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1.収録

今日は私がキャプテンをさせてもらっているアイドルグループでの歌番組の収録の日。楽屋に入ると、既に来ていたメンバー達が挨拶をしてくれたけれど、若手メンバーからは緊張が伝わってくる。


有難いことに個人での仕事が忙しくてグループでの活動に参加できないことが多くて、人数も多いから在籍期間が短い子とは挨拶程度で、まだあまり話せていない。

本当はもっと気にかけないといけないのだけれど、なかなか時間が取れなくて申し訳なく思う。


陽葵ひまり、おはよー」


同じ1期生の田崎 凛花がメイクを直しながら鏡越しに挨拶をしてきたので隣に座る。


「凛花おはよ。雑誌の撮影どうだった?」


凛花は今日雑誌の撮影をしていて、その現場には美月もいたはず。美月は同じグループの2期生で私の彼女。ほとんどのメンバーは付き合っていることを知らないけれど、凛花はそのことを知っている数少ないうちの一人。


「衣装も可愛くて、美月とペアで撮ってきたよ。自撮りしたやつ見る?」

「わ、見たい!」


凛花からスマホを借りて写真を見ると、満面な笑顔の凛花と目を細めて笑う美月の姿。凛花はもちろん可愛いけれど、美月イケメン……可愛さもカッコ良さも兼ね揃えてるってずるくない?


「陽葵、顔ゆるっゆる」


呆れたように指摘されるけれど、仕方ないと思う。しばらく凛花と話していると、美月が楽屋に入ってきた。


「美月さん! この前話してたやつなんですけど……」

「一緒に写真撮ってください」

「美月さん、今日もかっこいいです!」


……モテすぎじゃない? みんなから好かれているのはいい事だけれど。

キャプテンだし、付き合っていることは公表していないし、美月だけ贔屓は出来ないけれど……ああいう光景を見ていると正直嫉妬する。

美月を囲んでわいわい盛り上がっているのを眺めていると、私が見ているのに気づいて近づいてきた。


「陽葵さん、お疲れ様です。険しい顔してますけど何かありました?」

「お疲れ様。え、そんな顔してた?」


顔に出さないようにしていたけれど、バッチリ出ていたらしい。些細な変化でも気づいてくれて、私のところに来てくれたのが嬉しい。


「してましたよ。ね、凛花さん?」

「よく見てないと気づかない程度だけどね」


そこまであからさまじゃなかったみたいでほっとした。気をつけないと。


「それで、何があったんです?」

「や、なんでもないよ。それより、午前中の撮影お疲れ様。凛花に写真見せてもらったよ」

「後で聞きますからね。あ、もう見たんですか」


この場では話すつもりがないことを察して、話題転換に応じてくれた。


「うん。美月によく似合ってた」

「ありがとうございます。そういえば、この前欲しがってたのってこれで合ってます?」


そう言って取り出したのは何時だったか雑誌で見て可愛いなって言ったキーホルダーだった。


「え、これどうしたの?」

「たまたま見つけたので買っときました。どーぞ」


はい、と差し出されたキーホルダーを受け取った。こういうことサラッと出来ちゃうんだよね。

さりげなく言った一言を覚えていてくれたことだけでも嬉しいのに。


「ありがとー!!」


座ったまま、美月の腰に抱きつくと頭を撫でてくれた。イケメン……!


「ねえ、自然にイチャつくのやめてもらえる?」


凛花が呆れたように言うけれど、このくらいならセーフでしょ。


*****

歌番組の収録が始まり、司会の方の曲紹介中にスタンバイしているとメンバーの様子を確認していた陽葵ちゃんと目が合った。微笑んでくれて、つい顔が緩んでしまった。

今回の曲はダンスナンバーで、陽葵ちゃんがセンター。ダンスも上手いし、歌も上手くて綺麗で、更には性格も良いなんて欠点が見つからない。


個人での仕事も多くて誰よりも忙しいのに、弱音をはいているところを見たことがない。私には弱いところを見せてくれるようになったらいいのに。


早く追いつきたいと思うのにまだまだ遠くて、ずっと手が届かないんじゃないかと感じる時がある。メンバーもみんな尊敬しているし、こんなにすごい人が彼女だって未だに信じられなくなるくらい。


全体的に大きなミスもなく収録が終わり、楽屋に戻ると凛花さんがニヤつきながら近づいてきた。え、何??


