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アイドルの恋愛事情~アイドルカップルの日常~  作者:
本編

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11/99

11.風邪

仕事が終わってスマホを見ると、美月から"ごめん。今日は会えない"とメッセージが来ていた。

明日も仕事だけれど、私がしばらく忙しくなるから、今日普段より早く帰れることが分かった時点で美月の家に泊まりに行くことに決めていた。

昨日までは楽しみと言ってくれていたのに、理由もなしに会えないなんて美月らしくない。もしかして風邪でも引いた?


電話にも出ないので直接会いに行くことにする。

家に着いて鍵を開けると、いつも使っているリュックが目に入る。こんな所に置きっぱなしなんて珍しい。

部屋に入ると、ソファに横になって目を閉じた美月の姿があった。


「美月?」

「……ひまりちゃん?」


声をかけると、薄らと目を開けた。明らかに声が掠れている。やっぱり体調悪そう。来てよかった。


「大丈夫? 熱は?」

「まだはかってない」

「んー、ちょっと熱いかな」


美月は平熱が低いから私にとっての微熱位でも辛くなっちゃうんだよね。

体温計を取ってきて美月に渡して、冷蔵庫を確認する。自分で買ってきたのか、スポーツドリンクやゼリーが入っていた。美月らしいけれど、頼ってくれたらいいのに。


「終わった? 見せて」


起き上がって座っていた美月に、ストローをさしたスポーツドリンクを渡して交代で体温計を受け取る。37.2℃か……夜上がらなければいいけど。


「陽葵ちゃん、来ちゃったんだ」

「理由もなしにいきなり会えないなんて言うからどうしたのかと思って」


そう言うと美月が苦笑した。


「帰ってきたら結構やばくて、それだけ打つのが精一杯だった。風邪っぽいから移しちゃいけないと思って」

「そんなことだろうと思った。こういう時こそ頼って?」

「……ありがと」


弱々しく微笑む美月にきゅんとした。儚いって言われることが多い美月だけれど、弱っている姿は特に儚い。


「ご飯食べられそう? それともゼリー?」

「ゼリー食べる」


取りに行こうとすると、服の裾を引かれた。熱のせいか目は潤んでいるし、顔も少し赤いし、上目遣いだし、これは襲えってこと? 思考がそっち方向に行きかけて慌てて自制する。


「どうしたの? 直ぐだから待ってて」

「一緒に行く」


……かわっ!! キッチンすぐそこだよ? 着いてくるの? 私今日持つのかな?

美月と手を繋いでキッチンまで移動するけれど、直ぐにキッチンに着いてしまう。手を離そうとすると寂しそうな顔をしたので繋いだままにした。そんな顔されたら離せないよね。

こんなに甘えたな美月は初めて。手を繋いだまま、ゼリーとスプーンを持ってソファに並んで座る。


「美月、ゼリー開けてくれる?」


片手だと開けられないから私がゼリーを持って美月に開けてもらったけれど、開けたあとも食べようとしないでチラチラこっちを見てくる。

食べさせて欲しいけど言えない感じ?? 私顔大丈夫かな? ちょっと可愛すぎてニヤケが止まらない。


「あーん」


ゼリーを掬って口元に運ぶと、ふにゃっと笑って口を開けた。具合悪いとこんなに幼くなっちゃうの?

今までも体調を崩すことはあったけれど、こんなに気を許したような態度になることは無かった。付き合ってきた期間の中で信頼関係が築けたってことなのかな。

まだ早い時間だけれど、明日も仕事があるし薬を飲ませて早く寝てもらおう。


「辛くない? もう寝る?」

「シャワー浴びたい。陽葵ちゃんも行こ?」


……お誘い? 甘えてみたらどんな反応をするかのドッキリ? ドッキリだとしたら想定以上の反応が出来ている自信がある。


「外で待ってるから入っておいで」


この状態の美月とシャワーなんて耐えられる自信が無いから、不満そうな美月をおいてドアを閉めた。可愛すぎて辛い。頑張れ私。


「美月、髪乾かさないと。ほら、戻って」


髪が濡れたまま出てきた美月を押し戻して、ドライヤーをかける。すぐに終わるけれど、眠くなっちゃうかもしれないから歯ブラシをくわえさせた。いつも面倒臭がる私の世話をしてくれている側だから、されるがままの美月が新鮮。

