表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世界征服、はじめました  作者: enforcer
恐怖! 超人エックス出現!
10/145

恐怖! 超人エックス出現! その8


「こん喋り方は、まぁ、しゃあないんすわ」


 笑っているのか、餅は揺れ動く。

 気さくな性格しているのか、声は重くはない。


「なんてったらええんでっしゃろなぁ、わて……中にいっぱい居てますねん」

「は?」


 どうにも掴み所がない。

 言葉をそのままに解釈するのであれば、餅は沢山居るという。

  

 とは言え、見えているのは一つだけであった。  


「いっぱいっても、あー……一人……にしか見えないんすけど?」


 果たして、【一つ】と呼称すべきか【一人】と数えるべきか。

 相手が何にせよ、モノ扱いは失礼当たると判断した良。


 問われた餅は悩む様に長く唸ると、僅かに伸びた。

 伸びたというよりも、弾力性が少し失われたが如く広がったという方が正しい。


「んまぁ、こないな見た目しとりますから、あんさんからはそう見えるんでっしゃろ?」


 見ている側からすれば、そんなもこんなもない。

 どう見ても、巨大な餅だろう。


「あんさんとちごうて、わての場合は、あんまり憶えとらんのですわ」


 いまいち要を得ない声に、良が腕を組んで首を傾げた。


「憶えてないって……何をっすか?」

「わて……あー、元が誰やっちゅう辺ですわ」


 そう言うと、餅がまた丸くなる。

 厳密に言えば、少しずつだがゆらゆらと蠢いていた。


「あんた、自分が誰なのか、忘れたのか?」


 何かを思ったのか、橋本が問う。

 ほぼ球体である体格故か、頷くという動作は餅には難しいのだろう。

 ただ、僅かに縦に身体を揺らしている。


「忘れたっちゅうか、何や次から次へと、新しい人間が仰山入って来ますねん。 だから、みんな最初は喚くんですわ、わー出してくれー……と。 せやけど、出してやりたくても出られへんって解って、段々とみんな混じってしもうて」

 

 のんびりとした口調から話される内容だが、想像すると悍ましい光景が見えた。


 如何なる製造過程を経たにせよ、目の前の餅を創るのに、大量の人間が使用されたという。

 更に言えば【出してくれ】という言葉から察するに、材料として使用された人間は生きたまま使われたという事であった。


 思わず、良と橋本は顔をしかめる。


 自分達もまた、望まぬままに改造されたのは記憶から失せては居ない。


「で、なんやかんやで今こうしとる訳ですわ」


 餅の言葉から察するに彼は何かをしている訳ではないという。

 とは言え、まだ問題が消えた訳ではない。


「でもさ、あんたの……子分って言って良いのかな? 彼奴等、ただの人間じゃないだろ?」


 かの超人達は、餅の事を【マスター】と称していた。 

 そうなると、彼等に力を与えたのは餅という事になる。


「あぁ、まぁ、わてがこんな見た目しとりますから、世話して貰わななりまへん。 こないに成っても腹は減るんです。 で、タダでどうこうしろっちゅう訳にもいきまへんし、其処でちょっぴりわての身体のをお裾分けしたんですわ」


 悪気は全く無いのか、餅はどうやってただの人間を超人へと変えたのかを語った。


 彼の語るやり方に嘘が無ければ、餅の一部を分け与えられた人間は、そのまま餅の能力を、受け継ぎ超人と化してしまうと言う。


 餅の声に、橋本がフウンと鼻を鳴らした。


「この前の騒動の時に、だいぶ色々在ったからな。 ソレでまぁ、ストリートチルドレンがごまんと出ちまった。 でもな、あんたの子分、外で窃盗団やってるの知ってるのか?」


 橋本の訝しむ声に、餅がブルンと揺れる。


「なんやて? どういう事でっか」


 どうにも口調のせいでボケた印象が在るが、声色は真剣である。

 

「知ってたんじゃないのか? あんたの子分達が、外で泥棒してるのは」

「いや、わて、このずうたいですから、殆ど外にゃ出ちゃ居りまへんでして……」


 シュンとする、という言葉が正しいのかは定かではないが、餅からすれば、子分達が外で何をしているのかを把握しきれて居ないのだろう。


「あんじょうやっとる……とは聴いちゃ居たんですが、まっさか、そないな事に手ぇ出しとるとは、わての落ち度ですわ」


 親分としての自覚は在るのか、餅は部下の行いを恥じているらしい。


「何でっしゃろ……こないな事を頼める義理じゃあないのはわぁってます。 せやけど、わてがお縄に成りますんで、子分は見逃して貰えまへんか?」


 浪花節なのかはともかくも、部下の身を案ずる餅である。

 意外な程に、親分らしさを垣間見せる餅。


 しかしながら、彼は一つ間違いをしていた。


 色々あって、良と橋本は、餅と邂逅かいこうを果たした。

 