「スタンバイ中に陽葵と見つめあってたでしょ?」

「うえっ?!」


まさか見られてたなんて思わなくて変な声が出てしまった。


「いやいや、気のせいじゃないですか?」

「もしかしたら放送されちゃうかもねー?」


さすがにないでしょ。……ないよね? 陽葵ちゃんと私の絡みを楽しみにしていてくれるファンの方もいて、ファンサービスも兼ねて陽葵ちゃんと仲の良さをアピールしてみたりするけれど、今回は素だったからちょっと心配。


「美月はこの後どうするの?」

「陽葵さんを待ってようと思います」


陽葵ちゃんはマネージャーさんと打ち合わせをしていてまだ戻ってきていない。さっき様子がおかしかったし、何かあったのなら早めに話しておきたい。


「そっか。じゃあ先に帰るね。またー」


凛花さんは荷物をまとめて帰っていき、メンバー達も徐々に帰り出した。今のうちにSNSに載せる写真選んじゃおう。


「あれ、美月待っててくれたの?」

「はい。一緒に帰ろうと思って」


写真を選んでいると、陽葵ちゃんが戻ってきて、私がまだいることに気がついて嬉しそうに笑ってくれた。この笑顔が見られただけでも待っててよかったな。


「すぐ帰る準備するね」

「急がなくて大丈夫ですよ。SNSに投稿しようと思ってるので」

「それならさ、今写真撮らない? 残ってる子達と一緒に」


陽葵ちゃんの提案にOKと返事をするとまだ残ってる後輩たちに声をかけに行った。陽葵ちゃんに写真を誘われて、嬉しそうにはしゃぐ後輩たち。

普段は陽葵ちゃんと話すのに緊張しているのか、あまり話しているところを見かけない子が多いから余計に嬉しいのかもしれない。あそこまで喜ばれたら陽葵ちゃんも嬉しいだろうな。


「みつきー。みつきちゃーん。おーい?? みつきたーん?」


後輩たちと比べて自分の可愛げの無さにちょっと落ち込んでいたら、陽葵ちゃんに呼ばれた時にすぐに反応出来なかった。

みつきたんなんて似合わないけれど、不覚にも陽葵ちゃんが呼ぶと可愛いと思ってしまった。


「たんってなんですか」

「可愛いからこれからそう呼ぼうかな」

「……やめてください」


集まっている所へ近づいていくと、陽葵ちゃんは呼び方を気に入ったらしく、小声で、可愛いのになー。みつきたん……と言っている。え、そんな陽葵ちゃんが可愛いんですけど?!

私に聞こえたということは私より近くにいた後輩たちにも聞こえているわけで。生暖かい空気がなんかもう恥ずかしすぎる。


「えっと、写真撮りますか。全員入るかな?」


居た堪れないからさっさと写真撮っちゃおう。自撮りだと全員入らなかったので結局組み合わせを変えて何枚か撮った。撮った写真はその場で共有して、SNSに載せる許可を貰う。みんなも載せると言っていたから、後で見に行こう。