途中でスポーツドリンクを取ってから寝室に連れていく。


「美月、どうしたの?」


ベッドに寝かせると、なにか言いたそうにしているので促してあげると、少し迷って聞いてきた。


「陽葵ちゃんはまだ寝ない?」

「うん。まだ早いしお風呂も入ってないからね」


寂しそうな顔をされると一緒に寝てあげたくなるけど、着替えもしてないしこの状態では添い寝もしてあげられない。先に着替えだけでもしたら良かったな。


「寝るまでいてくれる? 手繋いでてほしい」


……思わず変な声が出そうになった。普段なら聞けない台詞に驚きすぎて反応が出来なかったらどんどん不安そうな表情になっていく。


「もちろん。はい」

「ありがと」


手を繋ぐと、安心したように笑って目を閉じた。少しすると寝息が聞こえてきたので私もお風呂に入ってこようと思い手を離すと、探すような仕草をしたけれど、起きなかったから眠りについたみたい。


それにしても具合の悪い時の美月は心臓に悪い。普段からこのくらいデレて欲しいと思う反面、常にこうだと私が持たないかもしれない……

朝起きたら戻っちゃってるかな? 明日の反応が楽しみ。


*****

目を開けると、にこにこしながら私を見ている陽葵ちゃんと目が合った。


「美月、おはよ」

「おはよー。……ん?」


違和感を感じて手を見ると、しっかり陽葵ちゃんと繋がれていて、急に昨日のことを思い出した。


「ーっ!!」


ぱっと手を離すと、陽葵ちゃんが笑いながらからかってくる。


「え、離しちゃうの? 昨日は手繋いでって可愛かったのに」

「……今すぐ忘れて?!」


会いたいけど風邪だったら移したくなくて断ったけど、会いに来てくれたのが凄く嬉しくて、無性に甘えたくなったんだよね。今思うと恥ずかしすぎる……


「あんなに可愛い美月を忘れるなんて無理」

「昨日はどうかしてた。熱のせいかな」


キャラじゃない、と呟くと陽葵ちゃんが頭を撫でてくれた。


「甘えてくれて嬉しかったし、普段ももっと甘えてくれていいんだよ? どんな美月のことも好きだから」


そんなこと言われると甘やかされてダメになりそう。


「体調はどう?」

「薬が効いたみたいでもうすっかり良くなった。来てくれてありがとう」

「ううん。私が会いたかったから」


私も、と小声で言ったら、聞こえたみたいで嬉しそうに笑ってくれた。

甘えるのは苦手だけれど、陽葵ちゃんが喜んでくれるならたまには思い切り甘えてみてもいいかもしれない。


今日は私の方が出る時間が早いから、陽葵ちゃんが玄関まで見送りに来てくれた。前は逆だったよね。


「しばらく忙しくなるけど、毎日連絡する」

「無理しないでね?」

「うん。美月もね」


陽葵ちゃんはソロコンサートを控えていて、これから更に忙しくなる。私に使う時間を睡眠時間に当てて欲しいところだけれど、連絡が出来ないのは辛いから強くは言えない。

次ゆっくり会えるのはソロコンが終わったあとかな……


「じゃ、行ってきます」

「行ってらっしゃい」


陽葵ちゃんに見送ってもらうのってなんかいいな。仕事頑張れそう。


「あ、美月待って」


玄関のドアを開けると、陽葵ちゃんに呼び止められた。


「ん? 何かあった?」


ドアを閉めて向き直ると、忘れ物、と唇を指さしている。……キス? 私からってことだよね? どうしよ、改めて待たれると照れる。

触れるだけのキスをして陽葵ちゃんを見ると、満足気に笑っている。可愛いなぁ。


再度玄関を開けて、行ってきますと行ってらっしゃいの挨拶をする。なんかこういう日常のやり取りっていいよね。恋人と一緒に住んでいる人が羨ましい。いつかは私も陽葵ちゃんと一緒に住めたらいいけど、難しいよね……


もっと一緒にいたかったけれど、切り替えて仕事に行きますか。

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黒狼と銀狼
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