 とは言え、別に二人は脱走者である餅を捕まえに来たわけではない。

 ましてや警察に頼まれて窃盗団の解散を示唆しに来た訳でもない。


「え? いや、俺ら別にあんたら捕まえに来た訳じゃないんだけど」


 餅の懇願に、良はそう答えた。

 普通の人間か、或いは改造された人間でも表情は変えられる。

 

 時には目は口ほどにモノを語るという程に。

 だが、餅の表面に顔らしい何かは見えず、表情は窺えない。


「へぇ、なら、何の為に来はったんです?」


 素直に疑問を呈する餅に、橋本がポケットから良にも見せた写真を取り出した。


「ほら、この子、あんたの子分に居るだろ」


 スッと差し出された写真に向かって、餅の一部がにゅっと伸びた。

 まるで誰かが凝視せんと顔を近付けて居るようでもある。

 

 眼球らしき部位は確認出来ない。

 それでも、確実に餅は写真を【見ている】らしかった。


 程なく、餅は元の形へと戻ると、長く溜め息らしき音を漏らす。

 厳密には呼吸しているのか怪しいが、一応はしているのだろう。


「あぁ、知っとります。 最近入った新入りですわ。 で、その娘っ子がなんでっか?」

「率直に言うと、この子は家出娘でな、捜してくれって頼まれてんだ」


 橋本が簡単に事情を説明すると、餅はハハァと音を漏らす。


「なんや、そないな事情があったんでっか。 あん子、親からいびられて逃げて来たって言ってたんですわ」


 情に絆されたのかは解らないが、餅は少女の話を鵜呑みにしていたのだろう。

 

「てか、あんた……なんか話辛いな、名前は?」


 いちいち【あんた】というのも失礼と感じたからか、良は餅に名を尋ねる。

 今のところ、超人達の【マスター】という呼称以外知らない。


 問われた餅だが、困った様に揺すった。


「あー、名前……しもた、なんて名乗ればえんでっしゃろ。 わて、実は名前は山ほど在りますねん」


 餅の話によれば、沢山の人間が使われたという。

 そして、今もなおその中ではその人達は溶けてこそ居るが生きているという。


 つまり、名乗る気ならば幾らでも名乗れる事になる。


「せやけど、参るなぁ……えっくす、なんてけったくそ悪いのも嫌ですねん」


 あれやこれやと考えるのが面倒くさいからか、良は一計を案じた。


「んじゃ、餅田って呼んでも良いっすかね?」


 思い付いたままに、良はそう言う。

 そんな声に対して橋本は「まんまじゃねぇか」と呟いていた。

 

 問われた餅だが、なんとも奇妙に動く。

 まるで見えない誰かが、文字通りに餅を捏ねている様に。

 

「んー、せやな。 確かにますたーってムズ痒い言われ方するよりも、マシでっしゃろ」


 当人からすれば、子分達の呼ぶ名はこそばゆいらしい。

 だからこそ、意外な程に嫌がる素振りは無かった。


「よっしゃ、ほんならわて……今から餅田、言わせて貰いますわ」


 そう言うと、餅の一部が伸びる。

 奇妙な話だが、伸びた部分の先はまるで人間の手の様に形を変えた。


 そうして変えた手が、パンパンと打ち鳴らされる。

 それは彼にとっての合図なのだろう。


 程なく、超人の一人が顔を見せる。


「マスター、何か?」


 覆面を取れば解るが、やはり若い少年。

 そんな彼に、餅田の片手が来い来いと手招きをしてみせる。


「お、この前入った新入り居るやろ? あん子連れて来て」

「はい、直ぐに」


 パッと出される指示に、少年は従う。

 その姿勢だが、嫌々という風情は窺えない。


「こう言っちゃ失礼なんだが、案外人望が在るみたいだな?」


 一匹狼を好む橋本にしてみれば、餅田は良に近い気質を感じていた。 

 

 それに対する餅田の反応はと言えば、僅かに色が変わった事だろう。

 頬を染めるという言葉も在るが、餅田の場合は全身の色が僅かに変わる。


「あ、いゃ、そないに言われると……」


 何となくではあるが、餅田は小刻みにプルプルと震えている様にも見える。

 恥ずかしがっている反応なのか、ソレは本人にしか解らない。


 程なく、足音が聞こえる。 音に反応したのか、餅田の色も戻っていた。

 

「あの、マスター? 何か用とか……」


 顔を見せるなり、少女は良と橋本の顔を見てか、驚きを隠さない。

 

「おぅ、とりあえず落ち着きーや、こん人ら、おまんに用が在るんやて」


 親分である餅田が居るからか、逃げ出しはしなかった。

 それでも、少女は一度、良と橋本に出逢っている。


 張り詰めた空気が場を漂うが、先に肩の力を抜いたのは橋本であった。


「……まぁ、初対面は最悪だったわな。 でも、別にお嬢さんを捕まえに来た訳じゃない」

「だったら何? 用はなんな訳?」


 つっけんどんな態度なのだが、ソレが脅えを隠す為なのは隠せて居ない。

 少女は我知らず、自分の胸ぐらの辺りをグッと掴んでいた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