恐怖! 超人エックス出現! その9
「回りくどいのは苦手でね、率直に言わせて貰おう」
そう言うと、橋本は少女と目を合わせた。
「君のお父さんから、君を捜せという依頼を受けた」
橋本の発した【父親】という単語に、少女は目に見える形で反応を見せる。
一瞬、目を丸くしたかと思ったが、直ぐに目を伏せ唇を噛んだ。
単純に怒っているという訳ではないからか、怒鳴り散らすという事はない。
「……今更、何の用が在るの」
当惑しているのか、少女の声は僅かに震えを帯びていた。
とは言え、家庭内の事情など橋本は考慮していない。
「さぁね。 俺はただ、君を見付けて欲しいと頼まれただけさ。 で、いきなりで悪いんだが、同行して貰えるかな?」
餅田から能力を与えられては居るが、別にソレはそれである。
本人が自制を働かせれば、如何に超人とは言え普通に暮らす事は可能だろう。
改造人間の様に、全く違うという訳でもない。
餅田の話に信頼するならば、飲食以外の事も普通の人間とそう変わらないと言う。
だが、少女にしてみれば話は違った。
従うか従わないか、それを決めるのは本人である。
「何勝手な事言ってんの? 忙しいからって散々ほっといた癖に……今更戻って来て欲しいとか、父親面なんて見たくもない」
一見感情をブチ撒けて居る様に見えなくもない。
だが、それが虚勢である他人から見れば明らかであった。
フゥムと鼻を唸らせる橋本の肩を、良がポンと叩いた。
「篠原……」「橋本さん、ちょっと俺からも」
今までは黙っていたが、良が少し少女に歩み寄る。
「なぁ、たぶん色々在ったのは解るけど、其処までお父さん嫌いじゃないんだろ?」
「はぁ? 何わかったフリしてんの? 何にも知らないでしょうが」
段々と声を荒らげる少女だが、良は別に動じない。
何故ならば、少女の態度はキャンキャンと喚く子犬のソレであった。
自分を大きく見せようと、必死に毛を逆立て吠える。
しかしながら、今まで散々戦いを続けた良にしてみれば、それが威嚇とも思えない。
「そら知らないさ、君の名前だって知らないんだ。 でも、俺が聞きたいのはそうじゃなくてさ、実際はどうなのって所だよ」
「どうって……」
何かを言おうとしたのか、少女は言葉を飲み込む。
泳ぐ目から察するに、動揺は隠せていない。
「まだ戻れるだろ」
端的に、良は少女の立ち位置を示した。
「何が? 何処へ戻れっての?」
ムッとする少女に、先ずはと良は自分を指で指す。
「俺は、もう……戻れないんだ」
今度は、良は自分の立ち位置を示した。
次に、橋本と餅田も指で示す。
「橋本さんも、この人だってそうだ。 俺達はさ、もう戻れない所まで来てるんだ」
改造人間は、根本的に超人達とは違う。
脳以外の部分に関して言えば、全てが置き換えられていた。
その事に付いては、橋本も知っているからか腕を組んで目を瞑る。
超人達に能力を付与した餅田にしても、本人が原型を忘れている以上、元の姿には戻れない。
「でも、君は違うだろ?」
今のところ、少女は【少し普通とは違う】程度に留まっている。
本人さえその気になれば、普通に混じって暮らす事は難しい事ではない。
良の声に、少女の顔から力が抜けていた。
子分の変化に、餅田が動く。
「のう、エリー」
急に名で呼ばれたからか、少女が「マスター?」と声を漏らす。
「わては、おまんをチョイと変えてもうたかも知れん。 せやけど、こん人らの言う通りやで? おまん、まだ帰れるやろ」
餅田にしても、行き着く先であり、其処からは戻れない。
少女がまだ、自分で在る内に帰してやろうという気持ちは在った。
良と餅田の声に、少女は実に難しい顔を見せる。
何かを決めかねて居る様な迷い。
「……あ、わたし」
エリーと呼ばれた少女が、何かを言おうとした時。
その場へと少年が駆け込んで来た。
「マスター!! 大変です!」
「なんや、騒々しい、ちゃんと説明せぇ」
「変な奴等が来て、今、皆が相手してますけど……」
口調から察するに、余程慌てて居るらしい。
こうなると、良と橋本は顔を見合わせる。
「橋本っさん!」「おう、仕事は一時後回しだな!」
場慣れしているからか、二人はその場から駆け出していた。
*
狭い通路を抜け出し、開けた場所へ近付くのだが、音が届く。
それは、硬いモノ同士がぶつかる際に発する甲高さであった。
「跳弾? 誰だ?」
「んなことは後っすよ!」
邪魔さえ無ければ、起動動作を取るのは難しくは無い。
「「変身!!」」
ほぼ同時に、二人の改造人間が瞬く間に身を変えていた。
「あ! あんた達は!」
驚き戸惑う超人達を掻き分ける良と橋本。
