47.卒業発表
年が明けて最初の泊まりの日、ソファでのんびりしていると陽葵ちゃんに声をかけられた。
「美月、ちょっといい?」
「……うん」
じっと見つめてくる表情は真剣で、ついにその日が来たのかな、と思った。
「聞いて欲しいことがあって……卒業をね、決めた。美月には先に伝えておきたくて」
「……いつ?」
「発表は来週の番組内で時間を貰ってて。卒業は誕生日までにはしたいとは伝えてる」
「誕生日まで……」
4月末が陽葵ちゃんの誕生日で、その前となるとあと3ヶ月ちょっと……
「まだ具体的な日にちは決まってないけれど、4月のどこかで最終活動日を迎える事になると思う」
何となく準備を進めているな、とは思っていたし、心の準備もしていたつもりだったけれど、いざ言われると言葉が出ない。
「美月、おいで」
笑顔でいようって決めていたのに涙が溢れてしまって、慌てて下を向いたらそっと抱き寄せてくれた。
「不安とか、思ってること全部吐き出していいよ」
陽葵ちゃんだって不安なはずなのに、こうして私に寄り添ってくれてやっぱり大人だなって思う。私のまとまりのない言葉を一つ一つ聞いてくれて、気持ちが落ち着くまでずっと頭を撫でてくれたり、背中をさすってくれた。
「ぐすっ……ごめん、もう大丈夫。卒業後はどうするか決まってるの?」
「うん。事務所はそのままで、ソロデビューする事になった」
「え?! 凄い!! おめでとう!!」
顔を上げると、そっと涙を拭ってくれて、ソロデビューが決まっていると教えてくれた。卒業後はソロ活動かな、と思っていたからこれからも陽葵ちゃんの歌が聞けるのは嬉しい。グループから居なくなるのは想像もつかないし辛いけれど、新しい道を全力で応援したい。
「応援してる」
「ありがと。……卒業してもそばに居てくれる?」
ちょっと不安そうに聞いてくるけれど、前も言った通り、そんなの答えは決まってる。むしろ私からお願いしたい。
「もちろん。私で良ければずっといさせてください」
「美月がいい。ありがとう」
陽葵ちゃんも目が潤んでいるように見えるし、グループから飛び出して1人でやっていくのは不安だよね。私に何か出来ること無いかな……
「陽葵ちゃんは大丈夫? 不安とか……何か出来ることがあればしたいし、支えたい」
ソファで寄り添いながら、今度は陽葵ちゃんの不安を話して欲しいな、と思って促してみる。さっきまで泣いていたから頼りないかもしれないけれど……
「もう支えてもらってるし、そばに居てくれるだけで充分」
「それだけでいいの?」
笑ってそんな嬉しいことを言ってくれるけれど、しばらく待つと、少し迷うような仕草を見せて、ぽつりぽつりと気持ちを話してくれた。
普段は弱い所を見せたがらないのに、不安や沢山悩んだことをさらけ出してくれた陽葵ちゃんがどうしようもなく愛しい。
「え、美月?? どうしたの?」
陽葵ちゃんを愛したくて、手を引いて寝室に移動するように促す。
「今日は私の番。いい?」
ベッドに腰掛けてもらって、じっと目を見つめると、笑って頷いてくれたから唇を重ねてゆっくり押し倒した。
「陽葵ちゃん、グラビアの予定ってある?」
「ないけど……っ!」
シャツを脱がせて、下着をずらしてキスマークを残す。前に理性が飛んで付けすぎてからは自制していたけれど、今日は抑えられそうにない。もちろん衣装で見えるようなところには付けないけれど。
「なんか久しぶりな気がする。嬉しい」
「かわっ……!!」
私が残した跡に触れて微笑む陽葵ちゃんが可愛すぎる。
「もっと付けて?」
こっちは理性を繋ぎ止めるのに必死なのにそんなに煽ってきて、どうなっても知らないよ??
眠りに落ちた陽葵ちゃんを眺めながら、これからの事を考える。メンバーもファンの皆さんもすぐには受け入れられないだろうけれど、卒業までの間に沢山の思い出が作れたらいいな。
まずは来週の卒業発表を笑顔で終えたい。もう今日沢山泣いたし、泣かないでいられるはず!
