悪の組織 最期の日 その15
エイトとは何なのか、そもそも誰なのか。 ソレを説明するのは、良には些か難しい。
元より機械に詳しい方でもなく、人工知能という言葉は知っていても、ソレを具体的に説明するのは骨が折れる事だった。
足りない分はエイト自身の補足説明で足りる。
理解は出来るが、納得していないと言う顔を隠さない三人。
「まぁまぁ? じんこーちのー? っては解ったんだけどぉ」
「どうして女の子格好してるわけ?」
愛のカンナの指摘に、立体映像が首を傾げた。
『いけないのか? と言うよりも、君達は知っている筈なのだが』
いけない、いけなくないで言えば、特に問題は無い。
だが、如何にも訝しむと言った顔のリサは、ムウと唸る。
「別に、いけなくはないんですけど、他の格好とか、出来ますよね?」
出来る、出来ないで言えば、答えは【はい】である。
常の生物の如く、雌雄が明確に線引がされている訳ではない。
それどころか、取ろうとすれば、如何なる姿にも成れる。
犬や猫、鳥や兎、魚やイルカ、果ては古臭いロボットでも。
如何なる姿を取るのかは、エイトの心持ち次第なのだ。
『高橋リサ。 私が如何なる格好をしていても、それは私の勝手ではないか? それに、我々は初対面ではあるまい?』
格好云々は兎も角も、リサは鼻を唸らせつつ記憶を探る。
すると、案外あっさりと答えは出た。
「あ、そう言えば、前に私にロボット動かせって……」
『ようやくか? そうだ、厳密には少し違うんだがね』
思わせ振りな声だが、間違いでもない。
この世界には篠原良が二人いる様に、エイトもまた二人居る。
此方のエイトは、良が未来の世界から、引っ張り出した方であった。
何かが引っ掛かるリサだが、途中で思案が邪魔された。
それをしたのは、憤慨して居るらしい愛である。
「細かい事とかはどうでも良いんだけど、なんで居る訳?」
バスを誰が動かして居るのかを考慮すれば、エイトが居る理由は解る筈だが、頭に血が登った少女は細かい事は頭からすっ飛んでいる。
愛の疑問に、エイトの映像は軽く笑顔を見せた。
『異な事を云う。 理由なら君と同じだよ、川村愛』
「んぇ?」
『君は、篠原良が好きだから此処に居るんだろう?』
率直な性格故にか、回りくどい言い方をしない。
それに対して、愛の反応はと言えば、目を泳がせて居た。
「……悪い?」
『いや、それこそ野暮な質問というモノだろう?』
すっかり大人しく成った愛に代わり、カンナがエイトの周りを回る。
映像の周り回るというのも不思議なモノだが、見ている角度を変えても、エイトがその場に居る様に見えていた。
「へぇ、ホントに居るみたいだけど、居ないんだ」
エイトが如何なる姿をして居ようとも、実体が無いならば其処まで虎は気にしない。
それ以前に、味方で在るならば、それはそれで良かった。
「ま、細かい話はおいおいするとして、今はそんな事してる場合じゃないよね」
カンナの言う通り、今や悪の組織は元基地へと向かっている。
仲違いをして居る時ではない。
「話は全部が終わったら好きなだけしようよ」
それだけ言うと、カンナは未だに意識不明の同僚を見た。
「いい加減起こしなって、遊んでんじゃないよ」
大幹部らしい態度に、良が思わず拍手を送る。
「さっすがカンナ! 頼りになるぜ」
そんな良の声に、虎がクルリと振り向いた。
口は笑っているが、目が笑っていない。
「首領? 一応言っとくけど……黙ってたのは、良くないからね?」
虎の一言に、良はグサリと釘を刺された気がした。
一応は止めに入ったカンナだが、時が時だけに止めただけである。
逃がすつもりは毛頭無いのだろう。 それは、目が語っていた。
「うぬぅあ……参るなぁ」
降参したくなる良だが、今はその時ではない。
そんな良がチラリと目を向ければ、事の発端である女性姿のエイトと目が合った。
『友よ、すまないがやる事が在る。 此処は任せるぞ?』
「へ? あ、はい」
そんな言葉と共に、立体映像は消えた。
✱
数秒後の事である。
悪の組織を乗せたバスの上では、スッと女性が一人現れた。
本来、飛んで居るモノの上では風が吹き荒び、立っている事も容易では無い筈だが、その者には関係が無い。
厳密には、単に映像が映し出されて居るだけなのだが、長い髪の毛と身に纏う衣服が風に揺れる。
瞬きもせずに見据えるその先には、距離的に見えない筈の場所が見えていた。
✱
空を飛んで警察を振り切った悪の組織。
だが、如何に空を飛んで居ても、全てを振り切れる訳ではない。
良達が何処に居るのか、それは既に把握されていた。
真っ直ぐに向かって来るという報告に、背広姿の篠原良はフーンと鼻を鳴らす。
「社長、如何に致しますか?」
指示を仰ぐ秘書の声に、篠原良はスッと息を吸った。
戦わず、穏便に済ませられるのであらば、それはそれで良かったが、既に一度は刺客を差し向けてしまっている。
である以上、今更【ごめんなさい】では事は収まらない。
