Episode 11ー七人目と八人目ー
(7月27日。高校2年生の花火大会当日。この日なんだ。俺はこの日から君の事を好きになった。俺は花火なんかより花火の光で時折輝く君の横顔ばかり見つめていたんだよ。)
1
2015年10月13日(火)
一ノ瀬凛達が路上ライブの準備をしていると突然後ろから「この前はすまなかった。」と大きな声がして体をびくりとさせて驚いた。
凛が「亮?」と言いながら振り向くと、そこには頭を下げた亮の姿があった。龍司が亮の側に寄って頭を上げさすと、もう3週間以上の日にちが過ぎているというのに亮の顔はまだ腫れていて、よほど強く芹沢に殴られていた事がわかった。
「この顔の腫れがひいたらここに来るつもりでいたんだけどよ…なかなか治らなくって…これは1ヶ月経っても治らないだろうなって思って…中途半端に今日来ちまった。」
「必ず来ると思ってた。」
龍司がそう言うと亮は少年らしい満面の笑顔を見せた。
「バンドもちゃんと抜けれたみたいだし良かったね。」
春人がそう声を掛けると亮は、
「それが…あいつらから連絡はないんすけど、ちゃんと辞めれたかどうかはわからないんすよ。」
と曇った表情を見せた。
「大丈夫だよ。昨日、芹沢と新川の2人が俺達のライブを見に来てバンドを辞めた事を認めてたから。」
拓也は亮の肩を持ちながら言った。亮は口をぽかんと開けて驚いた後「本当ですか?」と言った。拓也は「うん。本当だよ。あいつらが言ってたから間違いない。」と笑顔で答えた。
「なんだ。亮はこの3週間、あいつらから連絡くるかもってビクビクしてたわけ?」
真希がからかうと亮は「んなわけないだろぉ。」とふてくされていた。
「で、亮はこれからどうするの?」
凛の質問に亮は「どうするって?」と質問を質問で返して来た。
「だから、バンド活動。ギター好きなんでしょ?」
「…ああ、その事なんだけど…もし良かったら俺を…俺をバックギターとしてあんた達のバンドの後ろで演奏させてくれないか?」
「えっ!?」
凛だけでなくThe Voiceの5人全員が「えっ!?」と驚いた声を上げた。
亮はその驚きの声が拒否する反応と思ったらしく俯きながら言った。
「いや、無理にとは言わない。ダメならそれでいいんだ。」
「いやいやいや、亮、そうじゃない。俺らはお前を迎え入れる心の準備は出来てたんだ。」
龍司の言葉に亮は目を輝かせて「ほ、ホントか!?」と言った。
「龍司はそのつもりだったよ。私達は亮がバンドメンバーとして加わりたいと言うなら考えるつもりでいたし。だけど…まさかバンドメンバーじゃなくバックギターとして頼まれるとは思ってもいなかったわ。」
「真希さん。ダメか?」
「ダメかって…それはバンドメンバーじゃなくてサポートメンバーでって事?」
「ああ、もちろんだ。」
「いや、ダメじゃないの。正式にバンドメンバーとして入りたいって言うなら私達は受け入れてもいいかなって思ってはいたし。」
「それはサポートメンバーでは無理って事なのか?」
「ちょっと待って亮。君は正式にバンドメンバーになりたいわけじゃなく、あくまでもサポートメンバーとして私達のバンドのお手伝いをしたいって事?」
「そういう事だ。頼むっ!俺をサポートメンバーとして入れてくれ。」
亮は真希から凛の方を向き「なあ、凛頼むっ!」と両手を合わせて頼んで来た。私に頼まれてもと凛が困っていると拓也が亮に質問をした。
「どうしてサポートメンバーに?正式に俺らのバンドに入ろうとは思わないのか?」
「俺はあんた達の元で経験を積んであんた達を越えるバンドを…仲間を捜すから。だから、正式メンバーにはなりたくないんだ。」
