報道(上)
大変ご無沙汰しております。お楽しみいただけたら嬉しいです。
「お疲れ様です。はい、大丈夫です。え……明後日発売? ちなみに、相手は……?」
夜、ソファでのんびりしていたら陽葵ちゃんのスマホが鳴った。電話に出る前に見せてくれた画面には、陽葵ちゃんの専属マネージャーになった峰さんの名前が表示されていた。
「はい……? あー、そういうケースもあるんですか……はい。分かりました。私としては、全面的に賛成です」
陽葵ちゃんの声しか聴こえないけど、内容的には報道が出るっぽい……? 明日には先行でもう出るのかな。相手は誰だろうか……心配はしていないけど、複雑。
「美月、明日の朝一緒に事務所行こう。美月は撮影があるから朝早くなっちゃうけど」
「え? 私もってなんで?」
「私の熱愛報道が出るらしいんだけど、これ見て?」
電話を切った陽葵ちゃんが峰さんから送られてきた写真を見せてくれたけど、これは……
「え……? なんで?」
「ふふ、そうなるよね。熱愛中だし、一緒に住んでるし、全部の内容は分からないけど、ほぼ事実なんじゃないかなって」
「うわぁ、私との写真でこうなるのか……これって、男性に間違われたってことだよね? 確かにこの日の洋服は上下メンズだったけど……えぇ……」
「明日、どういう対応をするか相談しようって」
「分かった」
「ちなみに、一緒に住んでることは認めたらどうかって」
「え!?」
泊まりに来てましたっていうことにする訳じゃなくて?? それでいいの? 全面的に賛成、ってこのこと?
「私はもちろん賛成。まぁ、詳しくは明日にして、今日はもう寝よう。あ、これだけは言っておくけど、別れるのは絶対無理だから」
「うん」
私が頷くと、真剣な表情をしていた陽葵ちゃんがふわりと笑った。可愛いくて、かっこよくて頼もしい、私の恋人。
色々考えてしまって寝付けなかったけれど、私の腕を枕に眠る陽葵ちゃんをしばらく眺めていたら、いつの間にか眠っていて、朝早くに陽葵ちゃんに起こされた。
今日はどんな話し合いになるんだろうか……
「おはよう」
「「おはようございます」」
朝早く迎えに来てくれた峰さんの車で事務所に向かい、会議室で待っていたのはよく知る広報担当者のお姉さんやスタッフさんで、正面に私たちが座れば、ニヤリと笑うから嫌な予感がした。
「早速で悪いけど、時間もないし本題に。公表するのは、同居のみで良い?」
「経緯とか全部なしなんですね……まぁ、昨日峰さんから電話で聞いてますけど」
「陽葵、回りくどいのは嫌いでしょう?」
「そうですね」
「実際、世間的には仲のいい先輩後輩の同居って見るのが大半だろうし……一部を除き」
「賛成です。美月も大丈夫?」
「展開が早すぎて大丈夫じゃない……」
陽葵ちゃんはなんでそんなに余裕があるのか……事前に方針は聞いていたけど、まだ到着して5分も経ってないよ……?
「私としては、この機会に一緒に住んでることは公表したいな。相当心配させちゃうと思うし、ファンの人達、よく見てるから、隠しても時間の問題の気もするし。それに、公表すれば、事務所からじゃなくて家からの配信もできるしね。夜遅い配信とか、今事務所からで大変でしょ? 美月の許可が貰えれば、具体的なことを相談したいんだけど、進めてもいい?」
私と陽葵ちゃんが一緒に住んでるって公表したら、実際、陽葵ちゃんのファンの人達で否定的な人は結構いると思うんだよね……陽葵ちゃんが思っている以上にファンの人たちの熱量が凄いから。でも、こうして記事が出てしまうのが分かっていて否定するのは嫌だった。
「うん。……私もなにか出来ますか?」
「これから考えよう」
陽葵ちゃんに了承の意味を込めて頷いて、広報担当者やスタッフさんに問いかければ、皆笑顔で頷いてくれた。
*****
陽葵視点
「よし、出来た」
「うわ、すごっ! 時間がかかるとは言われたけど、こんな風になってるとは」
いつも通りにヘアメイクをみくさんが担当してくれて、こんな感じ、と後ろの編み込みを鏡越しに見せてくれた。
「2着目の時にはまた変えるから」
「え、これほどいちゃうの? もったいない」
「それは後のお楽しみってことで」
みくさんに任せておけばいつも間違いないから、どんな風になるのか楽しみ。
「予定より早めに終わったから、少し待ってて」
「りょーかいです」
今日はこれからファンクラブ用の広報誌の撮影で、合間に報道についての生配信をすることになっている。撮影の進み具合によって時間が読めないから、ゲリラ配信の予定。美月側との連絡はマネージャーさん同士で対応してくれる事になっていて、事務所側もサポートしてくれるから有難い。
昨日、事務所でスタッフさんと美月と話しながら、どんな風に進めるか流れを確認した。美月は何も出来ない、と不満げにしていたけれど、存在が支えになっているから何も気にすることなんてないのに。
峰さんからの電話で私の熱愛報道が出る、と聞いた時には心当たりが全くなくて、打ち合わせ中にスタッフさんといる所を撮られたか、バンドメンバーの誰かかな、と思っていた。まずは、不安そうにしている美月に誤解だと説明をして……と考えていたけれど、峰さんからの言葉が一瞬理解出来なかった。
『相手がさ、スタッフ総意で美月なんだわ。後から写真送るから見てみて』
困惑気味の峰さんから発せられた言葉に、私も困惑を隠せなかった。
「はい……?」
『まぁ、そうなるよな。夜だし、後ろ姿だけだから美月だって分からなかったんだろうって意見が大半』
「あー、そういうケースもあるんですか……」
『とりあえず、明日の朝、美月も一緒に事務所な。迎えに行くから』
「はい。分かりました」
『そうだ。先に伝えておくと、事務所の方針としては、同居は公表していい。否定するより、事実を伝えた方がいいとの判断で一致してる』
「私としては、全面的に賛成です」
『うん。じゃあ、また明日』
電話を切って美月に伝えれば、私もこんな顔だったのかな、と思うように困惑しているけど、私の意思はしっかり伝えておいた。不安になって、相応しくない、とか言い出しそうだから。
気をつけてはいるけど、配信での背景とか、映り込みで気づかれる時が来るんじゃないかと思っていたから、いいタイミングだったのかもしれない。
事務所の方針も、私のことをよく分かってくれている判断で有難い。私から伝えていない事務所のスタッフさん達も、大半が私たちの関係に気がついてるし、一緒に住むことになった時もちゃんと報告しているから、それ自体が問題になることは無いし、ファンのみんなにきちんと説明が出来れば大丈夫かな……
攻撃的なメッセージを送ってくる人もいるから、しっかり美月を守らないとね。




