2人の始まり(下)
陽葵視点
誕生日当日に美月にお祝いしてもらってから、グループでの最初の仕事の日、後輩たちからプレゼントを貰っていたら美月と目が合った。すぐに逸らされてしまったけれど、美月が浮かべていた表情が気になって絡んでみたら、どうやら嫉妬してくれていたらしい。可愛すぎる……
スタッフさんに呼ばれなければ、もっと可愛い美月を見ていられたのに。仕事だから仕方ないけれど。
「美月ごめん! お待た……せ?」
仕事が終わって、すぐに帰れるはずだったのに急遽打ち合わせに呼ばれてしまって、終わり次第急いで楽屋に戻れば、無防備に机に突っ伏して眠っている美月の姿。
メンバーにもこんなに可愛い寝顔を見せたのかな、と思ったら待たせていたのは私の都合なのに苦い気持ちになった。美月は遠慮しただろうけれど、鍵を渡して先に帰っていてもらえば良かったかもしれない。
起こそうと思った訳では無いけれど、頬を撫でればくすぐったかったのか身動ぎして、ゆっくりと目が開いた。私を認識して、ふにゃ、と笑う顔がどうしようもなく愛しくて、絶対に誰にも渡したくないな、と強く思った。
気持ちを伝えないで思っているだけじゃ何も始まらない。明日からしばらくはソロの仕事がメインになって、グループの活動は不参加になるからちょうどいい。断られても、すぐに会うことは無いから気持ちの整理をつける時間も取れるし。
想いを伝えてみれば、困らせてしまったと思ったけれど、小さい声ですき、と言ってくれたのが可愛すぎてすぐに反応が出来なかった。
美月からそんな言葉が聞けるなんて思ってもみなかったし、相当恥ずかしかったのか真っ赤だし、誘われてるんじゃないかって私の都合のいいように考えちゃう。
キスをすればぎゅっと目を閉じていて、初々しい美月が可愛いし、ここで押し倒したい気持ちを抑えるのが大変。
美月はキス、初めてかな? 初めてだったらいいな……
「美月ちゃん、顔真っ赤だけど……もしかしてやらしいこと考えてる?」
抵抗なく寝室までついてきてくれたけれど、ベッドを見て固まる美月をリラックスさせたくてからかってみる。
「なっ……?! それは陽葵さんじゃないですか?!」
「うん。私は考えてる」
「っ?!」
好きな子と両思いで、しかもお泊まり。それはもう、考えちゃうよね?
「美月が嫌なら何もしないから、ちょっと話そ」
「……はい」
ベッドに腰かければ、少し離れて美月も座った。物凄く緊張しているのが伝わってくる。
「美月、もう恋人な訳だし、敬語やめて?」
「無理です」
「……少しは悩もう?」
少しくらい考えてくれても良くない? 絶対やめさせるけど。
「先輩ですし、陽葵さんにタメ口なんて考えたこともないです」
「確かに先輩だけど、プライベートではもう違うでしょ? 私は美月の何?」
「ぇっ……かのじょ、です」
うーわっ、可愛い……下を向いちゃった美月は耳まで真っ赤で、私の理性が試されている気がする。
「かわい……」
「可愛くないです」
「ううん、可愛い。美月が1番可愛い」
「……陽葵さんの方が絶対可愛いです」
美月は可愛いよりかっこいい、ってきゃあきゃあ言われていることが多いけど、私からすればどんな美月でも可愛く思える。今だって、真っ赤になりながらも私の方が、って言ってくれていて、ただただ可愛い。
「あ、いいこと思いついた」
「いいこと??」
「うん。プライベートの時に敬語使ったらキスね?」
「はぁっ?! 何考えてるんですか?!」
私の言葉に目を見開いたけれど、敬語もやめて貰えるし、キスもできるし一石二鳥じゃない?
