25.打ち合わせ
まだ外が薄暗い時間に目が覚めた。後ろから抱きしめていた美月を起こさないように気をつけて、枕元に置いたスマホを手に取ると、ちょうどアラームが鳴った。
起こさないようにっていっても、相変わらずちょっとやそっとじゃ起きないから心配ないけれど一応ね。実際、アラームが鳴っても全く起きる気配がないし。
「美月、朝だよー」
「うーん……」
起き上がって声をかけると、寝返りを打って私が寝ていた辺りを腕を伸ばして探す仕草をしている。もしかして私の事探してる?
「起きてー」
何度か声をかけて、頬をつついたりつまんでみたりして遊んでいたらやっと目を開けたけれど、まだぼんやりしている。
「起きた??」
「んぅ……ひまりちゃんおはよー」
寝起きの無防備さが可愛すぎて、大好きな瞬間。私と目が合うと安心したようにふにゃって笑う顔に気を許されてるんだなって実感する。
「ん。美月おはよ」
頬を撫でると、目を細めて笑って、擦り寄ってくるのが最高に可愛い。
本人も無意識だろうし、こんな姿は私にしか見せないだろうなって思うと嬉しい。こんなに可愛いんだって自慢したいけれど、同じくらい誰にも見せたくない。
数年前にされてたけれど、また寝起きドッキリをされたら見られちゃうのかな。でも私がいない時なら違った姿だろうし、ちょっと興味はあるかも。
まあ、私たちはこの前仕掛けられたばかりだし、当分はないと思うけれど。
少し経てば意識もはっきりして、さっきまでの甘えたな姿なんてなかったようにいつも通りに戻っちゃうのがちょっと残念。
「えっと、陽葵ちゃん……おはよう」
「おはよう。目覚めた?」
「うん。起こしてくれてありがとう。コンタクトしてくるー」
意識がはっきりしたからか、恥ずかしそうに起き上がったと思ったら、そそくさとベッドから降りて部屋を出ていった。
本人的には甘えたことが恥ずかしいみたいで無かったことにしようとしてるけど、そんな所も可愛い。
「みつきたん、コンタクト取ってー」
歯磨きをしている美月にお願いすると、自分で取ってよね、なんて言いながらもちゃんと取ってくれた。
場所をあけてくれたから、鏡を見ながらコンタクトを付ける。
「はい、歯ブラシ」
「お、ありがとう!」
歯磨き粉がついた歯ブラシを差し出してくれて、私がコンタクトを入れ終わるまで待ってたのかなって思ったら思わずにやけてしまった。
「……なんでそんなにニヤニヤしてるの?!」
「ん? 可愛いなって」
「……っ?! もう、着替えてくるっ!」
口をゆすいで足早に出ていったけれど、朝からなんであんなに可愛いのか……昨日の美月も可愛かったし、可愛いが溢れてる。
歯磨きを終えて、コーヒーでも入れようかな、とキッチンに向かうともう着替えたのかご飯の用意を始めているところだった。
「あれ、その服新しいやつ?」
「そう。一目惚れして買っちゃった」
見覚えの無い服だな、と思ったら新しく買ったらしい。少し大きめの紺色のパーカーで、美月によく似合っている。私も好きなデザインなんだけど、洋服のお揃いは嫌がるかな?
