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アイドルの恋愛事情~アイドルカップルの日常~  作者:
番外編

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2人の始まり(上)

リクエストを頂いた2人の始まりを書きました。お楽しみ頂ければ嬉しいです。

 陽葵視点


 誕生日だというのに朝からびっしり仕事が入っていて慌ただしく過ぎていく。収録の休憩時間にスマホを見れば、沢山のお祝いメッセージが届いていた。

 その中に美月からのメッセージを見つけて開いてみれば、"お誕生日おめでとうございます"と美月らしいシンプルなお祝いメッセージが表示された。


「あー、会いたい……」

「美月? 終わったら会いに行ってくれば?」


 凛花がニヤニヤした表情を隠さないまま言ってくる。美月のスケジュールを見れば、近くで撮影をしていて、お互い順調に進めば一緒にランチに行けそうだった。


「ランチに誘ってみるけど、凛花も行く?」

「行かない行かない。せっかくの誕生日なんだし、2人っきりでイチャイチャしておいで」

「イチャイチャねぇ……外では冷たいからなぁ……」


 泊まりの回数を重ねる毎にリラックスして過ごすようになった美月を見て、何度も気持ちを伝えようと思ったけれど、今の関係を壊すのが怖くて仲のいい先輩、というポジションから抜け出せない。


 泊まりの誘いを断られたことは無いし、2人の時に甘えると仕方ないですね、なんて言いながらも甘やかしてくれる。嬉しいのに、美月は優しいから断れないだけなのかな、なんてマイナス思考に陥ったりもする。


「ふふっ」

「もう返事来たの?」

「来た」


 メッセージを送れば、タイミング良くスマホを見ていたのか、直ぐに既読がついて"行きます!"と返事が来た。


「嬉しそうな顔しちゃって。さっさと伝えればいいのに」

「うるさ。出来たら苦労しないわ」


 凛花の言うように、女同士だし気持ちを伝えないと恋愛対象にみてもらえないというのは分かっているんだけどね。他人事だからって簡単に言うけど、同じグループなんだし、断られたら凛花だって気まずくなるんだからね? 



「美月、おつかれー!」

「陽葵さん。お疲れ様です。お誕生日おめでとうございます」

「ありがと」


 お店に向かえば、美月は先に着いていて笑顔を向けてくれた。はい、今日も可愛い。


「あの……これ」


 注文をして午前中の仕事の話をしていれば、美月がリュックからラッピングされた包みを取り出して遠慮がちに差し出してくる。

 もしかして、プレゼント? 急な誘いだったし、買いに行けたとは思えない。もしかして、持ってきてた……?


「え、プレゼント……?」

「はい。今日は別の仕事ですけど、近いので会えたりしないかな、なんて思って……」


 なにそれ、可愛いんですけど?! なんでもない風を装っているけれど、視線は合わないし耳がうっすら赤くなっていて照れているのは隠せていない。こっちまで照れる……


「ありがとう」

「いえ。バスグッズにしたので、ちゃんとお風呂に入ってから寝てくださいね」

「……はーい」


 美月が泊まりに来てくれた時に、お風呂から出るのを待っている間にソファで寝ちゃったんだよね。朝目が覚めれば、私には布団がかけられていたけれど、美月は布団もかけずにソファにもたれて眠っていて、絶望したのは記憶に新しい。


 メイクは落としたけれど、私のことを運ぶことが出来なくて申し訳ない、と謝ってくれる美月にますます落ち込んだ。私から誘っておきながら寝落ちしちゃったから起こすことも出来ず、ベッドに行くことも出来なかったのに全然怒ってなくて、その後も泊まりに来てくれたからすごく安心した。


 美月の優しさに触れる度に好きな気持ちが更新されていく。


「そうそう。美月、この日の収録の後って暇?」

「暇です」

「泊まり来る?」

「行きます」


 スケジュールを見せれば、初めは遠慮がちだったのに、即答してくれるのが嬉しい。


「さっき貰ったバスグッズ、美月も一緒に使うでしょ?」

「……は?! 使いませんよ!!」

「全拒否?! 毎回自分のボディクリーム持ってくるの面倒じゃない?」


 確か美月が使っているものと同じだと思ったんだけど……私が毎回借りるから買ってくれたんだと思ったけど、違ったのかな?


「あ、なんだボディクリームか……」


 どういうこと……? 美月を見れば、サッと目を逸らされた。最初に目に付いたのがボディクリームだったけれど、他にも入っていて、見ればバスオイルや入浴剤だった。こっちを一緒に使おう、って意味だと思ったってこと? ふーん?


「美月ちゃん、一緒にお風呂入ろっか?」

「入りません!!」

「こっちの入浴剤ならお湯が濁るし、見えないんじゃない?」

「そういう問題じゃないので……!!」


 真っ赤になっちゃって、可愛い。美月とお風呂……うん。確実に襲うわ。


「何想像したのかなー?」

「もう、黙ってください……」

「美月ちゃんのえっちー」

「どっちが……」


 反応が可愛くてついつい虐めたくなっちゃうんだよね。ニヤニヤする私を睨んでくる顔も可愛い。



「……食べます?」

「うん。あ、これ美味しー!」

「っ?!」


 注文していた料理が届いて、ピザを食べる美月を眺めていたら、欲しがっていると思われたのか一切れ差し出してくれた。口で受け取れば、ピザを差し出したまま固まっている。


「美月ちゃん、もう一口ちょーだい」

「あっ、これ全部どうぞ!!」

「えー、あーんは??」

「しません!!」

「ケチー」


 私の方に置いてあった取り皿を引き寄せて、残りのピザを乗せると目の前に置いてくれた。あーんが良かったのにな。


「そんな目で見てもダメですよ。子供じゃないんですから自分で食べてください」

「美月ちゃんが冷たい……」


 拗ねて見せれば、周りを見渡して、見られていないことを確認すると無言でピザを差し出してくる。可愛すぎるでしょ……


「かわい……」

「……食べないならあげませんよ」

「わ、ごめん! 食べる食べる!!」

「ゆっくりでいいですよ」


 文句を言いつつ、食べさせてくれるんだから優しい。そんなに優しい目で見つめられたら、誰でも勘違いするから気をつけて欲しい。



「あれ、美月伝票知ってる?」


 お店を出ようと伝票を探すけれど見当たらない。少し前までは確かにあったはずなんだけれど……


「陽葵さんのお誕生日なので、今日は私が」

「え?! プレゼント貰ったからダメだよ。いくら?」

「さー? はい、行きますよー」


 私が席を外した隙に支払ってくれたってこと? この手はなに?? 掴んでいいの?? 今日の美月、イケメンすぎるんだけど……


「美月……!!」

「きゃ?!」


 あ、やば。つい衝動的に抱きしめてしまった。差し出された手を引いて抱きしめれば、聞いたことがないような可愛い声。すぐに逃げられちゃって残念。


「美月ちゃん、今のもう1回言って??」

「嫌です。というか無理です」

「可愛かったのに!! 1回だけ!」

「言いませんー! 早く出ないと、次の仕事遅れますよ!」


 美月に手を引かれてお店を出ればマネージャーさんが待っていてくれた。


「では、私も仕事に戻りますね」

「うん。ご馳走様」


 美月の手が離されて、控えめに手を振って仕事に戻って行った。今別れたばかりなのに、次に会えるのが待ち遠しい。泊まりの日の翌日は半日オフだし、それを楽しみに頑張ろう。

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