38.おうちデート
映画を見終わって、特に行きたいところが浮かばなかったから家に帰ってのんびりしたらどうかなと提案してみたら、予想以上の好反応が返ってきた。
映画も集中できていなかったみたいだし、疲れちゃったのかな? 明日からまた仕事だし、ゆっくり休んで欲しい。
スーパーで夜ご飯の食材を買って、陽葵ちゃんの家まで歩く。まだ15時を少し過ぎたくらいの明るい時間帯に、買い物袋を手に2人並んで家に帰っているなんてなんだか変な感じ。
昨日思いがけず泊まることになって、今日も泊まる予定だから一緒にいる時間が長くなって嬉しい。陽葵ちゃんの貴重なオフを独占しているなんて、贅沢な時間。
隣を歩く陽葵ちゃんを横目で見ながら、本当に魅力的な人だよな、としみじみ思う。色んな顔を見せられて会う度に好きになる。恥ずかしくて本人には言えないけれど。
家に着いて、陽葵ちゃんが鍵を開けて、ドアを押さえてくれているから先に入らせてもらう。
「おかえり」
「……ただいま」
陽葵ちゃんも直ぐに入ってきて、笑顔でおかえり、と言ってくれるから胸がいっぱいになる。自分の家じゃないけれど、帰ってきたな、とホッとする。
まだ夜ご飯の時間には早いから食材を冷蔵庫にしまってからリビングに向かう。
先にソファに座ると、隣に座ってきてくれて、いつもみたいに甘えてくれるのかな、って思ったら肩を抱き寄せられて頭を撫でられた。あれ? 今日は甘えたい気分じゃないの??
私から上手く甘えられないから、こうしてリードしてもらえるのは正直助かる。チラ、と陽葵ちゃんを見れば優しい目で見つめてくれていて、私の気持ちなんてお見通しなんだろうな。
陽葵ちゃんみたいに可愛く甘えられないけれど、肩に頭を乗せてみた。
「ふふ、かわいい」
冷やかすような感じじゃなくて、本当に嬉しそうにしてくれるから、たまには素直になってもいいかなって思ってちょっとだけ頭をすりすりしてみる。
「あー、もう可愛すぎ……」
「もう終わり!」
「えー。もう離れちゃうの?」
恥ずかしくなって離れたらしょんぼりしてしまって、なんだか悪いことをしている気になってくる。
チラチラこっちを見てくるし、可愛すぎる……!
抱きしめたいな、ともう一度身体を寄せたら腕を引かれて、陽葵ちゃんの胸に飛び込む形になった。柔らか……じゃなくて、思ってたのと違う。
「ふふ、捕まえた」
楽しそうな声がして見上げれば、さっきまでしょんぼりしていたのが嘘のようにニヤニヤしているから、陽葵ちゃんの思い通りの展開になったみたい。
「私が抱きしめようと思ったのに……!!」
照れ隠しで文句を言うと宥めるように背中を撫でられた。いつも陽葵ちゃんばっかり余裕で悔しいからドキドキさせたいな、と思って首筋にキスをしてみた。
ちょっとはドキドキしてくれたかな、と様子を伺うと、なんだか目付きが変わったような??
「んーっ?! んっ、まって……?!」
「待たない」
あっという間にソファに押し倒されたかと思ったら唇が塞がれて素肌を撫でられている。そういうつもりじゃなかったのに……!! 疲れてるんじゃなかったの??