「よく似合ってる。どこの? 色違いってあった?」
「あー、実は陽葵ちゃん好きかなって色違い買ってたりする。……着る?」
「え、ほんと? 着る!」
さり気なく聞いてみたらまさかの色違いを買ってくれていたらしい。え、嬉しい。なんか最近デレてくれるじゃん……
「はい、これなんだけど。……あ、待ってタグ切ってない」
「ありがとう! なんか最近貰ってばっかりだね」
「私が勝手に買っただけだから、ってなんで脱ぐの?!」
タグを切って渡してくれたから早速着ようと、着ていたシャツと短パンを脱いで下着になると、バッと後ろを向いた。見てもいいのに。
「脱がないと着れないじゃん」
「いや、そういう事じゃなくて……」
こっちだって心の準備が、なんてぶつぶつ言っているのを気にせずに着替える。
「もういいよ。どう?」
「うん。よく似合ってる。うわ?!」
パーカーを着た私を見て、目を細めて笑う美月が愛おしくてギュッと抱きついたら、甘えんぼだなー、って頭を撫でてくれた。着替えも見られないヘタレな所もあるのに、こういう時はイケメンなんだから……
キッチンに戻ってコーヒーを入れて、美月が作ってくれた朝ごはんを並べる。先にラグに座った美月にぴったりくっつくように座ると、一瞬だけれど嬉しそうな顔をした。昨日のことでも思い出したかな?
ご飯を食べ終わって、このままのんびりしたいところだけどそんな時間はないから急いでメイクとヘアセットをする。
美月はもう終わって食器を洗ってくれている。ご飯作ってくれたしやるよって言ったけど、先に終わって暇だしいいよって言われて甘えちゃった。
余裕を持って起きたはずだけれど、朝ってなんでこんなに慌ただしいんだろう? のんびりできる朝が恋しい……
「じゃ、私向こうだから行くね」
「……ん? 美月どこ行く気??」
電車を降りて、気をつけてねー、なんていかにも別の場所に行くかのようだけれど、同じ場所だよね??
「え、××だけど、陽葵ちゃんは△△でしょ?」
「それ変更前の場所かな? 同じ場所に変更になってる」
「……え?! 待って、メールでは△△ってなってたよ??」
ほら、と見せてくれた連絡メールには変更前の場所が載っていて、その後個別で変更連絡が来たから違う場所だと思っていたみたい。
「ほら、変更って来てるでしょ」
「嘘でしょ……」
お揃いの服とか随分積極的になってきたなって思ってたら違う場所だと思ってたんだね。
「残念ながら本当です。ほら、行くよ?」
「えー、聞いてないんですけど……お揃い着ちゃったじゃん……」
「別の場所でも写真とかで分かるから一緒じゃない?」
写真と実際に一緒にいるところを見られるのは違うよって呻いているけれど、美月の反応がいいから弄られるんだよ??
お揃いー!! って堂々としてたらいいのに、そんなキャラじゃないか。まあ、そんな所も可愛いけどね。
*****
まさか同じ場所での打ち合わせに変わっていたなんて。今日は朝から2期生での打ち合わせが入っていて、1期生も同じ時間帯の打ち合わせだったから途中まで一緒に行けるな、なんて思っていた。
今着ているパーカーは陽葵ちゃんも好きそうなデザインだったから、色違いも買っておいた。ピアスも喜んでくれたし、喜んでくれるんじゃないかなって。
もし着なくても、何枚あっても困らないから自分で着ればいいしね。
着替えて朝ごはんの用意をしていると、直ぐに新しい服だって気づいてくれて、やっぱり気に入ったみたい。今日は同じ仕事じゃないし、渡すなら今かなって思ったのだけれど……
お揃いの洋服で打ち合わせに行ったら弄られる予感しかしない。陽葵ちゃんはお揃いいいでしょー! くらいのテンションでむしろ自分からアピールしそうだけれど、私にはとても無理。
打ち合わせ場所に着くと、1期生も同じ部屋での打ち合わせみたいだった。何か言われても、対応は陽葵ちゃんに任せて、もう私は無言を貫こう。
「一緒の部屋みたいだけど、もうみんな来てるかな? 別々に入る?」
