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世界征服、はじめました  作者: enforcer
悪の組織 最期の日
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悪の組織 最期の日 その11


 開放した笠原ウヅキが敵に回るのかどうか。 コレについては答えは出ない。


 ただ、下手に巻き込む事を良が嫌がったからか、地上に付くなり、少女はバスから降ろされていた。


 そのまま走り去る事も出来たが、忘れモノが一つ在る。


「おっと、そういや、コレ返しておくぞ」

「え?」


 そう言って、良が放ったのは、ウヅキの杖である。

 実際には、杖とは名ばかりで、その見た目は、飾り付け等に使われる紅白の派手な杖型の飴(キャンディケイン)に酷似していた。


 命と同義であるソレを、あっさりと返されたからか、少女は思わず、手の中の杖を握りながら顔を上げた。 


「ほんじゃ、じゃあな」

「あの」

「あん?」

「どうして……ですか?」

 

 ついさっきまで、戦い破れた筈が、拍子抜けする程簡単に放り出される。


「どうして返したかって?」


 良の声に、少女は頷いた。


「こんな海っぺりから、タクシーで帰ろうとしたら馬鹿にならねーぜ? ソレに、長々と乗せてたらウチの連中が何を言い出すか解ったもんじゃない」 


 取って付けた様な理由で在るが、解らないでもない。

 下手に乗せて置こうモノなら、大幹部達が何を仕出かすか怪しいモノである。

  

 逆に、杖さえ返せば魔法少女ならば飛んで帰れる。


「そんじゃ、今度こそサヨナラだな」


 そう言うと、良はバスへと乗り込む。

 そんな姿に、ウヅキは思わず足を一歩前に出し掛けた。


「……ぁ」


 何かを言いたくなるが、喉に引っ掛かり上手く出て来ない。


 走り去るバスから、少女は目を離せなかった。


 頭に浮かぶのは、もしかしたら、あのバスに乗っていたのは自分ではないか、という期待にも似た感覚。

 まかり間違えば、此処に立っていたのは川村愛ではないのかという疑問。


 事実、自分と同じ力を持つ愛だが、遠ざかるバスから降りる事は無かった。


   ✱


 遠ざかれば、ウヅキの姿は見えなくなる。

 だからか、愛はソッと顔を動かす。


「良いんですか?」

「何が?」


 聞き返してくる良に、何を問うべきか少女は迷う。


「ウヅキの事ですよ」

「お? 別に飛んで家に帰るぐらいは出来るだろ?」

「そうじゃなくて……」


 壮年の言葉だが、勿論の事、愛も聴いては居たが、全てが理解出来た訳では無い。


 敵ではない。 


 そう言われても【ハイそうですか】とは簡単には納得出来ない面が在った。


「川村さん」

「え? はい」

「あの子逃したのは、なんでだ?」


 良の問いに、愛は言葉を詰まらせる。

 その場の勢いだったと言えなくもないが、何か別の理由が無くもない。

 問われた通り、笠原卯月(ウヅキ)を開放をしたのは、他でもない川村愛である。


「解りません。 たぶん、篠原さんなら、そうしたのかなって」


 必死に頭を巡らす愛の声に、カンナがヒョイと座席の頭に自分の顎を乗せた。


「川村さんさぁ、解ってんじゃん」


 背中から掛けられる声に、愛は身体を撚る。


「どういう意味ですか?」


 聞き返す愛に、近くに座っているアナスタシアが口を開いた。  


「どうもこうも、そんな事は自分が一番良く知ってる筈だろう?」


 女幹部の声に、少女は頭を働かせる。 すると、ある事が頭に浮かんだ。

 かつて、川村愛もまた、篠原良へと挑んだ。


 そしてその際には、彼女はその場で死んでいてもおかしくは無かっただろう。

 

 もしそうして居たならば、この場に居たのは愛ではなく、開放したウヅキか、逃げたイオリだったかも知れない。


 そう、想像すると怖く成る。


 今までの全てが、この場に居ない二人の何方かに取られて居たかと思うと、寒々しい感覚に自らを抱いていた。


 ふと、愛の隣に座るリサが、その背を撫でる。


「大丈夫ですよ、愛さん」

「リサ。 でも、私……間違ったかも」


 ウヅキを開放したが、また次も襲って来ないという保証は無い。

 追い詰められ、仕方なく殊勝な態度を見せるという輩は少ないのだ。


 悩む少女の頭の上では、虎女が鼻をムーと鳴らして居た。


「別にいんじゃないの?」

「はい?」

「だぁからさぁ、次にまた来たら、そん時は許さなきゃ良いじゃない」


 あっけらかんとしたカンナに、愛はキョトンとさせられる。


「……でも」

「ちょっとぉ、あんたに似合わないよ? でもでもだって、なんてさ」


 わざとらしく茶化すカンナに、愛は、胸の内が軽くなる気がした。

 ふと、愛の前に旅行雑誌が現れる。


「ほら、くだらない事考える暇が在るんだったら、次の旅行先でも悩みなよ」


 言われて見れば、その通りと愛には思えた。

 ああだこうだと、頭の中で繰り返した所で何も変わらない。

 

