9.鑑賞会②
美南視点
今日は柚葉さんと美月さんと望実と4人の仕事で、予定より早く終わったから美月さんの家にお邪魔することになった。
まさか美月さんの家にお邪魔することになるなんて!! 陽葵さんも頻繁に来ているみたいだし、もしかして陽葵さんにも会えたりして?! まあ、そんな都合のいいことは無いか。
陽葵さんは同じグループとはいえ、個人でのお仕事が多いからMV撮影とかコンサートの期間とかでないとなかなか会う機会がなかったりする。
「美月の家に来るの久しぶりな気がする!」
「引っ越してすぐくらいは頻繁に来てたけど最近は来てないもんね」
「陽葵さんはよく来てるんでしょ?」
陽葵さん!! と反応すると私だけじゃなくて望実も身を乗り出していた。ヲタクですみません。
「前に陽葵さんが言ってましたけど、オフの時はほとんど一緒にいるんですか??」
「2人ともオフの時はそうかな」
コラボ配信の時に陽葵さんが言ってたけど、お互いの家を行き来してるんだもんね。陽葵さんの物も置いてあったりするのかな? きっとイチャイチャしてるんだろうな。
MV撮影の時に会話を聞く限り、付き合ってるのは確実だと思う。本人たちから明確な関係を聞いた訳じゃないけれど。つい証拠探しじゃないけれどキョロキョロしてしまった。
「やばい!! なんか想像したらテンション上がって来ました! まさか美月さんのお家にお邪魔できるなんて思ってなかったので」
「大袈裟。いつでも来て? さっき買ってきた飲み物は冷蔵庫に入れたから飲みたい時に取ってね」
私の言葉に、テンション高いなー、なんて笑いながらいつでもなんて言ってくれたけれど、本当に来ちゃいますよ? いつかお2人一緒の時に、部屋の隅から見ていたいくらい。
「はーい。早速開けるよー。……ねえ、美月ってビール飲めたっけ?」
柚葉さんが早速キッチンに向かって、冷蔵庫を開けている。そう聞くって事は美月さんってビール飲めないのかな?
「飲めないー!」
「だよね? それなのにビールありすぎじゃない?!」
え、飲めないのになんでビール? しかも結構本数ありそう。
「ああ。それ陽葵ちゃんの」
陽葵さんの?! 何かあるかなと思ってたらまさかのビール!!
「え、陽葵さんビール飲むんですか?!」
望実の驚いたような声が聞こえたけれど、不意打ちに動揺しすぎて話に混ざる余裕がなかった。
「飲むよー! 結構強い方なんじゃないかな?」
「意外です!!」
陽葵さんお酒強いんだ……ビールを飲む陽葵さんも絶対かっこいい。酔った陽葵さんが美月さんに……ってダメだ、妄想が止まらない。
「私もなにか飲んで落ち着きたいのでちょっと行ってきます」
ここにいたら危険な妄想が止まらないので柚葉さんのところに避難しよう。
「お、美南ちゃんもなにか飲む?」
「はい。何がありましたっけ?」
「結構色々買ってきたよ。お茶にジュースに栄養ドリンク」
「なぜ栄養ドリンク」
「疲れてるかなって?」
無難にお茶にしようかな。柚葉さんはジュースにするみたい。
「私はお茶にします。柚葉さんはジュースですか?」
「うん。コップが必要だよね。美月ー、コップ借りていい?」
「上の棚開けると入ってるから適当に使ってー」
柚葉さんが美月さんに声をかけると、戸棚を開けていいとの許可が出た。
「えっ……これ……!!」
柚葉さんが開けると、まず目に入ったのがお揃いのマグカップ。お揃いですよ?? お互いの家にひとつずつじゃなくて、美月さんの家に2つ。
「え、これってきっと陽葵さんのだよね?」
「そうだと思います……」
「お揃いで買ったとしても自分の家で使うよね?」
柚葉さんも同じことを思ったみたいで、お揃いのマグカップ以外のコップを2つ取って1つを渡してくれ、何かを考えている。
「コップ分からなかった? って見つかってるじゃん」
遅かったのか、美月さんと望実が様子を見に来て不思議そうにしている。
「ねえ、このマグカップって誰の?」
柚葉さん?! 聞いちゃうんですか?!
「えっと……陽葵ちゃんの」
そう照れたように言う美月さんが可愛すぎて……!!
「ねえ、聞いていいのか分からないんだけど、実際陽葵さんとどうなってるの?」
柚葉さんー?! それも聞いちゃうんですね?! とはいえ、きっと隠しますよね。
「多分みんな気づいてたと思うけど、付き合ってるよ」
そうそう、付き合って……る?? ない、じゃなくて、る?? 教えて貰っちゃっていいんですか?!
「やっぱりかー!」
「……!! え、私たち聞いて大丈夫でした?」
望実が心配そうに聞いているけれど、ちょっといっぱいいっぱいでどうしたらいいか分かりません!!
