28.甘えてほしい
美南ちゃんが配信を切って、アーカイブを残してくれている。さっきの配信がずっと残るってことだもんね……恥ずかしいから考えないようにしよう。
「1時間あっという間でしたね」
「家に帰ったらアーカイブ見ます」
確かに早かった。陽葵ちゃんと2人の時はただただ緊張したけれど、4人だと自然な感じで話せていた気がする。美南ちゃんがアーカイブ見るって言ってるけど、私は見ないかな……自分が出ているライブとかも見るのは恥ずかしいんだよね。
陽葵ちゃんも後で見ると言っていて、一緒に見る? って聞かれたからお断りしておいた。
少し雑談して、2人はそろそろ帰りますね、と帰り支度を始めている。私は泊まるけれど、見送るのも何となく気まずいな……
「今日は来てくれてありがとう」
「呼んでいただいてありがとうございました!!」
「ありがとうございました! 色々と最高でした!」
リビングで待ってるのもどうかな、と思って玄関まで見送りに来たものの、なんて声をかけたらいいやら……
「また来てね、気をつけて」
「是非! お邪魔しました」
「お邪魔しました!」
おやすみ、気をつけてね、と声をかけると2人ともニヤニヤしつつ、お泊まりのオフショット待ってますね、なんてきゃあきゃあ言いながら帰って行った。最後までブレないな……
「オフショット、載せちゃう?」
「載せませんー」
陽葵ちゃんまでニヤニヤしながらからかってくるし。リビングのお菓子や飲み物の片付けに戻ろうとすると、横から抱きつかれた。
「ん? どうしたの?」
「くっつきたいなって」
え、可愛い。甘えたい気分なのかな? 配信でも言ったけれど、甘えてもらえると嬉しい。
抱きつかれたままリビングまで戻る。ソファに座ると、胸元に頬をくっつけてもたれかかってきて、頭を撫でるとふわっと笑ってくれた。はー、かわいい。柔らかいしいい匂いもするし、幸せ。今日は時間もあるからいっぱい甘えて欲しいし、毎日頑張ってる陽葵ちゃんを甘やかしたい。
「今日はもう飲まない? 何か作ろうか?」
「うーん、もういいかな」
してあげられることはないかな、と思ったけれど何も思い浮かばない。私は抱きしめてるだけで安らぐけど陽葵ちゃんはどうだろう?
「毎日忙しいけど疲れてない?」
「大丈夫。忙しいけど充実してるから」
一緒にいられない時はちゃんと眠れてるかな、食べてるかなって心配になっちゃうんだよね。陽葵ちゃんは面倒くさがりな所があるから。
「なにかして欲しいことない?」
「美月が一緒にいてくれればいいかな」
待って、可愛すぎて無理……胸がギュッとなって強く抱き締めてしまった。
「あ、ごめん苦しかったよね」
「ううん。美月に抱きしめられると安心する」
とんとん、と腰を叩かれたから慌てて緩めると、嬉しいことを言ってくれた。私でよければいくらでも抱きしめますよ!
しばらく抱きしめたままでいて、ずっとこのままでいたいけれど、陽葵ちゃんが眠くなっちゃう前にお風呂に入ってもらわないと。
「陽葵ちゃん、お風呂は?」
「んー、もうちょっとしたら入る」
「眠くなっちゃうよ?」
大丈夫、なんて言ってるけど、目がとろんとしてるし、もう既に眠いでしょ?
「用意してくるからちょっと待ってて?」
声をかけても抱きついたまま離れるつもりは無いようで、ちょっとムスッとしてる。眠くて不機嫌になっちゃうとか、子供っぽいところも可愛い。そんな一面を見せても大丈夫って思ってくれてるってことだもんね?
