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アイドルの恋愛事情~アイドルカップルの日常~  作者:
番外編

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11.日常

ツアーが終わり、逸る気持ちを抑えて部屋までの道を歩く。

一足先にツアーを終えた美月が帰ってきているはずだからそわそわしてしまって、態度には出していないつもりだったけれど、バンドメンバーや送ってくれたマネージャーさんから視線を感じていたから隠せていなかったのかもしれない。


「みつきたんただいまー!」

「わっ……おかえり。お疲れ様」


出迎えてくれた美月に飛びつけば優しい声でおかえり、と言ってくれて凄くホッとした。ツアー期間中は私が家に帰れる日は美月がホテルに泊まっていてすれ違いだったから、こうして出迎えてもらえるのは久しぶり。


先にソファに座った美月に寄りかかれば自然に肩を抱いてくれて嬉しくなる。


「帰ってきたなって感じ」

「ホテルは長く泊まると疲れるもんねー」

「うん。それに何よりも美月が居ないから」

「寂しがり屋だなー」


美月だって寂しかったくせに。そんなこと絶対言わないだろうけど。


「美月こそ寂しかったんじゃないのー?」

「そんなことありませんー」


ほら、やっぱり言わない。いつも通りのこんなやり取りも楽しくてにやけてしまう。重症かもしれない……


「陽葵ちゃんニヤニヤしすぎ」

「だって嬉しくて」

「え……ドM?」


いや、どちらかというとSだと思ってるんだけど。


「それは美月の方じゃない?」

「絶対ちがう!」

「だっていじめられるの好きでしょ? 反応良いもんね?」

「……はっ?! なんの話?!」


それはもちろん……ねえ? 


「なんのって、夜の……」

「わー、言わなくていい!」

「美月が聞いてきたんじゃん」

「そうだけど、そうじゃない……!」

「どっちよ」


あー、もう、って空いている方の手で顔を覆って呻いている。久しぶりなのにちょっと意地悪しすぎたかな?


「美月ちゃーん? おーい?」

「なんですか」

「急に敬語?!」


顔を覗き込めば返事はしてくれたけれど顔は見せてくれない。美月は素直になれないって気にしているけれど、こういう所も可愛くてたまらない。


「お風呂どうする? まだ入ってないよね?」

「うん、洗ってあるけど入ってない」


まだ少し警戒しているけれど顔を上げてくれた。


「わ、ありがとう! もしかして待っててくれたの? なーんて……え?」


冗談で聞いてみれば視線をさまよわせて恥ずかしそうにしていて、もしかして本当に待ってた……?

え、ちょっと可愛すぎませんか?


「一緒に入る?」

「……入る」

「かわいい。よし、行こー」


ちょっとの距離だけれど、手を差し出せばぎゅっと握り返してくれてニヤニヤしてしまう。

美月がいない間寂しかったし、できるだけくっついていたくて、着替えを用意して手を繋いだままお風呂場に向かう。

重いかなって自分でも思うけれど、美月も受け入れてくれるからつい甘えちゃう。



「陽葵ちゃん、髪洗ってもいい?」

「うん。よろしくー」


メイクを落とし終わったところで美月が入ってきて、シャワーで丁寧に髪を濡らしてくれる。


「わ、短い……」


髪を切ってから洗ってもらうのが初めてだから改めて短さに驚いたみたい。優しく洗ってくれて、あっという間に終わった。


「美月、交代」

「え、私はいいよ」

「はい、ここ座ってー」


いつも断られるから、今日はちょっと強引に椅子に座らせる。


「ちょ、強引……」

「これくらいしないと洗わせてくれないでしょ」

「自分でやるのに」

「たまには私にもさせてよ。はい、上向いてー」


諦めたのか大人しく上を向いてくれる。目をぎゅっと瞑っていて、無防備すぎてなんだかドキドキする。

触りたくなるのを耐えて、美月がしてくれたように柔らかい髪を丁寧に洗う。


「痒いところはありませんかー?」

「あはは、無いでーす」

「じゃあ流しますねー」

「はーい。お願いしまーす」


少しでもリラックスしてくれるように美容師さんの真似をしてみたらなんだか楽しくなってしまって2人で笑いながら髪を洗い終えた。


「身体も洗おうか?」

「自分で洗いますー!」

「はい、スポンジ」


身体はさすがにだめらしいから、先に洗って湯船に浸かる。綺麗な背中を見ればキスマークはすっかり消えてしまっていてちょっと寂しい。


「え……見すぎ」


シャワーを取ろうとした時に視線に気づいたのかちょっとびっくりしている。いや、もちろん見るでしょ。見るよね?


「綺麗だなーって」

「そんなことないし……それを言うなら陽葵ちゃんの方が綺麗」

「じゃ、どっちもってことで!」

「あ、否定しないんだ」


否定したって平行線だし、一応アイドルをやってた訳で。グラビアもあったからボディケアには気を使ってたしね。

そういえば今日は入浴剤選んでないのかな?


