憧れの人~その頃美南は~
美南視点
『美南さん、ひまみつさんが尊いです……』
『完全に同意!!』
花音ちゃんからメッセージが届き、開いてみればそこに表示されたのは私を魅了してやまない2人組の通称。
花音ちゃんもカプオタの素質があるな、と全力でこっち側に引き込んだ。後悔はしていない。
『プロデュース公演のレッスン日なんですが、今楽屋にひまみつさんと私の3人で……』
『なんて羨ましい空間!! え、なんで陽葵さん?』
『急に撮影が無くなったらしいです。で、レッスンを見てくれるって……美月さんがレッスン着を貸そうとしたのか、バッグを開けたら入れた覚えのない陽葵さんのライブTシャツが入っていたとか……夜は無かったって言ってて、これ、お泊まりですよね!?』
『なにそれ尊い……続報よろしく!』
『任せてください!!』
あぁ、言いたい。お泊まりじゃなくて、もう一緒に住んでるんだよ、って。2人は付き合ってるんだよ、って。でもこれは言えないんだ。ごめんよ、花音ちゃん。
陽葵さんが卒業されてから、2人を目にする機会は少なくなってしまったのが悲しい。美月さんは恥ずかしがってあまり供給してくれないし……
その分、陽葵さんからの供給で生かされています。この前の夜の投稿は妄想が広がって仕方がなかった。あんな時間に、明らかに自撮りじゃない写真を投稿するなんて……匂わせ最高!! ひまみつファンは、相手は美月さんだろう、と疑っていなくてニヤニヤしながら投稿を眺めて、気づけば夜中だった。うん。そんな日もあるよね。
「美南、写真でも見てるの? もうすぐ休憩終わるよ」
スマホを握りしめてニヤニヤする私に、またか、と言うように望実が聞いてくる。
「写真じゃないんだなー」
「じゃあ、動画?」
「動画でもないんだなー。知りたい? 知りたい?」
「え、うざ……」
冷ややかな目で見られた……酷い。
これを聞けば、望実だってテンション上がること間違いないんだよ?
「花音ちゃんから供給があって」
「花音ちゃんから? なんで?」
「プロデュース公演のレッスンに陽葵さんが来てるんだって」
「え!? 美月さんだけじゃないっけ?」
「急にスケジュールが空いたとかで、呼んでくれたんだって! 今花音ちゃんと陽葵さんと美月さんの3人だけらしい」
「うわぁ、花音ちゃん大丈夫かな? 憧れの陽葵さんとの初対面じゃない?」
「うん。早速イチャイチャを目撃してるみたい」
「今の子達は耐性ないからなぁ……」
羨ましい、が先行してそんなこと考えてもいなかった。確かに、最初に目撃するには刺激が強いかもしれない。早く続報来ないかなぁ……
「美南、行くよ」
「いや、もうちょっとだけ! 続報来るかもしれないし!」
「そんなすぐ来ないでしょ。いいから、早く」
今日が休みの日だったら良かったのに……!
『陽葵さんのダンスが神でした……こんなに近くで見られるなんて、グループに入って良かったです!!』
『少し動画確認しただけで完璧で……ブランクがあるなんて信じられません』
休憩時間に急いで戻ってスマホを見れば、待ち望んでいたメッセージが並んでいた。
憧れの人のダンスを見られた喜びが溢れていて、スクロールしていくと続報が書かれていた。
『間奏で陽葵さんが美月さんの肩を抱き寄せていて……! 美月さんは凄くびっくりした顔で陽葵さんを見て……陽葵さんがめちゃくちゃ優しく微笑んで、こっちが照れました……なんですか? あの空気。画面越しでも凄いのに、その場にいるともう……』
あぁ、尊い……陽葵さんが美月さんを見る目は凄く優しくて、幸せそうに笑うんだよね。それを近くで見られた環境がどれだけ幸せだったか……
『美南さん!! 美南さん!! 陽葵さんが、牽制って!!』
『牽制??』
『あ、すみません休憩終わりなのでまた後で送ります!』
え、ここで!? 牽制って何?? 美月さんに手を出すな、って? 新人に対抗心剥き出しだったの? 誰かが美月さんにベタベタしたの?? 一体何が??
