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アイドルの恋愛事情~アイドルカップルの日常~  作者:
番外編

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憧れの人

 新メンバー視点


「おはようございま……え? えっ!?」

「早いんだね。おはよう。お邪魔してます」

「あっ、おはようございます!」


 部屋間違えた?

 まず思ったのが、それだった。


 ドアを開けたまま確認したけれど、いつもと同じ場所。うん。部屋は合ってる。


 かなり早めに着いてしまったから一番乗りだな、と思ったけれど、一応ノックをすれば返事があって、私より早く来た人がいたんだなぁ、なんて呑気に考えてドアを開けた。

 中に居たのは、ここに居るはずの無い、元キャプテンの工藤陽葵さん。私の憧れの人。


 なんで?? 憧れの人が楽屋にいたらどんな反応をするかのドッキリとか??


「どうぞ、入って」

「あ、失礼します……」

「そんなに緊張しないで」

「はっ、はい!」


 私がグループに入った時には既に卒業されていたから、陽葵さんとお会いするのは今日が初めて。

 同期の中では、音楽番組で声をかけて貰えたり、その後の食事会に陽葵さんも合流されて、少し話せたメンバーもいて羨ましかった。なんで私はその日の見学組じゃなかったのか、としばらく落ち込んだ。

 画面越しでしか見たことがなかった憧れの人が近くにいる状況に、どうしたらいいのか分からない。


花音(かのん)ちゃん、グループ活動はもう慣れた?」

「えっ、名前」

「あれ、ごめん間違った?」

「いえ、合ってます! 知ってくれてたんだな、と」

「知ってるよ。この前のライブでMC参加してたよね。配信で見たよ」

「うわ……嬉しいです」


 まさか知っていてもらえるなんて。ライブを見てくれた、って事は私が憧れの人、って言っていたのも見ていてくれたのかな、なんて思ったら急に恥ずかしくなった。


 コンコン


「あ、美月かな。はーい」

「陽葵ちゃんお待た、せ……あれ、花音ちゃん早いね」

「美月さん、お疲れ様です!」

「お疲れ様。ごめんね、陽葵ちゃんが居て驚いたでしょ」

「驚きました……」


 ドアを開けた美月さんが、私を見て驚いた表情をして、申し訳なさそうに謝ってくれた。


「今日のレッスンだけど、陽葵ちゃんも見てくれるから。急に撮影が無くなって時間が空いたらしいからお願いしてみたら来てくれた」

「え!?」

「陽葵ちゃん、ダンス物凄く上手いから絶対勉強になるよ。みんなは陽葵ちゃんと被ってないから、陽葵ちゃんのダンスを1回生で見せてあげたいな、って思ってて」

「うわ、嬉しいです……!」


 6期生で美月さんプロデュースの公演に出させてもらうことになって、毎日レッスンをしていて、今日は美月さんが来てくれる日。


 ダンスの先生も忙しいから、基本は映像を見ながら振り起こしをしているけれど、まだ慣れなくて時間がかかっていたから、直接教えて貰えるって言うのは凄く嬉しい。しかも今日は陽葵さんからも教えて貰えるとか……早く他のメンバーにも教えてあげたいな。



「陽葵ちゃん……レッスン着、入れた覚えがないのが入ってる」

「え? どれ? あ、私のライブTシャツじゃんー」

「絶対入れたでしょ」

「えー? 美月が入れたんじゃん? 私のことが好きだからってー」

「入れてませんー! 昨日の夜はありませんでしたー」


 なにこれ、可愛すぎませんか……これが噂の……美南さんはどこですか!? 後で伝えなければ……いや、今メッセージ送ろう。


『美南さん、ひまみつさんが尊いです……』

『完全に同意!!』


 返事はや!


『プロデュース公演のレッスン日なんですが、今楽屋にひまみつさんと私の3人で……』

『なんて羨ましい空間!! え、なんで陽葵さん?』

『急に撮影が無くなったらしいです。で、レッスンを見てくれるって……美月さんがレッスン着を貸そうとしたのか、バッグを開けたら入れた覚えのない陽葵さんのライブTシャツが入っていたとか……夜は無かったって言ってて、これ、お泊まりですよね!?』