「はい、1回。どんどん敬語使ってくれていいよ?」
「うっわ、ドS……!! 変態!!」
ニヤニヤする私を嫌そうに見て、そんなことを言ってくる。調子が戻ってきたっぽいな。早速1回分貰っちゃおうかな。
「美月」
「はい?」
「1回分、キスしてもいい?」
「……ぇっと、あー、うぅ……」
名前を呼んでじっと見つめれば、落ち着きがなくなって、ちょっと怯えたような表情にゾクッとした。
「キスだけだからそんなに怯えないで?」
「……ひゃっ」
頬から首筋にかけて撫でれば、さっきと同じようにぎゅっと目を閉じていて、無防備な姿に色々したくなる。私今日もつのかな……ちょっと落ち着こう。
「美月は明日ロケだっけ?」
「はい。陽葵さんはしばらくソロ活動で……ぁ。ソロ活動、だよ、ね……?」
かーわーいーいー! しまった、と様子を伺う美月が可愛すぎて困る。
「うん、まぁ、セーフかな。残念だけど。しばらく別の仕事になるけど、連絡するから」
美月はもう頷くだけにしたらしい。
「あ。もちろんメッセージでも敬語使ったらカウントするからね」
「え"っ?!」
「ははっ、すごい声でたね」
会えないのは寂しいけれど、会えた時に沢山キスが出来そうな気がして楽しみだな。まぁ、美月が頑張って敬語を使わなかったとしてもするけど。
「そうだ。陽葵、って呼んでみて?」
「えっ?! えっと、ひまり……さん」
「惜しい!」
「むりっ……!!」
恥ずかしかったらしく、顔を両手で覆って唸っている美月を見てS心が疼くというか……可愛い姿をもっとみたいな、なんて思ってしまう。
嫌われたくないからあんまりいじめすぎないようにしないと。
「呼び捨てが無理なら、ちゃん、ならどう?」
「陽葵ちゃん」
「うん、いいね。プライベートではそう呼んで?」
名前の呼び方ひとつでグッと距離が縮まった気がする。
「さて、そろそろ寝ようか?」
私がそう言えば、美月がビクッとした。その反応はどっち? 不安? それとも期待? グループに入ったのは14歳とかだったはずだし、その前に恋人がいた、みたいな話は聞いたことがないから、前者かな……
「美月、奥行って。はい、電気消すよー」
ベッドに横になった事を確認して、電気を消す。今日は真っ暗にはしなかった。空いたスペースに潜り込んで、美月を抱き寄せる。今日は一人で寝るつもりだったのに、こうして腕の中に美月が居るなんて、こんなに幸せでいいんだろうか?
「陽葵ちゃ……苦し」
「えっ、あ、ごめん」
つい力が入っちゃって、ぎゅうっと抱きしめてしまった。
「美月、キスしてもいい?」
照れたように頷いてくれた美月が可愛くて、堪らず組み敷いた。
「……ふぁ?!」
「美月、可愛すぎるんだけど。ちょっとだけ、触らせて?」
「えっ? んぅ?!」
状況を理解できずにきょとん、とする美月の頬に手を添えて、唇を重ねる。
「ぁ……」
反対の手をシャツの隙間に差し入れて素肌を撫でれば、ビクッと反応したけれど、拒否はされなかった。キスの合間に漏れる声が、普段のクールな美月とは別人みたいに弱々しくて煽られる。
「美月、好きだよ」
「ん、はぁ……んっ」
あぁ、可愛い。少し触れるだけのつもりだったのに、乱れる美月をもっと見たい、と欲が出る。
「美月。怖かったり、嫌だったらすぐに言って? 絶対止めるって約束するから」
「は……陽葵さんになら、嫌じゃない、です」
「……っ、優しく出来なくなるから、あんまり煽らないで」
息を整えながらそんなことを言われたら余裕が無くなる。それじゃなくてもギリギリなのに。
もうしたくない、なんて言われないように、冷静に、と言い聞かせながら唇を重ねた。
「美月ー、みつきちゃーん、出てきて?」
「……」
美月が可愛くて、つい調子に乗って色々してしまったら、布団にくるまって髪の毛しか見えない。苦しくないのかな?
「苦しくないの??」
うーん、無言。嫌がってる感じはなかったし、最後の方はちょっとは気持ちよくなってくれたと思うんだけどな……
出てこないし、と布団を捲ってみれば綺麗な背中が見えたから唇を寄せる。
「ひゃっ?!」
「出てこないともう1回しちゃうよー?」
「っ?! 出ます!!」
背中や首筋にキスをしたり、下腹部を撫でれば慌てたように美月が顔を出した。手で隠しているけれど、真っ赤。はぁ、かわい……
「痛みは?」
「……今は無いです」
「良かった。ちょっとは気持ちよくなれた?」
視線をさ迷わせて、小さく頷く美月が可愛すぎるんですがどうしたらいいんでしょうか……
「ね、もう1回、ダメ?」
「ダメですっ!! 着替え、着替え……」
「待って。キスだけ」
「……んっ……ぁ」
「その気になるから、えろい声出さないでくれる?」
「……!! 誰のせいですか?! 変態ー!!」
「すぐ変態っていう……」
まぁ、変態は否定しないけど。もう敬語禁止なんてすっかり忘れている美月に思い出してもらおうかな。明日は半日オフだし、まだまだ夜は長い。美月、覚悟してね?
お読みいただきありがとうございました!