休憩時間のズレが悔しい。
「ねぇ、望実。なんで私はプロデュース公演出られないのかな?」
「……3期生だからね」
なんで6期生限定なんですか!? 今度陽葵さんにグループの方にも来てください、ってお願いしよう。
「はぁぁ……尊い……好き……」
撮影が終わって、待ち望んでいた内容は素晴らしかった。
私に続報を届けようと近くに位置どったなんて、いい仕事をしてくれる。
陽葵さんと美月さんの温度差もいい。バレてもいい、むしろライバルを減らす、位の勢いの陽葵さんに、恥ずかしいから聞かれない限り隠したい美月さん。最高かよ……何でも出来る陽葵さんが、美月さんの事になると余裕が無い感じなのが堪らないです……
美月さんが彼氏ポジションかと思いきや、ねぇ? ふふふ……
「ぁぁ、ひまみつが好きすぎて辛い……」
「美南、顔やばいよ? 一応、私たちアイドルよ?」
「望実は何だかんだ落ち着いてるよねぇ」
「そりゃ、美南と比べたら誰だって落ち着いてるでしょ。美南は表に出しすぎなの」
「好きだから仕方がないよね」
「まぁ、美南はね。もうみんな知ってるから今更か」
なんか呆れられたけど、いいんだ。花音ちゃんみたいにこっち側に引き込める子が増えるかもしれないし?
『美南さん!! 陽葵さんと美月さんが楽屋に入ってきたんですけど、多分気づかれてなくて、どうしましょう!?』
『え、何その美味しいシチュエーション!! 覗こう!!』
『無理ですよ!!』
『じゃあ、堂々と出る?』
『それも無理です!! 陽葵さんが、美月さんの優しいところが好き、って! 好き、って!!』
花音ちゃん、もう完璧に沼だね。この調子でもっと布教していこう。
「これからも積極的にひまみつの魅力を伝えていくのが私の使命なんだ……!」
「……いつか美月さんに怒られるからね?」
「……それは困る。美月さんに気づかれないように、水面下で広げれば良いってことね? 」
美月さんが供給してくれなくなっちゃうかもしれないし。
「いや、そういうことでもないけど……」
「でもさ、私がこうやって騒ぐ方がいいと思うんだよね。付き合ってる、って噂されてても、これだけ近しいメンバーが推してるって公認って感じじゃない? 実際に運営も推してたし公認だけども! 2人のキスシーンとかMVに入れちゃうくらいだし? 絶対運営にもひまみつ推しいるよね。これで否定してたら営業って思われたりとか、余計怪しいじゃん?」
「うん。で、本音は?」
「趣味!! 百合って尊い……!」
陽葵さんも美月さんも大好きだから、末永く幸せでいて欲しい。
世間には認めない人も沢山いるかもしれないけど、2人の幸せを願う人だってそれ以上にいるから。
『陽葵さん、グループの方にはいつ来てくれるんですか!?』
『あ、花音ちゃんから聞いた?』
『聞きました!! 』
『昔の美南ちゃんを見てるみたいだったよ』
『昔の私ですか?』
『うん。バレないように、って息を潜めてる感じが可愛くてちょっとサービスしちゃった。今は美南ちゃん隠さないじゃん?』
『あー、陽葵さん異常な程周り見てますもんねぇ』
『ふふ、ありがとう』
花音ちゃん、陽葵さんにバレバレだったらしいよ。
美月さんは多分それどころじゃなくて気づいてないと思うけど。きっと、そんな美月さんを可愛いなぁ、って見てたんだろうな。想像つく。
もし美月さんが気づいたとしても、怒る美月さんすら可愛いんだろう。陽葵さん、恐るべし……




