12.ソロコン
「会場の皆さんこんにちは。本日はいよいよ陽葵さんのソロコンですよ!! 盛り上がっていきましょー!!」
「始まる前からテンションが高すぎる木村美南と、私、石川望実と」
「山内美月です。よろしくお願いします」
今日は陽葵ちゃんがソロコンを開催する日。今日まで、過密スケジュールでずっと心配だった。
陽葵ちゃんが沢山の人達と準備してきたソロコンがいよいよ始まると思うと、まだ始まってもいないのに泣きそうになる。最後まで泣かないように気を引き締めないと。
今回のソロコンは申し込みが殺到したらしく、ライブ会場、ライブビューイング、生配信となっていて、私たちはライブビューイングの会場に来ている。
「すみません、テンション上がりすぎて自己紹介忘れました。本日はオタク枠として私と望実、彼女枠で美月さんがお邪魔しております!」
「え、ちょっと待って彼女枠って何??」
「台本に書いてあったんですもん。美月さんの方には書いてなかったですか?」
「書いてない。なんで違うのー?」
彼女枠とか公式の放送で言われると心臓に悪いからやめて欲しい。他にも変なことが書かれてるんじゃないかと不安になる始まり方……
「これから陽葵さんのソロコンですが、彼女としての心境をお願いします」
「え、それまだ引っ張るの?」
「いや、そう言えって」
「ちょっとスタッフさーん?! どこまでもいじり倒されるじゃないですか?! 彼女とかそういうのじゃなくて、憧れの人なので、夢を叶えていく姿がかっこいいなと思います」
会場は盛り上がっているけれど、こういう対応は苦手なんだよね。陽葵ちゃんは上手いんだけれど。美南ちゃんも望実ちゃんにも申し訳ない……
「本当にかっこいいですよね!! ライブ開始が待ち遠しいです!!」
「始まるまでまだ時間があるのですが、フリートークってなってまして……陽葵さんを見にいらしたのに私たちのフリートークって必要ですかね?」
私の疑問に、会場の皆さんから必要ー! と声が上がった。さすが陽葵ちゃんのファンの皆さんは優しい。5分前くらいに登場して一緒にライブを見るってくらいでいいのにな……
「何話しますか? 私に語らせたら時間足りなくなる自信ありますけど。って皆さん笑いすぎですよ?!」
美南ちゃんのオタク具合は有名だからね。会場の皆さんにも引けを取らないと思う。
「ちなみに、皆さんは何か話して欲しい内容とかありますか?」
『陽葵ちゃんとのエピソード』
『陽葵ちゃんの好きなところ』
『陽葵ちゃんと美月ちゃんの関係』
『グループで1番好きな曲』
『陽葵ちゃんの第一印象』
望実ちゃんが問いかけると、色々な内容が聞こえてくる。全部は聞き取れなかったけれど、私たちの関係とか絶対答えられないやつ!
「え、陽葵さんと美月さんの関係? それはもうカップルですよね?」
「待って、待って?! おかしいおかしい」
まさかの最初から触れていくスタイル……!! 確かに私たちペアが好きだと公言している美南ちゃんが触れないのも変だし、ヘタに避け続けるよりはここでがっつり触れてもらう方がいいのかもしれないけれど。
私たちの関係を知った今となっては、美南ちゃんと望実ちゃんの負担になっていないか心配。なんでこのメンバーが選ばれたんだか……
「陽葵さんと美月さんといえば、皆さん、ドッキリ企画見てくれましたか?!」
「おー、かなりの方が見てくれていそうですね」
美南ちゃんの問いかけに、見たよー! という声が沢山聞こえてきた。見てもらって嬉しいような見て欲しくないような……
「まだの方は是非見てください! もうほんと尊いので。見逃した方は、××チャンネルさんの方でも見られますので、是非是非登録よろしくお願いしますね」
「さり気ない宣伝……笑」
「実は、美月さんの家でこの3人+柚葉さんで鑑賞会したんですよ! まあ、私はもう何回も見てるんですが」
「もうね、何の罰ゲームかと思いましたよ。……え、ここで映そう? 嫌ですよ! 皆さんここに何しに来たんですか?! 私の話はこれくらいにして、次、次!」
こんなに沢山の陽葵ちゃんオタの皆様と一緒に見るとか絶対に無理。さくさく次の話題に行きましょう。
「次は、えーっと陽葵さんの第一印象にしましょうか。私は、"テレビで見るより断然美人!!" ですかね。美南は?」
「"芸能人だ!!" ですね! え、皆さんなんで笑うんですか?!」
「美南ちゃんらしい。次は私ですね。"美人なお姉さん"って思いました。入った時は陽葵さんは高校生で私は中学生だったので。懐かしいです」
その後もいくつか質問に答えていたら5分前になったので、私たちも客席に移動した。
自分が出るわけじゃないのに緊張する。欲を言えば、ライブ会場で見たかったなぁ……
陽葵ちゃんが登場すると、大歓声が上がった。隣では美南ちゃんと望実ちゃんも歓声を上げている。私は陽葵ちゃんが出てきただけで感極まって言葉がでなかった。
アンコールまで終わり、スクリーンに陽葵ちゃん直筆のメッセージが映し出されている。陽葵ちゃんらしくて、最高のコンサートだった。
ソロで歌って踊る陽葵ちゃんは輝いていて、グループでのコンサートの時とはまた違った魅力に溢れていた。改めて凄い人だなって実感する。
始まる前から涙腺が崩壊しそうだったのに、こんなメッセージはずるいと思う。この会場でも涙している人がいるし、みんな同じ気持ちだよね。
陽葵ちゃんは人気も実力もあるし、いつかはグループを卒業してソロでやっていくんだろうな。その時が遠くないように思えて無性に寂しくなって、耐えていた涙が零れるのが分かった。
陽葵ちゃんが卒業した時、私は隣にいられるのかな? 陽葵ちゃんが必要としてくれる限りそばに居たい。
ソロコンの成功はもちろん嬉しいのに、全力で祝福出来ないなんて情けない……
陽葵ちゃんの前では笑顔でお疲れ様って言うんだ。そう誓って、涙を拭う。なんかカメラさんが明らかにこっちを撮っているような……? もしかして抜かれてた?
