33.ライブ後
ライブ後にメンバー全員で反省会を終えて、楽屋の至る所で写真や動画の撮影が行われている。
私も何人かと撮って陽葵ちゃんを探すと、メンバーに囲まれて写真を撮っていて、肩を抱いたり、頬を寄せたりとイケメンな対応をしているからみんな照れて可愛らしい反応をしている。
あー、頭ぽんぽんしてるし……された子真っ赤になっちゃってるじゃん。全く、楽しそうにしちゃって。
皆も嬉しそうだし、メンバーと仲がいいのはいいことだし、割って入ろうなんて思わないけれど、もやもやするというか、おもしろくない。早く気づいてくれないかな……
じっと見ていると写真を撮り終わったのか、キョロキョロしたと思ったら目が合って、くいくい、と手招きされた。探してくれたのかな? って嬉しくて駆け寄りたくなったけれど、冷静を装って近づくとなんだかニヤニヤしてる。
「陽葵ちゃん、お疲れ様。何ニヤニヤしてるの?」
「美月もお疲れ。ん? 随分素直に来てくれたなぁって」
「え、だって呼ばれたから」
素直に呼んでくれて嬉しいって言えたらいいのだけれど、つい可愛くない言い方をしてしまう。
「呼んだけど、ユニットもやったし、もしかしたら来てくれないかなって思ったから」
「あー、ユニットね……終わってから散々弄られた。キスしたのかすごい聞かれて、避ける方が本当にしたっぽく見えるかなって」
モニターには口元が隠れてたのか、ステージ裏でどうだったのか凄く聞かれた。ここで陽葵ちゃんを避けたら本当にしたって思われるもんね。キスはしてなくても、思い出すとすごく恥ずかしい。
陽葵ちゃんが頭を撫でてくれるから、素直に撫でられたけれど、メンバーがいる前で甘やかされるのはやっぱり慣れない。甘やかすのは全然いいんだけれど……
他のメンバーに対するイケメンな対応を見せつけられて、自分で思っていたより嫉妬していたみたい。
「そんなに期待してもらってたならしておけばよかったね?」
「しませーん」
してたらその後から冷静でなんて居られないよ……
「じゃあ次回のお楽しみってことで」
「次回もありませーん」
次回? この1回でもう充分です。
「えー」
むぅ、と頬を膨らませてくるっと後ろを向いてしまったから、陽葵ちゃんがよくやってくるように肩に顎を乗せてみた。
「拗ねたの?」
どんな反応をするかな、と待ってみると、私の腕を引っ張ってお腹に回して、上からぎゅっと押さえるように握ってくる。え、可愛い。
陽葵ちゃんからメンバーの肩を抱いたりすることはあっても、こうして後ろから抱きしめるように誘導したり、甘えるのは私にだけだよね? さっきまでのもやもやが消えていく気がして、メンバーに見られてもいいや、という気になった。
「そこ何イチャイチャしてるのー?!」
「写真、いや、動画?! そのままでいてくださいー!!」
私たちに気づいたメンバーが集まってきてひやかされるけれど、離れようとは思わなかった。陽葵ちゃんが頬を擦り寄せてきたから、同じように擦り寄せる。
絶対後で思い出して恥ずかしくなるよな、と思ったけれど覗き込んだ陽葵ちゃんが嬉しそうだからいいや。
「後で写真送りますね!!」
見たいような、見たくないような……
「私はSNSに載せとくね」
ありがとうございます……
「私も厳選して載せます」
何枚あるんですかね……?
エゴサするのが怖いような、楽しみなような。今度こそ解散して、陽葵ちゃんの家に向かう。こんな風に仕事終わりに一緒に帰ることも少なくなるな、と思うとちょっと寂しい。
家に着いて、ソファに座ってSNSの更新をしていると、私の肩にもたれかかっていた陽葵ちゃんが何かを見つけたらしくスマホを見せてくる。
「見て、キスしたのかしてないのかって話題になってる」
「うわ、ほんとだ……」
「MCでしてないって言っておいたけど」
言ってくれてたんだ? MC聞けなかったから、何を話したのかそういえば聞いてなかった。
「変なこと言ったわけじゃないよね?」
「もちろん」
本当かなぁ……まあ、もう終わっちゃったから言っててもどうしようもないけれど。
「あ、写真送られてきてる」
メンバー全員のトークルームに沢山写真が送られてきていて、スタンプやコメントが飛び交っている。メンバーが多いから放っておくと通知がものすごいことになるんだよね。私も撮った写真載せておこう。
「お、この写真いいな」
「どれ? え、これ??」
見せてくれたのは私が陽葵ちゃんの顔を覗き込んでいる写真で、こんなところも撮ってくれてたんだって驚いた。
「メンバーがいる所で抱きしめてくれるのなんて初めてじゃない?」
「多分そうかな?」
私がさせたんだけど、なんて言いながら写真を保存して嬉しそうにしてくれている。あるとすれば、陽葵ちゃんから抱きついてきたのを抱きしめ返すくらいかな?