 であれば、他の事に頭を回した方が余程に建設的と言える。


 雑誌を受け取る愛だが、内心全ての不安が拭えた訳ではなかった。

 そもそも、今乗っているバスは、旅行行きの為ではない。


 寧ろ、戦地に赴く為のモノである。


 その筈が、寧ろ悪の組織は飄々とした態度であった。


「ね、リサ」

「はい? なんです」

「怖くないの?」


 唐突な愛の質問に、リサは首を傾げる。 

 普段ならば、寧ろ不遜な態度を取るのは愛の方であった。


 そんな彼女が、何故急に不安に駆られているのか。

 少し考えれば答えは出せる。


 単純に、勝負し、ソレに負けたからである。

 気にするな、そう言う事は簡単かも知れないが、それで不安が拭えれば苦労は無い。


「そりゃあ、怖くない訳ないです。 でも……」

「でも?」

「みんなが、一緒に居てくれますから」


 リサにしても、全く不安が無いかと言えば嘘になる。

 ただ、独りで放り出される訳ではない。


 同じ志を持つ者達が、側に居てくれる。

 それで在れば、行く末がどうなるかが解らずとも、恐れは無くなる。


 リサの言葉は、愛にも通じる所が在った。


 魔法少女として、イオリやウヅキと三人で戦っていた頃は、ただひたすらにそうするしか無いからこそ、そうして居た。

 ソレはまるで、山の様に膨らんだ借金の返済に追われる様なモノである。


 必死に成って、返しても返しても、決して終わらない。

 

 そんな少女の重荷を、文字通り消し飛ばしたのは良である。


 日々を忘れる程の忙殺から、一気に開放された愛だが、戻った所で同級生達と馴染めない。


 常に言い様の無い疎外感を感じていた。


 それに耐え切れず、愛は悪の組織へと身を寄せている。

 名前こそ悪の組織を名乗っては居るが、其処は少女にとって居心地の良い場所と成っていた。


「そうだよね。 みんな、居てくれるし」


 しみじみと言う声を出すと、ポンと手を鳴らす。


「あ、そう言えば、何か食べてかない?」

「なんです? 急に」

「だってさ、お腹減ったんだもん」


 緊張感が緩むと、忘れて居たモノが思い出した様に首をもたげる。

 愛の中で起きたのは、腹の虫だ。


 魔法少女が何処からその力を生み出して居るかは兎も角も、基本的にその燃費は、御世辞にも宜しくはない。

 大型の作業用車両が、全開時は一分間に数十リットルの燃料を食う様に、膨大な熱量(カロリー)を必要として居た。


 急に自分を取り戻したらしい愛に、カンナがウンウンと頷く。


「そう来なきゃね、首領」


 カンナの声に、のそっと良が顔を見せる。


「お?」

「なんかさ、食べに行こうよ」


 そんな声に、組織の誰からも反論は無かった。


「まぁ、いっかぁ」

 

 良にしても、どうせなら何かを食べて置きたいと言う気持ちは在る。 

 戦の前の腹拵えか、或いは最後の晩餐成らぬ昼食か、何にせよ、気持ちは同じであった。


   ✱


 話が纏まったからか、悪の組織はとある場所へとやって来ていた。

 

「いらっしゃい、ませ……え~と?」

「すみませ〜ん、撮影の現場に弁当来なくなっちゃって、ちょっと目立つんですけど……大丈夫ですか?」

 

 悪の組織だが、ハッキリ言って超が付く程に目立ってしまう。

 首領の良を含めた数人は変身さえしなければ特に目立たないが、他の全員はほぼ全員が異様と言えた。


 其処で、良が取った言い訳は【特撮の悪役たちが飯を食べに来た】という(テイ)である。

 とはいえ、怪しい事この上ない。


 訝しむ店員に、良は説得を試みる。


「いやほら、特殊メイク取った方が良いんでしょうけども、またやるとなるとスッゲー時間取られちゃうんですよねぇ……でまぁ、何とか、お願いしますよ」


 何とか、部下達の異様さを誤魔化そうとする

 すると、店員も「はぁ、そうですか」と応えてくれた。


 普通ならば、通報案件とはいえ、キッチリ料金を払って貰えるならば、店としては問題無いと言えなくもない。

 些かどころかとてつもなく怪しいが、ソレはそれである。


「では、え~と……御案内します」

 

 若干渋々と言った店員だが、無理もなかった。

 何せ、悪の組織を案内した経験などが在ろう筈も無い。

 特殊メイクと言われれば、その通りかも知れないが、ヤケに一人が目立って居る。


「おん? なんや、ワテの顔になんか付いとります? あー、こん見た目でっけど、しゃあないんすわ、出るとなるとまぁた時間がようけ掛かりますんで」


 傍から見れば、どう見ても巨大な餅がそんな事を宣う。

 付いているどころの騒ぎではなく、そもそも人間なのかすら怪しいが、店員は首を横へと振っていた。


「いぇ、別に……」


 無銭飲食ならば犯罪かも知れないが、前金制の店舗ならば取りっ逸れるという心配は無用であった。

 寧ろ、淡々と仕事をこなすべきだと、店員は自分に言い聞かせる。

 

 こうして、多少の一悶着は在ったものの、悪の組織は全員が店の席に着くことが出来ていた。


 だが、全員が喜んでいるかと問われれば、そうでもない。

 一人腕を組んだまま唸るのは、女幹部である。


「どったの、アナスタシア?」

「いや、果たして、コレで良いのだろうか、と思っててな」


 そもそも表に出るべきではない悪の組織の筈が、なんと堂々と隠す事なく総出で飲食店に来てしまっている。

 その事に付いて、真面目な女幹部は頭を痛めていた。


「いんじゃない? 初の快挙でしょ? ご飯食べに来る悪の組織とか?」

「むぅぅ……しかしだな……コレでは、組織としての面子が……」


 気楽な虎女に、アナスタシアは何かを言いたくなるが、ソレは飲み込んで居た。

 彼女にしても、食べ物の誘惑は魅力的であった。


「メンツも何も後で良いからさ、それより、何頼む?」


 色気より食い気と言う言葉も在るが、この場に置いて、ソレは正しかった。

 

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