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アイドルの恋愛事情~アイドルカップルの日常~  作者:
本編

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14/99

14.不安

美月を抱きしめながら囁くと不安げな表情で見上げられた。そんな顔されると逆効果だって分かってる?


すぐにでも抱きたいところだけど、その前に確認しておきたい事がある。私のソロコンでライブビューイング会場の対応をしてくれていた時、アンコール後にカメラに抜かれた時に映ったのは涙を流す美月の姿だった。

滅多に泣かない美月が泣いていることの驚きと、耐えていたであろう涙を流す様子が綺麗で儚くて、できるなら傍で抱きしめてあげたかった。


感動してくれたのはあるだろうけれど、きっとそれだけじゃない。もし余計なことを考えていたのなら不安を取り除きたかった。


「ねえ、私のソロコンでさ、泣いてた?」

「……突然なに? 泣いてないよ? なんで?」


予想してたけれど、やっぱり素直に言わないか。ソロコンが終わったあとに連絡をとった時も、泣いたなんて感じさせない明るい声でお疲れ様、と言ってくれた。顔が見えれば表情で気づけたかもしれないけれど、恥ずかしいからとあまりビデオ通話をしてくれることがない。


「番組でソロコンのダイジェスト放送が決まったんだけど、少し見せてもらった映像に映ってた」


そういうと心当たりがあったのか気まずそうな顔をした。


「……カメラがこっち向いてるなとは思ってた。やっぱり抜かれてたんだね」

「うん」

「陽葵ちゃんが頑張ってきたの知ってるから感動して。最後のメッセージで耐えきれなかった」


多分その理由も本当なんだろうけれど、普段はまっすぐ見てくる視線が合わない。照れている時もそうだからなんとも言えないけれど、今回のは違う気がする。


「それだけ? 美月、こっち見て?」


顔を見ようとすると、私の胸元に顔をうずめて見えないように隠されてしまった。隠れるってことは言いたくない理由があるってことでしょ?