亮が凛達の前に姿を現す時はバンドメンバーに加わりたいと言って来るのだろうなと何となく思っていた。今の真希達の態度を見ても全員がそう予想をしていたはずだ。しかし、亮はバンドメンバーではなくサポートメンバーを希望してきた事に5人は戸惑い顔を見合わせた。
凛達5人が答えを出しあぐねていると亮は一人一人の顔を順番に見ながら名前を呼び始めた。
「拓さん。龍さん。春さん。真希さん。凛。」
凛はどうして自分だけ呼び捨てなのかと疑問を感じたが今それを言うべきではないなと思い言葉を噛み締めた。
「頼む!俺をサポートメンバーとして迎え入れてくれっ!」
そう言った後、亮は頭を下げたまま顔を上げなかった。龍司が首を捻り、
「リーダーどうするんだ?」
と真希に聞いた。真希は腕組みをし難しい表情を浮かべた。
「拓也は?」
「俺は…うん。リーダーに任せる。」
「そう。じゃあ、亮がそうしたいならサポートメンバーとして迎えるわ。でも、正式にバンドメンバーになってくれてもいいのよ。」
「そう言ってもらえるのは嬉しいけど、俺は正式メンバーにはならない。いつかあんたらを越えるバンドを必ず結成するから。それが今の俺の夢になったから。」
「そう、わかったわ。じゃあ、私達は亮をサポートメンバーとして受け入れる。みんなもそれでいい?」
凛達4人は同時に「もちろんっ!」と答えた。
こうしてThe Voice7人目の男がバンドに加わった。
2
2015年10月14日(水)
亮がThe Voiceのサポートメンバーに加わった事を佐倉みなみが知ったのは昨日の夜遅くだった。みなみは拓也から送られて来たLINEを見た瞬間テンションが上がってなかなか眠りにつく事が出来なくなって今日は見事に寝不足で目元が腫れてしまっている。
「みなみ、目がむくんでるよ。」
昼休み教室でお弁当を食べていると突然真希が心配そうに言った。
「気付くのおそっ。」
みなみはしんどそうにそう言ってしまったので真希は余計に心配そうな表情を浮かべた。
「調子悪いの?」
「あ、違う違う。昨日拓也くんから亮君がサポートメンバーに加わったって聞いて、それで私嬉しくなってテンション上がっちゃってなかなか眠れなくなったの。」
「なんだ…ただの寝不足?」
「うん。めちゃくちゃ眠いよ。」
真希は目を細め怪しむ様な目を向けて聞いてきた。
「嘘付いてない?」
「嘘なんかついてないよ。その怪しむ目、やめてよ。」
「みなみ、体調悪かったらすぐ嘘つくから。」
「私、嘘つきキャラになっちゃってるんだ…」
真希は悪気なく、そうだよ。と言ってお弁当のおかずを食べ始めた。
「最近、あんまり食欲もないよね?」
「…あるよ。お弁当だって全部食べてる。」
「お弁当の量が少しずつ減ってる。」
「……気のせいだよ。」
真希は目を細め、また怪しむ様な目をみなみに向けて来た。
「そ、そうだ。真希はさ、その、好きな人とかいるの?」
「突然ね。」
「う、うん。前から気になってたんだけど、な、なんとなく聞きにくくて。」
「そうなんだろうね。めちゃくちゃ緊張してるのが伝わって来る。」
「そ、そう?」
「うん。話し変えようと必死。」
「……。」
「そうね。好きな人はいるよ。」
「えっ?拓也君の事?」
「はっ?なんで拓也が出てくんのよ?」
「だ、だって格好いいじゃん。」
「…そ、そうね…だけど、拓也じゃないわ。安心して。」
「じゃあ…まさか…」
みなみが名前を出そうとする前に真希は、龍司じゃないからね。と言ってみなみを睨んだ。
「…私の知ってる人だよね?」
「まあね。だけど好きと言うより尊敬出来る人って感じかな。」
