6.共演
歌番組のリハのために楽屋を出て移動すると、ちょうどリハをしているところだったのか陽葵ちゃんの歌声が聞こえてきた。
卒業後こんなに早く共演が出来るなんて思っていなかったから、同じ日に歌番組に出演すると分かった時にはびっくりした。陽葵ちゃんも驚いてたし。
「お、美月ちゃんお疲れー」
「センター頑張れー」
「生のパフォーマンス楽しみにしてる」
「うわ、皆さんやめてくださいよ、プレッシャー!!」
入れ替わりの時にバンドメンバーの皆さんが声をかけてくれた。陽葵ちゃんは居ないから前の方にいるメンバーと話してるのかな。
陽葵ちゃんから聞いていたのか、楽しみにしてくれてるのは有難いけれどプレッシャー……
今日はセンターに抜擢していただいて、単独センターをさせてもらえることになって緊張しているっていうのに……
陽葵ちゃんは本当に凄い。毎回こんなプレッシャーと戦ってたってことでしょ?
「皆久しぶりー! 元気だった? 今日は共演よろしくね!」
「陽葵さんー!」
「お久しぶりです! CD買いました!」
「私も買いました! 毎日聞いてます」
陽葵ちゃんがすれ違う時にメンバーに明るく話しかけていて皆嬉しそう。陽葵ちゃんも楽しみにしていたから嬉しそうにしている。
「お、ほんと? ありがとう! 凛花、時間あるメンバーが居たら誘っておいてくれる?」
「了解ー!」
この後の仕事は無いから、凛花さんと3人でご飯に行く約束をしている。他にも行きたい人いるかなって3人のトークで話していたし、さっきの感じだと皆話したいことが沢山ありそうだもんね。
「新メンバーの子たちだよね? 初めまして。工藤陽葵です」
「えっ?!」
「うわ、え、はじめまして……」
私の近くにいた新メンバーのみんなは初めて会う陽葵ちゃんに固まっている。
陽葵ちゃんに憧れて入ってきてくれた子も多いし、今日の陽葵ちゃんはこの前と同じような濃いメイクで、髪型は違うアレンジだけれど綺麗だしかっこよくて見慣れていてもドキドキするからそうなる気持ちはよく分かる。
「今日はみんなも出るの?」
「ううん。見学だけ」
緊張しすぎて首を振ることしか出来ていないから私が答えちゃう。新メンバーはまだステージには上がらないけれど、見学するために一緒に来させてもらっている。
「大変なことも多いと思うけど、こんなに良いグループはないと思うから頑張ってね」
「「はいっ!!」」
憧れの人に優しく微笑まれて放心状態のメンバーもいるし、落ち着くまで時間がかかりそうだな……
「じゃ、美月またね」
「うん、また」
すれ違う時に私の緊張を感じ取ってか安心させるように笑ってくれて、頭をぽん、として少し先で待っていたバンドメンバーと一緒に楽屋に戻って行った。
「あー、もうありがとうございます!」
「久しぶりの陽葵さんと美月さんー!」
「頭ぽん、やばい」
「あの2人って本当だったんだ……」
美南ちゃんと望実ちゃんを中心に盛り上がり始めたからさりげなく距離をとる。本当って何……?
早くリハ始まらないかな……
「終わったらご飯行く人ー?」
「行きたいです」
「はい!」
リハが終わって楽屋に戻ると、凛花さんが早速この後の予定をメンバーに確認している。
凛花さん、陽葵ちゃんが来るって言ってないけどサプライズですか??
陽葵ちゃんが凛花さんに言っていた言葉は近くのメンバーにしか聞こえてないだろうし。
生放送が始まって、陽葵ちゃんの番が近づいてきて何故か私がそわそわしてしまう。
『次は、工藤陽葵さんです』
「よろしくお願いします」
『工藤さんはソロでは初登場ですね』
「はい。ありがとうございます」
『今日は元のグループとの共演になりましたが、如何ですか?』
「初登場にこうしてメンバーがいるのは心強いです。実はかなり緊張していて」
『そうは見えないですよ』
「本当ですか?」
『やっぱりソロだと違いますか?』
「全然違いますね。新メンバーも入りましたし、かっこ悪い姿は見せられないな、と」
『気合十分ですね』
「はい! 頑張ります」
『先日はデビュー記念のイベントも大盛況だったそうですね』
「本当に有難いです。会場でも配信でも沢山の方に応援いただいて。ツアーも始まりますので、沢山の方にお会い出来るのが今から楽しみです」
『はい、それではスタンバイをお願いします』
「よろしくお願いします」
カメラに向かって手を振りながら笑顔でバンドメンバーの所に向かう陽葵ちゃんは緊張していると言いながらも、堂々としていてかっこいい。ソロデビューしてからこうして生歌を聞くのが初めてで楽しみ。家ではよく歌ってるけどまた違うもんね。
バンドメンバーに迎え入れられて笑顔を見せる陽葵ちゃんが楽しそうで、ちょっと寂しくもあり、信頼できる仲間がいて安心もする。
抜群の歌唱力でデビューシングルの披露が終わり、次は私たちの番が来る。センターという事でひな壇にも上がらせてもらっているから緊張……トーク苦手なんだよね……
『本日は山内さんがセンターをされるということですね』
「はい。物凄く緊張していますが、精一杯頑張ります」
『山内さんも工藤さんと同じでそうは見えないですよ』
「あまり顔には出ないのですが、内心ドキドキです」
やっぱりトークは苦手。顔ひきつってないか心配……
『先程の工藤さんのパフォーマンスは如何でしたか?』
「陽葵の生歌を久しぶりに聞きましたが、また上手くなったなと聞き惚れました」
次は隣に座っている凛花さんが話してくれて、1人じゃなくて良かった。
『石川さん、工藤さんからキャプテンを引き継いで如何ですか?』
「大変さを実感していますが、任せて頂いたからには全力で頑張りたいと思います」
『最近新メンバーも加入されて更に大所帯になりましたね』
「はい。若いメンバーが入ってきて更に活性化されているので、新しくなったグループに是非期待して頂きたいです」
個性の強いメンバーをまとめるのは本当大変だと思う。先輩後輩の間に挟まれるわけだし。トークもしっかりしてるし、後輩だけれど頼もしい。
『はい、それではスタンバイお願いします』
「「よろしくお願いします」」
今までは陽葵ちゃんがみんなを見回して笑ってくれて安心したから、同じようには出来ないけれど、私なりに皆を引っ張れるようにしっかり頑張らないとね。
無事にパフォーマンスが終わってひな壇に戻ると、ちょうど陽葵ちゃんの隣だった。
「お疲れ様」
「陽葵ちゃんもお疲れ様」
CDのランキングが流れて、陽葵ちゃんもランクインしているからそろそろのはず。
「あ、陽葵ちゃんだ。ランクインおめでとう!」
「ありがとう。あ、ワイプに抜かれてる」
「わ、本当だ」
陽葵ちゃんが卒業してからもこうして2人で映るとは思わなかったから、なんだか照れつつも手を振った。
無事に本番が終わり、それぞれ楽屋に戻っていく。陽葵ちゃんとはお店で合流することになっているから1度解散になるけれど、この後のご飯に陽葵ちゃんが来るとは思っていないメンバーは名残惜しそうに陽葵ちゃんと話していて、お店での反応がちょっと楽しみになってしまった。
凛花さんはサプライズにするつもりみたいだし、内緒にしてるけど許してね。