そうだったらいいな、と思ってた2人が本当に付き合ってるなんてそんなことあります?! しかも本人から教えて貰えるなんて……!!
「柚葉さん、この前のドッキリ企画で、2人のこと普通に付き合っちゃえよって言ってましたもんね」
興奮しすぎていたら話題がこの前の楽屋隠し撮りの話になっていた。
「それ!! 私家で見て叫びましたよ!! なんですかあの神回?!」
「え、柚そんなこと言ってたの?」
美月さんまだ見てないんですね? 私なんて何回みたか分かりませんよ?
「美月さん見てないんですか? 柚葉さん実況しながら心の声ダダ漏れでしたよ」
「もうね、抑えきれなくて」
「私もその放送回出たかったです!」
なんで私は呼ばれてないんですか?! 生で見たかったのに……
「2人の関係を知った今もう1回見たいな。鑑賞会しようって言ってたもんね」
柚葉さんナイスです!! 付き合ってるんだろうなって想像で見てもあれだけ素晴らしかったからね。
「それ分かります!!」
「今見ちゃう?」
「いいですね!!」
美月さんがものすごく嫌そうにしているけれど、もう柚葉さんはスマホを取り出してログインしている。
「え?! やめようよ?!」
美月さん、もう始まってます。美月さんは離れたところに座ったので3人でスマホを覗き込む。画面が小さいけれど、この際気にしない。
「あーー!! もうなんなんですかこの可愛さ?!」
美月さんを背中から抱きしめて覗き込む陽葵さんと、当然のように受け入れる美月さん。……尊い。
「楽屋でもよく見かけるけど、もう隠す気ないよね?」
柚葉さん、本音出てますよ。カメラがあるところだけならファンサービスだなって思うけれど、陽葵さんはカメラの有無関係なしに甘えてますもんね。
「あ、美月さんの寝顔のやつ」
これね、私と望実が興奮しすぎていてやばかったって言われたけど落ち着いてられます? あんなに安心したように眠る美月さんと、それを愛おしそうに見つめる陽葵さんなんて……ほんとご馳走様です。
「この膝枕はやばかったわ。美月のおいで、にメンバーが沸いたもんね」
「柚葉さんずるいですよ!! モニター用のカメラ映像はなんで放送されないんですか?! 私も見たかったです!! 声しか聞こえないんですもん……」
このシーンは実況側だけが映っていて、2人は声だけだった。残念すぎる。
突撃した時に膝枕は見られたけれど、せっかくなら通しで見たかった。不満はそこくらいで、素晴らしい企画なことは間違いない。定期的にやってもらいたい。
見終わって美月さんを見ると、雑誌を読んでいてこちらを気にしないようにしていた。
「はー、最高でしたね……なんかもう、尊すぎて」
「ほんと。ファンの人は新鮮だったと思うけど、陽葵さんは普段通りって感じだったよね。美月は見たことないくらい甘々だったけど」
私たちは陽葵さんが甘々なのは見慣れてるけれど、美月さんは普段クールなので2人の時の様子が見られて最高でした。
「もう、今回の企画を考えた方神ですね!! お2人を生で見られるだけでもこのグループに入って良かったです!!」
ヲタクとしては最高の環境ですよ!! ありがとうございます!
「あ!」
「どうしたの?」
スマホを見た美月さんが突然声を上げた。
「ごめん、もしかしたら陽葵ちゃん来るかも。というかもう近くまで来てるかもしれない」
会えたらな、なんて思ってたけれど、本当に?? うわ、美月さんの部屋に居る2人を見れるってことだよね?
「え?! ほんとですか?!」
「さっき3人に付き合ってること話したよって連絡入れたんだけど。スケジュールが変更になったから行ってもいい? って来てて」
来ても大丈夫? なんて聞いてくれてるけれど、もちろんですよ。と言うより、私たちの方こそお邪魔しててすみません……
「もちろん大歓迎だけど美月の家で会うとか緊張する!!」
「なんか勝手に上がり込んでてすみません! って気分です」
「あ、それ分かる!!」
素直な気持ちを伝えたら望実が同意してくれた。さすがヲタ仲間!
「ちょっとごめん」
電話が鳴って、美月さんが廊下に出た。ここで電話してくれてもいいのに。むしろして欲しかった。
「陽葵さんかな?」
「このタイミングだとそうですよね」
「電話してるだけなのににやけちゃいます」
きっと電話でもイチャイチャしてるんですよね? ニヤニヤしていたら戻ってきた美月さんにバッチリ見られた。
「陽葵さん?」
「そう。陽葵ちゃんからもちゃんと話しておきたいって。あと10分くらいで着くみたい」
「え、わざわざそのために?」
「なんか申し訳ない……」
話しておきたい、ってお2人が付き合ってることを?? 陽葵さんの口からも聞けるってこと? 美月さんから聞いただけでもいっぱいいっぱいなのにどうしたら……
「あ、来た」
「鍵持ってるんですね……恋人ですもんね。もうやばい!!」
インターホンが鳴るのかな、なんて思ったけれど、合鍵ですよ!! それだけでもう……!!
