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世界征服、はじめました  作者: enforcer
悪の組織 最期の日
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悪の組織 最期の日 その13


 腹拵えを済ませ、いざ、バスへと乗り込む訳だが、一番最初に乗った良が、乗降口で立ち止まった。

 

 面々から見れば、首領は通せん坊をしている訳だが、別に悪戯をして居る訳ではない。


「さて、皆に聴いておくぞ」


 そう言うと、片手を挙げて親指でバスを指し示す。


「コイツに乗り込むって事は、下手すりゃ帰れないかも知れないが、それでいいな?」


 当たり前だが、此れから悪の組織のバスの行く先は、宿や休憩所ではない。

 一度は逃げ出した、元は自分達の基地である。


 つまり、良の言葉には【嫌なら降りろ】という含みが在った。

 

 悪の組織の首領足る者、本来ならば部下を使い捨てにしようが文句は言われない立場ではある。

 そうしないのは、あくまでも良だからだろう。


 そして、組織の面々からすれば、今更の質問でしかない。


「それさ、何度目かな? もう今更っしょ?」


 まるで聞く気も無いのか、先ずはと乗り込むのはカンナ。

 続くアナスタシアも、軽く笑っていた。


「首領、私から言うのも何ですが、しつこいのは良くないですよ?」


 既に覚悟を決めている者からすれば、首領の問は愚問でしかない。

 でなければ、そもそも誰もが篠原良について行こうとはしない筈である。


 生き方とは、一つだけに決められては居ないのだ。

 行こうとすれば、それだけ道は在る。


 にも関わらず、悪の組織として行こうとする事は、ある意味、意地を張り通す事に他ならない。


「前にも言ったが、私は死に場所を戦場と決めている。 寝床で果てるのは、本望ではない」


 大幹部の一人、剣豪も意見を変える事は無かった。

 続いて、博士の異名を持つリサも壮年へと続く。


「あの二人にいいトコ取られては適いませんから」


 初めて出逢った頃とは、格段に変わったのはリサだろう。

 消極的に誰かに従うのではなく、寧ろ自分から動こうとする。


「いや〜……わて、他に行くとこ在りまへんので。 ソレに、一宿一飯の恩もおます。 まぁ、ワテが居ませんでしたら、皆はん困るでっしゃろ?」 


 餅田なりの持論を呈すと、そのままに乗り込む。 

 新入りながらも、首領へ続こうとする餅田に、古参の戦闘員達も続く。


「首領、我々はただ、貴方に従う訳では有りません。 したいからこそ、そうして居るのです」

 

 以前の首領ならば、使い捨てにされた戦闘員達だが、良が首領に治まって以来、その扱いは違った。

 誰一人として、そんな扱いはされては居ない。


 それどころか、誰もが大事にして貰える。

 だからこそ、戦闘員達もまた、首領の為に命を張ろうとする。


 悪の組織全員が乗り込んだならと、最期に、愛も踏みステップへと足を掛ける。


「怖くないのか?」


 良の問いに、愛は目を窄めた。

 安全確保が為されている絶叫マシンへ乗るのとは、訳が違う。

 

 保険も効かなければ、保証等もない。


「嫌ですよ、私だけ、置いてけぼりなんて」


 仮に、この場に残る事は選んだ所で、誰に文句を言われる筋合いは無い。

 しかしながら、その後の人生を、後悔と塗れながらも生き続けるのは、愛の性分には反していた。


「やなんですよ、あの時ああして居れば、とか、こうしていたら、とか」


 そう言うと、愛は良の顔を見る。


「篠原さんだって……そうでしょ?」


 問われた良だが、軽く笑って返す。


「何処までやれるのか、ソレが知りたいだけさ」


 一個人が出来る事は、そう多くないかも知れないが、だからこそ、良はそうして居る。

 元より使い捨てにされる筈が、違う道を歩んでいた。


「私もです。 だから、一緒に行きましょ」


 其処まで言われれば、邪魔をする理由は無い。

 

 こうして、客分の魔法少女を含んだ全員が、バスへと乗り込む。

 乗降口の戸が、指示を待つ事なく、独りでに閉じた。


   ✱


 目的地は既に決まっている、迷う必要は無い。

 

「先に言っとくぞ。 向こうの俺が邪魔して来るだろうが、ソレに付いては俺が何とかしよう」

 

 多少集中には時間が掛かるが、今や、良は胸の内に収まる機会の操作を体得して居た。

 

「プラス1とマイナス1で、イコールゼロって奴だな」


 打ち消す力と増幅する力が拮抗した場合、其処には何も無いのと同義である。


「だからまぁ、存分にはやれるだろうが……」


 元より、篠原良が改造された理由だが【異能力者に対しての対策】でしかない。

 戦闘力に関して言えば、多機能な改造人間に比べると御世辞にも芸が豊富という訳ではないのだ。

 

 在るのは、自身の五体のみである。


 誰かが遠くに居た場合、飛んで駆け付ける事も出来なければ、何かを発射して手助けも出来ない。


 口を噤む良に、アナスタシアが立ち上がる。


「首領! 我々に言うべき事は、一つでは?」 


 指示を欲してそう言った訳ではなく、単に気勢を上げる為の鼓舞が欲しい。


「……徹底的にブちのめしてやれ、遠慮は要らねぇぜ」


 そんな声も、良の性格を良く表して居た。


 決して【殺せ】や【皆殺しにしろ】とは言わない。

 遠慮するなとは言うが、あくまでも、叩きのめせ、程度に留めている。

 

