嫉妬と独占欲 前編
スケジュールの都合上、見に行くことが出来なかったグループのライブが始まっている。
前半の撮影を終えて、休憩時間に配信を見ようとスマホを開けば、タイミングよく美月が映ったけれど、あえてなのか、踊っている間にはだけたのかは分からないけれど、片方の肩が剥き出しで目を疑った。
え、衣装はだけすぎじゃない……? 見えちゃわない? 大丈夫!?
いつからこうだったのだろう、とSNSを開けば、美月のファンの子達の感想が溢れていた。
鎖骨が綺麗、とか見えそう、とか色気がやばい、とかのコメントを見る度に、だよね、と納得する気持ちと、他の人に見せたくない、というどうしようもない独占欲が溢れてくる。
曲も終盤に差し掛かって、美月がアップで映ったと思ったら、カメラに向かってウインクして指ハートされてドキッとしてしまった。その後の、照れた表情も最高……
私に向けてじゃないことなんてわかっているけど、これはやばい……
案の定さっきの美月の行動に撃ち抜かれたファンの叫びがどんどん更新されていって、また魅せ方が上手くなったな、と成長を感じた。
MCになって、美月が残ればいいな、なんて思っていたら本当に残って、美南ちゃんと6期生の子達が出てきた。
「いやー、盛り上がってますね! ここまで5曲続けて聞いていただきましたが、皆さん、楽しんでますかー?」
「はい! 楽しんでます!! いえーい!!」
「……美南ちゃんはこっち側だよね? しかもなんでペンライト持ってるの?」
「さっきの曲、モニターで見ていたんですけど、肩!! 色気ヤバすぎなんですけど!? けしからん! ありがとうございます! それに、ウインクに指ハート、私に向けてですよねっ!?」
「違います」
「いや、絶対私にでした。皆さんも見ました!? やばくなかったですか!? うんうん、そうですよね。爆イケすぎました」
「美南ちゃん、6期生の子達、引いてない? 大丈夫?」
美南ちゃん、今日も絶好調だなぁ……
「大丈夫です。さっき一緒に見てたので。ねえ?」
「美南さん、ずっと叫んでて、皆さんのファンサに悶えてました。本当に好きなんだな、って可愛いです」
「私も美南さんに悶えて貰えるようなパフォーマンス、頑張ります!」
「美南さん、ここは誰を見習ったらいい、とか今のここが、とかメンバー目線とファン目線での動きを教えてくれて勉強になりました」
美南ちゃんならではの視点だね。上手くやれているみたいで良かった。
「はい、みんな可愛い!! 最高!! 好き!! こんな可愛い子たちが入ってきてくれて嬉しいですね」
「本当にそう。まぁ、仲良いみたいで安心しました。皆さんに6期生のみんなを覚えて帰って欲しいな、と思うので美南ちゃんと私でいくつか質問をしていこうと思います。美南ちゃんから聞く?」
「はい! 憧れの先輩や、推しカプがあれば教えてください! ちなみに私はひまみつ推しです!」
「1つ目からそれなの……? 思ってたのと違う……」
「皆さん、ひまみつ好きですよねー!? ほら、皆さんも好きだって!」
「アリガトウゴザイマス」
「今日って陽葵さんは見てくれてるんですか?」
「撮影だから見てないと思うけど……」
はい、見てます。バッチリ見てます。
「そっか……残念です。さて、さっきの質問、誰から答える?」
「あ、じゃあ、私から。憧れの先輩は、凛花さんです。あんな風に女子力が高くなりたいです!!」
「凛花さんね。女子力の塊ですからね」
「私は、陽葵さんに憧れてオーディションを受けました。ひまみつさんも大好きです!」
「花音ちゃん……!! 同志!! 後で語ろう! 秘蔵の写真見せちゃう!」
「え、いいんですか!? 嬉しいです!!」
「待って、待って?? 何かわからないけど、良くない気がする! 純粋な子をそっち側に引き込まないで!?」
「ふふふ、腕の見せどころですね!!」
あ、これは美南ちゃんに捕まったな……美月が頭を抱えている。
私に憧れて、だなんて嬉しい。花音ちゃんか。覚えておこう。
「えっと、私は……」
「うん、ゆっくりでいいよ」
詰まってしまった後輩と目線を合わせて、優しく頷く美月。全く、相変わらず無自覚というか……
「その、美月さん、に憧れて……」
「え、ほんと? 嬉しいな。ありがとう」
「はい……」
ちょっと待って? 頭ポンポンはやりすぎじゃない? 無自覚イケメンめ……
あぁ、ほら。美月を見る目がハートになってる。今は近くに居られないし、ガチ恋されると困るんだけどな。
私と被っていない子達は知らないから余計に怖い。浮気をする、なんて思ってる訳じゃないけれど、今後私じゃない誰かとセットで推される事も出てくるだろうし。
