表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世界征服、はじめました  作者: enforcer
悪の組織 最期の日
116/145

悪の組織 最期の日 その17


 ミサイルでも撃ち落とせないと成れば、別の手立てを使わねば成らない。

 

「ヘリコプターだのはなぁ、高く付くよなぁ」


 出そうと思えば出せなくはない。

 但し、慈善事業でない以上、タダでは無い。


「な、一個幾らだっけ?」


 背広姿の篠原良の質問に、秘書が眼鏡を少し上げる。


「はい社長、諸々込みで八十億ほどです」


 当たり前だが、ただの乗用車にせよ、本体の分を払って終わりではない。

 燃料費から整備費用、パイロットの育成、全てに予算が掛かる。

 そして、それだけでは弾無しで飛ぶ事になってしまう。

  

 弾薬費まで込めれば、それだけで運用費が必要であった。


「そら参るな、出した所でポンポン落とされたら赤字じゃ済まねえ」


 重武装のガンシップならば、或いは空飛ぶバスに手傷を負わせる事は可能かも知れない。

 但し、悪の組織が何もして来ない保証など無かった。


 訓練用の標的でない以上、反撃や回避は想定に入れねば成らない事である。

 フゥと一息吐くと、手を頭の後ろで組んだ。


「いいねぇ、悪の組織なんてのはさ、自由気ままってね。 こちとら、ろくにバカンスも行けねーってのに」


 愚痴るが、特に聴いている相手は居ない。

 側に秘書こそ居ても、果たして聴いているのかすら定かでなく、眉一つ動かさない。


 そんな秘書に、チラリと目を向ける。


「ところでさ、アナスタシア」

「はい社長」


 呼べば返事はしてくれるが、聴こえる声は暖か味は無かった。


「イオリ、出せるよな?」

「はい社長。 待機させて居りますので、声を掛ければ直ぐにでも」


 簡便な報告に、フゥンと篠原良の鼻が鳴る。


「じゃあ、今すぐかな。 これ以上無駄金は使いたくねぇし」

「宜しいので?」


 珍しく疑問を呈す秘書に、興味が湧いたのか、スッと背もたれから背中を離す。


「なんで? どしてそう思う?」

「笠原卯月が離脱した以上、彼女は単独にて戦う、という事に成りますが?」


 前回、魔法少女を送り出した際、二人掛かりだったにも関わらずに、二人は敗退して居た。

 その結果を鑑みれば、一人欠けた状態で出すという事は、より良い結果は望めない。

 

 秘書の提言に、少しだけ目を窄めた。


「じゃあまぁ、アレだ、今度は、逃げない様に言っといてくれ」


 前回、イオリが逃走したのは、その制限を掛けて居なかったからである。

 契約書に【逃げてはいけない】という項目は記されて居なかった。


 であれば、仮に魔法少女が撤退したところで文句は言えず、責任も問えない。

 つまり、前回の結果は契約上の不備でもあった。


 だからこそ【次は逃げるな】という誓約を課す事で、勝手な撤退を抑止する。

 其処には、少女の身を案じるという事は含まれていない。


「はい社長。 では、その様に」


 早速とばかり、その場を離れようとする秘書だったが、その足は半歩以上は踏み出せなかった。

 理由としては単純に、社長である篠原良の手が秘書の手首を掴んでいる。


「社長? 何か」


 やはりと言うべきか、顔は変えない秘書に、笑顔が向けられた。


「後さ、期待してるよ……って、彼奴には言っといてくれ」


 言葉だけを吟味すれば、軽い社交辞令に聞こえなくもない。

 その筈だが、極僅かに秘書にの唇が動いていた。

 

 ムッとして居るという程ではないが、僅かに赤く塗られたソレが何かを言いたげに戦慄く。

 

