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アイドルの恋愛事情~アイドルカップルの日常~  作者:
本編

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29/99

29.甘えたい

目を開けると、優しい目でこっちを見ている美月と目が合った。大抵私の方が早く起きて美月の寝顔を眺めているのだけれど、今日は逆だったみたい。


「おはよ。体調はどう?」


体調? と思ったけれど、昨日は特に甘えたい気分で、私から誘ってしてもらったんだった。


「おはよう。大丈夫、ありがとう。今何時?」

「7時ちょっと過ぎ。まだ寝れるよ?」

「え、美月いつ起きたの?」


思ったより早い時間でびっくりした。今日は10時過ぎに家を出れば間に合うから、まだベッドから出なくていいかな。美月も午後からだし。それにしても、美月がこんなに早く起きるなんて珍しい。


「6時半くらいに目が覚めちゃって。なんか寝るのが勿体なくて寝顔見てた」

「そんなに前から? 起こしてくれたら良かったのに」

「私の方が早いなんてあんまり無いし。寝顔可愛かった」


うわ、なんか物凄く恥ずかしい……いつも美月はこんな気持ちなのかな? 昨日の余韻か、美月が強気な気がする。ちょっと悔しい。

むーっと見つめたら目を細めて嬉しそうに笑って、頭をぽんぽんしてくれた。まあ、美月が嬉しそうだし、たまにはこんな朝もいいか。


「今日はダンスレッスン来れるんだよね?」

「うん。途中からだけど行ける。ユニット曲も合わせなきゃだしね」


なかなかダンスレッスンに参加できなくて、ユニット曲は先生に教わった日しか合わせられていない。全体曲も個人の仕事の空き時間とかに覚えてはいるけれど、ちゃんとレッスン場で確認したい。メンバーの雰囲気も知りたいし。


「陽葵ちゃんが来るなら、今日はみんなピシッとするね」

「え、そんなに違う?」

「違う違う。居るだけで空気が違うというか。もちろんいい意味でね?」


いい意味ならいいけれど……真剣にやらないとならない時は緊張感を持たないといけないかなって思ってるから、オンとオフの切り替えはしっかりするようにしてる。

オフは結構ふざけてるし、美月にも甘えてるから入ったばっかりの子とかにはよくびっくりされるけれど。


「ユニット曲の練習、照れは封印して真剣にやろうね」

「やっぱりやるよね? 皆が帰った後にやらない?」


まだ見せたくないのか、ちょっと嫌そう。遅かれ早かれ、会場でのリハと本番でのモニターでは見られる事になるのにな。


「いいけど、自主練する子もいるだろうし、完全に2人は無理だと思うよ?」

「レッスンの後は仕事入ってなかったよね? 自主練の子も帰った後で」

「何時までいる気?? いずれは見られるよ?」

「ラジオの時間に間に合えば何時でも。それは分かってるけど、できる限り引き伸ばしたい!! ……ねぇ、なんで笑うの?!」


必死すぎて思わず笑っちゃったら拗ねたのか、くるっと背中を向けられた。


「拗ねてるの?」

「拗ねてない」

「じゃあこっち向いてよ」

「やだ」


完全に拗ねてるよね? 恥ずかしがってるのもあるかもしれないけれど、どうやって機嫌をとろうかな……強引に行くか、時間をかけるか迷ったけれど、強引に行こうかな。


「美月、こっち向いてくれないと襲うよー?」

「はっ?! 朝から何言ってるの?!」


バッと起き上がって焦りながら私を見るから、反応が良くてついからかいたくなる。


「あ、向いた。できなくて残念」

「ニヤニヤしすぎ!! しませんー」

「ほら、私昨日何もせず寝ちゃったから物足りないでしょ?」

「昨日はあんなに甘えてくれて可愛かったのに、またそういうことばっかり言って……」


なんなの?! って聞かれても、そんなの美月の反応が可愛いからに決まってる。さすがに今からは怒るよなぁ……ちょっとくらいって思っても途中で止められなさそうだし、次の泊まりの日の楽しみにしよう。

もうすっかり拗ねてたことなんて忘れたかな? 素直じゃないからつい反論しちゃうもんね。単純で可愛い。


「ね、何もしないから抱きしめてもいい?」

「聞く意味あった?」


返事を聞く前に抱きしめてしまったけれど、大人しく抱きしめられてくれて、仕方ないなー、なんて言いながら擦り寄って来てくれるツンデレが堪らなく可愛い。

美月の頭を撫でながら、デレデレでとても見せられない顔になっていると思うけれど、朝からこんなに幸せでいいんだろうか?? 抱きしめたまま、もう1回寝たいくらい。


「陽葵ちゃん、そろそろ起きよ?」

「え、もうちょっとこのままでいてよ」

「安心しすぎて寝ちゃいそうだし……ぅわ?! 何やってるの?!」


え、デレみつき可愛すぎません? 同じことを考えてたなんて嬉しい。思わず服の中に手を入れて素肌を撫でてしまったけど、私は悪くない。悪くないよね?


