間奏曲 2ーEPISODE Ryo ー
1
霧島亮は去年の秋、柴咲駅近くにあるライブハウス『ブラー』に初めて訪れた。
ステージ上で演奏するのは高校2年生の男女二人組が演奏するJADEという名のバンドだった。
「ジェイド。」
亮はスマホでJADEの意味を検索した。
「翡翠?」
ピアノの芹沢嵐は赤のパンツに革ジャン姿。ドラムの新川日和は赤のスカートを履いて革ジャンを着ている。彼らのバンドカラーは翡翠ではなく何故か赤だった。バンド名が翡翠のJADEだというのに何故、赤色なのだろうと亮は疑問に感じたが2人の演奏を聴くとそんな事はどうでもいい事であり亮は彼らの演奏に感動した。
ライブが終わり亮が施設に戻ろうとした時、ライブ終わりの2人が帰る準備を終えて楽屋から出て来た。そして、お客さん一人一人に声を掛け始めた。亮は店を出るのをやめ彼らが自分の席に近づいて来てくれるのを待った。2人が亮の目の前にやって来て2人は明らかに年下である亮に対しても丁寧に挨拶をしてくれた。亮は立ち上がり今日のライブが素晴らしかった事を彼らに告げた。間近で見る芹沢は身長が高く180センチ後半はありそうで迫力があった。新川の方も女性にしては背が高く168センチの亮よりも5センチ程高かった。亮は背の高い2人から圧を感じながらも思い切って「俺をバンドメンバーに入れてほしい。」と頼み込んだ。その瞬間、芹沢は亮の鳩尾を思いっきり蹴り、亮は激しく後方に倒れ込んだ。
(よく考えてみればこの時から芹沢はおかしかったんだ。それに気付かずに嘘で塗りたくられた芹沢の曲や歌詞に俺は凄さを感じてしまったんだ。)
「てめぇ!何しやがるっ!」
亮が叫び立ち上がると芹沢は亮を強く抱きしめた。
「楽器は?」
亮は芹沢のその行動を理解する事が出来なかった。抱きしめられた腕を解こうとしたが亮の力では芹沢の腕は解けなかった。
(なんだこいつのこの腕力……)
そのうち蹴り飛ばされた怒りよりも混乱の方が強くなった。もう一度芹沢は亮に「楽器は何が出来るんだよ?」と聞いて来た。
「小学生の頃からギターをやってる。」
芹沢は抱きしめていた腕を解き亮の両肩に手を置いて「そうかっ!ギターか!」と目を輝かせながら言った。
「キミ。若そうだけど、いくつ?」
新川の問いに亮は「中1。」と答えた。
「若いねぇ〜。産まれたてじゃん。」
そう言って新川がキャッキャと笑っている間に芹沢は周りを見渡し店にあるギターを手に取った。
「弾いてみろ。」
「えっ!?今?ここでか?」
「そうだ。オーナー。ちょっとだけ演奏させてもらってもいい?あ、それとこのギターも貸してほしい。」
オーナーは「ああ、30分だけだぞ。」と答えた。芹沢は店のギターを亮に手渡した。ギターを受け取った亮はJADEの2人とステージに上がった。亮がギターを弾く準備が整うと芹沢はまた「弾いてみろ。」と言って腕組みをした。新川の方はドラムを叩く準備をしている。亮は何を演奏したらいいのか頭が真っ白になったが気付いた時にはさっき彼らが演奏していた曲を弾き始めていた。
「こりゃ驚いた。まさか俺達の曲を完璧に演奏するとは…」
「ちょっと待った。ねぇ少年。演奏ストップ。キミさ、私達のファンなわけ?」
演奏を止められた亮は不機嫌そうに新川を睨んで告げた。
「ファンなわけあるかよ!今日初めてあんたらの事を知った。」
「じゃあさ、どうしてその曲すぐに弾けるわけ?」
「そんなもん一回聴いたら覚えられるだろ普通。」
「普通は無理よ。」
「日和、邪魔すんなよ!もう一度最初からだ。今日最初に演奏した曲覚えてるか?あれは新曲で今回初めて披露した曲だ。その曲を弾いてみろ。一回聴いたら覚えられるんだよな?」
「わかった。」
「タイトルは『風の言葉』だ。この曲を完全に演奏出来たならお前は本当に俺達のファンではなく、一回聴いただけの曲を覚えていてそれを演奏出来るって証明出来る。」
そう言って芹沢はアップライトピアノが置かれている場所まで移動した。
「嵐。まさか歌う気?」
「ああ。一度聴いた曲を本当に演奏出来るんならこのガキはもしかしたら凄い才能の持ち主かもしれないからな。あとはギターの腕次第だ。」
「マジ?」
「日和。本気で演奏してやれ。」
「わ、わかったわ。じゃあ、いくわよ。」
■■■■■
「風の言葉」
もう一つの世界を感じた事があるか?
