5.誕生日(美月)
無事にソロデビューをして、また忙しい日々が始まったけれど、毎日が充実している。
美月も忙しくしているけれど、朝と夜は会えるから同じグループに居た時よりもプライベートでの時間は大幅に増えた。
私が先に帰って寝落ちしても、後から帰ってきた美月が起こしてくれてちゃんとベッドで寝ているから、何となく体調もいい気がする。毎回、呆れながらも優しく起こしてくれて感謝しかない。
明日は美月の誕生日だから、今日は絶対寝落ちしないと強い気持ちでいる。いつもそうしてって言われそうだけれど……
「陽葵、なんか機嫌いいね?」
「え、そう?」
「うん。いい事でもあった?」
歌番組のために楽屋でメイクをしてくれているみくさんが不思議そうに聞いてくる。みくさんはソロになった後も、グループの方での仕事がなければ来てくれている。
みくさんだと全部分かってくれているし気が楽。みくさんもアイドルの頃とはメイクも違って、色々試せて楽しいと言ってくれている。
「明日が美月の誕生日で」
「あー、美月は6月だっけ。何歳?」
「21歳になる」
「うわ、もう? 入った頃を思うと変わったよね」
みくさんは1期生のデビュー当時から担当してくれているからもちろん2期生がデビューした時の事も知っている。昔の美月を知っている人はみんな言うけれど、かなり変わったからね。
「変わったねー」
「まあ、陽葵も変わったけどね。丸くなったよね」
「1期生が濃すぎたからね……」
「ああ、うん」
デビュー当時は1期生しかいなかったし、皆多感な時期でメンバー同士の喧嘩もよくあった気がする。大人の皆さんには苦労をかけたと思うと申し訳ない……
みくさんは姉のように見守ってくれて皆懐いていたし、当時もよく相談に乗ってもらっていた。そう思うと長い付き合いだよね。
「みくさんには感謝してますよ」
「なに、急に……気持ち悪」
「うわ、ひど!」
「はい、出来た」
話をしていたらあっという間に終わって、鏡を見ればアイドル時代とは違った少し濃いメイクの自分が映っている。
「あれ、今日なんか濃い?」
「かっこいい感じにしてみた。髪もちょっといじるよ」
「お任せしまーす!」
私よりも私のことを分かってくれているからもうお任せ。みくさんに任せておけば間違いないしね。
髪もセットしてもらって、SNS用に写真を撮ってもらう。歌番組が終われば帰るだけだし、美月はどんな反応するかな?
「ただいまー!」
「陽葵ちゃんお帰り。わ、そのまま帰ってきたんだ! やっぱりかっこいい」
先に帰ってきていた美月が私を見て、目を輝かせて近づいてくる。
「みくさんがかっこいい感じにしてくれてさ」
「放送と投稿見た時も思ったけど、よく似合ってる」
歌番組も、投稿した写真も見てくれてたみたい。
「写真撮っていい?」
「手洗ってくるから、その後で一緒に撮ろ」
よほど気に入ってくれたのか後ろからついてきて髪を触ってくる。
「ふふ、そんなに気に入った?」
「うん。かっこいい」
「素直。可愛い」
なんだか普段よりくっついてきてくれて可愛い。私がショートの時もかっこいいって言ってくれてたし、また短くしてもいいかもな……
「ね、私が髪切ったら嫌?」
「え、切っちゃうの?」
「またショートにするのも良いかもなって」
「ショートも似合うからいいと思う。綺麗な髪だから勿体ない気もするけど……」
いつも丁寧にケアしてくれてるもんね。ツアーが始まれば地方に行くことが増えるし美月はそばにいないから、髪の手入れは間違いなく適当になるし切ろうかな。アイドルの時は許可が下りなかっただろうけれど今はそんなことも無いしね。
「今度のオフに一緒についてきてくれる?」
「切るの?」
「うん。1番に見て欲しいなって」
こんなに伸ばすことがこの先あるか分からないし、かなりイメージも変わるだろうから。美月も写真じゃなくて直接見せたい、と思ってくれた時があったけれど、こんな気持ちだったのかな?
「分かった。一緒に行こ」
「ありがと。写真撮ってお風呂入ろっか」
あと2時間くらいで日付が変わるし、早めに入ってのんびりしたい。
「満足した?」
「うん!」
何枚かツーショットの写真を撮って、美月が満足するまで私ひとりの写真を撮られた。相当お気に召したらしい。
「可愛い。おいで」
両手を広げて呼んでみればぎゅっと抱きついてきてくれて、素直すぎてびっくりした。みくさんありがとう……!
「デレみつきやばい。21歳になってもデレてね?」
「さー、それはどうでしょう」
「それなら今堪能しとこ」
頭を撫でれば気持ちよさそうに目を細めて擦り寄って来てくれて破壊力が凄い。ツンはどこいった……?