「もー、離して?! 先に起きるからね!」


まったく、すぐそういうことするんだから、って文句を言いながら部屋を出ていったけれど、顔が赤くなっていたから今のは照れ隠しだと思う。たまに本当に怒られることもあるけど。


「みつきたん置いてくとかひどい!!」

「陽葵ちゃんが悪いんでしょ?!」


追いついて後ろから抱きつきながら文句言うと、怒ったような口調で反論してくるけど、振りほどかないで受け入れてくれるからつい甘えちゃうんだよね。


「可愛いこと言う美月が悪いと思う」

「何も言ってませんー」

「安心しすぎて寝ちゃいそうって可愛いこと言ってくれたのに」

「あー、聞こえませーん!」


耳を塞いでわーわー言う美月とじゃれ合いながら朝ご飯の用意をして、テーブルに並べる。


「あ、これ美味しい! 陽葵ちゃん食べてる??」

「ん? 食べてるよ」


ラグに座って嬉しそうにご飯を食べる横顔を見つめていたら食べないのかと心配された。横顔が綺麗でつい見とれちゃっただけなんだけど、言うと恥ずかしがって隠されちゃうから言わないでおこう。でも食べ終わる前に写真撮りたいな。


「ん?」


シャッター音にキョトン、とこっちを見た美月のことも撮る。うん、可愛い。


「え、何?!」

「えっと、隠し撮り?」

「待って、全然隠せてないけど!!」


何してるの?! って呆れたように見られたけれど気にしない。私のスマホの中身は美月の写真ばっかりで、間違いなく1番多いはず。厳選写真で写真集作りたいくらい。


ご飯を食べ終わると、私の分まで食器を流しに運んでくれた。このままだと洗い物も美月がやっちゃいそうだな……


「美月、洗い物は私やるから座ってな?」

「え、私やるよ」

「いいから。はい、ここ座ってのんびりしてて」


美月の手を引いてソファに座らせてから洗い物を始める。この前も任せちゃったし、できる時はやらないとね。


「ごめんね、ありがとう」

「美月こそいつもありがとう」


洗い物を終えて戻ると、申し訳なさそうに謝られたけれど、絶対美月がやってくれてる方が多いと思う。むしろこっちこそごめん。


隣に座って、肩に頭を乗せる。チラ、と見上げてみたら照れたように笑う美月と目が合って、すぐに逸らされた。何事もないように装ってるけど、ちょっとにやけてるよ?


「ね、手貸して?」

「手?? はい。ぅわ?!」


美月の手をとって頬を擦り寄せると、慌てたような声がしたけれど、少しすると頬を撫でてくれた。


「甘えたなの?」

「やだ?」

「ううん、嬉しい」


嫌がってないかな、と美月を見上げれば優しく見つめてくれていたから、存分に甘えようと時間いっぱいくっついて過ごした。最初の頃は家でもくっつくと恥ずかしがって逃げられてたのに、今は自然に抱き寄せてくれたり、随分変わったなと思う。


甘えすぎかな、ってちょっと心配だったけれど、嬉しそうにしてくれるから、甘えていいんだなって。年下の後輩にこんなに甘える時が来るなんて思わなかった。

張り詰めた気持ちも、美月と居ると穏やかになる。今日も仕事頑張れそう。


「じゃ、先に出るわ。鍵よろしくね」

「うん。気をつけて」


家を出る時間まで沢山甘やかしてもらって、こうして見送ってもらって嬉しいのに、離れるのが寂しい。

美月の方からキスしてくれないかなってじーっと見つめていたら、視線をさまよわせつつ、そっと抱きしめてくれた。スイッチが入らないとほんと別人みたい。そのギャップにもやられてるんだけど。


「また夕方にね」

「……ん。行ってらっしゃい」


軽く口付けをすると照れた表情をして、手を振って見送ってくれるのが何度見ても嬉しい。2人の時にしかこういう表情は見せてくれないから、余計にそう思うのかもしれない。

メンバーがいたりすると私が抱きついたりしてもポーカーフェイスだもんね。頻繁すぎて、単純に慣れたっていうのもあるかもしれないけれど。今度不意打ちで何か仕掛けてみようかな?


周年ライブが終われば一緒に居られる時間も減るだろうし、メンバーが居てもデレを引き出そうとウザ絡みしちゃいそうだから気をつけよう。

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★新作もよろしくお願い致します★
黒狼と銀狼
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