「本日は工藤陽葵ソロコンサートライブビューイングにお越しいただきありがとうございました! 是非今日のライブの感想を投稿してくださいね」
「皆さんと一緒に盛り上がれて最高に楽しかったです!!」
「これからも応援よろしくお願いします。本日は本当にありがとうございました」
それぞれ最後に挨拶をして、3人で楽屋に向かうと、今日の感想コメントを撮る為にスタッフさんが待っていた。
『今日のコンサートはどうでしたか?』
「陽葵さんの魅力が引き出されたコンサートで、改めて凄い人だな、と実感しました」
無難すぎたかな?? でも本音なんて言えないし……
「もう、最高の時間でした!! スクリーンの陽葵さんも見たいし、スクリーンをじっと見つめる美月さんの横顔が美しすぎて隣も見たいし、忙しかったです」
「いや、スクリーンだけ見て?」
美南ちゃん、何やってるの……
「会場の一体感が凄かったです。皆さんすごく盛りあがっていて、私達も楽しかったです」
「ファンの皆さんのコールも凄かったよね」
「私も全力でコールしてました!」
「最高の時間を皆さんと一緒に過ごせて良かったです!! ありがとうございました」
『はい、OKです。お疲れ様でした』
「お疲れ様でしたー!」
次の仕事は美南ちゃんと望実ちゃんとは別だから、少し残るという2人を置いて私だけ先に楽屋を出た。
陽葵ちゃんは打ち上げだと言っていたし、私も遅くまで仕事が入っているから今日は会えそうにない。次の一緒の仕事ってなんだったかな……?
*****
コンサートを無事に終えて、スタッフさん達と打ち上げに来ている。本当なら携わってくれた方全員と来れたらいいのだけれど、仕事がまだあって来られない方も多くて、本当に色んな人に助けられてコンサートを実現できたと思うと感謝しかない。
細かいミスはあったものの、今出来る全力のパフォーマンスが出来たと思う。次は反省を活かしてもっといいものにしたい。
「陽葵、お疲れ様! 大成功だったね!」
「みくさんー! ありがとー」
デビュー当時からお世話になっている仲良しのメイクさんが隣に来てくれて、ハイタッチを交わす。
「ソロコン終わったけど、少しはゆっくり出来そうなの?」
「スケジュールには少し余裕が出来たけど、ゆっくりは出来なさそうかな」
「そっか。無理はしないでね。この前メンバーのメイクしたけど、みんな心配してたよ」
メンバー全員のスケジュールが見られるようになっていて、誰がどんな仕事をしているのかは共有されるようになっている。メッセージをくれたり、みんな優しいんだよね。
「ほんと、みんな心配してくれて有難い」
今回のソロコンはセットリストを考えたり演出を考えたり、1人で準備をすることも多くて、孤独な時間が多かった。楽屋も広くて静かだし、グループっていいなって改めて思った瞬間でもあった。
会場に来てくれていたメンバーが楽屋に来てくれて一気に賑やかになった時にはほっとしたのが正直なところ。
美月はライブビューイングの会場で居ないのは分かっていたけれど、つい探してしまってそんな自分に苦笑した。朝には"頑張ってね"って一言だけメッセージをくれて、美月らしいなって思わず笑ってしまった。
「この後は美月と会うの?」
「今日は会えない。美月も遅くまで仕事みたいだし」
みくさんは美月との関係を知っていて、色々と相談に乗ってもらったりしている。
「2人とも忙しいから大変だね。しばらく会ってないんじゃない?」
「うん。グループの仕事があっても片方だけって時が多くて。次に会えるのは雑誌の撮影があるからその時になりそう」
同じグループでも会わない時は全然会わなくて、これでもし卒業したらどれだけ会えなくなるのか不安になる。何れは私も美月も卒業する訳だし……
「雑誌の撮影っていつ?」
「××日。もしかしてみくさんが担当?」
「そうだね。××日だったら私だわ」
メイクさんは何人かいるけれど、雑誌の撮影の担当もみくさんみたい。
「雑誌の撮影って2人だけ?」
「そうだけど……?」
「イチャイチャは程々にしてよ?」
久しぶりに会えるし、みくさんは関係も知ってるしで、それはちょっと難しいかもしれない。
「……今のうちから謝っておくね、ごめん」
「うわ、開き直られたし」
それだけ信頼してるってことですよー。と笑いあった。早く撮影の日にならないかな。早く美月に会いたい。