風邪(陽葵)
制作のために部屋に篭って作業をしていたけれど、なんだかぼーっとするし、頭が痛い。真っ先にスケジュールを思い浮かべたけれど、幸い明日も制作予定でスケジュールは空いている。
もし風邪だとしても楽しみにしてくれているファンや、私のために準備をしてくれたスタッフさん、色々なものを台無しにしなくて済むな、と思ったら一気に身体が重くなった。
あー、これはやばいやつ……
テーブルが冷たくて気持ちいい。このまま寝れそう。でもこのまま寝たら色々終わる。美月にも間違いなく怒られるし、体調も悪化するに違いない。でもちょっとくらいいいよね……
「……ん、……ちゃん、陽葵ちゃん? 大丈夫?」
大好きな声が聞こえて、目を開ければ心配そうな美月と目が合った。
「みつきたんー。おかえりー」
「ただいま。……ちょっとごめんね? うわ……」
「みつきのて、すき」
おでこに美月の手が触れて、自分の顔が緩んでいるのが分かる。
「かわい……陽葵ちゃん、今暑い? 寒い?」
「さむい……」
「そっか。まだ上がるのかな……待っててね」
スマホを片手に部屋を出ていった美月を目で追って、また目を閉じた。あー、体調崩すのなんていつぶりだろ……
「陽葵ちゃん、起きてる?」
「んー、おきてるー」
「マネージャーさんに電話したら、迎えに来てくれるって。熱高いし、病院行っておこう?」
「みつきがぎゅってしてくれれば治る……」
「うわ、かわ……え、可愛い……それは何時だってするけど……でも、酷くなっちゃったら困るし、ね? はい、これ着れる?」
顔を赤らめつつ、心配そうに上着を差し出してくる。
「うん……」
「ふふ、手伝うね」
だるいし、手伝ってくれないかなぁ、ってじいっと見上げてみたら上着を着せてくれた。すき……
いつだって美月に甘えているけど、弱ってる時ってもっと甘えたくなるな……
「……はい、はい。あ、峰さんが来てくれてるんですか? ありがとうございます。陽葵ちゃん、着いたって。歩けそう?」
「……ん、大丈夫」
「峰さんが来てくれたみたい」
「峰さん久しぶりだー」
ソファで美月に寄りかかっていれば、美月のスマホが鳴ってマネージャーさんの到着を知らせた。峰さんはグループを見てくれているマネージャーさんの1人で、昔からお世話になっているお兄ちゃんみたいな存在。確かみくさんよりちょっと年上で、スタッフさんの中では歳が近い方で親しくさせてもらっていた。
駐車場には久しぶりに見る車があって、峰さんがドアを開けてくれる。
「峰さん、お久しぶりです。今日はすみません……」
「久しぶり。責任もって連れていくから安心して。美月もな」
「はい。ありがとうございます」
美月に支えてもらいながら乗り込めば、優しい目で見つめられてキュンとする。
「陽葵ちゃんが食べられそうなもの用意して待ってるね。行ってらっしゃい」
「うん。ありがと」
美月が降りてドアが閉められて、峰さんと何かを話して、車が走り出した。
「峰さん、遅くにすみません」
「ちょうど別の子の送迎で近くまで来てたから、俺が来ちゃった。久しぶりに陽葵にも会いたかったし?」
「うわー、峰さんチャラいー」
「はは、元気じゃん」
来ちゃった、って可愛いか。見た目厳ついくせに。
「もうすぐ着くから、美月に連絡しとけよー」
「え、1人で帰れますよ」
幸いインフルエンザでは無かったし、軽い脱水症状があって点滴をしてもらったから随分良くなった気がする。
「絶対そう言うだろうから、連絡するように言ってください、ってさ。俺が怒られるから連絡しろ。いや、あのキレーな顔で睨まれるのはそれはそれでアリだな?」
「何言ってるんですか?」
「うわ、その言い方美月と同じ。相変わらず要所要所似てんなー」
