9話 近寄って来たのは
見晴らしの良い場所に行こうと移動していると、15歳ほどの身なりの良い少年を先頭に何人かが走り寄って来た。
そしてその少年が呼吸を整え、
「少々お聞きしたいのですが、先程の召喚の儀で喚び出されたという勇者は貴殿の事でしょうか?」
と訊いてきたので、
「私は勇者ではないが、喚び出されたという事なら合っているな」
と答えたのだが、
「おお勇者様、私ジア王国第2王子ケイド・ジアと申します。現在我が王都は昼は主に人間族、夜はアンデッド共に休む間もなく攻められております、何とぞお力をお貸しください!」
と一気にまくし立てて、深々と頭を下げた。
それを見た追い付いて来た者達の1人が、
「ケイド様、勇者様はまだこちらの世界に来られたばかりで、急にそんな事を言われても面食らってしまいますよ。
勇者様、スーリオン様、急に参りまして申し訳ありませんでした」
そして王子を促して引き返そうとするので、
「話を聞くに焦られる気持ちもよく分かる。こちらに向かっている魔王の軍勢を撃破したら、次は王都救援に動く事になるだろう。だからもうしばらくの辛抱だ」
と彼等の背に声をかけた。
すると彼等は振り向き、
「ありがとうございます、勇者様!」「よろしくお願いします、勇者様!」
と言い、去っていった。
その姿を見やりながら、
「いやだから勇者じゃないと言って………あ奴ら聞いてないな…」
少し、肩を落とした。
「ふふっ、若い者はあんなものですよ。ではこちらです」
スーリオンの案内で再び歩き出し、里から少し離れていく。