温泉旅行 前編
「とうちゃーくっ!!」
新幹線を降りてすぐからテンションMAXな陽葵ちゃん。
「新幹線に乗ってたのって1時間ちょっとくらい? 思ったより近いんだね」
「美月、早く行こっ! 食べ歩きしたい!」
旅行に行こう、と誘ってくれてから随分経ってしまったけれど半日オフが重なったから、仕事終わりにすぐ移動して旅行に来ている。
新幹線を降りたばかりで、まだ旅館についてないけれどもう陽葵ちゃんが楽しそうで嬉しい。
「この後旅館で夜ご飯だから明日帰る前にね」
「はーい。ねえ、温泉まんじゅう食べたい! あ、ソフトクリームもある。揚げかまぼこ、絶対美味しいじゃん!」
「明日全部買おうね」
キラキラした目であれもこれも、と食べたいものをあげていく陽葵ちゃんの写真を撮りながら、可愛くてついニヤニヤしちゃう。マスクをしていてよかった。
この旅行ではとにかく写真を沢山撮ろうと決めている。仕事じゃないプライベートの旅行なんて初めてだしね。
「うわ、部屋ひろっ!」
旅館について、はしゃぐ陽葵ちゃんがとにかく可愛い。今も楽しそうに部屋の中を動き回っているし。
「みつきたーん! 露天風呂凄いよ! 来てー!」
まず荷物の整理をしちゃおうかな、と思っていたら陽葵ちゃんから呼ばれて露天風呂を見に行く。
「おー、思ったより広いね」
「お湯の温度もいい感じ。早く入りたいな」
「陽葵ちゃんこっち向いてー? かわっ!! え、かわいっ!!」
片手をお湯につけてふわー、と顔をゆるめる陽葵ちゃんが可愛くてスマホを向けた。これは明日帰るまでに相当写真が増えること間違いなし。とにかく可愛い。
「ご飯美味しかったー!」
「うん。美味しかったね」
部屋にご飯を運んでもらって、周りを気にすることなく堪能できた。
「みつきたん、少し休んだら露天風呂入ろ?」
「そうだね。あー、何もしなくてもいいなんて贅沢」
もう歯磨きも終わらせたし、お風呂から出たらすぐ寝ちゃいそう。今だって、ふかふかの布団に寝転べばすぐにでも眠れそうだし。
「美月だけずるい! うわ、ふかふかー!」
自分の布団にダイブしたかと思えば、布団の上を転がっている。楽しそうでなにより。
「どーんっ!!」
「おわっ?!」
はしゃいでいる陽葵ちゃんが可愛いなぁ、とほのぼの眺めていたらそのままの勢いで私に抱きついてくる。
「ね、みつきたん、ちょっとだけいい?」
「え? 待って、陽葵ちゃんどこ触って……?!」
可愛い顔で強請るように見つめてきたかと思えば、私の返事を聞く前に悪い顔で笑って、ぎゅっと抱きしめてくれている手が服の間から入り込んで背中や腰を撫でてくる。
「んぁっ、ひま……りちゃ……待って、先にお風呂っ……!!」
「無理。待てない」
一体何処でこんなにもその気になってしまったのか。さっきまであんなに無邪気にはしゃいでたのに変わりすぎでしょ……
「美月、怒った? ごめんね?」
「いや、怒ってないけど……陽葵ちゃん、ちょっとって言葉知ってる?」
「もちろん。1回しかしてないよ?」
可愛いく首を傾げられたらもう何も言えない。これが惚れた弱みか……
「汗かいたし、お風呂入りたい」
「入ろ! 美月はもう脱いでるし先に行く?」
「脱いでる、とか言わないで」
さっきまで裸を晒していたとはいえ、今は恥ずかしいし布団にくるまっている。
「美月はもう裸だし?」