真希は照れる素振りも見せずにそう呟いた。もし、みなみが真希の立場なら顔を真っ赤にして動揺しまくるのだろうが顔色一つ変えずにいられる真希は流石だと思った。
「そっか。トオルさんの事、真希は好きなんだ。」
みなみが呟いた瞬間、さっきまで顔色一つ変えなかった真希が顔を真っ赤にして、持っていたお箸を落とした。落としたお箸を拾おうとする真希の左手が小刻みに震えている。
「ど、どど、どうしてトオルさんとだとわかったの?」
真希は面白い程に動揺していた。
「だって私が知ってて真希が尊敬出来る人って言ったらトオルさんしかいないもん。」
「そ、そんなはずないでしょう!」
真希は荒々しくそう言った。
「まさか真希…私が真希の好きな人を当てられるわけがないとか思ってたの?」
「好きじゃない。尊敬出来る人。コ、コンビニ行って来る!」
「今から?」
いつもの真希とはあからさまに違い動揺の色が隠せていなかった。
「お箸落としたし。」
「洗えばいいじゃん。」
「うるさいっ!」
真希が去って一人になったみなみは、
「うん?怒っちゃった?」
と顔を捻りと呟いた後、
「顔色一つ変えずに流石だと思ったけど…あんなに動揺するなんてね。」
と呟いた後、みなみはクスクスと笑った。
3
2015年10月19日(月)
霧島亮はThe Voiceのサポートメンバーになってすぐにでも演奏が出来るものだと思っていた。しかし、リーダーである真希はそう簡単にギターを持たせてくれなかった。
「いい?今週1週間、私達は沢山の曲をあんたの前で披露する。それを全て覚えて。全て覚える事が出来たら来週には路上ライブで一緒に演奏しましょう。」
先週の13日に真希は亮にそう告げた。
「つまり路上ライブで聴いた全ての曲を覚えられて演奏出来るかのテストって事か?」
「ま、そうなるわね。」
日曜日に5人はいつもブラーで練習をしているらしいが中学生の亮をブラーに呼ぶには時間が遅すぎるという理由で今日19日に路上ライブを行うのをやめ定休日のブラーを間宮に無理を言って店を開けてもらい亮が聴いたThe Voiceの曲を披露する事となった。
(今日俺が聴いた全ての曲を演奏出来なかったらどうなるんだ?)
「ま、今まで聴いた曲は全部覚えたけどな。」
亮は腕時計で時刻を確認した。
(午後6時。約束の時間だ。)
亮は飛び跳ねるようにブラーへ続く短い階段を駆け下りた。
*
「土日は路上ライブやってねーけど4日で50曲近くは演奏したよな?」
龍司は姫川真希に問い掛けて来たが春人が真希の変わりに答えた。
「正しくは42曲だ。」
「私無理だな。曲だけ聴いて覚えるだなんて。それに覚えられたとしても演奏するってなるとまた話しは別になる。それから練習する時間なんてほとんどなかったし。亮が実質練習出来た日は昨日と今日しかなかったんじゃない?」
凛が言った言葉に拓也と龍司と春人の3人は深く頷いていた。
「俺も無理。絶対無理。ハルなら出来んじゃねぇ?」
「無理だよ。」
「これで完璧に演奏したら亮は本物だよ。」
「おいおいタク。42曲も完璧に演奏出来るわけねーだろ。ほとんどの曲が亮の前で一回しか演奏してねーんだから。おい真希。ある程度亮が曲を覚えて来ていれば次からは路上ライブで演奏させてやるんだろう?」
「そうね。だけど私は亮が42曲全て完璧に演奏してくれるものだと思ってるわ。」
「んな事出来るわけねーだろ。そんな事出来たらバケモンだ。」
「そうね。化け物ね。だけど、私は亮がその化け物だと思ってる。」
「マジかよ……」
「JADEのあの少年が全ての曲を耳で覚えて演奏してたとはな…驚きだ。」