「ね、入浴剤選んだ??」

「そこに置いてあるの入れてくれる?」


袋を開けるとローズの香りが広がった。今日はローズにしたんだね。


「入れたよー」

「ありがとう」


メイクを落とし終わって横に並んで座って、いい匂い、とお湯をすくって嬉しそうにしていて可愛い。


「やっぱり家のお風呂はいいね」

「ホテルの温泉とか入らなかったの?」

「うん。面倒だし部屋で入ってた」


メンバーがいる時は美月が嫌がるかな、と部屋で入っていたからそれに慣れてしまった。美月は大勢で入るのが苦手、と元々部屋で入っていたしね。メンバーにも美月の裸は見せたくないし、苦手で良かった。


「今度さ、旅行行こうよ。温泉付きの部屋なんてどう?」

「え、行きたい! 行こうー!」


思ったより乗り気でびっくりした。出来れば泊まりたいけれど、最悪日帰りでもいいかな。絶対楽しいと思う。


「温泉でイチャイチャしようね」

「え、何考えてるの?? しません」

「なんで? 2人だけならいいじゃん」

「家でも緊張するのに外でなんて無理」


入浴剤効果で随分慣れたかな、と思ったけれどまだ緊張するらしい。いつになっても初々しいな。


「今も緊張してるの?」

「してる」

「本当だ。ドキドキしてるね」

「待って、さりげなくどこ触ってるんですか……?」


何かされると思っているのか、かなりドキドキしているみたい。


「ん? 美月も触る?」

「触りませんー!!」

「はは、真っ赤。かわいー」

「もう出るっ!」


手を取って胸元に触れさせようとすれば慌てて手を引いて、浴室を出ていった。私も出ようかな。


「はい、タオル」

「ありがとー」


ドアを開ければタオルを渡してくれて、いつものTシャツ短パン姿で髪を乾かそうとしている。着替えるの早……


「美月、待って。私がやりたい」

「いいけど、服着て?」


タオルを巻いてドライヤーを受け取ろうとしたら渡してくれない。暑いのにな……


「えー。暑いんだけど」

「じゃあ自分でやりますー」

「タオル巻いてるしいいじゃん。ね?」


見つめれば渋々渡してくれて、なんだかんだ私に甘い。

乾かしながら鏡越しに見つめれば照れくさそうに笑われてキュンとする。


「はい、終わり」

「ありがとう。陽葵ちゃんは?」

「私はいいや」


すぐに乾くしね。今までとは逆でなんだか新鮮。

私の髪を乾かすのが好きだったからか、美月はちょっと不満そうだけれどそんな顔も可愛い。


歯磨きをし終わって口をゆすいでいたら横から視線を感じて、美月を見ればサッと逸らされる。


「何見てるのー?」

「え、見てないし」

「えっちー」

「陽葵ちゃんがそんな格好でいるからっ!」

「ほら、見てたんじゃん」


あ、って言う顔をするから素直すぎて笑ってしまったら睨んでくるけど全然怖くないし。


「もー! 早く服着ないと襲うからねっ?!」

「なになに? 襲ってくれるのー?」

「わっ?! ちょ、ちか……」


近づいてじっと見つめれば途端に慌てだして、襲う、なんて強気なことを言いながらも視線を逸らされる。


「ふふ、ヘタレー」

「なっ……ヘタレじゃないし!」

「ふーん?」


見つめれば、早く服着てよね! なんて言いながら足早に逃げ出すから可愛くて仕方がない。


ベッドに仰向けに寝転んでスマホを見ている美月の腰に抱きついて、胸元に頬をつけて横になる。空いている手で頭を撫でてくれて、自然に甘やかしてくれるのが嬉しい。


「こうしてると落ち着く。美月、好きだよ」

「えっ?! いきなりどうしたの?」


突然できょとん、と目を瞬かせている。

メッセージで私の方が好き、なんて送ってくるから今度会ったらちゃんと伝えようと思っていた。美月にも出来れば言って欲しいな。


「美月ちゃんが私の方が好き、だなんて送り逃げしてくるからー」

「わっ、そんな前のこと……!」

「可愛いことしてくるから寝れなかったんですけどー」

「そんなの知らないし」


メッセージを見返してはニヤニヤしてしまい、次の日もふとした時に思い出してにやけてしまって、バンドメンバーに弄られた。

普段好き、なんて送ってくることは無いし、見間違いかな、って2度見したもんね。


「ね、言って?」

「何を?」

「好き?」

「うん」


うん、も可愛いけどね? 今のは私の聞き方が悪かったかな。


「ねー、私の事どう思ってるのー?」

「またそんな風にニヤニヤして……そんなの分かってるでしょ」

「ぉわっ?!」


顔を見ようとすればぎゅっと抱きしめられて見えないようにされた。照れちゃって可愛いな。