やっぱり一緒にいると似てくんのな、なんて笑っている峰さん。似てる、って言われるのは嬉しい。
「はい、到着」
「ありがとうございました」
「連絡は?」
「しました」
「なら良し。お、もう居るわ」
駐車場に入れば、待っていてくれたのか美月が駆け寄ってきてくれた。自力で降りた私を見て、少し安心したような表情をしている。
「峰さん、ありがとうございました」
「いいえー。じゃ、後は美月に甘やかしてもらえー」
「そうします」
「え? なに?」
不思議そうな美月を見てニヤリと笑って、ひらひらと手を振って帰って行った。
「陽葵ちゃん、お粥食べられそう?」
「うん」
「無理そうなら、ゼリーとかもあるからね」
「美月は?」
「私はもう食べたから」
待っててね、とキッチンに行った美月を引き止めたくなったけどすぐ戻ってくるし、と言い聞かせて待つ。
「お待たせ」
「いい匂い」
「熱いから少しずつ食べてね」
「みつきたん、あーんは?」
「え? はい……あーん」
照れながらスプーンを差し出してくる美月が可愛い。
「……食べないの?」
「いや、みつきたんがあまりにも可愛くて?」
「何言ってるんですか?」
「ふは、ほんと可愛いな」
「もう! 自分で食べて」
「えー、ごめんって。もう1回、ね?」
まったく、いつもそうやって、なんてぶつぶつ言いながらも恥ずかしさは消えないらしく、そわそわしつつも全部食べさせてくれた。
「ごちそうさまでした」
「食欲があるみたいでよかった。シャワーはどうする?」
「汗かいたし、ちょっと行ってくる」
「うん。1人で大丈夫?」
「みつきたん洗ってくれる? あ、ちゃんと身体もね?」
「はい、元気そうなので1人で行ってきてくださーい」
「えー」
1人で行け、なんて言っておきながら手を引いてくれるから、ちょっと期待したのに何かあれば呼んでね、と出ていってしまった。
シャワーを浴びていれば、脱衣所に人影。心配で待っててくれてる、って所かな? 相変わらず素直じゃないな。
「みつきたんー、出るよー」
「わ、もう? ……って、気づいてたの……」
真っ赤になっている美月を抱く元気がないのが残念で仕方がない。
「陽葵ちゃん、もうちょっと頑張って」
「んー、うんー」
ソファに座って髪を乾かしてもらいながら、優しい手つきにうっとりする。普段も乾かされてると寝そうになるのに、今日は熱のせいか余計に眠い。
「よし、おしまい。ベッド行こ」
「みつきたん、手ー」
「ん。行こ」
ぎゅっと恋人繋ぎをしてくれた美月を見れば、さっと視線を逸らされた。かわいー。
「飲み物はここに置いてあるし、タオルと、一応着替えも出してある。あとは、おでこに……え、なに??」
私のために、って色々準備してくれて、一つ一つ説明してくれる美月を見ていれば不思議そうに首を傾げられた。
「愛しいなぁ、って」
「いとっ……!?」
「美月、ありがとう」
「……ううん。早く良くなってね。さ、もう寝よ? これでよし、と」
あんなに色々照れてたくせに、おでこにシートを貼ってくれて、優しく頭を撫でて抱き寄せてくれる。
「みつきたん、ちゅー」
「……ん」
ちゅ、と触れるだけのキスしかしてくれなくて、全然足りないんですけど……?
「もっと」
「体調悪いんだから、だめ」
「えー」
「そんなに不満そうにしないで」
「治ったらいっぱいしてくれる?」
「……治ったらね」
「約束だからね?? ちゃんと聞いたからね?? ね??」
「うっわぁ、悪い顔……」
思わぬ約束をしてもらえて、念押ししてしまった。これは何が何でも早く治して、美月から沢山キスをしてもらおう。
お読み下さりありがとうございました!!