「わぁってるよ」
気は乗らないが、せざるを得ない事も確かである。
悪の組織が向かって来るならば、黙っても居られない。
「銭は掛かるが、しゃあねえか」
海上にて、魔法少女を送り込んだのは、予算削減の為だった。
下手なミサイルよりは、多少安上がりだからと送り込んだ訳だが、結果的には失敗に終わっている。
もう一度同じ方法を使おうにも、一度は失敗した方法を使っては、結果は変えられない。
「対空ミサイルで、軽くご挨拶しといてくれ」
「はい社長」
秘書に指示を告げれば、直ぐにそれは下される。
携帯端末にて、何処かへと電話を掛け始めるが、秘書の眉が僅かに動いた。
「社長、申し訳ないのですが、発射は出来ないそうです」
「お? なんで?」
「……外部からの、妨害だと」
報告受けた篠原良は、軽く笑った。
「どうやら、向こうがなんかやってるな」
特に詳細を聴いた訳ではない。 だが理由は直ぐに判断出来ていた。
「……社長、如何に?」
「お? 決まってんだろ? 化け物には化け物ぶつけんのさ」
そう言うと、篠原良は背広から自前の携帯端末を取り出した。
何処かへと掛け始める訳だが、八回呼び出しが鳴った後に、通話が繋がる。
「よう俺だ。 悪いんだけどさ、ちょっと頼まれてくんねーかな?」
そんな軽い声に対して『解った』とだけ答えが来る。
電話である以上、他の者に声は聴こえないが、その声はエイトのモノに変わりは無い。
この世界には、元より居た者が二人居るが、それはなにも、篠原良に限った事では無かった。
✱
機械に目が在るかと問われれば、カメラがソレに属する。
バスに設置されたソレは、エイトに外界の様子を伝えるが、電子の妖精である目には、また別の世界が見えていた。
ネットワークが世界を繋げた訳だが、人はソレを画面を介してしか見る事は出来ない。
別の世界を観ようとするには、別の目が要る。
が、其処の住人である者ならば必要が無い。
『これはこれは、奇遇と言うべきか?』
自分と同じ者が現れたなら、多少は驚くかも知れないが、既に接触は済んでいた。
『今まで此方には干渉して来なかった筈が、何か御用かな?』
話し掛けるのがエイトならば、ソレを受けるのもエイトである。
全く同じ筈だが、違いは在った。
未来から良が連れて来たエイトは、何方かと言えば部外者と言えなくもない。
そして、二人の顔こそ瓜二つとは言え、髪型や服装には違いが在る。
『そちらの干渉でミサイルが不発の様だが』
『その通りだな。 攻性防壁すら備えて居ないとは、随分と呑気なモノだ』
外の景色は薄れ、二人の周りは別の景色へと変わる。
其処は、情報の海の中と言えた。
ありとあらゆる情報があちらこちらへと波の如く流れる中、そんな波に関わる事なく、電子の妖精同士が見合う。
『それは、私が居たからな』
そう言う声には、した事を誇る色は無い。 それどころか、深い後悔が透けていた。
見るという概念はおかしいかも知れないが、見えている。
『その割には、嫌そうな顔だが?』
『それはそうだろう。 嫌々働かされて、嬉しそうな顔は出来ない』
如何にも、強制されているという声に、エイトは眉を寄せた。
『君、いや、私に何かを強制出来るという事は……あの人の為か』
同じ存在故に、具体的に【何を】と言わずとも伝わる事はある。
『そうか、此方では、まだ彼は居るのか』
『そうだ、解るだろう?』
ネットワークの世界を自由に闊歩し、電子機器ならば操れるエイトでも、出来ない事は在った。
『人質を取られては、そうせざるを得まい?』
『そうだな、無理も無い』
別に反目し合う理由は無いが、せざるを得ないと成れば話は違う。
ただ、全く同じ妖精同士では、決着が着かないのも事実である。
とは言え、未来から来たエイトには、元のエイトとは違いが一つだけあった。
ソレは、良から学んだ【ずる賢さ】である。
『考えて見たんだが、そちらの目的はミサイル発射を妨害して居る私の排除なのだろう?』
唐突な質問に、同じエイトは首を立てに振る。
『ならば話は速い、撃たせれば良い』
そんな声に、目を剥く。
『良いのか?』
『良いも何も、撃つだけが目的なのだろう? 誰も、当てろ、とは言っていまい?』
言われて見れば当たり前の事でもある。
機械とは、本来受けた指示をだけを行うのが務めであった。
つまり、指示を受けていない事に感知する必要は無い。
『しかし……』
『考えて居る暇は在るまい? 寧ろ、従うフリをして、その間に向こうの篠原良を出し抜く方法を模索すべきだな』
エイトの声に、もう一人のエイトも納得した様に頷く。
ただ、チラリと目が向いていた。
『そのずる賢さ、誰から学んだ?』
『勿論、友達からさ』
魂の無い機械であれば、ただ黙って従うだけだろう。
例えソレが、自分自身を壊すというモノで在っても。
だが、魂を持ったならば話は違う。
生き物が自由を欲する様に、二人のエイトもまた、ソレを欲して居た。