「……はい社長。 では、その様にお伝え致します」


 秘書の口から出たのは、それだけだった。


   ✱ 


 ミサイルを退けたバスは、悪の組織を乗せて一路目的地へと飛行を続ける。

 一見順調に見えるが、その車内では、エイトによる状況説明が為されていた。


『もう直ぐで、目的地に到着する。 ただ、その前に皆に伝えて置きたい』


 いきなり事に際するよりはと、事前の簡潔な発表(ブリーフィング)は欠かせない。


『誘導兵器に関してはADSは防ぎ切れる。 だが、目視有効範囲に入ったなら、全ては無理だ』


 バスに備え付けの怪しい装置は、ナノマシン散布に因ってミサイルと言った近代の兵器には対抗が取れるが、逆に言えばそれだけでなのだ。


 砲弾銃弾、ロケット弾と言った、無誘導式の兵器には約に立たない。

 つまり、歩兵が目視で使う武器、或いは操作が電子制御であっても、用いる弾が通常のモノならば防御機構は役に立たないと云う。


 エイトの説明に、手が挙がる。


「は~い! じゃあ私が、外でバス護れば良いですか?」


 青白い衣装を纏う愛の声には、特に文句は出なかった。

 と言うよりも、現時点で彼女以上の力を行使できる物は組織には居ない。


『そんじゃ、川村さん、頼めるか?』

「良いですけど、篠原さん、ちょっと手伝ってください」

『ほい?』


 何が何やらと、困惑する良の手を、愛が引いていた。


   ✱


 何故、天下無双の魔法少女を悪の組織の首領が手伝うのか。

 答えは単純で、今の良は少女の力を増加させられるからだ。


 再改造によって、打ち消すだけが能ではなくなっていた。


 空飛ぶバスな屋根の上にて、愛が息を吸い込むと、杖をクルクルと回す。


「マジカルぅ……シールド!」


 甲高い声とと共に、バスの前面を青白い膜が覆った。

 一見する分には、指で破れそうに薄いが、実体は違う。


 魔法という原理不明の力に、生じた力場フィールドが形成されていた。


 バスが雲を抜け出す。 すると、途端に火砲の放つ光が見えた。


 風切り音を立てながら、雨の如く弾が飛んでくる。

 だが、その弾や砲弾は、薄い膜に当たるなり、やる気が失せた様に落ちて行く。


『スッゲーよな、前々から思ってたけど、ソレどうやってんだ?』


 愛の背中を支える良の声に、愛がクスッと笑う。


「どうって言われても、なんとなくなんですよね。 あ、もしそれが解かれば、のーべる賞? とか取れそうですけどね」


 愛の言う事も間違いではない。

 もしも、魔法少女の力が理論体系化出来れば、世界が変わる。

 但し、ソレが良い方向に使われるかと問えば、答えは難しい。


 誰もが愛と同じ力を振るうとなれば、より悲惨な戦いが繰り広げられる様な気がした。

 

 平和の為にとダイナマイトを制作したノーベルにせよ、その爆発物の多くは、平和利用だけでなく戦いに用いられている。


『……そうかもな……って、おっと!?』


 膜の外側で、ドンと何かが爆ぜる。

 それ等は、榴弾やロケット弾と言った旧式のモノであった。


『川村さん、大丈夫か?』


 少女の力を疑う訳ではないが、一応は気にする良に、背中を預ける愛は笑う。


「あんなぐらいなら、オチャノコサイサイって奴ですよ」


 多少の爆発等では全く動じない愛だが、ちらりと背中へと眼をやる。


「ソレよりも、いい加減、名前で呼んでくれません? 私の事」

『ん? あぁ、そうか、じゃあまぁ……』

 

 当たらないという事からか、別の事へと気を向けてしまう魔法少女と悪の首領。

 実のところ、それは油断に他ならない。


 何故ならば、敢えて向こうが旧式の兵器を持ち出したのには意味が在るのだ。

 効果の有る無しだけで言えば、爆音と爆煙は目眩ましの意味が強い。


 魔法少女が居る以上、その威力など始めから気にして居ない。


 にも関わらず、敢えてソレを使ったという相手の意図に、良と愛は気付いて居なかった。


 弾の雨や爆炎に紛れ込み、尚且構わず突っ込んで来る者の姿。

 ソレは人の目では追えなくとも、機械の目は追える。


『友よ! 避けろ!!』

『あん? エイトか? なんだ急に……』


 事態の説明をして居る暇など無い。 エイトの声に、良が意識を集中させた。


 一つの黒い塊が、魔法少女の張った壁をすり抜けて入り込む。


 改造された神経は、その瞬間を良に見せていた。


 良の胸の内に納められた装置は、確かに魔法少女の力を増幅させる事が可能だ。

 だが、その効果に敵味方の区別は付けてられて居ない。


 歪んだ笑みを浮かべつつ、川村愛へと突っ込んだのは、他でもない魔法少女の一人、イオリであった。


「きゃ!?」


 短い悲鳴を残して、バスの上から弾き出されてしまう少女。

 慌てて良も手を伸ばすのだが、届きはしない。


『川む……愛!!』


 慌てて声を掛けるのだが、それは余りに遅かった。 


   ✱


 宙空へと放り出されたとて、魔法少女にとっては影響は多くは無い。

 精々が、驚く程度だろう。


 器用に姿勢を制御しつつ、手の中の杖を大きくして乗る。

  

 弾き飛ばされた愛だが、地上とあまり変わらずに姿勢を制御して居た。


「……くっそ、いきなり何な訳……」


 すわ何事かと見て見れば、視線の先には黒い少女が悠々と浮かぶ。


「……イオリ」

「愛、また会えたね?」

 

 まるで、同窓会で再会したと言わんばかりの声だが、愛にして見れば見たくない顔である。

 だが、それ以前に、愛が気にしたのは、今まで自分を運んでくれたバスであった。


 銃弾や砲弾からバスを護っていた青白い障壁だが、その発生源が奪われればどうなるか。

 答えは単純に、護るモノが消え失せる。


 あっという間に、悪の組織を乗せたバスが火砲に曝されて居た。


 舌打ち混じりに、バスへと向かおうとする愛だが、ソレはイオリが塞ぐ。


「退いてよ! 邪魔!! みんなが、篠原さんが!?」


 普段ならば見せない少女の吠える声に、イオリは唇の端を釣り上げた。

 目はまるで三日月の如く窄まる。


「駄目だよう。 私もさ、篠原さんから期待してるって言われちゃったんだもん」


 お互いに睨み会う少女達。

 そんな二人の遠くでは、バスが火を吹いていた。


 今すぐにでも、戻りたい愛だが、簡単ではない。

 何故ならば、自分と同じ魔法少女が立ち塞がって居る。


「ウヅキはもう居ないよ?」

「それが? どうせ邪魔だったじゃない? 独りの方が楽だよ」

 

 本心か、まやかしか、何方にせよ、イオリはかつての相棒に大した期待をしては居ないらしい。

 一人に成ったにも関わらず、その顔には異様な自信が満ち満ちていた。


「どうしても、邪魔するわけ?」

「そっちこそ、私の邪魔すんの? どっかに行っちゃえば良かったのに」


 同じ様な道を歩む筈の魔法少女だったが、二人の行き先はまるで違う。

 交わらねば、或いは衝突は避けられたかも知れないが、既にぶつかっていた。


「だったら、今すぐ退かすから!」

「それはコッチの台詞だよ、愛!」


 空の上で、青と黒の線がぶつかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