人のざわめきを感じた事があるか?
静かに 穏やかに けれど異常なまでのざわめきを
☆太陽が笑ってらぁ
邪魔だから俺は太陽を消し去った
次に月が涙を流して現れた
あぁ あぁ あぁ 泣きたいのは俺の方
泣き出したいのは俺なんだ
助けてくれ 助けてくれ
前触れもなく突然現れて蠢き出す
消えろ消えろ消えろ
あぁ もう 全てがいらねぇ
世界がざわめいている
星が震え大地が怯えている
確実に 静かに 異常なざわめき 世界が変わる瞬間だと悟った
月がうるさく泣いてらぁ
うるさいから俺は月を黙らせた
次に太陽が笑いながら現れた
あぁ あぁ あぁ イラつくな
全てを壊したくなった
全てを 全てを
跡形もなく消し去りたい
消えろ 消えろ 消えろ
あぁ もう 全てが欲しい
狂った日々もあったでしょう?
そうなったのは誰のせい?
こうなってしまったのは私のせい?
あぁ あぁ あぁ
悪魔の囁きがこだまする
☆Repeat
あぁ もう うっせぇ 黙れ 消えてしまえ
■■■■■
狂った歌詞で曲調だった。風の言葉というタイトルのくせに風の要素がなくて笑えた。だけど亮はこの曲が何故か好きだと思った。演奏を終えて芹沢は亮に向かって「完璧だった。」と声を掛けて来た。
「なら、俺をバンドに入れてくれ。」
「ふん。言葉使いがちゃんと出来たらな。先輩には敬語だ。それが出来ないならバンドに入るのは諦めな。」
「わ、わかった。敬語を使うからよ。頼むよ。」
(こうして俺は間違った男のバンドに入ってしまった…俺はもっと他のバンドを見るべきだったんだ)
ある日、亮は芹沢と新川にプロを目指す気はないのかと問いかけた。2人は笑いながら、ないない。と答えていたのだが、去年の冬に行われた柴咲音楽祭のステージを3人で見た時、芹沢は「俺達も来年この音楽祭のあのステージに立つぞ。」と急に言い出した。亮は驚いて「嵐さんはプロを目指す気なかったんだよな?」と聞くと芹沢は「プロになる気はなかったが今回優勝した奴らより俺らの方がすげぇ。あんなのでプロになれるんなら俺達にだってなれると思ってよ。」と言った。それから亮達JADEの目標はプロになる事に決まった。夢ではなく目標と定めたのは芹沢がプロになる事が夢なんてダサすぎるから口にするなと言ったからだ。
*
今年の4月から亮は中学2年生となり芹沢と新川は高校3年生となった。芹沢と新川と出会った当初は彼らがこの街の高校に通っているものだと思っていたが2人の地元は横浜で2人とも別々の高校に通っていた。
「亮の家はどこら辺になるの?」出会って間もない頃、新川が土地勘がないくせに亮に聞いて来た事があった。亮は俯きながら「山の上の方。」と答えた。新川は「山の上って事はきっと金持ちのボンボンね。」とケラケラ笑いながら言った。
「柴咲の山の上の方って言ったら確か児童養護施設があったよな?」
「……」
「そうなの?まさか亮の家って養護施設だったりして。」
「……」
「亮、そうなのか?」
「……だったらなんだよ?」
「そうか。」
「なんかゴメン。悪気があったわけじゃないのよ。」
「……わかってる。」
亮は赤ん坊の頃に親に捨てられた。亮がいる奏多学園という名の児童養護施設には亮のように親に捨てられた2歳から18歳までの子供が沢山いる。もちろん親に捨てられた子ばかりではなく親が病気だったり家庭の養育が困難であったりと理由は様々で奏多学園にいる全員が大小様々な問題を抱えている。