考えただけで憂鬱……
「ちょっと、美月さんイケメンすぎるんですけど!! なんですか? 今のやり取り!?」
「え、何が?」
「これが噂の無自覚イケメン……あっ、すみません!!」
6期生の子が呟いた言葉がバッチリマイクに拾われて、会場から笑いが起きた。
「本当にサラッとイケメンなことをするから、6期生のみんな、ガチ恋しないように気をつけて! 美月さんには陽葵さんがいるから。辛いのはみんなだからね?」
「美南ちゃん、ちょっと何言ってるか分からないです……なんで陽葵ちゃんが出てくるかな……」
「なんで、って……ねえ? 皆さんも大好きなひまみつですからね。もっと供給して欲しい人ー? ほら」
「ちょっと、会場の皆さんも肯定しないで!?」
美月ももうちょっと肯定してくれてもいいのに。まぁ、美月に限ってそれはないか。
「他の人が立ち入れない、2人だけの世界ですからね。望実と4人でお泊まりしたことがあるんですけど、もう尊すぎて意識が飛ぶかと思いました。実際飲みすぎて意識無くしましたけど」
「あの日、私も飲みすぎてちょっと記憶が曖昧なんだよね……お酒、怖い。みなさんも気をつけましょう。はい、次行こ、次」
あの日の美月、可愛かったなぁ。
「次、美月さんから質問ありますか?」
「そうだなぁ。これを頑張りたい、っていうのはある? 例えば、歌とか、ダンスとか」
「ダンスです!」
「私もダンスです! 昔みたいに、ダンス選抜とかがあれば、絶対入りたいです」
「私は緊張しないようになりたいです」
「2人はダンスかぁ。ダンスねぇ……私も苦手。一緒に頑張ろ! 緊張か……これはもう、数をこなす事なのかなぁ。美南ちゃん、緊張しないアドバイスは? しないでしょ? 緊張」
「私だって緊張しますよ!?」
「え?」
「え? って、美月さん、私のことなんだと思ってます?」
「……オタク?」
「正解ですけども……え、それだけ?? 酷くないですか!?」
「あ、次の準備が出来たようなので、名残惜しいですがここまでですね。ありがとうございましたー! 「ちょっと!? 美月さんー!?」では、曲振りを6期生のみんな、お願いします!!」
ちょうどMCが終わったところで、撮影再開の連絡があった。もっと見たかったけれど、仕方ない。後でアーカイブを見よう。
撮影の後にもう1つ仕事をこなし、家に着いたのは日付が変わってからだった。
シャワーを浴びて寝室に入れば、ぐっすり眠る美月の姿があって、生活リズムが違っても、こうして寝顔を見るだけで疲れが取れる気がする。
それにしても、ど真ん中で寝る? 私のスペースないよ?
「ちょっとごめんねー」
「んー」
横にずれてもらおうと、ベッドに膝をついて肩を押してみたけど動かない。
美月の肩に手を置いたまま、少しのスペースに横になるか、いっその事美月の上に寝る? と悩んでいると、不意に手を引かれた。
「わっ……」
「んー、ひまりちゃん……すき……」
「え、かわい……うわぁ、これは可愛すぎるでしょ……なんなの、私を試してるの……?」
美月の上に倒れこめば、ぎゅっと抱きしめられた。寝てるよね? 無意識の行動が愛しくて仕方がない。
頬をつついてみれば眉をひそめたけれど、1回寝たら基本起きないから、触り放題なんだよね。
自分が苦しむことになるから、変なことはしないけど。
はだけすぎてむき出しだった肩に痕を残してしまおうか、なんて過ぎったけれど、明日もライブだし、そういう演出だったのなら勝手なことは出来ない。ファンは喜んでいたし、実際、オリメンはもっとはだけてたしな……
ライブが終わって、撮影もない時期には沢山付けよう、と決めて、おでこに口付けをするだけに留めて、抱きついて目を閉じた。
「……みつき?」
「あ、ごめん。陽葵ちゃんまで起こしちゃったね。まだ寝てて?」
温もりが離れる感覚と微かな振動に意識が浮上し、目を開ければ美月が身体を起こしたところだった。
「いま何時?」
「まだ5時前。昨日も遅かったんでしょ? ゆっくり寝てね。行ってきます」
「行ってらっしゃい。気をつけてね。ライブ、頑張って」
「ありがとう。陽葵ちゃんも気をつけて」
優しく頭を撫でられて、甘く微笑んで部屋を出ていった。私の彼女、朝からイケメン過ぎない?
ちゃんと起きれるか心配だったけど、私の方が朝遅い時は起きれるんだよね。陽葵ちゃんにゆっくり寝てて欲しいからって照れながら言われた時はキュンとした。朝一緒に出る日とかは、私も起きるって分かってるから起きないけど。あと5分、とかもうちょっとだけ、とか眠そうに甘えられるのも可愛くて好き。
見送りたいな、と思ったけれど今日の仕事も長丁場だし、少しでも寝ておこうと諦めた。