仕方ないから誤魔化されてあげようかな。態度で表してくれてるし、誕生日の時にちゃんと言葉を貰ったしね。


「美月、顔見せてよ」

「いやでーす」

「ツンデレー! ヘタレー」

「今ヘタレは関係なくないっ?!」


ヘタレじゃないし……って声ちっさ! ちょっと自分でも自信無くなってるじゃん。

キスをするにも私の反応を伺ってくれるし、優しいだけなのは分かっているけれど、もっと強引に来てくれてもいいんだけどな。


「ふぁっ?! ちょっとやめ……」

「んー? 何を?」


まぁ、そうはいってもいつも待てなくて私が先に手を出しちゃうんだけどね。

抱きしめられているから触りづらいけれどTシャツの隙間から手を入れて脇腹を撫でると慌てたような声が上がる。


「何をって……っ、朝早いからだめ……!」

「早くなかったら本当はシたかった?」

「なっ……そんなこと言ってないし!」


力が抜けた腕の中から抜け出して組み敷けばビクッとして固まっている。


「そんなに怯えちゃって、唆る……」

「もう、ほんっと変態……!!」

「抵抗しないの?」

「え……本気じゃないよね??」


朝早いのが残念で仕方ない。これ以上ちょっかいを出すと止められなくなるからこの辺でやめておかないとね。


「ふふ、冗談」

「良かった……」


それにしても安心しすぎじゃない? 


「そんなに安心されるといじめたくなるな」

「えっ?! 変態……! も、離して」

「変態言い過ぎ……」

「なんでもいいから離してー!」


私の肩を押して抜け出そうとバタバタしているのが可愛くてずっと見ていられるけれど、いじめすぎると拗ねるからな……


「おっけー。あ、ちょっとうつ伏せになってくれる?」

「え、うつ伏せ?? いいけど、なに??」


美月の上から降りて横に座ればきょとん、としつつ素直にうつ伏せになってくれたからTシャツを捲りあげて背中に触れると困惑した声がする。


「ここ、キスマークつけていい?」

「あっ!! 言っておいてよ! この前恥ずかしかったんだから……!!」

「凛花以外にも見られた?」

「分からないけど、視線は感じたから多分見られた」


本当ならもっと沢山つけて私の、って主張したいけれどそれは出来ないからね。


「やだ?」

「ううん、嫌じゃないけど……なんでまた背中?」

「今度はちゃんと許可を取ってからつけようかなって。違うところがいい?」

「んー、服で隠れるところならどこでも」


え、どこでもとかやば……デレが凄い。


「そんなこと言うといっぱいつけるよ?」

「……いいよ」

「えっ?!」


いいの?? 想定外すぎて思考が追いつかない。


「え、って陽葵ちゃんが言ってきたんじゃん」

「いや、それはそうなんだけど……」


まさか美月からこんな返答が来るなんて思わなかった……そこまで許されると自制できなくなりそう。


「美月は私に甘いね。目立つところにつけちゃうかもよ?」

「そこは信頼してるのでー」

「……ありがと」


なんか照れる。もちろん信頼を裏切るようなことはしないけどね。


「つけないの? ……あれ、もしかして照れてる? 珍しー!」

「つける。……よし、ついた」


一向に動かない私を不思議そうに見たかと思えばニヤニヤしてからかってくる。私だって照れることはあるよ。


「……っん、ついた? 背中だと見えないからなー。着替えの時気をつけよ」


口調は冷静だけれど、ニヤついていて可愛い。気づかれてるとは思ってないんだろうけれど。

恥ずかしい、と言いつつこの前も喜んでくれてたのかな?


「さて、寝よっか?」

「うん。陽葵ちゃん、おいでー」


横向きになって腕を広げて呼んでくれて、ぎゅっと抱きつけば目を細めて笑ってくれる。


おいで、って呼んでくれる声が優しくて、日常が戻ってきたなって幸せな気持ちになる。またこうして美月と一緒に眠れる日々が戻ってきて嬉しい。


「みつきたん、ちゅーして?」

「……っ、甘えたな陽葵ちゃん可愛い」


甘えれば優しい目で見つめて、照れたように笑ってキスをしてくれる。そんな美月の方が絶対可愛い。


「陽葵ちゃん、おやすみ」

「うん、おやすみ」


お互い仕事が忙しくてなかなか会えない日もあったりするけれど、離れている時間があるとこうして一緒にいられる時間が凄く貴重なものなんだなって改めて思う。


これからも一緒に過ごせる時間を大切にしていきたいな。

予定より1話オーバーしましたが、一旦ここで番外編も完結とさせていただきます。番外編までお付き合い頂き、ありがとうございました!

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