それなのに親がいないとか親に捨てられたという理由で奏多学園の子供達は小学校や中学校でイジメの対象となる事が多い。
普通に家から学校に通う生徒は奏多学園にいる子の事を「山猿」と呼ぶ。奏多学園が山の上に建っているからだ。
「山猿が降りて来たぞー。」「山猿の襲来だー!」小学生の頃はそんな言葉を浴びせられ時には石が飛んでおでこを切った事もあった。亮は山猿と呼ばれる事が嫌いでそう言われる度に相手に殴り掛かった。小学生の頃は毎日のように喧嘩をしていた。中学に上がった今でも山猿と呼ばれれば暴れてしまうだろうが亮に直接山猿と言って来る者はもう誰もいない。それは周りと仲良くなれたからではない。中学生になってからは「あいつは話しただけですぐにキレて暴れ出す」という噂が入学当初から出回り周りの生徒から距離を置かれ無視をされる様になったからだ。亮は無視をされるのが嫌で小学校が同じだった生徒に話し掛けるとその生徒はあからさまに亮を避けた。
「喋りかけて来るな!」
その生徒がそう言った瞬間、亮はその生徒を殴り倒し怒りのあまり我を忘れ何度も何度も殴り続けた。その様子を集まって来た大勢の生徒に見られ「噂は本当だった。あいつは話し掛けただけで暴れ出した」と余計な噂が広がってしまい完全に周りからは孤立し空気のような存在となった。そんな亮に話し掛けてくる生徒は一人もいない。
奏多学園には亮と同い年の子が一人もいない。その為、学校にいる間はいつも亮は一人ぼっちだった。学校に居場所がない亮は今ではほとんど学校には通っていない。孤独な亮を救ってくれたのは音楽でありギターだった。
*
亮がまだ小学3年生だった頃、奏多学園にギターを持った大学生がボランティアとして訪れた。亮はその人が弾くギターに夢中になった。そして、亮は彼からギターを教えてもらった。彼は大学の4年間、夏休みと冬休みは必ず奏多学園にやって来て亮に付きっきりでギターを教えてくれた。その人のおかげで亮はギターが上手く弾ける様になった。彼が大学4年生となり最後の冬休みに奏多学園にやって来た時、亮は彼からびっくりする話しを聞いた。
「亮君。この4年間、ずっと言わずにいた事があるんだ。」
「なに?」
「キミはどうやら特別な力を2つ持っているらしい。」
「特別な……力?」
亮は首を傾げた。
「そう。1つはキミは絶対音感を持っている。」
「ぜったいおんかん?それが特別な力なの?」
「うん。そうだね。絶対音感を持っていない人は沢山いるけど持っている人も沢山いる。それに絶対音感は訓練すれば手に入る力だ。」
「なにそれ?特別なんかじゃないじゃんか。」
「特別は特別だよ。けどね。それよりもキミは凄い力も持っている。わかるかな?」
「なんだろう?わかんない。それが2つめの特別な力なの?」
「そうだよ。キミの特別な力っていうのはね。」
「うん、なに?」
「記憶力だよ。」
「記憶力?俺、勉強とか全然出来ないけど。」
「だけど一度聴いた曲は楽譜を見なくても完璧に演奏出来るよね?」
「うん。けどさ、そんなの当たり前じゃないの?」
「亮君。キミにはそれが当たり前の事だけど普通の人はそんな事は出来ない。キミの頭の中には何百曲という曲が入る引き出しがあって、いつでもその引き出しから曲を取り出せる。」
「頭の中に引き出しがあんの?」
