8.鑑賞会
今日は家に柚葉と美南ちゃんと望実ちゃんが遊びに来てくれている。
たまたまこの4人で同じ仕事になって、早く終わったから、せっかくなら遊ぼうと現場から1番近い私の家に来てもらった。
「美月の家に来るの久しぶりな気がする!」
「引っ越してすぐは結構来てたけど、確かに久しぶりかもね」
「陽葵さんはよく来てるんでしょ?」
陽葵ちゃんの名前が出た途端身を乗り出すヲタクが2人……
「前に陽葵さんが言ってましたけど、オフの時はほとんど一緒にいるんですか??」
「2人ともオフの時はそうかな」
「やばい!! なんか想像したらテンション上がって来ました! まさか美月さんのお家にお邪魔できるなんて思ってなかったので」
美南ちゃんは一体何を想像したんですかね……これは触れちゃいけない気がする。
「大袈裟。いつでも来て? さっき買ってきた飲み物は冷蔵庫に入れたから飲みたい時に取ってね」
「はーい。早速開けるよー。……ねえ、美月ってビール飲めたっけ?」
「飲めないー!」
苦くて苦手なんだよね。飲める年齢になったけれど、お酒はそんなに強くなくて、甘い系のが少しなら飲めるくらい。
「だよね? それなのにビールありすぎじゃない?!」
「ああ。それ陽葵ちゃんの」
「え、陽葵さんビール飲むんですか?!」
確かに私の部屋の冷蔵庫にビールがあったら私が飲むって思うよね。
「飲むよー! 結構強い方なんじゃないかな?」
「意外です!!」
望実ちゃんがびっくりしているけれど、確かに最初はあんまり飲むイメージ無かったかも。
「私もなにか飲んで落ち着きたいのでちょっと行ってきます」
美南ちゃんがよろよろしながらキッチンにいる柚の所に向かっていった。
「ね、美南ちゃん大丈夫?」
「美南は完全に推しの家に遊びに来ちゃったヲタクですからね。色々刺激が強いみたいです。まあ、私もですが」
望実ちゃんが美南ちゃんを見ながら苦笑した。
「美月ー、コップ借りていい?」
「上の棚開けると入ってるから適当に使ってー」
「えっ……これ……!!」
今度は何事?? 少し待っても戻ってこないから望実ちゃんと一緒に様子を見に行くと、2人で何やら話していた。
「コップ分からなかった? って見つかってるじゃん」
2人とも手にはちゃんとコップを持っている。
「ねえ、このマグカップって誰の?」
柚が戸棚にしまってあるお揃いのマグカップを指差して聞いてくる。あるのが自然すぎて特に気にしてなかったけど、確かにお揃いで置いてあったら気になるよね……
「えっと……陽葵ちゃんの」
なんだか恥ずかしくなってきた。
「ねえ、聞いていいのか分からないんだけど、実際陽葵さんとどうなってるの?」
そんな私を見て、柚が意を決したように聞いてきた。陽葵ちゃんと、メンバーに聞かれた時には正直に答えようって話をしてて良かった。
「多分みんな気づいてたと思うけど、付き合ってるよ」
「やっぱりかー!」
「……!! え、私たち聞いて大丈夫でした?」
望実ちゃんが心配そうに聞いてくれるけれど、気を使わせちゃって申し訳ないな。美南ちゃんは……うん。通常運転だね……
「大丈夫。陽葵ちゃんと、聞かれたら隠さないで伝えようって決めてるから」
「それなら良かったです。柚葉さん、急にびっくりしましたよ!!」
「仲良いのは知ってたけど、ビールの買い置きとか、お揃いのマグカップとか見ちゃったら聞かなきゃかなって。ずっと付き合っちゃえよって思ってたから、なんか嬉しい」
こうして受け入れてもらえるのは嬉しいな。陽葵ちゃんに、3人に話したこと言っておかないと。今日は帰りが遅いからメッセージだけ送っておこう。
「柚葉さん、この前のドッキリ企画で、2人のこと普通に付き合っちゃえよって言ってましたもんね」
「それ!! 私家で見て叫びましたよ!! なんですかあの神回?!」
「え、柚そんなこと言ってたの?」
楽屋を隠し撮りされた放送がこの前あったけれど、実はまだ見れていない。
「美月さん見てないんですか? 柚葉さん実況しながら心の声ダダ漏れでしたよ」
「もうね、抑えきれなくて」
「私もその放送回出たかったです!」
柚の実況は気になるから後で見てみようかな。各自飲み物を持ってキッチンを出てソファとラグに座る。
「2人の関係を知った今もう1回見たいな。鑑賞会しようって言ってたもんね」
飲み物を持って部屋に戻るなり柚が思い出したように言い出した。
「それ分かります!!」
「今見ちゃう?」
「いいですね!!」
今? ここでってこと? 何の罰ゲーム?!