 この前のライブの夜もきっとお泊まりだったと思ってる。あんなに可愛い陽葵さんを撮れるのは美月さんしかいない、というのがファンの総意だと思うんだ。

 寝ようとした時に投稿されて、あの後しばらく寝れなくなったのは記憶に新しい。


『なにそれ尊い……続報よろしく!』

『任せてください!!』


 コンコン


「「はーい」」


 いい仕事した、と1人満足していると、ノックが聞こえて、ひまみつさんの返答が重なった。


「おはようございま……え!?」

「ちょっといきなり止まらないで……え??」

「え、何??」


 何人かまとまって来たみたいで、ドアは開いたけれど入ってこない。うん。気持ちは分かる。


「楽屋は合ってるよー」

「花音! え、なんで陽葵さん??」

「そうなるよね。まぁ、入って入って」


 楽屋に入ってきたものの、困惑する同期たち。美月さんと陽葵さんに挨拶したいけどどうしよう、というのが伝わってくる。

 2人を見れば、ライブTシャツをどっちが着るか、と言う話題みたいだけれど、イチャついているようにしか見えない。ありがとうございます。

 私としては、どっちが着ても尊いことに変わりはない。


 私も今日陽葵さんのライブTシャツだし、私のを着ていただいて、お2人お揃い、というのもいいのでは、なんて思ってしまった。



「陽葵さんのスケジュールが急に空いたらしくて、途中までレッスン見てくれるって」

「え、本当!?」

「うわ、すご……頑張らなきゃ」


 状況が理解出来たのか喜ぶ同期と共に、しっかり勉強させてもらおう、と気合を入れた。



「時間も限られてる事だし、早速始めますか。まず、前半部分を今覚えてるところまで踊ってもらおうかな。陽葵ちゃんも後で見本見せてもらえる?」

「うん。分かった」


 お互い信頼してるんだろうな、ってやりとりに自然とニヤニヤしてしまう。結局、Tシャツは美月さんが着ていて、それを嬉しそうに見ている陽葵さんが可愛い。この2人は本当に尊い……



「うん、みんな大体は覚えてるね。1回見てもらおうかと思うんだけど、陽葵ちゃん、覚えてる?」

「んー、ちょっと記憶が……って曲があったから少し時間貰える?」

「分かった。じゃあ、陽葵ちゃんが思い出している間は個別で見ていこうかな」


 それぞれ苦手なところを美月さんが回って教えてくれている。私の所はまだ時間がありそうだったから陽葵さんを見れば、真剣な表情で映像を確認していて、たまに手が動いたり、思い出すように頷いていた。


 陽葵さんに憧れてグループに入ったけれど、もう卒業されていたし、実際にライブに行ったことも、イベントに行ったことも無いファンだったから、こうして同じ空間にいられるのが未だに信じられない。


 ダンスの先生たちも、先輩たちも陽葵さんは凄い、って口を揃えて言っていて、過去のライブ映像も沢山見た。

 指先まで綺麗で、あんな風に踊りたいな、と目標にしている。


「美月、もういいよ」

「お、本当? じゃあ、前で見本お願いします」

「え? 美月も踊るんでしょ?」

「陽葵ちゃんだけでいいかなって思ってたけど……私のは見慣れてるだろうし」

「交差するところもあるし、2人の方がいいと思うよ」

「あー、それもそうか。待って、簡単に動き確認させて。私左側でいい?」

「うん」


 2人で簡単に話をして、頷きあっていた。陽葵さんが在籍していた時はこんな日常だったのかな……いいなぁ。


 ブランクなんて感じさせないくらいバチバチに踊る陽葵さんがカッコよすぎて声も出なかった。美月さんと位置を変えるタイミングもバッチリで、あんな簡単な話だけで対応出来るなんて、お2人が積み重ねてきた歴史を見た気がした。


 間奏のフリーパートは、陽葵さんが美月さんの顔をのぞき込むような仕草だったり、肩を抱き寄せたり、昔の公演映像で見たようなイチャイチャで悶えてしまったけれど、押し殺したような悲鳴が聞こえたから、きっと私だけじゃない。

 美月さんが嫌そうにするのも照れ隠しだって分かってるから、目の前で見れた、と感動してしまった。



「ちょっと、間奏のあれ、何!?」


 踊り終えて、水分補給をしながら美月さんが陽葵さんを睨んでいる。声を潜めているけれど、少しでも近くで見たいというオタク心と、美南さんに報告せねば、と思って同期の誰よりも近くに居たから聞こえてきた。

 これは、すぐに美南さんに続報を届けなくては……!


