。

 やろうとすれば、ソレは可能である。


 足を持ち上げ、強く踏み付けるだけでも、ソレは単純でも殺人技に該当して居た。


 頭、首、関節各部、狙うつもりなら壊せる部分は多々在る。


 そうしなかった理由は、単純にしたくなかったからであった。

 既に、周りでは倒れている姿は見えている。


 特に、リサと同じ顔の少女や、仰向けに倒れるカンナ、うつ伏せのまま動かないアナスタシアと、ソレはかつての別の見せられた悪夢そのままである。


 見姿が似ているだけなのだから、気にしなければ問題は無いのだとしても、良は気にしていた。


『どしたい? もう終わりか?』


 兜から赤黒い液を垂らしつつも、そんな事を宣う。

 諦めようとしない姿勢に関しては、やはり同じなのか、良も感じ入るモノが在った。


『もう、良いだろうが……周り見てみろ』


 口で【お前の負けだ】と宣言は出来る。

 だが、良はソレをしたくて来たわけではない。


 あくまでも、自分が居ない間に奪われた悪の組織の本拠地である秘密基地奪還の為に来ているだけであった。


 戦いはしたが、それは基地奪還を邪魔されたからこそ、排除したに過ぎない。


 黒い兜が、ゆっくりと左右へ揺れる。

 兜には僅かな隙間が在り、其処からは良と同じ赤い相貌が覗いていた。


『はぁ……こりゃ、まいったな』


 良と同じ声だが、ソレを良は戦いの中で発した事は無い。

 

『みんな、死んじまったのか』


 心配して居るのかも、はたまた呆れているだけか、言葉はだけでは胸の内は読めない。

 例え同じ様な篠原良であっても、二人は違っている。


 組織の面々については、良は熟知して居た。


 だからこそ、自分と同じ様にしてくれると内心信じて居り、同時に、仲間達もまた、期待を裏切る事は無い。


『殺しちゃ居ねぇよ』


 そんな良の声に、黒い兜がパッと動いた。


『別に、殺し合いに来た訳じゃない。 盗られちまったモンを取り返しに来たら、ソッチが邪魔しだけさ』

 

 あくまでも、良は自分達から攻めたつもりは無い。

 降り掛かる火の粉は払うという、良が定めた組織の掟を護っただけである。


 何よりも、無駄な殺傷を抑えたのは、かつての宇宙の果てで出会った自分の助言に因るモノだった。


 仮にAを倒しても、次にBが立ち塞がり、またBを打倒しても、直ぐにCが現れると言われていた。

 報復は報復を呼び、終わりが来ないのだ、と。


『で、どうすんだ?』


 相手を徹底的に叩き潰すつもりが無いならば、取れる方法は二つだった。


 あくまでも基地奪還を果たすだけならば、今不法占拠をして居る輩には退散願う。

 それならば、本来の目的は果たせる。

 もう一つは、悪の組織が退くことだが、それならば始めから喧嘩を売ったりはしていない。

  

『子分共連れてどっか行くってんなら、俺ら止めやしないぜ?』 

 

 口調は兎も角も、やんわりと相手の退去を促す良に、黒い兜は辺りを見渡す。

 良の言葉に別に反論するつもりも無いらしい悪の組織に、兜からは笑いが漏れていた。


『はは……随分とまぁ、よくそんなんで悪の首領なんか務まってんな?』


 率直な疑問を、良は鼻で笑った。 


『全然務まってねぇさ。 しょっちゅうアナスタシアから説教されてるぜ』


 首領の立場とは言え、組織の裏事情を勝手に暴露したからか、モンハナシャコからは激しい咳払いをが聴こえていた。


『良いね、悪の組織なんざ、気ままなモンだ。 でもな……』


 ボソリと何かを言い掛けると、落ちていた黒い兜が持ち上がる。


『生憎と、駒に逆らうなんて選択肢はねぇのよ』

『あん? そらどういうこった?』


 首を傾げる良の耳に、ガリガリという何かを引っ掻く音が届く。

 見てみれば、カンナに倒された筈の黒い蝦蛄が、地面を引っ掻いて前に進み始めていた。


『……社長、今、参ります』


 自分の損傷など、気にして居ないのか、這いずるその後には赤黒い跡がベッタリと張り付く。

 そして、動き始めたのは、秘書が変身した蝦蛄だけではない。


 アナスタシアの全力ボディプレスに因って、半壊に至った筈の虎もまた、身を起こしていた。


『おいおい、まだやる気かよ!?』


 良からすれば、信じ難い事態である。 もはや勝敗の決着は言うまでもない。

 そんな良の困惑に、黒い良は笑って居た。


『そっちのピンク色じゃない、コッチのリサが言ってただろ? 止めたきゃ、首を刎ねろってな』


 その言葉に嘘は無かった。


 餅田に因って気絶させられていた少女も、息を吹き返す。

 身体の損傷自体はあっという間に直してしまう為に、気絶程度では負けたという認識は無いらしい。


 このままでは、皆殺しにでもしなければ成らなくなる。

 しかしながら、それは良の流儀ではない。


『オイこら、いい加減にしとけよ? なんだってそんなに拘ってんだ? 命令されたら死ぬとでも云うつもりなのか!?』


 良の問いに、黒い良は頷いて見せた。


『そうさ。 俺達は、所詮は駒だからな。 指し手がもう良いって言わん限り、死ぬまで戦うもんだろ?』


 自分達を駒と言い切る。

 将棋やチェスで、駒が【死ぬのは嫌だ】と宣ったならば、ゲームに成りはしない。


 そんな考え方は、恐らくは強制されているのだろう。

 