「お風呂どうする? 美月先入る?」
誕生日をベッドで迎える事になっちゃうから今日は別で入った方がいい気がする。
「一緒に入らないの?」
……誘ってるのかな? 美月からそんなこと言うなんて珍しい。今日ほどツンな美月に戻ってきて欲しいと思うことは無い気がする。結構耐えてるんですけどね?
「うん。先に入っておいで」
「はーい」
素直に返事をしてお風呂場に向かってくれてホッとした。
今のうちにプレゼントを出しておこうかな。気に入ってくれるといいけど。
美月と交代でお風呂に入って、今日は自分で髪を乾かす。どうしても時間がかかるから残り1時間を切っている。まだデレは継続中かな?
「お待たせ」
「お帰りー。ちゃんと乾かしたんだね」
「たまにはね」
隣に座った私の髪に触れながら偉い、なんて褒めてくる。まだデレは継続中みたい。腕を引けば素直に抱きついてきて胸元に頬をつけてすりすりしてくるし、私は理性を試されてるのかな……
「陽葵ちゃん、もう寝ようよ」
「もうすぐで誕生日だよ? もうちょっと起きておこうよ」
「えー」
えー、って何? 可愛すぎるでしょ。すっごく不満そうだしやっぱり誘われてるよね? そうだよね?
「みつきたん、誘ってるのー?」
普段なら誘ってませーんって返ってくる所だけれど、今日はそれがなくてシャツをきゅっと掴んでくる。
「ぴったりにお祝い出来ないよ? ベッド行く?」
最後の確認をすれば小さく頷かれて、手を引いて寝室に連れていく。大人しくついてきて、可愛すぎてどうしよう……
美月が眠りに落ちた時にはとっくに日付は変わっていて、言葉では伝えたけれど結局プレゼントは渡せていない。よく寝てるし、今持ってこようかな。起きた時の反応が楽しみ。
「美月、朝だよー」
「んぅ……朝??」
「うん。6時」
「え?!」
パタッと寝ちゃったから朝なことにびっくりして一気に目が覚めたみたい。
「おはよ」
「……おはよう」
「身体辛くない?」
「……っ!!」
私の言葉に昨日の自分を思い出したのか両手で顔を覆った。照れちゃって可愛い。
「え、これ……え??」
「改めて、21歳の誕生日おめでとう」
「ありがとう……!」
ベタかな、と思ったけれどプレゼントはペアリングにした。朝渡そうかなと思ったけれど寝てる間に小指につけておいたから、自分の手を見てきょとんとしている。
「ペアリングにしてみましたー! 美月は仕事では付けられないけど、オフの時とか家で付けてくれたら嬉しいな」
「綺麗……これってシルバー??」
「ううん、プラチナ。21歳の誕生日にプラチナを貰うと幸せになれる、とか?」
「そんなのがあるんだ? もう幸せだけどね」
え、可愛い。自分の小指と私の小指の指輪を見ながらうわー、と目を輝かせているから喜んでくれてるみたい。気に入ってくれたみたいでよかった。
「陽葵ちゃんも家だけでしょ?」
「ううん。私は付けとく。一応カモフラージュで人差し指に付けるプチプラリングを買ったから」
ピンキーリングだけだと目立つだろうしね。
「無くさないようにしないと……!」
「ケースがあるから入れておけば大丈夫でしょ」
はい、とケースを渡せば、ケースも可愛い! と無邪気な笑顔を見せてくれる。朝から可愛いな……!
仕事の支度をして、家を出る前に指輪を外して大事そうにケースにしまっている。
「気をつけて行ってらっしゃい」
「うん、行ってきます」
今日は美月の方が早く出るから玄関までお見送り。誕生日でメンバーやファンの方に沢山お祝いしてもらう1日だから楽しんで欲しい。
1番にお祝いしたのは私だけどね? そこはやっぱり譲れない。
「あ、待って」
「……んっ」
「21歳初のキスー! あ、初じゃないか。夜中にいっぱいしてたわ。みつきたんが誘ってくるからー」
「誘ってませーん!!」
「ふふ、ツンデレー」
普段通りに戻ったツンデレに思わず笑ってしまったら睨まれた。ほんと可愛い。
「イベント、楽しんでね」
「……うん。楽しんでくる」
美月を見送って、自分の準備を始める。小指と人差し指に付けた指輪はまだ違和感があるけれどすぐに慣れるかな。
小指の指輪は外さないけれど、薬指以外の指には色々付け替えてみようと思っている。
山内 美月
21歳になりました。
今年も沢山のお祝いの言葉やプレゼントをありがとうございます。とても嬉しいです。
ツンデレと言われる私ですが、今年も変わらず、私らしく頑張ります。