それまで黙って真希達の会話を聞いていた間宮が呟いた。
「トオルさん。亮のギターの腕は私以上だと思う?」
「真希、何言ってんだよ。そんなわけねーだろう。」
龍司はそう言ったが真希は間宮から目をそらす事なく間宮の言葉を待った。
「今は、亮の方が上手い。」
「…そう。」
「少し前は真希の方が上手かった。」
「…そっか。抜かされたんだ、私。」
「その少し前は亮の方が上手かった。」
「え?」
「ここで自信を失くして諦めんのは簡単だぞ。世界に目を向けろ真希。もっと凄い奴がいる。こんなところでくすぶってる暇はないぞ。」
「そうね。ありがとうトオルさん。」
「お、みんなもう集まってたのか?」
店の入口から突然亮の声が聞こえて来た。
「いつ来たの?」
「今だよ。ギターも持って来た。早速始めようぜ。」
「ある程度はちゃんと覚えて来た?」
「は?なーに言ってんだよ凛。全曲完璧に覚えて来たに決まってんだろ?」
「土日だけで練習出来たの?」
「何言ってんだよ。練習しなくたって弾ける。全部曲はここに入ってる。」
亮は自分の頭を人差し指でツンツンと押した。
真希は嬉しそうに、自信たっぷりね。と呟いて手を叩き、
「さ、みんな通しで演奏していくわよ。」
と言って全員に準備をするよう促した。
「演奏順のタイトルだけ書いた紙を渡しておくわ。」
真希は順番にタイトル名だけ書かれた紙を皆に渡していったが亮だけはその紙を受け取らなかった。
「俺、タイトル見てもわかんねーし。路上ライブで演奏した順で演奏したらいいんだよな?」
「そうよ。」
「なら、真希さん俺は紙はいらねーよ。」
真希はまた嬉しそうに笑みを浮かべた。
真希達6人は本番さながらの演奏を始めた。真希はギターを弾かずにサックスとバイオリンを使いギターは亮に任せた。
亮は見事に全ての曲を完璧に覚えていた。その記憶力に真希達は驚いた。
午後10時をまわった頃、全ての曲は演奏出来なかったが真希は練習を止めた。亮はまだ全曲演奏していない事を訴えたが真希は「全ての曲を覚えている事はわかったわ。それに4時間休憩なしで演奏してたから、もう疲れたわ。」と伝えた。凛も腰を捻りながら「確かに疲れた。みんな最初の曲から亮の記憶力に驚いてたよ。もう充分だよ。」と言った。
「じゃあ、今週から俺もバックギターで参加してもいいんだよな?」
「ええ。もちろんよ。だけど、今、亮が弾いているのは私のパートでメロディ寄りの演奏なんだけどリズム寄りの演奏出来る?」
「大丈夫だ。」
「よし、じゃあ、次の曲で私がリードギター、亮がサイドギターで演奏して練習を終りましょう。」
亮は記憶する能力だけではなく演奏する能力も持ち合わせていて、ちゃんとサイドギターの役割も果たしていた。それにより真希と亮の演奏にははっきりと役割分担が出来ていた。
(この子。本物の化け物ね。)
4
2015年10月22日(木)
20時。路上ライブ後、橘拓也達はいつもの様にルナに向かった。今日のメンバーは拓也と龍司と真希と春人と凛と亮とみなみの7人だ。ルナには新治郎ではなく結衣が働いている。
拓也達が店に訪れると結衣は「いらっしゃい。」ではなく「待ってたよぉ〜。」と拓也達に言った。
最近は路上ライブが終るとこうやって全員でルナに来る事が暗黙の了解になっていた。それを見て新治郎は、お前ら昔のサザンクロスみたいになってきたな。と言っていた。席に着くと真希が亮に聞いた。
「あんたさ。生演奏でなくても曲を聴いたら覚えられる?」
「ああ。覚えられるけど?」
