悪の組織 最期の日 その18
魔法少女の張った防御壁が無ければ、バスは剥き身である。
改造によって多少は装甲が足されては居ても、ソレは無敵ではない。
そして、その火砲の凄まじさは、バスの上に居た良が嫌という程に痛感して居た。
『ずぁぁああ……くっそが!?』
良の身体を覆う装甲は、破壊が不可能のスターライトに覆われては居るが、あくまでも貫通しないという事でしかない。
貫通しない分だけ、衝撃は伝わる。
かといって、車内に戻れる程に弾幕は薄くなかった。
仕方なく、腕で顔を庇いつつ、落とされない様に出来る限り身を屈める他は無い。
『友よ! 生きてるな?』
『あぁ、豆鉄砲ぐらいじゃ死にゃしねぇさ』
『急いで下ろすが、それまで耐えてくれ!』
必死な声に、エイトの焦りは伝わる。
その間にも弾の一発が兜に当たって居た。
『下手に鉄砲数撃ちゃ当たるとは言うが……こりゃ、雨だな』
傘をさせば、多少の雨は防げるかも知れないが、全ての雨粒を防ぐ事は出来る事ではない。
それと同じく、地上から雨の如く飛んでくる弾は多かった。
正直な胸の内を明かすで在れば、魔法少女の力を借りたくなる。
しかしながら、ソレは無理な相談であった。
✱
バスから遠ざけられた愛だが、今すぐ戻ろうにも戻れない。
ほぼ同じだけの力を持ったイオリが立ち塞がる。
「もぅ!? 邪魔だってば!!」
「そっちこそ! 篠原さんの邪魔しないでよ!」
何方かと言えば、愛の方がイオリから離れようとする。
だが、下手に背中を見せる訳にも行かない事は、前回の衝突にて学んでいた。
実力が拮抗して居るからこそ、下手な隙きは見せられない。
事実として、愛はイオリに一度負けていた。
慌てて良が愛を助けなかったなら、その後どうなって居たのかは解らない。
空中に青と黒の線を引きながら、愛とイオリが互いに牽制し合うが、この場合は愛の方が分が悪かった。
気に掛ける事が無ければ、存分に戦える。
だが、逆に言えば気掛かりが在れば注意が反れる。
対して、イオリは立場が違う。
護るべき者は、この場に居ないのだからこそ気にする必要は無い。
背負うべきモノが在るかと言えば、自分へと掛けられた期待である。
一度失敗したにも関わらずに、篠原良はその事でイオリを責めもしなければ、叱責もしていない。
寧ろ、無策に出していた事を詫てすら居た。
それ故に、イオリは必死である。 もう二度と、期待を裏切るまいと。
「「マジカル……アロー!!」」
互いに、同じ事を考えていたからか、同じ術を用いる。
青と黒の矢が、愛とイオリから放たれた。
少女の意思その物と言える矢は、互いにぶつかり合う。
そして、衝突しなかった何本かは、標的へと向かうが、やはりコレも互いに避けていた。
止まっていては的になる。 それ故に、グルグルと空の上を舞う二人の魔法少女。
「いい加減にしなよ!? なんだってそんなに突っかかる訳!?」
川村愛の立場とすれば、同僚の魔法少女と戦う意義は無い。
剣豪に言われた通り、二人は気が合おうが合うまいが、元々から敵同士ではなかった。
偶々に、掲げられる旗の色が違うだけと言えなくもない。
世界有数の優良企業か、世界征服を企む悪の組織か。
一見する分には全く違う旗に見えるが、実のところは同じである。
そもそもが、旗を掲げて居る者達すら同じなのだ。
旗の元には、何方にも篠原良が居る。
何処に違いが在るのかと言われれば、考え方の方向性だろう。
「突っかかる? は! 突っかかって来てんのはそっちじゃん!」
イオリからすれば、自分は攻めて来る悪の組織を迎え討とうとしているに過ぎなかった。
無論、事の深部を探ろうとすれば、何故に悪の組織がその様な事をして居るのかを知る事は出来るだろう。
但し、出来るからと言って、するとしないは別だった。
何よりも、二人の魔法少女はぶつかっている。
「……マジカルぅソードぉ!!」
乗って居た箒を手に持ち、声高に叫べば、ソレはそのままに巨大な光の剣へと変わる。
大型の艦艇すら寸断しかねない程のソレが、愛へと振り下ろされる。
当たれば大問題だが、軌道自体は単純にこの上ない。
この時点で、魔法少女の欠点は露呈して居た。
術を起こす前に【何をするのか?】を宣言しなければ成らない。
それ故に、避け易いのも事実である。
自分を真っ二つにせんと振られる刃を、サッと避けつつ、舌打ちを漏らす。
「…っ…好き勝手して」
避けつつ、その場を離れようとすると、やはりイオリは即座について来る。
決め手に欠ける以上、中々に勝負が着かない。
着かないとは言え、分が悪いのは愛の方であった。
見て見れば、やはりバスはドンドンと損傷を負っていく。
何とかしたくとも、黒い魔法少女が決して愛を通そうとはしない。
「いい加減にしてさ、そろそろ諦めてくれないかなぁ!! 愛!」
実のところ、彼女もまた必死である。
愛を撃墜したならば、それで終わりではない。