「今回のソロコン、普段のライブとは違って1人だったから寂しくて。何れ卒業してソロになったらずっとこうなのかなとか考えたりしたんだ」


卒業、のところでビクッとしたから美月も思う所があったのかもしれない。相変わらず顔は見せてくれないけれど、私のシャツを掴む力が強くなった気がした。


「今同じグループに居てもなかなか会うことがないのに、これでどっちかが卒業したらもっと美月に会えなくなるのかなって不安になった。情けないでしょ」

「そんなことっ……!!」


顔を上げて首を振る美月の顔は今にも泣きそうで、愛おしいなって胸がぎゅっとなって強く抱き締めた。美月も同じ不安を抱えていたのかもしれない。


「まだ先だろうけど、卒業したら一緒に住んでくれる?」


何度も頷いてくれる肩が震えているから、きっとまた泣いてる。しばらく背中をさすっていると、おずおずと顔を上げた。


「シャツ、ごめん……」

「洗えばいいよ」


涙と化粧がついたシャツを見ながら申し訳なさそうにしているけれど、そんなのはどうでもいい。今度はちゃんと抱きしめてあげられて良かった。


「美月、好きだよ。ずっと一緒にいてね。……あれ、また泣いちゃう?」

「泣いてないー」


涙腺が緩んだのか、美月の目にまたじわりと涙が浮かんだ。泣き顔を見せたくないのか、下を向いて目頭を押さえている。


「顔見せてよ」


ふるふると首を横に振るだけで一向に顔を上げてくれない。

抱き寄せると、私の肩に顔を押し付けるようにしてもたれかかってきた。はあ、可愛すぎる。


「あんまり泣くと目腫れちゃうよ」

「泣いてないって」


強がりなところも、素直になれないところも愛しくて仕方がない。未来の約束に少しでも不安が軽くなっていたらいいな。


美月が泣き止むのを待っていたけれど、そろそろいいかな? 可愛い所を見せつけられすぎて結構辛くなってきた。


「美月、ベッド行こ?」

「なっ……?!」


顔を上げた美月は驚きで涙が止まったみたいで、今度はバッチリ目が合った。


「美月が可愛すぎて辛い。抱かせて?」

「ーっ!! や、まだお風呂も入ってないし、化粧も落としたいし、ほら、シャツの化粧も早く落とした方が……んっ?!」

「待てない。もうここでいい?」


焦る美月の言葉を遮るようにキスをして問いかける。じっと見つめると、ベッドがいい、とかろうじて聞き取れるくらいの声で言うからすぐさま寝室に連れ込んだ。


ベッドに押し倒して顔の横に両手をつくと、泣いた後の顔を見られるのが恥ずかしいのか、顔を手で隠している。


「なんで隠すの?」

「化粧ぼろぼろだし、多分目も腫れてるし……」

「隠されてたらキスできないじゃん。ほら、手離して」


手を離させると、真っ赤な顔で睨まれたけれど、ただただ可愛い。普段のイケメンな美月からは想像が出来ないくらい弱々しくて、こんな美月を見られるのは私だけだと思うと優越感すら覚える。


触れるだけのキスをして見つめると、陽葵ちゃんとキスするの久しぶりだ、なんて言って照れたように笑ってくれた。さっきまで抵抗してたのにキスだけでこんなに柔らかい表情をしてくれるなんて。押し倒されている状況なのに無邪気すぎる。


「美月、先に謝っておくね。加減出来ないかも。ごめん」

「えっ、ちょっと待って?! 明日も仕事……」

「うん。知ってるけど可愛すぎて無理。それじゃなくても我慢してたのに」


ずっと会いたくて、やっと触れられたと思ったらこんなに可愛い姿を見せられて抑える自信が無い。普段だって余裕があるわけじゃないのに。


*****

「……喉痛い。腰も痛い。もう無理って言ったのに」


陽葵ちゃんに文句を言うと、うわ、喉はヤバい。のど飴? 蜂蜜? 何があったかな、なんて呟いている。

……気にするところはそこじゃない。加減してくれなかった事を反省して欲しいのだけれど。


「……陽葵ちゃん?」

「美月、ごめんって」


じとっと睨みつけると眉を下げて謝ってくる。なんか毎回この流れになっている気がする。私も本気で怒ってる訳じゃないけれど、余裕があると思われたら次回が怖いし。


「お風呂の用意してくるからゆっくりしてて」


陽葵ちゃんがシャツを羽織ってお風呂の用意に向かうのを寝転んだまま見送り、少し前のことを考える。


陽葵ちゃんが不安を打ち明けてくれて、卒業したら一緒に住もうって言われて嬉しくて泣いてしまった。

その後もずっと一緒にいて、だなんて私がいつまで一緒に居られるのかなって不安に思っていた事も解消してくれた。


陽葵ちゃんはいつも欲しい言葉をくれる。私が不安がっていたことなんて誤魔化しても気づかれていて。それだけよく見てくれているってことなのかな。


「お待たせ。お風呂準備できたよ。ゆっくり入ってきて」


あれ、今日は一緒に入らないのかな? いつも一緒に入るのに。


「陽葵ちゃんは入らないの?」

「……うん。今日は後からでいいかな。一緒に入っちゃうとまたゆっくりさせてあげられないから」


少しの間が空いて、そんなことを言われた。えっと、もしかしてまだ足りなかったりするの? 私はもう本当に無理だよ??

私はもう充分過ぎるほど満足したから、次は陽葵ちゃんを満足させたい。せっかく用意してくれたし、先に入っちゃおう。私から攻めることがそんなにないから、お風呂でするのはハードルが高いです……