「それなら良かったわ。私達、12月24日の柴咲交響楽団のクリスマス・イブコンサートで2曲演奏させてもらう事になってるの。その曲を最近は日曜日のブラーで練習しているんだけど亮はまだ中学生だから日曜の練習には参加出来ないでしょう。だから、その曲を保存してきたの。渡しておくから聞いてみて。」
真希はUSBフラッシュメモリを亮の目の前に置いた。亮がそれに手を伸ばした時、真希が「その曲の作詞作曲は長谷川雪乃よ。」と伝えた。亮は伸ばした手を止めUSBをしばらく見つめた後「それは厄介だな。聴き込まないと覚えられないかもしれねぇ。」と呟いてUSBをポケットの中にしまった。
「俺も歌詞が覚えられない。」
拓也が言うと次に凛が「私も曲全然覚えられない。」と言って次に龍司と春人が「俺も。」と続き最後に真希が「私も。」と言った。
「そんなに複雑な曲調なのか?」
「ああ。歌詞も聴いたらわかると思うけど大変なんだ。亮でも2年前に雪乃の曲を聴いて覚えられなかったんだよな?」
拓也が聞くと亮は、
「ああ。俺も覚えるのに時間が掛かると思う。俺、曲を一度聴いても覚えられなかったのは長谷川雪乃が初めてだったからな。あの人は凄い人だよ。」
「雪乃以外一度曲を聴いて覚えられなかった人ってその後は芹沢だけ?」
真希の質問に亮は首を傾げた。
「うーん。芹沢は薬物のせいだろうからな…あ、そうだあと一人いた。」
「誰だよそれ?」
龍司は興味津々といった感じで亮に聞いた。
「Queenって奴の動画見た事あるか?」
拓也達は真希の顔をちらりと見ながら頷いた。
「そっか。みんな知ってるか。有名だもんな。俺、あいつの曲も一回じゃ覚えられないな。」
「真希の曲は覚えられたのにか?真希の方がギター上手いだろう?」
龍司がそう聞くと真希は龍司を睨んだ。
「ああ。ギターはQueenより真希さんの方が上手いのはわかる。けど、そうだな。多分、QueenよりThe Voiceの方が興味があるから覚えやすかったのかもな。それに覚えようって気があったから必死に聴いてたし。」
「真希とQueenのギター似てる感じはしないか?」
また真希は龍司を鋭く睨んだ。どうやら真希は自分から亮に自分がQueenなのだと打ち明ける気はないらしい事がその鋭い目つきでわかった。
「似てる?う〜ん。俺はそんなふうには思わなかったけど。」
Queenが真希だと気付いた雪乃と凛の才能と亮の才能は別物のようだとこの時、拓也は思った。
「実はさ。そのQueenがヒメなんだよ。」
春人があっさりと亮にQueenの正体を明かした。亮は時間が止まったかのように固まり、同じ様に真希も固まった。よっぽど亮に自分がQueenだと明かす気がなかったのだろう。
「ク、クイーン?ま、真希さんが……?」
真希は龍司を睨んでいた目より鋭い目つきで春人を睨んだ。
「あれ?マズかった?」
真希に睨まれた春人は動揺を隠しきれない様子だ。
「別にいいわよ。本人が聞いて来るまで教えないスタイルだったけど隠す必要もないしね。」
「ま、マジかよ…Queenが…真希さん…す、すげぇ……登録者数50万人のQueenが真希さんだなんて…」
「今は60万人越えてるわよ。」
「すげぇ……信じられねぇ…」
「そうだ。亮、あんたにこれ渡しとくわ。」
真希は鞄から青色の星形のキーホルダーを取り出し、はい。と言って亮に渡した。
「これは?」
「ここにいるThe Voiceのメンバーが全員持ってる仲間の印だ。俺は黄色だ。」
と龍司が言ったので拓也は「俺は赤色。」と言った。続いて春人が「俺は緑。」と言って真希が「私は黒。」と言った。最後に凛が「師匠も持ってるんだよ。師匠は白色で私は紫色。」と言った。