あーー! 尊い。
「美南、落ち着いて」
望実が落ち着いて、なんて言うけれど、むしろ望実はなんでそんなに落ち着いていられるの?!
「お疲れ様。突然ごめんね」
「お疲れ様です!! こちらこそお邪魔してます!! むしろ陽葵さんのいない間に上がり込んでてすみませんっ!!」
「え、私の家じゃないから。美南ちゃん大丈夫??」
ちょっとテンパりすぎて一気に話しちゃったら陽葵さんに心配された。すみません、全然大丈夫じゃないです。
「陽葵さん、お仕事大丈夫なんですか?」
「うん。1つ仕事が延期になって時間が出来たから」
「なんかわざわざすみません」
「全然。私が来たかったから」
さりげなく美月さんの隣に立って、チラッと美月さんを見る。美月さんが軽く頷いてて、アイコンタクト?! と1人で興奮しています……
「美月から聞いたと思うけど、今付き合ってて。もしかしたらグループには迷惑かけちゃうかもしれないけど、遊びで付き合ってる訳じゃないから、それは分かって欲しくて」
「美月、耳まで真っ赤!」
「陽葵さん、かっこいい……!!」
え、尊すぎて無理なんですけど。さりげなく美月さんの腰抱いてますけどイケメンすぎませんか?
「メンバーの中でも受け入れられない子もいるかもしれないし、今すぐみんなに話すことはしないけど、何れちゃんと話せたらとは思ってる」
私はむしろ大歓喜ですけどね!!
「うちのグループは陽葵さんも美月の事も大好きですから、きっと大丈夫だと思いますよ」
「そうだといいな。ありがとう」
柚葉さんの言葉にはにかむ陽葵さん、可愛すぎます……イケメンだったり可愛かったり、魅力に溢れすぎてる!!
「それじゃあ、私は戻るね。ゆっくりしていってね」
「来て頂いてありがとうございました」
もう帰っちゃうんですね……ゆっくりしていってねってなんか彼氏感……!! いつもは彼女感強いのにこういう陽葵さんもいいですね!!
玄関まで美月さんが見送りに行った訳ですが、気になる……
「美南、そわそわしすぎ」
「いや、望実だって変わらないよ?」
2人して気になってそわそわしていると、柚葉さんが居ない。あれ? どこ??
(何してるんですか?)
(え、覗き見?)
ドアが開いていたので廊下に出てみたら、柚葉さんがちょうどL字の角の所から覗いていた。これ向こうから丸見えなんじゃ……?
好奇心に負けて覗くと、美月さんの背中が見えたけれど、陽葵さんは被ってて見えない。
「じゃあ行ってくるね」
「行ってらっしゃい」
もうこのやり取り最高じゃないですか?! 絶対付き合ってる!! あ、付き合ってたわ。
……!! キス?! 慣れてる……!! そして陽葵さんと目が合ってるような? ウインクされた……無理。ほんと無理。絶対覗いてたの気づいてる。
(美南、戻るよ?! 頑張って歩いて)
望実に引きずられるようにして部屋に戻ると、少しして美月さんが戻ってきた。
「ごめん、お待たせ」
「陽葵さん仕事行った? しかし愛されてるねー! ヒューヒュー」
「もう、尊すぎて辛いです」
今日の思い出だけで生きていけそうです。……嘘。これからも見続けたいです。
「微力ながら応援してます!!」
私たちの態度に困惑気味の美月さんも可愛いです。ほんとありがとうございます。
「それにしても、見せつけられたね」
「もう最高でした」
帰り道、自然と話題は今日の美月さんと陽葵さんの話になった。
「2人はさ、関係に気づいてた?」
柚葉さんが聞いてくるけれど、私たち前に会話を盗み聞きしちゃってますからね……望実と顔を見合わせる。
「実は、MV撮影で私と美月さんが隣の部屋で。美南もいる時にベランダのドアを開けてたら2人がベランダに出てて話聞いちゃったんですよね……」
望実が言うと、柚葉さんはあの2人不用心だなー、なんて笑っている。
「ずーっとイチャイチャしてて、聞いてるこっちが照れました」
「あの2人自然とイチャイチャし出すからなー」
そう言いつつ、柚葉さんは嬉しそうに見える。
「2人が幸せなら何も言うことないんだけどね」
「そうですよね。見ているこっちも幸せな気分になりますし」
そんなやり取りをしつつ、駅で解散した。電車を待っている間もずっとニヤニヤしてしまって、マスクがなかったら完全に不審者。家に帰るまで頑張って引き締めないと……
今日は最高の1日でした。