その次には、悪の組織を相手にしなければいけない立場であった。
悪の組織が有する戦力は、並ではない。
侵攻されたなら、著しい被害が出てしまう。
ソレを止めんとする為に、イオリは愛を急ぎ倒す必要が在った。
「そっちが諦めてよ!! イオリ!」
急速に反転した愛も、杖を手に取る。
「マジカル、ロッド!」「マジカルランス!」
互いの声に呼応して、杖は形を変える。
青白い棍と、黒い槍へと。
それぞれの色の粒子を放ちつつ、少女振るうソレは打ち合わされていた。
主力戦車の装甲ですら凹ませる程の一撃が、互いを狙う。
落ちながら、何度も爆発にも似た粒子が散らばる。
段々と地上が近付くにも関わらず、止めようとはしない。
そして、二つの光が落ち掛けた時、ドンと線を引きながら空へと上がる。
油断が無ければ、互いに決め手に欠ける以上、戦いは終わらない。
肩で息をしつつ、それぞれが箒に乗って相手を睨む。
「愛ってさ、こんなにしつこかったんだ」
意外と言う声に、言われた本人は鼻で笑う。
「しつこいのは同じでしょ?」
愛の一言に、イオリは目を丸くする。
「そうかもね……」
一見無傷に派手な戦いを繰り広げる魔法少女。
ただ、全く問題が無いかと言えば、そうではない。
互いに派手な戦いをする以上、実は消耗もまた激しい。
その意味で言えば、愛は此方へと来る前に、たっぷりと燃料補給を済ませていた。
ソレは、イオリのこめかみ辺りから垂れる汗として現れる。
目敏く気付いたからか、愛は目を窄めた。
「あれ、もしかして……燃料切れ?」
篠原良率いる悪の組織と過ごす内に、知らず知らずに少女も色々と学んでいる。
単にバカ正直に打つかるだけが能ではない、と。
モノは試しと、探りを入れる。 すると、イオリは見に見えて反応を示した。
カッと目を見開き、歯を剥いて見せたのだ。
「はぁ!? 全っ然余裕なんですけど!!」
そんな姿は、かつて愛もした経験が在る。
自分は劣勢ではないと示す為に、敢えて吠える。
遠吠えには、実は意味が在った。
相手を威嚇するのも在るが、専らは相手を遠ざけんが為に吠えるのだ。
でなければ、音も無く襲い掛かるだろう。
「あっ……そう? じゃあ掛かってくれば?」
自分が優勢であれば、攻めねば成らない。
可能ならば話し合いで事を済ませたいが、穏便に行かないとなれば仕方の無いことである。
其処で、敢えて余裕振るイオリを挑発する愛。
「言われなくたって!!」
去勢では無い事を示さんと動くが、鋭さに欠ける
そして、ソレこそ愛の狙いであった。
「マジカルぅ……ハンマー!!」
身体を横向きにしてまで、杖を振るう愛。
持ち主の意を汲み取った杖は、長く伸びその先には大型の金槌が現れた。
ソレを選んだ理由は、単純に先端が大きく出来るからだ。
剣は鋭いが、同時に先は細い。
対して、愛の振るう槌の先は自動車程も在る。
僅かな捻り程度では回避は出来ず、然も、イオリは自分から前出てしまって居た。
慌てたイオリが自分に振り下ろされる槌を受けるが、その衝撃は凄まじい。
「……が!?」
剣は鎧攻略には不向きだが、槌は逆である。
魔法少女という、見えない鎧を纏った者にすれば、実のところ剣よりも槌の方が恐ろしい。
「ぃ……ぎ……」
脳みそ丸ごと揺さぶる様な衝撃に、イオリがふらつく。
必死に刃を食いしばろうとするものの、まるで下船病の如く身体を奇妙な感覚が襲う。
この時点で、愛は勝ちを確信して居た。
燃料切れで動けないイオリに、全力の一撃を喰わせたのだ。
続けて攻めれば、元同僚は倒せる。
だが、愛はソレはしたくなかった。
笠原卯月にせよ、悪の組織に囚われはしても開放されている。
「もう、十分でしょ? 下で休んでなよ」
これ以上の攻撃は無用と判断したからか、愛はイオリに負けを認めろではなく、安めと言った。
元々の二人に勝ち負けの意味が無い。
だが、如何に愛がトドメを渋った所で、それをイオリが納得するかは別である。
「……ふざけんな……まだ、終わってない」
燃料切れならば、車は動けなくなる。
その意味では、魔法少女も変わらないが、違いは在った。
単に操られる機械ならば、止まれば済む。
そうではない魂を持っている者ならば、気力が残されていた。
魂の震えが、より激しく気力を燃やす。
機械のエンジンならば、限界以上の駆動は出来ない。
そんな事をすれば、エンジンそのものが壊れてしまう。
その意味では、イオリは自らのアクセルペダルを限界以上に踏み込み始めていた。
「行かせないから……絶対に」
イオリの目が赤々と輝き、纏う衣装は今以上に黒へと染まり出す。
足りないならば、全てを差し出すという覚悟。
ソレは、以前に愛も一度経験して居た。
「駄目だよ、イオリ……」
限界を超えようとすれば、代償を支払わねば成らない。
その意味では、魔法少女の代償は自分自身であった。