「ちょっと難しかったかな?とりあえずキミの記憶力は特別だよ。一度聴いただけで曲を覚えられる上にいつまでも覚えていられる事が出来る。そして、それを演奏する事が出来る。凄い力だよ。特別な力だ。」
そんな言葉を聞いてもその時の亮にはピンと来なかった。
「ふ〜ん。」
亮が放った言葉はそれだけだった。
(勉強では全く記憶力なんてないのに音楽に関して言えば確かに記憶力はあるような気はする。だからあの時――芹沢と新川にバンドに入れてくれと頼んだ時、俺が一度聴いただけの曲を完璧に演奏する事ができ、それに新川は驚いて芹沢は俺をバンドに入れてくれた。俺は彼らのバンドこそが自分の居場所で施設以外で初めて俺を受け入れてくれる場所だと思ってしまった。今ならわかる。今ならわかるんだ。それは間違いだったと。)
*
昨年の年末。柴咲音楽祭という音楽イベントを芹沢と新川の2人と共に見に行った。
イベント自体は初めてのイベントだったらしいが沢山の人が集まっていた。
このイベントでの優勝者にはプロデビューが約束されている。芹沢と新川はプロになる気はなかったしこの時の亮自身も興味がなかった。
このイベントの優勝者はLOVELESSというバンドだった。亮はこのバンドのギタリストのテクニックに圧倒され女性ボーカルの歌声に感動していた。プロになれる奴はやっぱり特別で才能溢れる彼や彼女のような人物なのだろうと思った。しかし、芹沢は亮とは違う意見を言葉にした。
「あんなのでプロになれるなら俺達にだってなれるな。」
「確かにね。私達が出てたら優勝してたんじゃない?」
(はぁ?何言ってんだコイツら。確かに芹沢の曲も歌詞も独特だ。技術だっておそらく優勝したバンドとそう大差はない。だけど…俺達には何かが足りない。いや、何かが狂ってる……)
「よしっ!来年は俺達もこのイベントに参加するぞ。」
「亮、私達プロ目指す事にしたけど、あんたは?プロ目指す気ある?」
一気に話しが膨らんだ。亮は首を傾げその話しのスピードに付いて行けないでいた。
「そんな事…考えた事、ない。」
この時、亮はそう答えた。しかし、この日以来亮は日を追うごとにプロになる事を意識し始めた。そして、いつの間にかプロになりたい。音楽で食べていきたいという思いが膨らんでいた。
*
芹沢と新川がどうやって出会ってどうやってバンドを組んだのか詳しくは知らない。
どこかのライブハウスでバンド活動を行っていた新川を芹沢が引き抜いたらしい――という話しをライブを見に来ていた客から聞いたが、それが真実かどうかはわからないし確かめようとした事もない。そもそも2人の出会いなんて亮には興味がなかった。
芹沢は歌も上手いしピアノの演奏も上手い。曲作りも早くて様々な曲を作って来る。だが、その歌詞も曲調もどこか変で何かがおかしい。亮は一度聴いた曲をすぐに覚える事が出来る。しかし、今年に入ってから芹沢の曲は一度聴いただけでは覚えられず理解がしがたいものになっていた。
亮は人生で一度だけ聴いた曲を覚えられなかった事がある。それは2年前に施設にピアノを演奏に来てくれた高校生ピアニストの演奏を聴いた時だった。
(あの人の演奏は本当に凄かった。一度聴いただけではとても覚えきれない程複雑だった。だけど、芹沢の曲調はあの人の凄さとは違う。凄い曲で複雑なわけではない。けど、芹沢の曲を一度聴いても覚える事が出来ない…)
亮は曲を聴いても一度で覚えられなくなってきてしまったのだろうかと思ったがすぐに首を振った。