来週は私が配信当番だし、放送の後の配信は陽葵ちゃんの卒業についてのコメントが凄そうだな……
*****
美月に卒業を決めたことを話して、そばにいてくれると言って貰えて嬉しかった。泣かせてしまったけれど、察していたみたいで、少しずつ心の準備をしてくれていたみたい。
辛いはずなのに私のことを気遣ってくれて、不安や悩みを受け止めてくれた美月が愛しいな、と思っていたら無言で手を引かれた。
「今日は私の番。いい?」
寝室のベッドに座るように促され、熱い視線で見つめられる。頷けば優しくベッドに押し倒された。どんな風に触れてくれるのかな、とドキドキする。
シャツを脱がされて、グラビアの予定があるかを聞かれたから無いと答えれば、下着がずらされてキツく吸い付かれる。
前にキスマークを付けすぎたことを気にしているのか、最近は付けてくれることがなかったから何だか嬉しい。美月は謝ってくれたけれど、理性を無くすほど夢中になってくれたことが嬉しかったし、消えてしまった時には寂しかった。
「もっと付けて?」
思わずそんな事を言ってしまえば驚いたように目を見開いたけれど、目付きが変わったからスイッチが入ったみたい。
「そんなに煽ってきて、どうなっても知らないよ??」
言葉とは裏腹に触れてくる手つきは優しくて、大事にされてるなって思えて安心して身を任せた。
そのまま寝てしまったようで起きれば裸で、下着で隠れる所に付いた沢山のキスマークが目に入る。美月は起きた時に見てどんな反応をするのかな。
卒業後も一緒にいてくれると言ってくれたし、グループで活動する残りの期間も、ソロになってからも一緒に沢山の思い出を作りたい。
新年一回目の冠番組は生放送で、この後卒業発表の時間を貰っている。ファンの皆さんはもちろん、メンバーも数人しか知らないから、驚かせてしまうと思うけれど。
「さて、生放送でお送りしてきましたが、そろそろ終わりの時間が迫ってまいりました。新曲披露の前に、ここでお知らせがあります……え、お知らせ??」
進行役をしていた望実ちゃんがカンペを見て首を傾げている。望実ちゃん、ごめんね。
「はい。私から皆さんにお知らせが」
「え?! 何?!」
「陽葵さんから??」
「怖い怖い!」
「何? 何?」
前に出ると、メンバーの動揺する声が聞こえてくる。
「私、工藤 陽葵はグループを卒業します」
「嘘?!」
「え、え??」
「ドッキリ?!」
皆ざわついていて、メンバーの方を見ると泣いてくれている子もいて、嬉しくもあり、驚かせて申し訳なくもある。美月を見れば目が合って、力強く頷いてくれた。
「突然で驚かせてしまって申し訳ありません。皆さんにお伝えしたい事が沢山あるのですが、この場では時間もないので、発表だけとさせてください。卒業日や今後のスケジュール等は公式のSNSや私個人のSNSからお知らせさせていただきますが、引き続きグループの事を応援頂けたら嬉しいです。……さて、ちょっとしんみりしちゃいましたが、予定通り新曲を披露させて頂きたいと思います!」
歌の途中で代わる代わるメンバーが近づいてきてくれて、肩を抱いたり、ハグしたりして一言二言話をする。
途中では美月からぎゅっと抱きしめてくれて、生放送で美月から抱きしめてくれるなんて思わなくて驚いたけれど嬉しかった。
「陽葵さん、本当に卒業しちゃうんですか?!」
「寂しいです……」
「卒業までまだ時間ありますよね??」
スケジュールの確認をしてから楽屋に戻ると、皆帰らずに待っていてくれたみたいで、凄く嬉しいけれど、次の仕事が迫っていてゆっくり話してる時間が無い……
「え、皆待っててくれたの? ありがとうー! でもごめん、すぐ移動しなきゃならなくて……着替えながらでもいい?」
せっかく待っててくれたのに、みんなとゆっくり話をする時間が取れなくて申し訳ないな……卒業までに個別に話をする時間を取ると約束して解散した。
次の仕事に向かう途中、SNSを開くと沢山のメッセージが届いていて、一つ一つ確認していく。ファンの方も沢山投稿をして下さっていて、メンバーも気持ちを投稿してくれていて、本当に卒業発表をしたんだな、と実感する。
残りの期間、悔いのないように全力で頑張ろう。
工藤 陽葵
本日、卒業発表をさせて頂きました。突然で驚かせてしまい申し訳ありません。
ソロでの活動が増えるにつれ、グループを疎かにしてしまっているのではないかと考えることが多くなりました。
グループでの活動に参加出来ないことが多いにも関わらず、私を慕ってくれるメンバーが大切で大好きで、居心地のいいグループにずっと居たいと思ってなかなか決断ができなかったのですが、9周年ライブでの若手の活躍や、一人一人が輝いている姿を見て、新しい1歩を踏み出す勇気をもらいました。
キャプテンらしい事なんて何一つ出来ませんでしたが、卒業までの期間、今まで以上に全力で駆け抜けたいと思います。
卒業後も音楽は続けていきますので、ファンの皆さん、そしてメンバーと新しい関係性を築いていけたらなと思っています。
アイドルを終える最後の日まで、見届けていただけたら嬉しいです。 工藤 陽葵