送られてきた写真を見ていると、陽葵ちゃんがメンバーとイチャイチャしている写真が沢山あって、またもやもやしてくる。
メンバーの事は大好きでコミュニケーションは必要だし、陽葵ちゃんはメンバーに特別な感情なんてないって分かってるのに触れてほしくないなって思っちゃう。
「美月、ため息なんてついてどうかした?」
「え? ついてた?」
そんなことを考えていたからか、写真を見ながらため息をついていたみたい。こんな気持ちになってるなんて知られたくない。絶対からかってくるし。
「うん。嫌なコメントでも来てた?」
「ううん、来てない。なんでもないよ」
こういう時に限ってそんなのは来ていない。もちろん、平和なのはいい事なんだけれど……
「ふーん?」
視線を感じるけれど、目を合わせたら終わりな気がする。
「美月?」
「んー?」
「なんでこっち見ないの??」
「今ちょっと盛り上がってて……」
実際メンバーとの雑談で盛り上がっているから嘘ではない。とはいえ、陽葵ちゃんより優先してするほどの内容では無いし、いつもと同じようにくだらない話で盛り上がっていて、私が抜けたところで止まる話題でもない。それは陽葵ちゃんも分かってると思う。
「私にも来てるから知ってる。ね、何かあったでしょ??」
「え? 何も無いよ。陽葵ちゃんの勘違いじゃない?」
視線はスマホに向けたままで答えて、しばらくトークをしていると、ふー、とため息が聞こえて怒らせたかな、と心配になった。
「美月ちゃん、自分からトーク抜けるか、美月借りるねって私に言われるかどっちがいい?」
「えっ?!」
バッと陽葵ちゃんの方を向くと、目が笑っていなくて、これは本気でやるな、と焦りつつトークを抜ける。そんな事言われたらどうなることか……
「やっとこっち向いた」
「ね、ズルくない??」
よく出来ました、とばかりに満足気に見られて、手のひらで転がされている気がする。嫌じゃないけれど、いつも陽葵ちゃんばっかり余裕で悔しい。
「美月が隠そうとするからでしょ?」
「だから隠してないって。もういい時間だし、陽葵ちゃんお風呂入ってきたら?」
今更話すのも恥ずかしいし、ここまで頑張ったし、かなり強引だけどこの話題は終わりにしたい。
「後でいい。本当に何も無いの?」
「さっきから無いって言ってるじゃん」
心配してくれてるのは分かってるけれど、じっと見つめてくるから、目を逸らして素っ気ない口調になってしまった。
「……それならいいけど。何かあったらちゃんと言うんだよ?」
ぽん、と頭に手が乗せられて、シャワー浴びてくるねー! と行ってしまった。もっと強引に来るかもと思ったから引いてくれてホッとした。
次はいつこうしてゆっくり出来るか分からないし、陽葵ちゃんは明日も朝早く出ちゃうから、甘やかしてのんびりしようと思ってたのになんでこうなっちゃうのかな……意地はらないで素直に言えばよかったかなってちょっと後悔。
「あー、もうやだ……そもそも陽葵ちゃんがメンバーとイチャイチャしてるから悪いんじゃん」
「そういうことね」
「うわっ?! え?! 待って、シャワーは??」
項垂れて呟くと、何故かシャワーを浴びに行ったはずの陽葵ちゃんの声がして、また隣に座ってきた。なんでいるの??
「やっぱりゆっくりしたくてお湯張り中。戻ってきて正解だった」
にやーっと笑って、嫉妬してくれたの?? かーわいい!! なんて頬をつついてくる。
「もー、こうなるから嫌だったのに」
「ごめんって。気づけなくてごめんね? でも美月が嫉妬してくれたのは嬉しい」
予想通り弄って来るくせに、今度は優しく見つめてくるから、切り替えの早さにドキドキしてしまう。
「私が勝手にもやもやしてただけだから」
「写真撮ってる時?」
「うん。でもメンバーと仲良くして欲しくないなんて思ってなくて。陽葵ちゃんがサービス精神旺盛というか、空気を読んで期待に応えちゃうというか、そういう所は分かってるつもりだし。なんだろ。上手く言えないけど」
メンバーが陽葵ちゃんに懐くのも分かるし、人気があるのは当然だと思ってる。
「でも嫌だったんでしょ? そういうのは押し殺さないで言って? 美月に見せつけないでって言っておきながらごめん。気をつける」
謝ってくれたけれど、似たもの同士ってことなのかなって思ってしまった。
「私が好きなのは美月だし、甘えて欲しいのも甘えたいのも美月だけだから。それはちゃんと伝わってる?」
足りなかったらメンバーがいても自重しないけど? って言ってるけど、いつもちゃんと言葉と態度で伝えてくれて、充分伝わってるから自重してください。いつも思うけど、隠すつもりある??
「伝わってるから大丈夫!!」
「それならいいけど。さ、お風呂行こ!」
私が嫉妬したのがよっぽど嬉しかったらしく、機嫌のいい陽葵ちゃんにひたすら甘やかされて、もやもやした気持ちなんて無くなったけれど、体力が持たないから嫉妬しちゃっても伝えるのは程々にしようと思う。