「っは……はぁ、陽葵ちゃん、一旦落ち着こ?? 」
捲られたシャツを戻して陽葵ちゃんを見ればトロンとした目で見つめられて、それはもう色気が……
「したくない? 嫌??」
じっと見つめられたまま、注意深く観察されている気がする。
強引な時はあるけれど、私が本気で嫌がる事はしないし、ここでやめてって言えばやめてくれるのは分かってる。
「い、やではない……けど」
「けど??」
こんな明るい時間にソファでなんて恥ずかしい。それを伝えることすら恥ずかしくて視線を逸らしてしまった。
「恥ずかしい?」
察してくれたのは有難いけれど、耳元で話さないで欲しい。
「耳やめてっ」
「ふふ、ビクってしちゃって可愛い。ベッドいこ?」
嫌がっていないことを確信したのか、手を引かれて寝室に連れていかれた。
優しくベッドに押し倒されて、顔中に啄むようなキスが降ってくる。耳や首筋にも唇が触れて、我慢しきれず声が漏れてしまって恥ずかしい。
「んっ、や……んん……」
「ふふ、かわいい。声聞かせて?」
私の力が抜けたところで、ゆっくり唇が重ねられた。他の人なんて知らないけれど、陽葵ちゃんはキスが上手いと思う。徐々に深くなる口付けに必死について行くけれど、だんだん何も考えられなくなってくる。
「んっ、……はぁ……んんっ」
息も絶え絶えな私をうっとりと見つめながら、生理的に浮かんだ涙を舐め取られた。ペロリと唇を舐める仕草がエロすぎる……
「美月、好きだよ」
「……私も好き」
小さい声だったけれど、ちゃんと届いたみたいで嬉しそうに微笑んでぎゅっと抱きついてくる。
「陽葵ちゃん、可愛い」
「なに、余裕? そんな余裕無くしてあげる」
頬を擦り寄せて来るのが可愛くて、思わず口に出してしまったらニヤリと笑って、服に手がかけられた。ああ、そんなに悪い顔して……余裕なんて最初からないよ……
どれくらい時間が経ったのか分からないけれど、満足そうな陽葵ちゃんに抱きしめられて微睡んでいた。
お腹も空いたし、そろそろ夜ご飯の支度をしなきゃな、と思うけれど、触れ合う素肌が気持ちよくて離れたくない。
「夜ご飯何か頼む? あれ、スマホどこいったかな……あった」
陽葵ちゃんも同じ気持ちだったのか、スマホを見つけて、私の返事を聞く前に検索し始めている。たまにはこんな日があってもいいよね、と私も画面を覗き込む。
「何がいい?」
「タピオカ!」
「それご飯じゃないから。どれ?」
タピオカの文字が見えて、思わず答えてしまった。ご飯じゃない、と言いつつ注文をしようとしてくれていて優しい。
「ハンバーガー美味しそう! 韓国料理もいいな。あ、スープカレーもある……美月はどれがいい?」
「陽葵ちゃんが食べたいの選んで?」
どれも美味しそう、悩むー! とキラキラした目で検索をしているのが可愛い。最終的に韓国料理に決めたみたい。
「たまにはこんな日もいいね」
「昼間にするのがそんなに良かった?」
「え?! 違っ……!!」
ニヤニヤして、絶対分かってて言ってるでしょ? 相変わらず変態すぎる……
「確かに反応良かったもんね?」
「なっ……?! 変態っ!!」
楽しそうにからかってくるけど、いつも何も考えられなくなっちゃうからそんなの分からない。
「昼間からが好きなんてみつきたんのえっちー」
「だから、なんでそうなるのっ?!」
きゃーなんて顔を隠してるけど、笑ってるのバレバレ。もうやだこの人……
注文が終わってからも裸のままでイチャイチャしながらベッドから出ないでいたけれど、そろそろ届く頃かな?
「どうしたの?」
「もうそろそろ来るかなって思って」
オートロックの前で待ってもらう事になっているから、到着したら私が取りに行こうと思って下着を探す。
「私が行くからいいよ。待ってて」
「いいよ、陽葵ちゃんが待ってて」
「「……」」
お互い譲らなくて、結局2人で受け取りに行くことにした。着替えが終わった頃に到着の連絡が入って受け取りに向かうけれど、マスクと帽子で隠してても陽葵ちゃん目立つからな……配達員さん驚いた様子だったし、絶対気づかれてるよね。
タピオカの方が先に届いたから、飲みながら料理が届くのを待つ。
「陽葵ちゃん何味にしたの?」
「ん? アールグレイ。飲む?」
「飲みたい!」
交換で私の頼んだミルクティーを渡す。うん、どっちも美味しい。交換すると2種類楽しめるからいいよね。
少し待つと韓国料理も届いたから部屋に戻る。いい匂いがして食べるのが楽しみ。
「初めて頼んだけど美味しいねー」
「うん。あ、今日買った食材はちゃんと使ってね?」
夜ご飯を作るつもりで買った食材を思い出して面倒臭いなー、という顔をしているけれど、食材があれば作らざるを得ないから少しは安心かな。
ご飯を食べ終わっても20時過ぎで、まだ早い時間なんだと驚いた。眠くなっちゃう前にお風呂に入った方がいいから用意してこようかな。
「みつきたん、早めにお風呂入ろ?」
「ちょうど用意しに行こうと思ってたけど、眠い?」
もう眠いかな? それなら急がないと……
「全然。早く入ってのんびりしようよ」
「先に入っておけば陽葵ちゃんが寝落ちしても大丈夫だもんね」
「今日はしないし」
「どうかなー?」
そういう日に限って寝落ちしたりするもんね。お湯を溜めながら入ることにして、タオルや下着を用意する。
にごり湯の入浴剤を買ってくれたから湯船の中ではいいけれど、服を脱ぐ時と洗う時が恥ずかしいのは変わらない。
さっきまで抱き合ってたのにって自分でも不思議に思うけれど、いつになってもお風呂は恥ずかしい。
慣れる日って来るのかな……?