「え?! やめようよ?!」
ネット配信もされているから、こういう時気軽に見れちゃうのがちょっとね……
止める間もなく再生されてしまったけれど、スマホの画面で小さいのが救いかな。見ないでちょっと離れてよう。
3人でスマホを見ながらキャーキャー盛り上がっていてものすごく気まずい。早く終わらないかな……
メンバーが出てる雑誌でも読んでよう。
「はー、最高でしたね……なんかもう、尊すぎて」
「ほんと。ファンの人は新鮮だったと思うけど、陽葵さんは普段通りって感じだったよね。美月は見たことないくらい甘々だったけど」
「もう、今回の企画を考えた方神ですね!! お2人を生で見られるだけでもこのグループに入って良かったです!!」
感想を言われると恥ずかしすぎる。そして美南ちゃんの熱量……
「あ!」
「どうしたの?」
スマホを見ると、陽葵ちゃんからの返信が来ていた。30分前くらいだから、ちょうどドッキリの映像を見始めたくらいに来ていたみたい。
「ごめん、もしかしたら陽葵ちゃん来るかも。というかもう近くまで来てるかもしれない」
「え?! ほんとですか?!」
もしかして心配させちゃったかな?
「さっき3人に付き合ってること話したよって連絡入れたんだけど。スケジュールが変更になったから行ってもいい? って来てて」
「もちろん大歓迎だけど美月の家で会うとか緊張する!!」
「なんか勝手に上がり込んでてすみません! って気分です」
「あ、それ分かる!!」
嫌がってなくて良かった。大丈夫、と返信をしようとしたら電話が鳴った。
「ちょっとごめん」
廊下に出ると、部屋から陽葵さん? と話している声が聞こえた。
「ごめん、スマホ見てなくて」
『そうだと思った。まだみんな居るでしょ?』
「うん。みんな受け入れてくれてるから大丈夫だよ」
『それなら良かった。私からもちゃんと話しておきたくて』
「うん。どれくらいに着きそう?」
『あと10分くらいかな』
「待ってる」
『うん。じゃ、また』
電話を切って部屋に戻ると、ニヤニヤしながら迎え入れられた。
「陽葵さん?」
「そう。陽葵ちゃんからもちゃんと話しておきたいって。あと10分くらいで着くみたい」
「え、わざわざそのために?」
「なんか申し訳ない……」
少し話していると玄関が開く音がしたから、陽葵ちゃんが到着したみたい。
「あ、来た」
「鍵持ってるんですね……恋人ですもんね。もうやばい!!」
「美南、落ち着いて」
うあー! と叫ぶ美南ちゃんを望実ちゃんが宥めているけれど、効果はなさそうかな……
「お疲れ様。突然ごめんね」
「お疲れ様です!! こちらこそお邪魔してます!! むしろ陽葵さんのいない間に上がり込んでてすみませんっ!!」
「え、私の家じゃないから。美南ちゃん大丈夫??」
陽葵ちゃんの困惑はよく分かるよ……今日は特にテンションが高いよね。
「陽葵さん、お仕事大丈夫なんですか?」
「うん。1つ仕事が延期になって時間が出来たから」
「なんかわざわざすみません」
「全然。私が来たかったから」
柚と望実ちゃんは落ち着いててなんか安心する。
「美月から聞いたと思うけど、今付き合ってて。もしかしたらグループには迷惑かけちゃうかもしれないけど、遊びで付き合ってる訳じゃないから、それは分かって欲しくて」
そんなに真剣に言われると照れくさい。多分赤くなってると思う。
「美月、耳まで真っ赤!」
「陽葵さん、イケメン……!!」
やっぱり分かるくらい赤くなってるよね……陽葵ちゃんは本当にかっこいい。
「メンバーの中でも受け入れられない子もいるかもしれないし、今すぐみんなに話すことはしないけど、何れちゃんと話せたらとは思ってる」
「うちのグループは陽葵さんも美月の事も大好きですから、きっと大丈夫だと思いますよ」
「そうだといいな。ありがとう」
陽葵ちゃんと柚の会話を聞いてたら泣きそうになってきた。凄く幸せだなって実感する。
「それじゃあ、私は戻るね。ゆっくりしていってね」
「来て頂いてありがとうございました」
3人は気を使って部屋で待っていてくれているので、私だけで玄関まで見送りに来ている。
「陽葵ちゃん、ありがとう」
「ううん。また今度話そう」
「うん。今日は遅いんだよね?」
「そうだね。寂しくなっちゃった?」
「少し」
「お、デレみつき? 可愛いなー」
ちょっとでも会えて嬉しいのに、もう帰っちゃうなんて寂しくなる。早くオフにならないかな。
「じゃあ行ってくるね」
「行ってらっしゃい」
触れるだけのキスをして、陽葵ちゃんが帰っていった。
部屋にみんながいるのに……あー、顔が熱い。
「ごめん、お待たせ」
「陽葵さん仕事行った? しかし愛されてるねー! ヒューヒュー」
柚、さっきまでいいこと言ってくれてたのに……! 見てたの?って言いたくなるような台詞やめて。え、見てないよね?
「もう、尊すぎて辛いです」
「微力ながら応援してます!!」
やっぱり見てた? それとも声が聞こえた? 何にせよ、今日は話せて良かったし、人に恵まれてるなと改めて思った。他のメンバーにも、徐々に話していけたらいいな。