『退け退け! 道を空けろ! 悪の首領のお通りだ!』
『なんだかなぁ』
別々の声を発しながら、バッと跳ぶ。
直ぐ後、重力は二人を地面へと一気に引っ張った。
ズシンと硬い筈の床を抉りつつ、着地をする二人。
直ぐに顔を上げて構えを取った。
『さぁて、どんな奴等だ……ん?』
良の顔を覆う兜から覗く目の光が、僅かに窄まる。
見えたのは、所謂警察官といった者達ではなかった。
ガスマスクらしきモノで顔を覆われ、表情は窺えない。
更に全身に光沢の無い真っ黒のジャンプスーツ。
端から見れば、まるで人型の昆虫の様である。
『んだよ、彼奴等は』
思わず、良がそう漏らした所で、黒い集団からの銃撃が止む。
そして、一団の中から一人がのそっと立ち上がった。
「これはこれは……悪名高き篠原良か」
そんな言葉から、良は相手側が誰なのかを悟る。
『なんだよ。 徹底的に潰してやったと思ってたが、まだ生き残って居やがったか』
掛かってくる以上、仕方なく敵対勢力は削いで来た。
久しく襲撃が無くなっていた事から、てっきり片付いたモノだと良は思っていたが、それはハズレであった。
『で? 今更お残りが何の用だ? まさか鉄砲持って来て置いて降伏もあんめぇ?』
軽口を叩く良だが、並みの携帯火器などは恐れるに足らない。
破壊不能の装甲を纏っている以上、小銃などは豆鉄砲でしかなかった。
良の声に対して、相手は鼻をフンと鳴らす。
「随分と余裕綽々だな? 気付いて居なかったか? 貴様がこの国へ入った時点で、貴様の通信は妨害させて貰ったぞ」
相手の言葉に、良は頭を掻いた。
兜に覆われている以上、意味は無いのだが癖である。
『あー、なるへそ? それで山ほど在った着信が無かった訳か……』
今更に成って、良は組織からの連絡が途絶えた理由を知った。
実際には怒られるのが怖くて連絡出来なかったとはこの場で言える事ではない。
ウーンと唸る良の横で、橋本が腕から針を出す。
『それで、どうすんだ? 銃を捨てて降伏すんなら今だぜ?』
以前であれば、敵の生死など感知して居なかったが、橋本にしても良と付き合う内に変わっていた。
降伏勧告は渡されたが、それに対しての返事は低い笑い声。
「降伏? そんな事をするつもりなら武装などする必要在るまい? 我々は、この場に居る超人エックスの回収が目的で来たのだ」
相手が目的を語るなり、良は『あー、そう』と漏らす。
『で? 出来ると想うのか?』
良がそう言うと、今まで弾を避ける為に物陰に居た超人達が動いた。
スッと瓦礫を飛び越える者も居れば、派手に全身を回転させながら降りてくる。
二人並ぶ改造人間に倣うように、超人達も姿を現した。
瞬く間に、彼等も腕を武器へと変える。
『さてさてと、止めるなら今だぜ?』
出来れば、戦いは避けたい良である。
無益な争いの為に、遙々やってきた訳ではない。
良の声に、隊長各らしき人物は軽く片腕を挙げた。
「どうやら超人エックスから能力を与えられたらしいが、そんな情報は此方も既に収集済みでな……ついでに、用済みでもある」
その声を合図に、ポンポンと変わった発射音がした。
緩い放物線を描いて撃ち出されたのは、飲み物の缶にも似ているが、勿論そうではない。
プシュッと音を立てながら、薄い煙を撒き散らす。
『あ? なんだこりゃ』
良と橋本からすれば、煙幕程度では動じない。
が、その割には煙は薄い。
次の瞬間、超人の一人が咳き込んだ。
「が……うぇ……」
胸を抑える反応に、橋本がハッとした様に顔を向ける。
『毒ガスか!?』
橋本の声に、隊長各はグローブに包まれた手をポンポンと打ち鳴らす。
「御明察、そいつらの事は既に把握済みだ」
如何にも勝ち誇る様な声に、良がブンと手を振った。
『お前ら! 下がってろ!』
改造人間ならば、例え毒ガスを撒かれてもどうという事もない。
しかしながら、超人達は違う。
如何に手足を変えたとしても、まだ彼等は人間の範疇であった。
覆面をしていても、専用のガスマスクとは違い気体は防げない。
並みの人間を超える筈の超人達は、あっという間に動けなく成っていた。
『相も変わらず……えげつねぇ真似しやがって』
忘れかけていた感情から、良が拳を強く握り込む。
その力があまりに強いからか、ギシリと軋む音がした。
「貴様の甘さも相も変わらずだ! おい! 片付けるぞ!」
そんな合図に、一斉に銃が向けられる。
『橋本さん! ソイツ等お願いします!』
それだけ言うと、良は敵へと突撃を仕掛ける。
残された橋本はと言えば『篠原!? あぁくそったれ!』と悪態を漏らしていた。