「もっと直接的になってる……陽葵ちゃん先に行って」
そのままの流れで露天風呂に入っちゃえばよかったんだけど、落ち着いちゃった今は布団から出て堂々となんてとても出来ない。恥ずかしすぎる……
「おっけー。先に行ってるね」
そう言うなり陽葵ちゃんは服をサッと脱いで露天風呂に向かっていった。
脱衣用のちょっとした仕切りはあったけど使わないんだね……
まぁ、陽葵ちゃんは裸になることに抵抗無いか。相変わらず綺麗な身体で、こっちがドキドキする。露天風呂とか色気やばそう。
「お、美月来た。早くおいで」
露天風呂のドアを開ければ、背中を向けていた陽葵ちゃんが振り向いて呼んでくれる。
そんなに見られるとタオルを取るタイミングが分からないんだけど。
「陽葵ちゃん向こう向いてて」
「なんでー?」
いやいや、絶対分かってるでしょ。
「なんでも!」
「さっきだって全部見たのに今更」
「はい、いいからあっち向く!」
「えー」
強めに言えば文句を言いつつも正面を向いてくれたから今のうちにと少し間隔をあけて入る。
「ふぁー、いいお湯ー」
「ふふ、かわい」
ちょうどいい温度で思わず声が出てしまったらくすくす笑われた。
「温泉はいいねー。温泉があるホテルでもいつも部屋風呂だったもんね。一緒に入るのって初めてだよね?」
「うん。陽葵ちゃんはメンバーと入れるのに行かないでいてくれてたもんね」
「美月が嫌かな、って思って」
直接言ったことは無いけれど、嫌だろうな、って配慮してくれていたことが嬉しかった。
「それに私だって美月の裸を見せるのは嫌だし」
「いや、私は元々皆と入るのが苦手だから見せることは無いけど」
「抵抗なく入れるタイプだったとしたらきっと入らないで、ってお願いしてたかもなー」
別にメンバーがそういう目で見てないことなんて分かってるけど、やっぱりね。
楽屋とかでも女しかいないから平気で下着姿でいるし、上半身裸になるメンバーもいるし。いや、見たくないけど目に入るんだよね。って誰に言い訳をしているのか……
「……なに?」
陽葵ちゃんがやけにニヤニヤしながらこっちを見てくる。どうせまた変なこと考えてるんでしょ。
「んー? 肌が白いからキスマークが目立つなぁ、と思って」
「珍しく沢山付けたよね」
レッスン着も大きめのシャツを着ることが多いから、ギリギリな気がするな……いつもはそんなに付けてこないのにどうしたんだろう? 前につけていい、って言ったし嫌なわけじゃないけど。むしろ陽葵ちゃんからの独占欲を感じて嬉しい。
「ちょっとテンション上がっちゃった」
旅行が嬉しくて、って照れくさそうにする陽葵ちゃんが可愛い。何? 可愛すぎませんか??
「可愛い。後で私も付けていい?」
「もちろん。今付けてくれてもいいよ?」
「ちょ、えっ?!」
1人分空いていたスペースを詰めて、足を伸ばして座る私に跨って抱きついてくる。うわっ、この体勢は色々やばい。
もちろんお互い裸な訳で。あんまり見ないようにしていた陽葵ちゃんの胸が押し付けられてるし、近いし柔らかいしおかしくなりそう。このままだと逆上せる……
「ほら、どーぞ?」
「待って、待って。無理っ!」
「ふふ、ヘタレー」
くすりと笑って離れてくれた陽葵ちゃんはいつも通り余裕で悔しい。
「さて、私は先に出てようかな。美月はゆっくり入って」
「……うん」
あー、もう……あの人はなんであんなに可愛いんでしょう?