「俺も仲間って事か?」
亮は全員の顔を見渡して聞いた。
「当然でしょ。あとで私達5人がいるThe VoiceのグループLINEにも入ってもらうから。」
と真希が言って亮は目をまっ赤にした。亮は泣きそうになったのか、
「てかさ、柴咲交響楽団と一緒に演奏するんだよな?」
と話題を変えた。
「そうよ。オーケストラライブってやつね。」
「真希さんは?ギター弾くのか?」
「そのつもりだったけど、亮がいるから私は1曲はバイオリンを弾いてもう一曲はギターを弾くわ。」
「そっか。わかった。拓さんはボーカルだし龍さんはドラムだろ。春さんはウッドベースを使うんすか?」
「うん。そうなるね。」
春人が答えると亮は凛を見つめた。
「凛、あんたは?DJなわけないよな?」
「私はその時はピアノだよ。」
「長谷川雪乃作曲のピアノか…ヤバそう……」
「うん、もう頭がパンパンだよ。」
凛はそう言ったが、この中で一番雪乃の曲を演奏出来るのは今のところ凛ただ一人だけだ。拓也は雪乃の歌詞を覚えきれていないし龍司と春人と真希の3人はミスなく曲を最後まで演奏出来た試しがない。しかし、凛は既にミスなく最後まで雪乃の曲を完璧に演奏する事が出来ている。しかも雪乃作曲の一番難しいであろうピアノをだ。亮が凛の演奏を聴いたら凛の才能に驚くのだろうなと拓也は思った。
「亮君がサポートメンバーに入ってより深みが出たね。」
みなみは体調が良さそうで笑顔でそう言った。みなみは水分制限をされているのでルナに来てもコーヒーが飲めないのにいつもルナに付いて来てくれる。拓也は以前みなみに、路上ライブの後、ルナに一緒に来なくてもいいんだよ。と告げたがみなみは、体調が悪くなったらちゃんと伝えるから。と答えていた。今のところみなみからその言葉は出ていない。
(最近は調子も良さそうだし顔色もいい。だけど、以前より手や顔がむくんでいる。)
「ねえ?拓也君?ちゃんと人の話し聞いてる?」
じっとみなみの顔を見つめていた拓也にみなみが目を細めながら拓也に声を掛けて来た。
「え?なんの話しだった?」
「もう!聞いてなかったの!?亮君がサポートメンバーに入ってより深みが出たねって言ったの!」
「あー。聞いてたよ。ホント深みが出たと思う。」
「ほんとに聞いてたのかなぁ?」
「聞いてたってば。」
「そうだ。柴咲音楽祭の日程が決まったよ。参加バンドも募集開始してるみたい。」
真希が言ったのを聞いて拓也と結衣が同時に「いつ?」と聞いた。
「12月26日と27日の2日間。」
「えっ?2日間?去年は1日だけだったよね?」
みなみの質問に真希は頷いてから答えた。
「去年の柴咲音楽祭が終ってから問い合わせが沢山あったんだって。問い合わせだけで参加したいバンドがかなりいるみたいらしくて今年は1日目に予選をして2日目に決勝をトーナメント方式でやる事に決まったって。イベント自体も好評だったらしいから2日間かけてやる方が町おこしにもなるし何より出店の売り上げも上がるんじゃないかって事でそうなったみたいよ。」
「予選と決勝トーナメント、か。大阪のホワイトピンクの様にもちろん全国からプロを目指すバンドがやって来るんだろうな。」
「春人が言った通り今年は全国から参加申し込みがあるんだろうね。私達も早く申し込まないとバンド募集締め切られるかも。」
「真希、さっさと申し込みしといてくれよ。」
「わかったわ。とりあえず申し込みは明日にでも済ませておく。」
「優勝する気満々だってちゃんとあのオーナーに伝えとけよ。」
「それは伝えないけど。」
「なんでだよっ!」
「なんでもよっ!」