 そういった遣り方ならば、良もよくよく知っていた。


 以前の大首領との戦いの際、再改造を受けた良以外の改造人間達は、本人の意思など無関係で操られて居る。


 その時の事を思い出し、拳を握り締めた。


『こんの……馬鹿野郎共が』


 ソレが嫌で在ろうと、決断は下さねば成らない。

 相手を本気で止めるつもりならば、良は命令を下すべきである。

 組織全員に向かって【皆殺しにしろ】と。

 

『さぁ、どうすんだ、悪の組織さんよ?』


 挑発めいた言葉に、良は自分と同じ姿を睨む。


『お前がやめろって言えば、止めるんじゃあないのか?』

『まぁね、ただ、ソレを言うつもりは無いぞ』


 やる気満々といった虚勢に、良の兜からは唸りが漏れ出る。

 どうしたモノかも悩むが、そんな中、その場に青白く光る粒子が舞った。


 ハッと顔を上げれば、見えるのはようやく追い付いたらしい魔法少女。 


『かわむ……愛!』


 注意されていたからか、慌てて名前を言い直す良。

 そんな声に、箒の上の愛は、ニヤリと笑う。


「マジカルぅ……チェイン!!」


 その声を合図に、魔法少女が操る杖兼用の箒からは怪しげに光る鎖が伸びた。


 伸びる鎖が、悪の組織を避けてその場の相手へと巻き付いて行く。

 瞬き程の間に、今一度戦おうとしていた者達の動きを抑えていた。


「まぁったく!! やっと追い付きましたよ!」


 威勢の良い声は、実に頼もしい。


『いや全く、助かったぜ』


 動きさえ止めてしまえば、相手の意思など関係が無い。

 精々がその場だバタバタするだけである。


 魔法少女の援護を受けて、良は再度自分と向き合った。


 同じであるが故に、黒い鎧には魔法は通じない。

 とは言え、一人を抑えるだけならば良にでも出来る事である。


『さぁてと、残りはあんただけだが、どうすんだ?』

  

 出来る事なら【もうやめろ】と言いたい。

 しかしながら、言ったところで効果は在るのか怪しい。 


 良の声に、黒い鎧が動いた。


『解ってねぇなぁ……投了なんかしてねぇぞ!!』


 飛び掛かるなり、蹴りを放とうとする構えを取る。

 そんな相手に、良は低く膝を落とした。


『この……』


 跳び技は威力こそ望めるものの、其処には重大な欠点が在る。

 一度地面を離れた以上、次の体勢が取れない。


 当たれば大きいとは言え、それは相手が黙って当たってくれればの話である。


 向かって来る黒い自分に、良は地面を蹴りながら全身を伸ばす。

 その際、片方の拳は天を突かんばかりに上を向いていた。


『……アホタレが!!』


 良が用いて居る技は、暇つぶしにやったゲームを参考にしたモノだ。


 ただの人間がやったのでは、単なるアッパーカットだが、ソレをやるのが改造超人ともなれば話は違う。


 強化された足腰は、重い体を高く持ち上げる。

 相手の足も良を掠めるが、良の拳は、確実に相手の胸に刺さっていた。


 全身を破壊不能の装甲で覆われてこそ居ても、中身迄はそうも行かない。


 外部からの強過ぎる衝撃は、装甲自体を内側へとメリ込ませ、逆に中身を抉ってしまう。


 鱗を剥がす様に、良の拳は相手の胸を穿っていた。


 何枚かの装甲が飛び散り、更には赤黒い液体が散る。


 その様に、悪の組織の誰もが目を逸らしたくなってしまうが、最期まで見届けて居た。


 良が着地すると同時に、黒い鎧も地面へと落ちた。

 

 機械に詳しくない良でも、損傷の具合は見て取れる。

 砲弾が直撃したの様な痕に、良は手に付いた液体を払っていた。


『が……げ……』

 

 元が頑強故に、死んではいない。 ただ、漏れ出る声は苦しげである。

 誰もが【これで終わる筈】と思う。

 良もた、同じ様に思うが、実際には違った。


 胸を穿たれても、黒い良は動こうとする。


『……げ……ぐぇ……』

 

 咳き込む度に、兜からは赤黒い液体がボタボタと垂れた。


『……おい、いい加減しろ、死んじまうよ』


 そんな良の声にも関わらず、立ち上がろうとする。


『……らうんど……すりぃ……だろ?』


 抉られた胸を手で抑えながらも、決して負けを認めず、諦めようとしない。


 ソレは、良と同じ姿だからこそなのか、それとも、操られて居るからか。

 答えは解らない。

 

 背中に背負うのは【不撓不屈】であり【不殺不敗】ではない。

 ならばと、良は息を吸い込んだ。

 

 首を飛ばさねば、止めないと言うのであれば、そうする他は無い。

 本意だろうと不本意であろうとも。


 ただ、この場に居るのは良だけではなかった。

 

『アナスタシア!! カンナも!!』


 パッと黒い良へと飛び付いたのは、ピンク色のスーツが目立つリサである。

 

『解っている!!』「はいはいっと!」


 リサの声に、モンハナシャコと虎女も加勢に加わる。

 三人掛かりで抑えられては、動ける筈も無い。


 頼もしい姿に、良は思わずホッとして居た。

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