荷物を持って帰ろうとする陽葵ちゃんを呼び止めて、椅子に座ってもらう。まだ本題が残ってるからね。後輩たちには先に帰ってねって伝えておいた。


「あれ、帰らないの?」


思い当たることがないのか、不思議そうに首を傾げている。


「収録前のこと、後で聞きますって言いましたよね?」

「あー、言ってたね。そんなに知りたい?」


言いにくいのか、チラッと上目遣いで見てくるのが可愛すぎる。


「……かわっ!! 出来れば知りたいです」

「笑わないで聞いて欲しいんだけど。楽屋に入ってきた時に私より先にみんなが美月を囲んだことに嫉妬しただけ」


まだメンバーが楽屋に残ってるのを気にして、小さな声でそんなことを言ってくる陽葵ちゃんが可愛すぎて辛い。


「なんなの? その可愛すぎる理由」

「可愛いかな?? 私だって1番に美月と話したいのに」


後輩たちが帰り支度を始めていてこちらを気にしていないのを確認して、私も声を潜めて普段の話し方に戻す。

こんな風に私にだけ見せる甘えた姿が愛しくて仕方ない。嫉妬してくれてたなんて思わなくて、顔がにやけるのを止められない。


「ほら、笑ってるじゃん。くだらないって思ったでしょ?」


好きな人に嫉妬されて嬉しくないわけが無い。陽葵ちゃんが私を選んでくれたことがまず嬉しいのに、こうやって好意を示してくれるなんて幸せすぎる。


「思ってないよ。今度から1番に陽葵ちゃんのところに行くね」

「ううん、みんなも美月と話したいだろうからいいよ。でもあんまり見せつけないでね?」


はー、可愛い……嫉妬するのは私の方だと思うんだけどな。人気も実力もあって私でいいのかなって常に思ってるのに。


「気をつける」


神妙に頷く私に満足したのか、陽葵ちゃんはこれで話は終わり、と立ち上がった。今日の仕事はこれで終わりだけれど、陽葵ちゃんは明日の朝早くから仕事が入っているから、残念だけど今日の夜は別々かな。

仕事が早く終わったり、次の日の朝が遅かったりするとどっちかの家に泊まるのがいつもの流れ。お互いの家に着替え等の必要なものは一通り揃っているから、急に予定が変わったりしても泊まれる準備が出来ている。


「今日は私の家でいい?」

「え?」


楽屋を出て並んで歩きながら何気なく言われた言葉が一瞬理解出来なかった。


「あれ、何か予定あった?」


私の反応が予想外だったのか、陽葵ちゃんが立ち止まる。


「いや、無いけど、陽葵ちゃん明日早いから今日は別かなって思ってて」

「私は一緒のつもりだったけど。美月は一緒に居たくない?」

「……陽葵ちゃんが居たいなら行きます」


そんなの一緒に居たいに決まってる。でも素直に言うには照れくさくてつい素っ気なくなってしまった。


「一緒に居たいから来て?」


お見通しなのか、くすりと笑って誘ってくれた。素直になれない私の気持ちをくみ取ってくれて感謝しかない。甘えるのが得意じゃないけれど、もうちょっと素直になれるように頑張らなきゃ。


夜ご飯を買って2人で陽葵ちゃんの家に帰ってきた。まだ夕方だし、今日はゆっくり出来そう。汗かいたしお風呂入りたいな。


「陽葵ちゃん、先にお風呂借りてもいい?」

「もちろんいいけど、もう入るの?」

「うん。早く入った方がゆっくり出来るし。陽葵ちゃんは?」

「私は明日の仕事の確認しちゃうね。本当は一緒に入りたいけど、絶対お風呂入るだけで終われないから。襲う自信がある」

「なにを言って……?! もー、先に入ってくるね」


陽葵ちゃんが変なことを言うから色々考えてしまって危うくのぼせるところだった。

常に置いている部屋着に着替えて部屋に戻ると、陽葵ちゃんはまだ仕事が終わってないみたいだったからソファに座って今日撮った写真をSNSに載せることにした。


投稿し終わって顔を上げると、陽葵ちゃんも終わったみたいで目が合った。

変に意識してしまって目を逸らすと、ニヤニヤしながら隣に座って顔を覗き込んでくる。


「なに? もしかして意識してる?」

「してないし」

「へー? その割に目が合わないけど?」


絶対分かっててやってるでしょ。いつもペースを持ってかれるのが悔しい。


「さ、ご飯食べよ! 見たい映画あるんだよねー!」

「行かせると思う?」


陽葵ちゃんを押しのけて立ち上がろうとしたらソファに押し倒された。……この流れはまずい感じ?


「せっかく早く帰ってこられたし、のんびりしよう? ね?? それにほら、まだ早い時間だし」

「美月慌てすぎ。夜ならいいってことね」


え、そうなる? そういう意味じゃなかったんだけど?!


「ちが……!!」

「映画だっけ? 見ながらご飯食べようか」


もう陽葵ちゃんの中で決まったのか、私の上から降りて映画を検索し始めている。私はまだドキドキしすぎて起き上がれそうにないのに……

たまには私が主導権を握りたいと思ってはいるけれど、そんな日は来るのだろうか?

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