「ううん。一緒に入る」
気にしてくれているけれど、後からだと余計注目されそうだし、一緒にに入ってささっと席に座っちゃおう。
「おはよー」
「おはようございます」
ドアを開けて、陽葵ちゃんが先に入っていく。後から入って部屋の中を見ると、思ったより広くて、もう来ている2期生は入口側のテーブルに座っていて、1期生は少し離れて窓際のテーブルと別れて座っているみたい。
陽葵ちゃんは迷わず奥に歩いていって、私は入口すぐの席に座る。
「美月おはよー。今日も陽葵さんと一緒に来たんだね」
「お泊まりか」
「イチャイチャしてー」
皆して早速弄って来るし……朝早いのに元気すぎ。
「皆して朝からテンション高っ」
「美月はテンション低っ」
いや、いつもこんなもんでしょ。今日は朝早いから特に低いって言うのはあるかもだけれど。
「朝早すぎなんだもん……」
「確かに早い。早い時間の方がスケジュール合わせやすいからかな」
「おはようございまーすっ!!」
それはあるかもね、なんて話していたら柚がテンション高く入ってきた。柚には朝早くても関係ないね。
「柚おはよう」
「柚葉おはよー」
「おはよー。今日は1期生も同じ部屋なんだね?」
「なんか1期生が使う予定だった所が使えなくなったとか言ってたかな」
ちゃんと陽葵ちゃんに確認すればよかったな……
軽く雑談をしている間に全員揃ったから早速打ち合わせを開始する。今日は9周年ライブでの2期生枠の構成決めの予定。
「何歌いたい? 時間的に2曲+MCな感じ?」
「全員で2曲か半分に分けて1曲ずつ?」
「MC無しの3曲もありじゃない? 曲の途中でちょっとしたMC挟むとか」
わいわい話しながら演出を考えたりして楽しい。同期で長く一緒にいるメンバーだから全体的に落ち着きがあって一緒にいて楽。決める時はしっかり決めるし、なんだかんだ皆真面目。
「ね、ずっと気になってたこと聞いていい?」
「え、何??」
打ち合わせの途中で柚が1期生の方と私を交互に見ながら言ってくるから嫌な予感しかしない。
「美月の服ってさ、陽葵さんとお揃い?」
「え、そうなの?」
「私の位置からだと陽葵さんも美月も見えるから、ずっと気になってて、正直打ち合わせどころじゃない」
柚……さっき皆真面目って思ったばっかりなのに。それ今関係なくない?!
「皆してこっち見て何ー?!」
皆で陽葵ちゃんを見てたからか、陽葵ちゃんが気づいてこっちを見ながら聞いてくる。チラ、と私の方を見たから何を聞かれるかは分かってそう。ちょっとニヤニヤしてるし。
「今日の服って美月とお揃いですかー?」
「あ、これ? お揃いー! めっちゃ良くない??」
「やっぱり! 似合ってます! もう気になって打ち合わせ所じゃなくて」
「いや、そこは集中しよ?」
柚と陽葵ちゃんが楽しそうに話しているのを聞いていて、堂々としてればいいんだって思うけれど、やっぱり恥ずかしいんだよね。お揃いが増えれば慣れてくるのかな?
「そのニヤニヤした顔やめてくれる?! 続き決めよ!」
「いや、それは、ねえ?」
「ねえ?」
みんなの生暖かい視線なんて無視して資料を読んでいる振りをする。恥ず……
打ち合わせが終わって荷物をまとめていると、1期生も終わったのかこっちのテーブルに集まってきて、あちこちで撮影会になっている。
「美月、お疲れ」
「陽葵ちゃんもお疲れ様。なんか凄く疲れた……」
「朝早かったしね。よく頑張りました」
「……子供じゃないんですけどー」
よしよしって頭を撫でてくれるのは嬉しいけれど、完全に子供扱いされている気がする。
写真を撮っていたはずの柚が動画を撮っていて、次の仕事場でもそれを見たメンバーから弄られることになるってこの時の私に教えてあげたい……
井上 柚葉
今日の打ち合わせ終わりの陽葵さんと美月の動画を置いておきますね。無許可なので2人には内緒にしてください!
#工藤 陽葵
#山内 美月
#イチャイチャ
#頭なでなで
#お揃い