浴室のドアを開けると、入浴剤を入れてくれていて、柑橘系のいい匂いがする。サッと洗って湯船に浸かって全身をマッサージすると随分スッキリした。


「あれ、早いね?」


あんまり待たせたら寝ちゃうかもしれないと早めに出ると、陽葵ちゃんがソファに座ってテレビを見ているところだった。予想外に早かったみたいできょとんとしている。


「陽葵ちゃんも入ってきたら? まだお湯温かいよ」

「ありがと。行ってくる」


陽葵ちゃんを待つ間、SNSを開いてコメントを確認する。さっき載せた髪型が好評みたいで嬉しい。

陽葵ちゃんとのツーショットを載せるのも久しぶりだから喜んでもらえたみたい。


陽葵ちゃんの投稿を見てみると、泊まりに対する反応がすごい事になっていた。コメントのほとんどは好意的な内容でほっとする。

生配信してってコメントも多いけど、この前美南ちゃんの配信に少し一緒に映ったくらいで、2人での生配信はしたことが無い。あ、美南ちゃんのコメント発見。あれ、陽葵ちゃん返信してる?


木村美南

返信先:工藤陽葵

お泊まり?! オフショットご馳走様です!!


工藤陽葵

返信先:木村美南

お風呂なう


木村美南

もしかして一緒に?!


工藤陽葵

ご想像にお任せします


……陽葵ちゃん何してるの?! 任せちゃダメでしょ?!


山内美月

返信先:木村美南、工藤陽葵

別です!! 早く出てきて?!


つい書き込んでしまって、お風呂で陽葵ちゃんがニヤニヤしている様子が浮かんだ。ほんと心臓に悪い……


「お待たせー」


やっと出てきた。これから変なこと書かないように見張っておかないと。


「もう変なこと書かないでよね……ってもしかして動画撮ってる?」


振り返ると、陽葵ちゃんがスマホをこちらに向けている。


「うん。撮ってる」

「え、なんで?」

「別で入ったよって証明?」


SNSに載せるってこと?? またすっぴん晒されるじゃん!!


「もー! ってまた髪乾かしてないし。乾かすから動画止めて」


また髪濡れたまま出てきて……

ドライヤーを取ってくると、早速ストーリーを更新したらしく通知が来ていた。

私も陽葵ちゃんのすっぴん晒してやるんだから。

髪を乾かし終えて、歯磨きをする陽葵ちゃんにスマホを向ける。


「すっぴん晒されたのでお返しでーす」

「え、動画?! 皆さんこんばんはー」


歯磨きをしながら、スマホに向かって手を振る陽葵ちゃんが無邪気で可愛い。すっぴんでも綺麗だから仕返しになってない気がする。本当はこんなにリラックスしている陽葵ちゃんは私だけが知っていたいけれど、皆さんの推しはこんなに可愛いんですよってファンの方々に見せてあげたい。


動画を止めて、鏡越しに陽葵ちゃんを見ると目が合ってふわりと笑ってくれた。化粧を落とした陽葵ちゃんは少し幼くて、年上だけれど可愛い人だなって思う。

この前は緊張しすぎて陽葵ちゃんを見られなかったけれど、今日はちゃんと目を合わせられた。


寝室に移動してストーリーにさっきの動画を載せて、寝ようとする陽葵ちゃんを組み敷く。ん? と首を傾げて余裕な表情で見上げてくるけれど、その余裕を早く無くしたい。


「最近美月を見上げることが多いね?」


くすくす笑いながら言われ、余裕を崩したくて噛み付くようなキスをすると、いきなりで目を見開いたけれど、すぐに受け入れてくれた。

唇を離すと、肩で息をする陽葵ちゃんが色っぽくてくらくらする。嫌がっていないのを確認して、再び唇を重ねた。


疲れきって眠りについた陽葵ちゃんの頬を撫でる。好きな人の傍にいられて、身体に触れることを許されているのがどうしようもなく嬉しくて、寝ている陽葵ちゃんを抱き寄せた。

安心したように擦り寄ってきた陽葵ちゃんが愛しくて、胸が苦しくなる。


「愛してる……ずっと傍にいさせてね。……いつかちゃんと言うから」


起きている時には恥ずかしくてとても言えないし、まだまだ素直になれないけれど、寝ている今なら言える。いつも言葉や行動で示してくれる陽葵ちゃんに甘えてばかりだけど、ちゃんと起きている時に伝えられたらいいな。額にキスを落として、目を閉じた。

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★新作もよろしくお願い致します★
黒狼と銀狼
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