「首領! 万歳!」


 アナスタシアの音頭に、戦闘員の手が挙がる。


「「首領! 万歳! 首領! 万歳!」」


 さて、全員がその挙手に参加して居るかと言えば、違う。

 大幹部である虎女は、鼻歌混じりに化粧を直す。


「あれ? 化粧なんかすんの?」


 何故、カンナが化粧直しをするのか、その理由を知らない愛に、リサがフフンと鼻を鳴らす。


「ちょっと、何なの?」

「アレは、戦化粧なんです。 自分を奮い立たせるのもありますけど、死して見苦しく成らない様にって」


 知識をひけらかすリサだが、壮年が少し咳き込むのは愛に見えていた。


「それ、教わったでしょ?」

「……うぅ」

 

 率直に裏を暴かれ、リサは焦るが、愛も気持ちは解る。

 出来れば、綺麗にして置きたいという女心。


「てか、リサも持ってんだ……メイク道具」


 いつの間にか手に入れたらしいモノを取り出すリサに、愛は物欲しそうな目を敢えてした。


「貸しましょうか?」

「ありがと……てか、してくれると有難いんだけど」

「はいはい、じゃ、動かないでくださいよ」

 

 以前に、リサは大幹部達から化粧の手解き(レクチャー)は受けていた。

 自分の分は兎も角も、愛の分までせねば成らない。

 だがそれは、技術の伝授でもあり、それを教え伝えるという人の営みでも在った。


 そんな少女達の姿に、剣豪は微笑ましいと薄く笑う。

 

 だが、決して侮っては居ない。

 それどころか、肩を並べる戦友という見方をして居た。


「なんや、そーどますたーはん。 えろう愉しそうでっけど?」

 

 壮年の顔に気付いたらしい餅田。 そんな声に、壮年はウームと唸る。


「その呼び名は仰々しくて好かん」

「せやったら、なんて呼べばええんです?」

 

 名を問われた所で、本名は当の昔に捨てていた。

 今の剣豪に、名乗るべき名は無い。


 返答に困る質問に、剣豪は鼻を唸らせる。


「好きに呼べば良い。 ただ今は、名無しだよ」

「そないケチくさい事言わんと、教えたってぇな」


 見た目にぞくわぬ粘りを見せる餅田に、剣豪はフゥと息を吐いた。


「……スワロウだ。 ただ、もはや捨てた名なのでな……」


 このまましつこく食い下がられるのも嫌なのか、案外あっさりと剣豪は答える。

 燕という意味の言葉を。


「ははぁ、せやったら、ワテの胸の内にしまっときますわ」

「そうしてくれ」


 誰にも聴こえないが、餅田だけは一つの事を知り得た。


   ✱


 派手なバスが動き出せば、否が応でも目立ってしまう。

 そんな動きは、相手側からも見えていた。


「性懲りも無く、バカ正直に向かって来るってか? 我ながら、一本気って言うか、愚かって言うか」


 悪の組織移動の報告を受けてか、篠原良は鼻で笑う。

 

「ま、裏であれやこれやとやられるより、マシかなぁ……」

 

 企業間の戦いは、お綺麗で済むことも在れば、そうでない場合も在る。

 特に、国家を超える規模の力を持ったならば、国家感に争いを起こさせる場合も在った。


 利益を上げる為に、他社を害する必要が在るならば、迷わずソレを実行出来ねば始まらない。

 

 お手々を繋ぎ、皆仲良しというのは、表向きの建前でしかない。

 手を繋ぎながらも、もう片方の手にはナイフを構える事でのみ、ある程度の拮抗を維持出来る。


 主義主張に関わらず、経済に置ける勝ちとは、如何に相手から資産資本をもぎ取るかに在る。


 そして、其処には規則ルールなど無い。


 表面上は法律に反しないという決まりは在れど、逆に言えば、ソレに反しなければ何をしても良い事に成る。


 白より黒、限りなく黒に近い灰色な遣り方も多々在った。


 必要とあれば、他者を雇い直接戦わせる。 或いは誹謗中傷ネガティブキャンペーンを広める。 

 正しいから勝つのではなく、勝つ方が正しいと謳われる。


 そんな企業の遣り方と比べると、良が率いる悪の組織は、御世辞にも【冴えたやり方】とは言えない。


「裏だの影に隠れてコソコソしやがるよりは、ああいう馬鹿の方がよっぽど気持ちいいやな」


 気分良さげにそう言うと、篠原良は手をポンと鳴らす。

 すると、待機していた秘書がソッと寄った。


「よう、アナスタシア」

「はい社長」

「彼奴等の準備は?」

「とうに出来て居ります」


 淡々とした報告に、ハァと溜め息が漏れる。

 秘書は、露骨な溜め息を聞いても、眉一つ動かさない。


「あいよ、ご苦労さん」


 ぞんざいな態度だが、秘書は特に反応を示さない。

 ただペコリと、深く腰を折るだけである。 


 起伏の無い態度に、篠原良はデスクの上のキーボードを少し弄る。

 すると、ある光景が画面上に現れる。

 

 其処では、悪の組織の食事会の録画が流された。

 音は入り混じり、ただの雑音に等しいが、反面、誰が何をして居るのかは見える。


「……向こうは、愉しそうだなぁ……」


 ヤケに寂しげな声はするが、ソレは誰にも届かなかった。

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