「優勝する気あんのか?」
「あるに決まってんでしょ!優勝する気満々よっ!」
「なら伝えとけよっ!」
「なんでよっ!」
「優勝する気満々だからだよっ!」
「それをあえて伝える必要あるわけっ!?」
「もぉーー!龍ちゃんも真希さんも結衣の目の前でイチャイチャしないでっ!」
「してねーだろっ!」
「してないわよっ!」
「…ところで審査員に黒崎さんの名前は?」
拓也が聞くと真希は、なかったわ。と答えた。
「LOVELESSで手一杯なんだろう。審査員なんてしている余裕はないんだろうな。」
春人の言葉に拓也も真希も頷いた。
「今年は特別審査員がいるみたいよ。チラシにそう書かれていた。あ、あとついでに言うと石原の名前もあったわ。」
「誰だそいつ?」
「龍司。あんた本気?薄いピンク色の髪色をしていた男よ。」
龍司は首を捻って思い出そうとしていたが記憶の中から出て来なかったらしく、
「俺そいつの事知らねーな。」
と言った。真希は呆れたと言う風に、
「ひな達に1点しか付けなかったバカを忘れるとはあんたもやっぱりバカね。」
と呟いた瞬間、龍司は石原を思い出したようで「あーーーー!あんのボケぇーーー!」と大声で叫んでいた。
「龍司がいるって事は昨年のLOVELESSのように俺達も1点を付けられる可能性があるな。」
「ちょっと…ハル…縁起の悪い事言うなよ……」
「けど、覚悟しておいた方がよさそうね。」
真希は鋭い目つきをしてそう呟いた。
「……そんな事されたら俺、暴れそうだわ。」
「…龍司、気が合うわね。私もよ。」
「てかさ、真希さん。柴咲音楽祭には俺も出れるのか?」
「もちろんよ。だって亮は私達の……」
「サポートメンバーだよな?」
「そ、そうね…」
「一応、サポートメンバーも出れるのか聞いといてくれるか?」
「わかったわ。」
*
ルナからの帰り道、バス停で拓也とみなみと真希と結城春人の4人はバスの到着を待っていた。
春人はバス停の椅子に疲れた様子で座るみなみを見た。
「大丈夫か?」
拓也がみなみの前にしゃがみ込んで聞いていた。みなみは「大丈夫だよ。」と答えているが見るからにしんどそうだった。
みなみは拓也には正直にしんどい時はしんどいと伝えるようになったようだが、まだ春人達の前では無理をしているのがわかる。
「…だけど、あれだねぇ。Queenの力を使わなくてもよさそうだね。」
みなみがしんどそうな顔をしながら横に座る真希に言った。真希は驚いて「え?」と答えた。
「路上ライブには人が集まるようになってきたし。」
「あ、ああ。そうね。人が集まらなかったらQueenの動画を使って人を集めようと思ってたからね。でも、どうしてそれをみなみが知ってるの?」
「え?あ、ああ。雪乃から聞いてたの。Queenの動画で真希の正体を明かしたらもっと人が集まるって伝えたって。雪乃がバンドにいた時なんかより比べ物にならないくらいの人が集まるからって、そしたら真希はそれは自分でも考えてたって言ったけどQueenを使うのは最終手段だって。真希は雪乃にそう答えたんでしょう?」
「そうね。そう言ったかもね。」
「最終手段、使わなくて済みそうだね。」
「そうね。でも、プロになる為に必要なら私はなんだって使うわ。」
「バイオリンもサックスも使ったもんね。真希は武器を沢山持ってるもんね。」
会話が終ると真希は鞄から星形のピンク色のキーホルダーを取り出し「はい。」と言ってみなみに手渡した。みなみは首を捻り、
「これ…私に?」
と真希に聞いた。その星形のキーホルダーは春人達が真希からもらったキーホルダーと同じ形のものだったが真希が持っているのは全部で7個だったはずだ。