1人になったからぐでっと脱力すれば陽葵ちゃんがつけたキスマークが目に入る。内ももとか結構際どいところにもつけられていて1人で赤面してしまった。
この感じだと背中とか、見えないところにもついてる気がする。
着替えの時気をつけなきゃって思うけど、これだけ沢山ついてたら隠しようがない気がする。切実に更衣室が欲しいです。いや、あったとしてもメンバーが入ってくるから一緒か。
いつも攻められてばっかりだし、たまには私だって陽葵ちゃんをドキドキさせたい。
キスマークをつけさせてくれるって言ってたし、そのまま押し倒そう。そうしよう。もうヘタレなんて言わせない。
あー、今からドキドキしてきた……
「おー! みつきたんえろっ! そのままこっちおいでー!」
タオルを巻いて部屋に戻ると、浴衣を着崩した陽葵ちゃんがビール片手にニヤニヤしながらこっちを見てくる。飲んでるし。
そんなに胸元開けて、陽葵ちゃんの方がエロいんですけどっ?!
「え? もう酔ってる?」
「んー? 酔ってない酔ってないーこの後またみつきたんとお楽しみだからー」
「変態……」
何本飲んだんだろう、とテーブルを見ればビールだけじゃなくて日本酒らしき空き瓶もある。そんなに待たせてないのに、飲みすぎでしょ……
とりあえず私も浴衣着ちゃおう。
「ふふ、きれーな背中。ねー、すぐ脱ぐんだからブラしなくていいのに」
背中を向けて着替えていれば、下着を身に着けたところで不満そうな声がする。そんな防御力の低い状態で陽葵ちゃんの傍に行くなんて襲ってって言ってるようなもんじゃん……無理。
「何考えてるの……陽葵ちゃんだってしてるでしょ?」
「してないけど?」
「……え?」
待って?! 浴衣の下って……え、やば……思わず振り返って陽葵ちゃんの胸元を凝視してしまう。
「確認してみる?」
私の視線に気づいてニヤリと笑われて、一気に心拍数が上がった。これは誘われてる? 誘われてるよね??
浴衣をしっかり着て陽葵ちゃんの隣に座れば、顎を掴まれて唇が重ねられて、隙間からビールを流し込まれた。
「はぁっ……いきなりすぎ」
「こういうのも好きでしょ?」
確かに、強引な陽葵ちゃんも好きだけど。次は私の番だから。
陽葵ちゃんの手からビールを取り上げて、半分くらい残っていた分を一気に飲み干す。
「えっ、美月大丈夫??」
「平気」
「んっ、はぁ……みつき……」
次は私からキスを仕掛ければ、お酒のせいで赤らんだ顔にとろんとした目で見つめられてゾクゾクする。あぁ、早く啼かせたい。
手を引いて布団まで誘導すれば、素直についてきてくれて、この後のことを考えて陽葵ちゃんに聞こえちゃうんじゃないかって思うくらいドキドキしてる。
「陽葵ちゃん……いい?」
ゆっくり押し倒せば、頷いて目を閉じてくれたから唇を重ねる。浴衣の隙間から手を差し込めば本当にブラを着けていなくて、理性が飛びそうになった。やばいって……
「本当に着けてない」
「……ん、見すぎ……」
帯を解いて浴衣を脱がせてじっと見つめればさすがに恥ずかしいのか顔を逸らす。恥ずかしがる陽葵ちゃんをもっと見たくて、ちょっと焦らそうかな、なんて思ってしまった。
「陽葵ちゃん……好き。本当に大好き」
「私も。珍しいね? どうしたの?」
横で息を整える陽葵ちゃんが愛しくて、思わず気持ちが溢れてしまった。
自分から言ったくせに無性に恥ずかしくなって顔なんて見られなくて、裸のままの豊かな胸に顔を埋める。
「ふふ、可愛い。甘えん坊みつきたん?」
優しく頭を撫でてくれて、こうやって陽葵ちゃんと一緒に過ごせることが幸せすぎて苦しくなる。
一緒に住んでいて毎日会えるけれど、お互い仕事があるしこうしてのんびり過ごせる時間は貴重。しかも今日はプライベートでの初めての旅行だし。
このまま寝たいな……さすがに嫌がられるかな?
「陽葵ちゃん、このまま寝たらだめ?」
「え、かわい。いいよ。おやすみ」
朝起きて猛烈に後悔することになる気がしたけど、陽葵ちゃんに包まれながら幸せな気持ちで眠りについた。




