恐怖! 超人エックス出現! その10
相手が武器を向けてくるならばと、良は真っ向から向かう。
一々左右へ回避もしなければ、余計な真似はせず一番近くへと。
無論の事、相手も引き金を引く指を放したりはしない。
無数の弾丸が良へと当たり、火花を散らす。
が、軽い弾では貫通はおろか、良の体勢を崩してよろめかせる事すら出来なかった。
『んなもんが利くかよ!!』
その言葉に嘘はない。
普通の人間用に造られた弾丸では、改造人間を打ち倒すなど夢のまた夢であった。
先ずは最初の一人を仕留めるべく、良は強く地面を蹴った。
見た目以上に重い筈の身体が、宙へと浮かぶ。
その勢いのまま、跳び蹴りを放つ。
マトモに当たれば、人間の頭などスイカ割りと変わらない。
その筈が、相手はバッと跳び避けた。 当たる筈の蹴りは、床を抉る。
舌打ち混じりに、立ち上がると良は相手を睨んだ。
『…っ…ただの人間じゃねぇな?』
良の声に、隊長は肩を竦めて見せた。
「改造人間は貴様だけではないぞ」
そう言う声を合図に、一斉に黒い集団は銃の弾倉を入れ換える。
『へん、鉛弾なんざ幾ら用意したって意味ねーぞ?』
「普通の弾ならば、な」
隊長各の腕が挙がり、銃口が良を狙う。
とは言え、良にしても一方的に撃たれる趣味は無い。
床を抉った際に出来た瓦礫を掴み上げると、野球の投手の如く構える。
『……せぃ、や!』
普通の人間とは違う改造人間の膂力を持って投げれば、ただの瓦礫でも砲弾足り得る。
相手にしても、ただ待っているつもりは無いのか、挙げた腕を下ろした。
「撃て!!」
良が投げた瓦礫と、放たれた弾丸が交差する。
弾丸は良に当たり、投げられた瓦礫は隊長各のマスクへと当たった。
『ぬが!?』
「……っ!?」
双方当たった訳だが、反応は違う。
無敵の装甲を纏った筈が、良は動きを止めていた。
当たった弾丸だが、ただの弾ではない事を示すように青白い電流が流れる。
対して、マスクを砕かれた隊長各は、その素顔を晒していた。
改造人間とは、本質的には人を材料に怪物を作り上げる事である。
しかしながら、それだけでは運用に支障を来す。
化け物のままでは、あっという間に発見されてしまう。
その為に、改造人間には人間への擬態という機能が備えられた。
だが、見える隊長各の素顔は、おおよそ人間とは言い難いモノである。
幾分かは人の顔らしい特徴は残しているものの、ほぼ重要な部分は機械に置き換えられ、ソレが剥き出しで在った。
『……なんだよ、その面』
自分とは全く違う改造人間に、思わず良は声を漏らす。
その感想が聞こえたからか、残っている眼がグリッと動いて良を捉えた。
「この……醜い顔は、貴様のせいだ」
『ああん? 俺はテメェなんざ知らねーぜ』
良にしてみれば、相手に憶えはない。 だが、して来た事は多い。
「よくもヌケヌケと……貴様にどれだけの仲間が潰されたか」
怨みを吐き出す隊長各だが、その声に合わせて他の者達が良へと銃を撃ち込む。
『んな豆鉄砲なんざ……んが!?』
弾丸自体の威力は大した事ではないのだが、当たる度に強い電流が流れる。
耐熱性に優れ、破壊不能の筈だが、絶対に無敵でもない。
機械を身に有する以上、良にとって電流は動きを止められてしまう。
動けないのであれば、近寄るのは難しくはない。
「よく見ろ、貴様に組織を潰された者がどんな道を辿ったのかをな」
組織とは、規模にもよるが一人ではない。
ある程度の規模ともなれば、それなりに人員を抱える事となる。
事実、良が率いる悪の組織にも戦闘員達は居た。
そして、今まで倒して来た相手にも同じ事が言える。
但し、良は可能な限り相手を殺す事は躊躇い、厳禁とすらした。
生きてさえ居れば、或いはやり直しが出来るという配慮からだ。
しかしながら、長を潰され、放逐された者達がどう行動するかまでは良は感知して居なかった。
数割は元の生活に戻り、馴染める場合も在るだろう。
残りの数割について言えば、逆に馴染めない者達も出て来る。
そうした者達は、結果として残存の組織へと身を寄せるしかなかった。
その結果が、良の前に立っていた。
資金や技術が豊富であれば、或いは彼等も良質な改造人間だったかも知れない。
だが、良が率いる悪の軍団は確実に相手の勢力を削いでいる。
そうした結果、粗製乱造や廉価版を造るしかない。
強化人間と言えば聞こえは良いが、実態は粗末なモノであった。
「どうだ? 篠原良、貴様だけを倒す為に造られた弾丸の味は?」
『…ぬぐ、んが…』
反論しようにも、動こうとしても、身体が言うことを聞いてくれない。
「貴様には怨みが在る、楽に死なせてはやらんぞ?」