(いや違う。曲を一度で覚えられないのは芹沢の曲だけだ。最近の芹沢の曲は何かがおかしい…俺の理解を越えている…)
*
芹沢の様子がおかしいと確信を持てたのは今年の4月だった。
「嵐さんっていつもどうやって曲を作ってるんすか?」
ライブ開始直前の楽屋で亮は芹沢にそんな質問を投げかけた。
「曲?そうだな。酒を飲んでぶっ飛んでる時だな。」
「ちょっと嵐!あんた未成年でしょ!」
「日和ぃ〜。冗談だよ。冗談。ま、俺が亮に教えてやれる事は一つだ。俺にもお前みたいな特別な力があってな。その力を利用すればこれまで想像も出来なかった曲を作れるんだ。もう少ししたらお前にもその特別な力を引き出す方法を教えてやるよ。」
「特別な力を引き出す方法があるのか?」
芹沢は自分の顔を亮の目の前に近づけて目と目を合わせながら囁く様に答えた。
「ああ。あるさ。人間には誰でも特別な力を持っている。だが、ほとんどの人間は特別な力を出せないまま死んでいく。特別な力を引き出す方法を利用しようとしないからだ。ま、金は掛かるけどな。」
芹沢の瞳孔は恐ろしい程大きかった。
「…それは…どうやって?」
亮が恐る恐る聞くと、
「嵐、冗談はそこまでにしときなさいよ。」
と新川が芹沢の肩を引いて亮との距離を元に戻しながら言った。
「ふん。日和、お前俺が冗談を言ってると思ってんのかよ?」
「そんな特別な力、あるなら私に先に教えてほしいものだわ。」
「そうか…そうか。そうか。日和も特別な力が欲しいって言うのかっ!」
そう言って芹沢は狂おしい程笑い続けた。その様子に亮は恐怖を感じた。
(おかしい。こいつ…普通じゃない。)
おそらくこの時、新川も亮と同じく芹沢に対して恐怖を感じていたはずだ。
「さあ!ライブの時間よ。嵐、いつまで笑ってんの!行くわよ!」
新川がそう言うと芹沢は大声で笑いながら楽屋を出た。そして、ずっと笑ったままステージに立った。いつまでも笑いをやめない芹沢を見て客席にいる人達は不審に思い首を捻る人もいればコソコソと隣同士の席で話したりする人もたし芹沢の笑いにつられて笑う人などもいた。観客達はそれぞれのリアクションをとっていたのだがその様子を笑いながら見ていた芹沢が急に真顔となり笑うのをやめた。一瞬でライブハウス全体が静まり返ったかと思うと「お前らも笑えよ!」と急に芹沢は狂った程の叫び声を出した。客達はその言葉に「おー!」と叫び盛り上がった。しかし、芹沢の、お前らも笑えよ。という言葉は客席を盛り上げる為に言った言葉ではなかった。
芹沢はマイクを持ち盛り上がる客席目掛けて急にマイクを放り投げた。
「はしゃいでんじゃねーっ!笑えって言ってんだよっ!」
尚も芹沢は狂った叫び声を上げ、そのまま客席に殴り込んだ。一体何が起きているのか亮も新川も客席にいる人達も全員がわけがわからなくてしばらく動けなかった。芹沢は呆然と立ちすくむ人達を片っ端から性別を問わず殴り続ける。
それは異様な光景だった。亮は今何が起きているのか訳がわからなくて思考が停止した。
次々と芹沢は標的を変え殴り掛かる。逃げ惑う人。芹沢を止めに行く人。芹沢に殴り掛かる人。色んな人がいる中で亮は一歩も動く事が出来なかった。
(こいつ……まさか……)
恐ろしい考えが亮の脳裏をよぎった。
「やめろぉ〜!芹沢ぁ〜!!」
亮は叫び芹沢の暴走を止めに入るつもりで客席に飛び込んだが客席にいた人達は亮も暴れ出したと勘違いして亮を囲み殴り掛かって来た。