「すぐ戻ってくるから。起きててね?」
「うん」
離れたくないのは私も一緒だけれど、早くお風呂に入ってもらわないと、と妙な使命感でお風呂の用意に向かった。
浴槽を洗ってお湯はりをして、タオルとルームウェアを出せば準備はOK。下着は自分で用意してもらおう。リビングに戻ると、ソファに横になって目をつぶっていた。え、このちょっとの間で?! 起きててって言ったのに……
「陽葵ちゃん、寝ないで?! お風呂入ってきて?」
「んぅ……眠い」
薄目を開けて、私を見たけれど、また目を閉じてしまった。なんだかこんな姿を見るのも久しぶりかもしれない。
やっぱり疲れてるんだろうな。仕方ない、一緒に入ってお世話しますか。
「起きて? 歩ける?」
「うー、歩ける……」
ぼーっとする陽葵ちゃんの手を引いて移動して、手早く自分の服を脱ぐ。
「はい、バンザイしてー」
素直に従ってくれる様子が幼い子供みたいで、ふふっと笑ってしまった。下着姿が綺麗すぎて、思わず見とれていると、脱がせてくれないの? というように見られた。
後ろに回って、正面から見ないようにして脱がせよう。直視できない……
「はい、身体は自分で洗って」
「洗ってくれてもいいんだよ?」
髪を洗い終わる頃にはすっかり目が覚めていて、ニヤニヤしながらからかってくるいつもの陽葵ちゃんに戻っていた。
「洗いませんー」
「えー」
スポンジを押し付けると、渋々受け取って洗い始めたから、今のうちに私も洗っちゃわないと。
「はー、最高……美月には熱いよね? 大丈夫?」
「そんなに長くは入れないかな。あっつ……」
陽葵ちゃんに合わせた温度設定にしたから早めに出ないと逆上せそう。それじゃなくても並んで座っているから裸がチラチラ目に入ってドキドキするのに。
「入浴剤入れたら良かったかな……」
「温くして今から入れる?」
思わず呟いてしまったらバッチリ聞こえたみたいで、持ってこようか? なんて言ってくれる。濁ってたら肌が隠されるから少しは落ち着いて入れるかなって思っただけなんだけど。
「ううん、大丈夫。先に出るからゆっくり入って?」
「はーい」
立ち上がると視線を感じたけれど、見ないようにして浴室をでる。あ、下着は自分で出してねって言っておかなきゃ。
「陽葵ちゃん、タオルとルームウェアは出してあるけど、下着は自分で出してねー」
「わ、ありがとう! 下着、私に着て欲しいやつ選んでくれてもいいんだよ?」
「え?! 無理無理!! 自分で出して!!」
着て欲しいやつなんて、選べるわけないじゃん……ドア越しにくすくす笑う声が聞こえて、なんか悔しい。さっきまではあんなに甘えたで子供みたいだったのに。
Tシャツと短パンに着替えて、髪を拭きながらリビングのソファに座って、水を飲もうとしたところで陽葵ちゃんが戻ってきた。うん、ちゃんとルームウェア着てくれてるね。
髪は濡れたまま緩くまとめられていて、上気した肌がよく見えてドキドキしてしまう。お風呂上がりってなんでこんなに色気を感じるんだろ……
「みつきたーん、水ちょうだい?」
横にピッタリくっつくように座ってきて、上目遣いでお願いされる。なに、誘惑されてる? 思考がそっち方向に支配されそう……
「ありがと。なんでこっち見てくれないの?」
「あー、ドライヤー持ってこようかな」
視線を外して水を渡すと、頬をつつかれたけれど絶対向かない。私が照れるのを分かっててやってるよね? 大人の余裕ってやつ? 悔しいけど勝てる気がしないから気付かないふりをすることに決めて、ドライヤーを取りに逃げた。
後ろからはくすくす笑う声が聞こえて、やっぱりわざとやってたんだなって確信した。あんまりからかうと、疲れてないなら襲うからね?!
平常心を保ちつつブローをして、サラサラになった髪を指に絡めて遊ぶ。抵抗なく身を任せてくれて、なんだか優越感というか、嬉しくてにやけていると思う。
「美月も乾かす?」
「私はもうほぼ乾いてるから大丈夫」
そっかー、とちょっと不満そうだから陽葵ちゃんも乾かしたかったのかな? 今度乾かしてもらおう。
明日は遅めの集合とは言ってももう12時を過ぎているし、早めにベッドに移動しないと。
「陽葵ちゃん、もう12時過ぎだし、歯磨きして寝よう?」
「え、もうそんな? 早いなー」
本当に時間が経つのが早い。どうしてもお風呂は時間がかかるしね。歯磨きとスキンケアをして寝室に移動すると、陽葵ちゃんがベッドに寝転んで両手を広げてきた。
「おいでー」
やばい。可愛い。キラキラした目で見つめてくるから引き寄せられるように近づいてギュッと抱きしめた。陽葵ちゃんの匂いに包まれてクラクラする。このままだとまずいな、と背中を数回撫でてから離れようとするとキュッとTシャツが引っ張られた。
「ん? 眠れなさそう?」
「うん。美月、疲れてる?」
えっと、これは……? 襲ってくる時は疲れてるかなんて聞いてくることはないし、お誘い?? やっぱり今日は甘えたい日なのかな?
「ううん。陽葵ちゃんの方が疲れてるでしょ。まだ寝なくて平気?」
「うん。しよ?」
え、やばっ!! これはもう私が攻めでいいよね?? 顔を覗き込むと照れたように視線を外したから、頬に手を添えて軽くキスをする。ふわっと笑って胸元に擦り寄ってきて、堪らなくなって組み敷いた。何度も耐えようとしたのに、誘ってきたのは陽葵ちゃんだからね?
「陽葵ちゃん、大丈夫? 服着れる?」
「うん……着れる」
今にも寝そうな陽葵ちゃんに何とか服を着せて、布団をしっかりかけると、やっぱり疲れていたのかすぐに寝息が聞こえてきた。
それにしても、誘ってくれた陽葵ちゃんが可愛すぎた。前より色んな顔を見せてくれるようになって嬉しい。どんな陽葵ちゃんでも大好きな自信があるから、私には遠慮せずに全部見せてくれたらいいな。