相手の声に、良が僅かに身体を震わせる。
兜に覆われている以上、顔には出ないが、失態であった。
今まで、散々敵を打ち倒した事が、良の中に驕りを生んだと言える。
隊長各が、腰に手を伸ばす。 抜き放たれるのは、大振りなナイフ。
如何に装甲を纏うとは言え、実のところ良は完全無欠でもない。
動き回る以上、装甲には隙間が無くてはならないのだ。
事実、そうした隙間を突かれれば、装甲も無敵ではなくなる。
「死ねぃ! 裏切り者が!!」
いざ、良へナイフを突き立てるべく、刃が振り上げられる。
「待てぃ! 悪党共!」
唐突な声が、刃の動きを止めた。
「ええ度胸しとるやんけ!! とぅ!」
そんな声と共に、高所から着地をして見せるのは、餅だった。
弾力性に富むからか、床を破壊するという事はなく、代わりに自分が広まる。
直ぐ様、餅は意思が在ることを示す様に元通りに丸まった。
「な、超人エックスだと!?」
驚き戸惑う隊長各に、餅の一部がギュンと伸びた。
一応避けようとはするのだが、なんと伸びた一部は誘導ミサイルが如く相手を追う。
凄まじい音を伴って、隊長各は殴り飛ばされていた。
見た目に似合わぬ素早い動きにて、餅は良へと近寄る。
「篠原はん! 大丈夫でっか!?」
戦闘という緊急時にも関わらず、餅田の口調は変わらない。
しかしながら、口調がどうであれ、助けられたのは変わらなかった。
『……ぃや、ちょ、と、ごけなくて……』
「あぁ、この張り付いてる奴でんな」
良の動きを止める為の弾丸だったが、餅田から伸びた一部が払い除けた。
電流さえ無くなれば、良も動き出せる。
そんな光景は、相手からも見えていた。
「何故だ!? 超人エックス! 何故ソイツを助ける!?」
隊長各からすれば、多少の暴走したとはいえ、餅を回収する為に来ている。
その筈が、まるで餅は憎き仇に味方をしてしまう。
回収班だが、彼等は一つ失念していた。
餅田には餅田の意思が在ると言うことを。
「じゃかぁしぃボケが!? 誰がえっくすやねん!」
怒りを露わにする餅田。
それは、回収班は勿論、良ですら息を飲む程である。
「オノレら、子分達に毒ガスなんぞ使いよってからに、いてもうたろか!?」
子分達が殺され掛けたという事実に、餅田は怒りを隠さない。
その心意気は、良にも通じるモノが在った。
今のところは一人だが、良にも子分と言える者達は居る。
『微力ながら、助太刀させて貰うぜ』
並び立つのは、餅型超人と改造人間。
回収班からすれば、絶望的な光景であった。
本来ならば、篠原良を打ち倒す為に造られた筈の超人が、堂々と肩を並べてしまう。
「出来損ない共が!? 構わん! 全員殺せ!!」
もはやなりふり構って居られないからか、隊長各はそう支持を飛ばした。
で在れば、部下達も従わざるを得ない。
一度は止んだ戦闘が、また再開された。
*
『まぁったく……いいとこ取りしやがって』
響く音に、橋本はそう呟いた。
良が自分を囮にする事によって、超人達の回収を頼まれた橋本だが、邪魔が無ければ作業自体は難しくはない。
ガスから離せば、少年達も咳き込みつつも息をする事は出来た。
『流石に超人だけ在るな、簡単には死なないだろ?』
そう言う橋本に、少年は顔を向ける。
その顔は、以前に取り逃した一人であった。
「……あんた…なんで…俺達を助けたんだ?」
咳きに途切れがちだが、言わんとしている事は解る。
『あん? さぁてね……』
以前の橋本ならば、正義の味方として相手を殺す事を厭わなかった。
その筈が、知人の如く倒すべき相手を助けてしまっている。
『まぁ、どっかの馬鹿の病気が移ったんだろうな』
そう言って立ち上がろうとする橋本の手を、少年は掴んだ。
「教えてくれよ……なんでだ?」
理解出来ないからこそ、少年は橋本へと尋ねる。
今まで、超人としての力を振り回せば捕まる事は無かった。
思う存分に暴れて回った事もある。
『なんで? んなもんアレだ、強きを挫き、弱きを助くってな』
橋本は、胸の内にある【正義の味方】としての教示を語った。
だが、少年にしてみれば理解は出来ない考え方である。
「そんな事して、何の意味が在るんだよ」
力を得るまで、少年はどちらかと言えば弱者に属していた。
無料故に、逆らう事も許されず、蔑ろにされる。
だからこそ、力を得たなら傍若無人に振る舞う。
少年の問いに、橋本はフンと鼻を鳴らす。
『意味だ? んなもん自分で考えろ。 俺は、やりたいからそうするんだよ』
それだけ言い残すと、橋本は少年の手をやんわりと振り払った。
戦いは終わっていない。
その場から駆け出す橋本の背を、少年はジッと見ていた。