「ヒメ、それは?」
春人が聞くと拓也も、
「その色は前にはなかったよな?それに7個しか真希は持ってなかったはず。」
と聞いた。真希は、
「ウィーンから取り寄せたの。可愛いでしょ?ピンク色。みなみにぴったりと思ってね。」
と笑みを浮かべて言った。
「そんな。私の為にわざわざ取り寄せてくれたの?」
「そうよ。だって、みなみは私達の大事な仲間でThe Voiceの8人目のメンバーだもの。」
「私が?」
「そうよ。みなみは私達のバンドの一員よ。私達のバンドをずっと見守ってくれていたもの。これからもよろしくね。後で亮と同じくみなみにもバンドのグループLINEに入ってもらうからね。」
「そんな、私はバンドの一員でも何でもないよ。だからそれはもらえない。だって私バンドメンバーじゃないもん。楽器だって使えないし。ここにいない龍司君や凛ちゃんや亮君達にも言わないと。それから結衣ちゃんにも悪いし…」
「龍司と凛と亮にはさっき帰り際に伝えたの。もちろん結衣にも。拓也と春人にはまだ言ってなかったけどね。拓也も春人も問題ないよね。」
「ああ、問題ない。」
と春人は答え拓也は「ありがとう真希。」と礼を述べた。
「私が…8人目……嬉しい、嬉しいなぁ。」
みなみはピンク色の星形のキーホルダーを握りしめ震える声でそう言った。
*
間宮トオルは机の引き出しからくすんだ赤色の日記帳を取り出した。
さっと二度程手で埃を払う仕草をしたが日記帳に埃は付いていない。
ペラペラとひかりが書いた日記帳をめくり途中から写真が貼られていないページを開いた。
1993年9月1日。ひかりが残した文字も残り少ない。
(ひかりが死ぬ半年前…)
私の夢、と書かれたその日の日記以降ひかりは日記帳に写真を貼るのを辞めた。
ひかりはこの日の前日にカメラを壊してしまった。
あんなに大切にいつも持ち歩いていたカメラをひかりは自らの手で壊したのだ。挫折し夢を諦めカメラを二度と持たないとひかりは決めてしまった。大学4年生。22歳。夢を諦めるには若すぎた。
「写真、もっと残して欲しかったよ。ひかりが見た景色、俺も見たかったから。」
そう呟いてから間宮は今の言葉をあの時のひかりに言ってやれば良かったと後悔した。
(いつもそうだ…俺はいつも…こうやって後悔する。終ってしまってどうしようもなくなってからこうやって後悔してしまう……いつも…俺は遅いんだ…ひかりがしんどい時や辛い時、俺は何もしてやれなかった。俺がひかりの変化に気付いて言葉を掛ける時はいつだって遅かった……)
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今、想う
9月15日
夜の帰り道、彼に言われた。
私の嘘は優しい嘘だと。
彼の前ではしんどくってもしんどくないって私は今まで嘘を付いていた。
彼はもちろんそんな事にはずっと前から気付いていて私が嘘を付く度にどうして本当の事を言ってくれないんだろうと悩んでいたんだ。
ごめんね。私、君に心配を掛けたくなかったんだ。だけどそれは逆効果だったんだね。私、君に心配を掛けないつもりが心配を掛けていた。
元気なふりが出来る間は元気なふりをしようと思ってたんだ。
だけど、自分では元気なふりをしてたつもりだったのに上手く出来てなかったんだね。
もう私…元気なふりも上手く出来なくなってきたんだね……
しんどそうな顔を見せて、みんなに心配掛けてるんだね。
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