「ファンサービスの見本?」

「そういうのいいんで」

「ファンはそういうのが見たいんだって。メインで踊ってる後ろでのイチャイチャって需要あるんだよ? 美月だって分かってるでしょ?」


 私に向けてじゃないけれど、聞こえてくる声に全力で頷いていた。お2人のイチャイチャとか、需要しかないです。


「分かってるけど、ここでやる必要あった……? 無いよね? 絶対無かったと思う」

「あるよ」

「一応聞くけど、なんで?」

「私が嬉しい」

「……そんな事だろうと思った」

「まぁ、あとは牽制?」


 牽制!? え、私たち相手に、ってことですか?? やばぁ……


「この前も言ったけど、その心配は無いから大丈夫だよ」

「美月としては大丈夫でも、無自覚にイケメンなことするから必要なの。この前のライブでも落としにいってたもんね」

「違うって。ちゃんと説明したじゃん。そういう対象じゃないし、落とすつもりなんてないよ」

「まぁ、しっかりお仕置きしたし、ね。さ、そろそろ再開しようか」


 お、しお、き……? やばい、鼻血出てない? 美南さんへの続報は途中だったけれど、再開するのでまた後で送ります! と慌てて打ち、スマホを閉まった。

 これはもう、お付き合いしているということで宜しいですか?


「もっとここをゆっくり見たい、とかあったかな?」


 美月さんの言葉に、それぞれ気になることを伝えて、個別で指導をしてもらった。魅せ方とか、凄く勉強になる。自分ができるか、はまた別問題だけれど……



 陽葵さんが帰るってことで休憩になって、追加の飲み物を取りに楽屋に入った。さっきの続きを送ろう、と仕切られたスペースに置いてある椅子に座ってスマホを開く。

 美南さんからは、テンションの高い返信が届いていて、続きを待ち望んでいるメッセージが並んでいた。先輩、暇なんですか??


 ガチャ


「陽葵ちゃん、今日はありがとう」

「ううん。久しぶりに踊って楽しかった。また来たいな。汗やば……これ持って帰るわ」

「私のバッグに入れておいてくれていいのに。袋ないでしょ?」

「あー、無いな」

「外ポケットに袋入ってるから」

「ん。ありがとう」


 2人が入ってきたけれど、ちょうど死角になっていて気づかれていないっぽくて完全に挨拶のタイミングを逃してしまった。


「あ、そうだ。クッキー買っておいたよ。撮影の合間にでも食べて?」

「ほんと? さすがみつきたんー!」

「ちょっと、服着て……それに私まだ着替えて無いから離れて」

「気にしないのに」

「私が気にするの」


 見たい……物凄く見たい。抱きついた感じですか??


「あ、これ気になってたやつ」

「前食べたいって言ってたやつだよね? 来てくれるって返事くれた時コンビニだったから」

「そういう優しいところほんと好き」

「ハードル低っ」

「照れてんの? かわいー」

「汗すごいから触るのもダメだって」

「そんなの今更気にしない」

「陽葵ちゃん、ここ楽屋だから。誰が来るか分からないから、ね?」


 すみません、もう居ます……声しか聞こえないですが、触ってるんですか? え、どこを? 妄想がやばいのですが……

 美月さん、楽屋じゃなかったら触られてもOKってことでいいですか?


「残念。さて、じゃあ撮影行きますかね」

「行ってらっしゃい。頑張ってね」

「ん。美月もね」

「途中まで送る」

「ふふ、やさしー」


 パタン


 ひまみつさん、本当にやばいな……

 美南さんから沢山聞いていたけれど、実際に見ると2人の空気感が、なんかもう、甘い。


 一緒に活動していた先輩方にとっては慣れているのかもしれないけれど、耐性のない私には刺激が強かった。

 レッスンに戻った時、美月さんのこと見れるかな……ちょっと気持ちを落ち着けてから戻ることにしよう。

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★新作もよろしくお願い致します★
黒狼と銀狼
― 新着の感想 ―
[良い点] 91/91 ・お久しぶりの尊い。 [気になる点] 甘い、のか。甘い、そうか甘いのか。甘
[良い点] ひまみつ信徒花音ちゃん もう美南ちゃんに教育されてる!てか手先? スマホの向こうで興奮する美南ちゃんがヤバイw 例の入浴剤写真で寝れなくなった被害者がいたw 美月の予想は誰が撮った?だっ…
[良い点] こういう他の人の視点で見るふたりの話大好きです、かわいい、もっといちゃいちゃしてほしい!
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